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乾杯と金貨

「「かんぱーい!」」


コーテーの真似をしながら、乾杯をしてお酒を飲み始めた。


「(薄い!)」


ワインみたいに果実を熟成させたお酒だとは分かったが、ワインを水で薄めたような薄さ。

飲み会の後半ならばありかもしれないが、1杯目からこれでは盛り上がらない。


「(ポトフにはワインが合うのに)」と思ったら、目の前にはボトルワインがあった。

左手でボトルの首の部分を持つと、右手にはコルク抜きが握られていた。


コルク抜きのナイフ部分で、ラベルを切り、スパイラル部分でコルクを抜く。

口の部分に金メッキが施されたワイングラスにワインを注ぎ、グラスの1つをメアリーの前に置いた。


まずは、味見をしないと相手に薦めることもできない。


コーテーは一口ワインを飲んでみた。

「(うん、普通。)」特別高いワインじゃないけど、クセが少なくて万人受けする感じ。

渋すぎないし、赤ワインだし、ポトフにはソーセージも入っているので、このワインとは合う。

別にコーテーはワインの専門家ではないが、安いテーブルワイン程度ならば好きで飲んでいたのだった。


「試してみて。」


メアリーに促すと、これまた恐る恐る口に運び、一口。

次の瞬間、目を見開いて、ワイングラスを横から見ている。


「こ、これ、濃いです!美味しい!」

「気に入ってくれた?よかった。」


こうして、とりあえず、宴会(と言うより食事)はスタートした。


「このお料理美味しいです!本当に好きになりました!」

「ほんと?よかったよ。今度作り方を教えるよ」


「は、はい!ぜひ!!」


気になるメアリーの料理は・・・とコーテーは炒め物を食べてみる。

美味しいんだけど、少し味が足りなく感じていた。


そう、塩コショウか。

塩コショウをテーブルの上に出し、ぱっぱと振りかける。


再び炒め物を食べると、「これ!」と言う味になった。

引き締まった感じ。


それをメアリーは見ていた。

コーテーはせっかく作ってくれたものにケチをつけたことになったと恐縮した気持ちになったが、メアリーの目はそれを忘れさせるほどキラキラしていた。


「そ、それ!それなんですか!?コーテー様!」

「え?これ!?塩コショウだよ・・・」


「あの、あの、恐縮ですが・・・」


使いたいけれど、言いにくいのが何となくわかったので、「どうぞどうぞ」と手渡した。

一振りしてから再び食べると、「ナ・ニ・コ・レ♪」とメアリーの目が言っていた。


「美味しかったのならよかったよ。それ作ったのメアリーだからね」

「何も言わないのに、なぜわかったのですか?」


「顔で美味しいって十分伝わるよ」


改めて、この子はいい子なんだと伝わった。

『飲みニケーション』も悪くない。

お互いの人間性を理解するうえで、ある程度有効なのだろうと改めてコーテーは思った。



「ナ・ニ・コ・レ・―♪♪」


またメアリーが驚いていた。


「どうしたどうした?」

「これです!お肉です!何のお肉ですか!?ハムみたいだけど、形がきれいなんです」


メアリーが指さしたのはソーセージだ。

地球ではソーセージはエジプト時代からあったみたいだが、この世界では発明されなかったようだった。

メアリーが『ハムみたい』と形容したので、ハムはあるようだった。


「ソーセージだよ。多分豚か羊の腸に豚肉を細かくしたものを詰めたものだよ。俺の故郷ではありふれた食材の一つだよ」

「ソウナンデスカー♪」


現代の日本では腸すら使わずフィルムだったりするのだが、そんなことはコーテーは知らなかった。


メアリーはメイドとしての誇りを持つまじめな性格で、好奇心も旺盛のようだった。

食に関しては、メイドと言う仕事にも関係するのかかなり積極的みたいだった。


コンロから圧力鍋まで「あれは?」「これは?」とメアリーから質問攻めにされ、知らないことは、スマホで調べ、コーテーはまじめに答えていた。


「コーテー様!」

「はい?」


「一連のこれらは魔法ですか?」


「これら」とは、色々なものが出てきたことだろう。


「うーん、俺にも分からないんだ。欲しいと思ったら、そこにあったみたいな・・・」

「それじゃ、なんでも出せるんですか?」


「そーだなぁ」とコーテーは頭の中で札束を想像しながら言った。


「100万円出ろ!」


テーブルの上には何も変化がない。

そりゃあ、これでお金が出てきたら、一大事だとコーテーも考えていた。


「ポテチ出ろ」


テーブルの上には、袋のポテチがあった。

早速封を開けて、1枚とってパリッ・・・と。

まあ、ワインとも合うな。


おっといけない、とパーティー開けにして、メアリーにもとりやすいようにした。


「おいしい!不思議な歯ごたえ!」


「うーん、いくつか分かったことがある。」

「なんですか?」


「ネット通販だな。」

「ねっと・・・なんですか?」


コーテーは、スマホを取り出し、ネットスーパーやホームセンターの通販サイトを立ち上げた。


「見てごらん」

「すごい!絵が動いてます!なんですかこれ!」


スマホの画面を見てメアリーが驚いている。


「そっち!?」と本来見てほしかったところと違うところで驚かれてしまって、話が続けにくくなっていた。


「俺の住む世界では、スマホって道具があって、そこに色々な情報が表示できるんだよ。」

「魔法みたいです」


「たしかに、『魔法』と対極に『科学』があるのかもしれないし、俺たちの世界の魔法みたいなものかもしれない」


「うんうん」とメアリーがうなづく。


「ここでは、家にいてもお店で注文するみたいに物を買うことができるんだよ」

「え!?じゃあ、どうやって物を受け取るのですか?」


「宅配び・・・物を運ぶ仕事の人が、持ってきてくれる」

「なるほど、理解できます」


「お金は出てくるはずがないと思っているから出てこないんじゃないかな」

「なるほど。じゃあ、これはどうでしょう?」


メアリーは席を外れ、どこからか金貨を1枚持ってきた。


「お!金貨だ」


コーテーは初めて見た金貨に小さく驚いた。

その金貨は、明らかに流通した形跡がある『本物』だった。

掌の上で表にしたり、裏にしたり、模様をみたりした。


「この世界のお金かな?」

「はい、そうです」


「これでどれくらいの物が買えるの?」

「私が1年間働いて金貨3枚は行かないくらいです。」


コーテーはしまったと思った。

労働力で言われても物価の価値が分からない。

そもそもメイドの給料が高いか安いかも知らないのだから。


そういう意味では、昼間の商店で野菜も肉も日本とは物価が違うのだから、金貨1枚の価値は物で聞いても結局分からないと思った。

とりあえず、勤勉なメアリーの4か月分くらいの給料分ということを考えたら、かなり価値があるものだということだろう、と思うことにしたのだ。


「多分、金貨はダメだろうなぁ」と言いながらも、金貨がたくさん出た光景を想像したら、メアリーがまた驚いてくれると思ったのだ。


「金貨出ろ!」


テーブルの上で見えないつぼでも持っているような手つきでそういうと、手と手の間に金貨がザラザラと出てきた。


「わあ!わあ!」


すごく驚いてあたふたするメアリー。

それを見て、逆に冷静になるコーテー。


結局、100枚ほど金貨は出た。

この国の金貨は、鋳造技術が低いのだろう、きれいな円をしているのではなく、上と下からそれぞれの模様の押し型でプレスして平べったい金をさらに押しつぶし、その時に模様を転写して作る金貨のようだった。

だから、硬貨と言っても1枚1枚微妙に外形が違うのだ。


地球でも昔、硬貨が金でできていたころは、偽造の意味はなかった。

塊としてその硬貨には金としての価値があったのだから。

現代の日本は、硬貨単体では価値がない。

それを『お金』だと人が認めるから価値があるのだ。

1万円札は日本が国の通貨として認めているから1万円の価値がある。

そうでなければ、ただの紙で1枚数円しか価値がないのだ。


コーテーが出した金貨は、メアリーが持ってきた金貨をお手本にしているらしく、全部同じ形だった。

1枚使うのには問題ないだろうが、数枚使うと何かおかしいと感じてしまうものだった。

金としての価値はあるので、使えないことはないのだろうが、相手に違和感を抱かせるものなのだ。


「でたな」

「でましたね」


「いきなりお金持ちになったね」

「そうですね!すごいです。コーテー様」


メアリーがゴクリとしながら聞いた。


「まだ金貨は出せるのですか?」


あまりに真剣な表情で聞くので、コーテーは追加で300枚ほど出して見せた。

メアリーはテンションアゲアゲで、ハイペースで飲んでいた。


メアリーが1年間で金貨3枚稼ぐとする。

メアリーの年収が仮に300万円としたら、金貨1枚100万円の価値だと仮定する。

金貨がここに全部で400枚くらいあるので、ここにあるだけで4億円くらいということになる。


コーテーは理系なので、暗算で計算して、メアリーの立場ならどんなことが目の前で起きているのか想像しているのだった。

確かに目の前の人が、4億円いきなり出したら驚くだろうなぁ。

宝くじが当たったみたいなものだ。

たとえ、自分のお金じゃなくても何だか分からないテンションになるだろう。


見せびらかすだけ見せびらかすのは良くないなと、コーテーは宝石店のサイトをスマホで見た。

この国でも金は価値があると分かったので、金のチェーンで、ハートのリングがかかっているようなタイプのネックレスを調べ、それを取り出した。


もはや、ネット通販と変わらない。

ただ、お金はかかっていない。

思うだけで出てきて、そのサイトすら利用していないのだから。


「メアリー、これ見て」

「わあ!素敵なネックレスですね!」


コーテーは立ち上がると、メアリーの後ろに行き、ネックレスを付けてあげた。


「プレゼントするよ」

「え!?え!?え!?これって!え!?」


ものすごいテンパり方でテンパるメアリー。

どうせタダだし的な感覚のコーテー。

また席に戻り、ワインを2人のグラスに注ぐ。


メアリーは顔が真っ赤。

完全にうつむいている。


「あれ?メアリー?いやだった?」

「いえいえいえ!あの!恐れ多いというか!わたくしなんかでいいのかと申しますか!」


焦り方が尋常じゃない。


「これから一緒に暮らすんだし、色々お世話になるんだし、俺からの気持ちってことで」

「・・・はい、謹んでお受けいたします」


やけに丁寧にお礼を言われ、いいことをしたな、と満足げのコーテー。


この国では、結婚したい相手にネックレスを贈るということは、婚約の意味を持つことをコーテーは当然知らなかった。

しかも、金のネックレス。

本来ならメアリーは生涯見ることもなかったかもしれない金のネックレスを贈られ、突然求婚された(と思っている)のだ。


成人して2年、15歳になった。

一生、城で侍女として過ごし生涯を終えると思っていたのに、大きな屋敷を持ち、大金を無尽蔵に出せる男性が求婚してくれた。

玉の輿では追い付かないくらいのすごいこと。


メアリーはさっき飲んだワインが一気に回ってきた。


メアリーは色々考え始めた。

世知辛い世の中だ。

これだけの好条件の男性が何もない自分に言い寄ってくれたのだ。

何かとんでもないことを強要されるはず、と。


メアリーの想像では、全裸で張り付け台に縛り付けられ鞭でシバかれたり、想像もつかないような辱めを受けることも思い浮かべていた。

そうなると、今日のこの瞬間が最高の瞬間!

後は落ちていくのみ!!


机に突っ伏してしまった。


驚いたのはコーテーだ。

15歳の女の子にワインを飲ませたら、目の前でつぶれてしまったのだ。

「これはいかん!」と本能的に思い、メアリーに近づく。

急性アルコール中毒などの可能性もあるのだ。


すると、メアリーはむくっと顔だけ上げた。


びくっとするコーテー。


メアリーは目の幅の涙を流しながらコーテーに思いっきり抱き着いた。


「え!?これってどういう状況!?」


28歳のコーテーは、15歳が胸に抱かれる経験などなかった。

宙を泳ぐ両手。

ゆっくりゆっくりメアリーを抱きしめるように肩に手を回していく。


「コーテー様っ!」


突然メアリーが大声をあげたので、コーテーは驚き動きが止まった。


再びコーテーの胸の中でぐずぐずと言い始めた。


「コーテー様わたくしをかわいがってくださいね・・・」

「え?(メイド、同居人としてってことかな?)も、もちろんだよ」


「死なない程度だったら、コーテー様の欲望にもお応えいたしますので・・・」

「え?いや、俺そんなすごい性癖ないし!それをメアリーに押し付けないし!」


『ぐずぐず』


メアリーはその後も、泣き疲れて寝てしまった。

中々貴重な体験をしてしまったとコーテーは思っていた。


寝てしまったメアリーは、それほど重くなかったので、お姫様抱っこで部屋に連れて行った。

メアリーの部屋に入ってコーテーは驚いた。


部屋は狭く、机とちょっとした家具が1つ、狭いベッドが1つ。

毎日大変な仕事をしているのに、これでは身体が休まらないと思い、自分の部屋のベッドに寝かせることにした。

コーテーの部屋のベッドはキングサイズよりも2まわりくらい大きく、天蓋が付いていて、どこかの王様が寝るのかと言った仕様になっていた。

実際、国王が寝ることがあったのかもしれない。


日本のコーテーの部屋だったら、8畳だったので、このベッドは既に部屋に入らない。

それくらい大きいベッドなのだ。


横に並べば、大人4人か5人は入れそうだったので、メアリーを横に寝かせ、少し離れて自分も寝ることにした。

別に他に誰かがいるわけではないし、問題ないだろうと思ったのだ。


メアリーを寝かせ、簡単に宴会の後始末をして、食器洗浄機で皿を洗い、コーテーも寝ることにした。



・・・



メアリーは目が覚めた。

起きたら、コーテーの首にがっつり抱きついてる。

慌てて跳ね起き、今いる場所が自分のベッドでないことに気づく。


そうか、と昨日あったことを思い出す。

突然、金のネックレスを付けられて求婚され『一生大事にするぜ』と言われた。

本当にそういったかどうかは、分からないが、メアリーの記憶では間違いなくそうだった。


はっ、と気づきそのネックレスを探す。

寝ていた自分はネックレスをしていなかったのだ。

ベッド横の棚に置いてあった。

夢ではなかったと胸をなでおろした。


自分の事を好きと言ってくれる、恐らく生涯でたった一人の旦那様。

ベッドを見るとその男がまだ寝ていた。


ここでメアリーはものすごく具合が悪いことに気が付いた。

そしてこれまで経験したことがない激しい頭痛。

慌ててトイレに駆け込む。


胃の中の物を全部吐き出してしまったのではないだろうか。

もう何もないのに、吐き気だけは止まらない。

メアリーは思った。


これは・・・『妊娠では!?』

メアリーには経験がなかったが、仕えた王妃様が身ごもったときは、数か月にわたって具合が悪そうだった。


「間違いない!」と確信した。

愛する旦那様の子供を身ごもったのなら、この激しい苦痛も耐えられると言うもの。

メアリーは苦しくも、嬉しい・・・だけどやっぱり辛くて起き上がることができないでいた。


その時、コーテーが目を覚ました。

ベッドにメアリーがいないので、「やっべ、寝坊したわー」と思ったが、今日も特に予定がない。

なんて幸せなんだと、ニート生活に感動していた。


結局昨日は、2人でワインを1本開けてしまった。

コーテー1人ならコップ2杯、つまりボトル半分くらいは飲むことは日常茶飯事だったが、15歳で、日ごろ(か、どうかは分からないが)薄いワインを飲んでいるメアリーにはつらかったかも、と思ったのだ。


メアリーを探して、部屋の中を見渡すがいない。

メアリーの部屋かなとおもって、探すがいない。


トイレ・・・と言うか、流しでぐったりいしている。

これは間違いない。


「二日酔い」だ。


経口補水液と二日酔いの薬を出して、メアリーに声をかける。


「大丈夫かい?」

「は、はい・・・申し訳ありません」


「(仕事ができないからって)気にしないで、ゆっくり休んでいいから」

「(子供のことを気遣ってくれている!!この人はいい人だ!!)」


「これを飲むと楽になるよ」と、さっきの経口補水液と二日酔いの薬を渡した。

ふたの開け方が分からない様だったので、二日酔いの薬から開けて渡してあげた。


メアリーが飲むや否やさっきまでの具合の悪さが嘘のように治った。


「あ、平気になりました」

「早すぎるだろ」


経口補水液を飲むと肌もつやつやになった。


「まじか!」


思い違いでなければ、日本の(もしくはコーテーが出したものは)効果が高いのかもしれない。

また大変なことを発見してしまったと思った。


ただ、コーテーが発見した一番は、「日ごろしっかり者のメアリーは飲むとポンコツになること」だった。



その後、メアリーはきりっとして、メイド服に着替えてしまった。

メアリーは、コーテーの所まで来ると深々とお辞儀をしていった。


「昨日は(求婚)ありがとうございました。(妊娠したけれど)子供が生まれるまで働きます。」

「(ずっと働くっていうことかな?ありがたいことだ)ありがとう」


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