その悪魔はとにかく信頼されたかった
1.初めてその言葉を聞いた時、なんの冗談かと思った。
悪魔が人を助けるはずがない。醜悪な見た目で時に驚くような残酷さをみせる彼等に対して自分達人間の考えはそういうものであった。
それでも話をしてみる気になったのは夫を失い、残された娘を一人にしないために逃げ切る隙を作ろうと考えたからだった。
「困ってるんなら俺が助けてやるよ。」
この恐ろしい怪物の言葉を信じてみてもいいのだろうか?もしかしたら、彼は私の希望になってくれるのだろうか?
2.「な?いいだろ?俺にあんたを手伝わせてくれよ。」
デルモニウスの言葉は自分の直感に従ってのものであり、そこに企みや悪意は微塵もなかったのだが、それは目の前の女性には到底わからないことであった。
「あなたが何を考えて私を助けると言ってるのか私にはわからないの。あなたを信じることは正直難しいわ。」
彼女は先ほどと比べて少しばかり大きな声で言った。震えがおさまりつつある喋り方からは彼女がなんらかの決心をしたことが見て取れる気がした。
「じゃあ今は信じられなくてもいいよ。何か頼みはないか?なんでもいいぜ。」
それを聞くと彼女は少し悩んだ後小さく息を吸ってこう言った。
「どうしても離れる気はないのね…いいわ、ついてきて。」
デルモニウスが嬉しそうに頷くのをみた後彼女は歩き始めた。
「俺、デルモニウスっていうんだ。あんたはなんて名前なんだ?」
デルモニウスが問うと彼女は答えた。
「ネーナよ。姓はないの、お偉いさんじゃないからね。」
「俺も同じだ!一緒!」
悪魔は嬉しそうに笑っていた。
3.小一時間ほど歩くと。小さな村が見えてきた。戦争の後で動ける人が少ないのか子供や女性までみんなしんどそうに民家の屋根の雪を片付けていた。
「あなた悪魔なら姿変えられる?そのまま入ると騒ぎになって大変よ。」
ネーナがそう聞くとデルモニウスは首を振った。
「変えられないことはないけど、長くは無理なんだよ。長時間違う姿でいると自分が誰なのかわからなくなっちまう。」
ネーナはため息を吐くと少し待っているように指示した後、村に入っていった。
30分ほど待つとネーナは村から出てきた。
「とりあえず話はつけておいたから、あまりみんなを怖がらせないでね。」
「まかせろ!簡単だぜ。」
デルモニウスは自信満々に言ったが結局は村を歩くだけでみんな怯えていたので全く意味がなかった。
4.「ここが私の家よ足の土を払ってから入って。」
そう言ってネーナが扉を開けると少女が一人走ってきた。
「お母さん!おかえ…」
嬉しそうに走ってきた少女だったが母親の隣にいるデルモニウスを見て足を止めた。
「そう怖がるなよ。怖くないよ、俺。」
ネーナの後ろに隠れて震える少女を前にしてデルモニウスは柔らかい口調で話しかけた。
デルモニウスがネーナを同意を求めるように見つめるとネーナは言った。
「これからそう信じさせてね。今はまだ難しいわ。」
悪魔が信頼を得るには少し時間がかかりそうだ。
ネーナ-ノースフレアに住む女性。以前は強気な性格で村のみんなを支えていたが夫を失ってあまり元気がない。




