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令嬢と小姑(男)のあれこれ  作者: 藍澤


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二人の素晴らしいコンビ

 翌朝、王妃陛下を含む全員が朝食を取るために集まった。ほんのり緊張感が漂っているが、とにかく父が笑顔なのが心底気持ち悪い。

 父のあんな笑顔は見たことがないので、どういうつもりの笑顔かはわからないけれど、とにかく気持ちが悪い。


 視界に入れないようにしても、全く朝食を楽しむ気分にならない。誰かに話しかけられるまで話をする気もないので、無言で美味しく感じられない朝食を食べ始めた。


 父は自分たちが視察でいない間に、ディートリヒに町を案内する話を始めた。視察に出ている間もディートリヒには退屈させませんよ、だから連れて行く必要はありませんよとアピールしているようだ。


 そこにディートリヒが参加し、王妃陛下がフォローして、あっという間に護衛はカントリーハウスに元からいる一人とヨアヒムになった。素晴らしい手腕。


「領地を良く知っている人の方が、私も安心できますわ」

 王妃陛下のこの一言でこの話は終了した。父はあまり抵抗しなかった。お兄様とディートリヒなら見張らなくてもいいと考えているようだった。


 次に王妃陛下は、お兄様が来年卒業後にどのように領地の勉強を始めるのか、質問を始めた。

 父は王妃陛下の狙いがわからないのか、資料に目を通すのと、領地への視察を繰り返して勉強させるという話をしだした。

 たぶん、もう完璧に王妃陛下とディートリヒの罠にかかっている。


「でしたら私を町へ案内するよりも、ヴェルナー様も視察に同行されてはいかがでしょうか。ノルン卿は王都でお仕事をされているので、時間を確保するのも難しいでしょう?急遽ご一緒させて頂いたのですから、私へのお気遣いは不要ですよ」


 ディートリヒが笑顔で言った。まさに微笑みの貴公子。純粋な気遣いを前面に押し出した表情が素晴らしいです。裏があるなんて思わない。普通なら。


「そうね。実際に視察へ行けるのは今の時期しかないから、一年待たなければならないわ。ヴェルナーくんの迷惑でなければ、私と一緒にノルン卿に案内してもらいましょう?」


 王妃陛下の言い方も良いな。急に予定変更を迫って迷惑をかけるけど大丈夫?と聞いているように感じるけれど、実際にここで断ればお兄様が王妃陛下の気遣いを迷惑だと言ってしまうことになる。

 父はおそらく、お兄様の教育は全て代行に任せるつもりだったと思うけど、視察は当主と一緒に行くのが当然ですよねの雰囲気が既に漂っている。断りにくい。


「しかし、ヴェルナーにはディートリヒくんの案内を頼もうと思っているので…」

 父が抵抗を始めたが、すかさず王妃陛下が割り込んだ。


「あら、同級生なんだもの、エルヴィーラちゃんに案内してもらえばいいじゃない。ディートリヒに、更に領地に詳しい護衛が二人もいれば、エルヴィーラちゃんに何か起こることはないでしょう?あら、でも屋敷に一人で残るカリーナには負担になり過ぎちゃうかしら?」


 おぉう。先に逃げ道をふさいだ。断ったら、女主人一人で屋敷を切り盛りできないくらい、侯爵家のレベルが低いと認めたことになる。

 いくらお母様と使用人の評価になるとはいえ、プライドの高い父には認められないだろう。

 お母様なら余裕でできる。父の使用人が邪魔しそうではあるけれど。


 更に護衛もさっき決めたままでいいでしょって言っている。これで護衛を追加や変更すると言えば、ディートリヒが駄目だと言うことになってしまう。


 王妃陛下さすが。相手を気遣い選択肢を委ねているように感じるが、父に選択肢はない。父の性格を良くわかっている。

 普通に娘が心配だと親バカしてみたり、不出来な娘がディートリヒに負担をかけてしまうとか言えばいいのだけれど、父にその発想がないことをわかっている。


 結局父は一瞬で不服そうな顔を隠し、了承するしかなかった。機嫌が悪くなっているが、上手く隠している。この顔はしょっちゅう見ているのでお見通しです。


 後で八つ当たりをされたら嫌だなと思っていたら、ちゃんと父が機嫌が良くなるように王妃陛下とディートリヒがよいしょしまくっている。

 二人の息もぴったりで、父の機嫌は元に戻った。これなら視察に出るまでの間に、八つ当たりされないで済む。お見事です。



 王妃陛下はお兄様と一緒に満面の笑顔で視察へ出かけていった。しかも、父が王都から連れてきた使用人のほぼ全員が同行した。

 お兄様大変そう。だけど、私たちはとても楽になる。ヨアヒムをそっとそちらにねじ込んでおいたから、頑張れ。


 ディートリヒに聞いたら、王妃陛下がさりげなくあれこれ心配だわと父の前で呟き、父が勝手な思い込みで自分の使用人を大勢連れて行くことにしたようだ。


 当然だけど王妃陛下の使用人は優秀なので、王妃陛下が呟いたことで父の使用人が何かを頼まれることはない。

 正直警備面で近寄ることもできないのだが、ディートリヒが使用人をたくさん連れていってと頼んだら、いいけど何で?のノリのまま引き受けてくれたそうだ。いい仕事をありがとう。


 父は私とお母様に見張りを一人ずつ残していった。二人だけなら誤魔化し放題だし、あちらもサボるだろう。置いて行かれた二人が悔しそうに顔を歪めていた。

 あちらについていった方が、いい思いできるもんね。町一番の高級宿で、宿の人に指示をするだけ。後は用意させた物を笑顔で差し出すだけでいい。

 二人は馬車が見えなくなるとすぐに屋敷に入っていった。色々ダメダメでしょ。いくら腹が立っているとはいえ、ディートリヒがいることを忘れてやいませんか?


 三泊四日、いってらっしゃい。お兄様。王妃陛下と協力して頑張れ。


「さて、エルヴィーラ嬢?どこに案内してくれるのかな?昼ご飯も町で食べたいな」

「わかった。このまま行く?」

「うん。そうだね。十分後にここで」

 一度部屋に戻って上着や鞄を手に戻ったら、お母様、ノーラ、マーサがお見送りに来てくれた。


「エルヴィーラ嬢をお借りしますね」

 隣で微笑みの貴公子が何か言ってる。

「お母様、行ってくるね」

「いってらっしゃい、ディートリヒくん、エルちゃん。あっ、お夕飯はどうする?買い食いするなら軽食だけ用意しておくけど」

 ディートリヒの顔を見た。


「買い食いしたいな…」

 左様ですか。じゃあ、買い食いもりもりコースで行こうかな。基本全般に興味が無い人だから、それでいいよね。


 カントリーハウスから近くの町まで馬車で行くとかえって邪魔になるので、歩いて行くことにした。

「護衛のラヒームとサリヴァンよ」

 紹介した後は、二人から町の最新情報を仕入れながら歩いて行った。


「ディートリヒ様、何かご希望は?」

「エルヴィーラ嬢のお勧めと、気になったところには寄り道したいくらいかな」

「昨日、お兄様に地図をもらって下調べをしたんじゃないの?」

 下調べしても何にも興味を持てなかったのだとしたら、さすがにちょっと可哀想になってくるわ。


「いや、ヴェルナー様とはダンジョンの近くにある、一番大きな町へ行く予定だったんだよ」

「あぁ、父の指示だろうね。わざわざごった返している所を見せて、自慢したかったんだと思う。この時期はギルド員で凄い混み合うから、領地の人は近寄らないよ。ここからだと泊まりがけで、結構時間もかかっちゃうしね」


「ヴェルナー様にも言われたよ。領民はほとんどいなくてよそ者ばかりだから、気をつけて行動して欲しいって」

「スリとか多くなるからね。今から行くのは普通の町だから。庶民の味でお腹をぱんぱんにしてくれるわ!!」

「お手柔らかに」

 微笑みの貴公子モードが終わったらしく、普通の笑顔になっていた。お母様を警戒する必要なんてないのに。


 話をしている間に町へ着いた。朝食を食べたばかりだから、一応観光名所を案内しつつ、マックの雑貨屋へ行った。

 マックの雑貨屋は、とにかく見た目の雰囲気が妖しい。怪しいを通り越して、妖しいのだ。今にも崩れそうな独特なデザインの建物に、曇って中があまり見えない窓。うっすら確認できる店内もひたすら妖しい。


「まさか、お勧めの雑貨屋さん?」

「そうだよ。面白い商品が置いてあるから。王都とかでは見かけないものばかり置いてあるよ。何かに興味が出ればいいと思って」


 ドアベルを激しく鳴らしながら店内に入った。マックがベルを付けすぎているから、無駄に扉が重くなっている。

 店長のマックはとっても人相が悪い。近所の子どもに怖がられているが、ベルンハルトと違って私は全然怖くない。

 薄暗い店内にはお香のにおいが漂い、異国の品々と何に使えばいいのかわからない品が所狭しと並んでいる。相変わらず妖しい。けたたましいベルの音がしたのに、マックが出てこない。


「おっちゃ~ん!いないの~?」

 しばらく待つと、店の奥から凶悪な人相のごっついおっちゃんが出てきた。この人が店長のマック。ディートリヒが店の雰囲気と店長の雰囲気に驚いている。

 わざわざ可愛い系の雑貨屋さんに連れてくるわけが無いだろう。王都の方が色々豊富に決まっているのに。


「何だ、エルちゃんか。久し振りだな。何か探し物があるのか?」

「冷やかしに来ただけだよ」

「はっきり言うな。少しくらいは希望を持たせろよ。ん?」

「同級生連れてきた」

 マックはちらっとディートリヒを一瞥した。


「…弱そうだな?」

 弱そうって人相の話?それだったらマックより強そうな人なんて、早々いないぞ。


「エルちゃん、奥で話そうぜ。ここは俺の趣味を詰め込んだ異国の品とかが置いてある。兄ちゃんは適当に商品を見てな。気になるものがあったら、サリヴァンに聞け」

 それって完全に店長としての役割放棄じゃないかと思いつつも、ディートリヒが構わないと言ってくれたので、少し奥で話をすることにした。


「一昨日、領主様の使いが変な品物を注文しに来たぞ。手に入らないことはないが、時間はかかると伝えてある。これがそのリストだ。カリーナ様にも見せておいた方がいいんじゃないかと思ってな」


 久し振りに会ったのに、碌な話じゃなかった。リストに並んでいるのはよろしくない薬ばっかりだった。何に使うつもりなのか、今すぐ問い詰めたい衝動に駆られた。

 お兄様が戻ったらすぐにお母様と一緒に会議だな。よくわからない物はマックに説明してもらい、売り場に戻った。


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