家族会議
ノルン侯爵領に到着して少し休んだら、早速お母様と三人でお茶を飲みながら情報交換を始めた。まずは北の辺境伯で起こっている詳細を、王弟が怪しいことも含めて報告した。
「まぁ、まぁ、大変だったのねぇ」
「その時にディートリヒが教えてくれたんだけれど、父上と王弟殿下が内密に会っているようだ。五、六年前からなのは確実だそうだが、それ以前からの可能性もある。それと、あの部隊長が出世を始めたのは五年前からだって」
お兄様、いつの間にディートリヒとそんな話を。父と王弟が仲が良い話なんて、噂でも聞いたことがない。
通話せずにわざわざ会うなんて、何かを企んでいるようにも感じるし、もし企んでいるなら不用意な気もした。時期も重なり過ぎていて、怪しいと言っているようなものじゃないかな。
「二人はかなり慎重に会っていたようで、本来なら漏れるはずのない情報をディートリヒが入手して、こっそり俺にだけ教えてくれたんだよ。今までイザークからそういう話は聞いたことがない。ゲルン卿に相談していいかな?」
「えぇ。またご迷惑をおかけすることになるけれど、相談しましょう。私たちだけでは情報収集に限界があるわ」
「五、六年前って、殿下の婚約者を探し始めた時期じゃない?」
「父と王弟殿下は険悪だったと有名だ。エルは侯爵令嬢なんだから、王弟殿下の協力を得なくても婚約者候補にはなれるだろう?」
「そうねぇ。それに、王弟殿下が婚約者選定に関わることはないと思うわよ。ややこしくなっちゃうもの。宰相様が関わらせないと思うわ」
「王弟殿下の協力で私が婚約者になるなら、あんなに煩くも言わないと思うんだけど」
「王弟殿下と父が何かを企んでいると考えたら、その企みにエルが殿下の婚約者になるのが必要なんじゃないかと思うんだけど、どう?」
「ん~。何で私が必要なのか全然わからない」
「そうねぇ」
三人での話し合いはとりあえず終了して、何か思い付いたり気が付いたことがあったらまた話をすることにした。部屋でのんびりしていたらお兄様が来た。
「どうしたの?何か思い付いたの?」
「ゲルン卿と話したけれど、彼でさえも密会の情報を掴んでいなかった」
小姑の情報収集能力恐るべし。さすがです。
「エルは、どうして父と王弟殿下が険悪だったかは知ってる?」
「・・・うん」
お母様世代の人たちには有名な話で、お茶会でもその話題が出ることはあった。内容的にお母様には聞けなくって、ゲルン侯爵夫人に詳しく聞いた。
優秀だった王妃陛下は、王子の婚約者候補になるのは間違いないと言われる程だった。実際に婚約者候補にしようとしたところ、陛下と王弟どちらもが王妃陛下を気に入っていて、どちらの婚約者候補になるかで揉めた。
困った前国王は本人たちの選択に任せることにして、婚約者候補に指名せず、陛下、王弟、王妃陛下を同時に魔法学院へ入学させた。
陛下と王弟は王妃陛下に積極的にアピールを繰り返していたが、他の令息もアピールしていた。
どちらの候補にも決まっていないのだから、王妃陛下は表向きフリー。それこそ自由だ。王妃陛下モテモテ伝説として、ここまでの話は今でも頻繁に出てくる。
王弟を王太子に望む声もあり、勝手に貴族が第一王子派と第二王子派の派閥に別れてしまった。派閥の勢力は拮抗していて最終的にはどちらが優秀な妃を手に入れるかで、王太子が決まるのではないかと噂になった。
派閥の令息令嬢が様々な思惑で参戦することになり、さすがに王妃陛下を諦める人も出たが、最後まで残っていた令息の中に父がいた。
最終的に魔法学院卒業の時に王妃陛下が陛下を選び、王弟と父は敗れた。
当時第一王子だった陛下はその後王太子になったが、王妃陛下が選んだからだと噂になった。だけど、この国は元々長男が継ぐことが基本になっている。
基本のままだとは思うが、周囲がそう噂する以上、王弟もそう考えていたかどうかは怪しいし、一部王妃陛下に嫉妬していた令嬢は、権力目当てで一番扱いやすそうな第一王子を選んだのだと噂した。
王弟は今も独身を貫いていていて、宰相様を補佐して国の運営を助けてもいる。その辺りがご婦人たちの興味を駆り立てて、今でも噂される原因となっている。
父はお母様と結婚したが、お母様は王妃陛下と同じ髪色と瞳の色をしていた。更に、借金がある伯爵家から侯爵家の嫁へと大出世。父が王妃陛下に未練があって似たような女を捜してきたのだと揶揄されていた。
父がお母様を好いているとは思ったことが無い。だから、お母様に聞けなかった。
「王弟殿下も父も、未だに王妃陛下に未練があったら…」
「だったら二人は協力しないんじゃないの?ライバルでしょ」
「普通に考えて、王妃陛下を略奪なんてできないだろう?二人で協力して陛下を亡き者にして、その後王妃陛下を取り合うつもりかもしれない」
「二人とも陛下さえいなければ、今度は自分が選ばれると信じているの?」
「二人がどう考えているかはわからないけれど、無理矢理も可能だよ」
王妃陛下が結婚したのは二十年くらい前になるが、今も陛下と仲が良い噂しかない。だから、お兄様の推測通りなら心底気持ち悪い。
「陛下が退位したとしても殿下の年齢なら、そのまま王位につく可能性が高いでしょう?そうすると、殿下が王妃陛下の要望を聞いて再婚を認めない可能性もあるんじゃない?」
「殿下も邪魔ってことだな。エルを妃にして、殿下を味方に付けるつもり…?」
「そんなの、私が協力するわけないじゃない」
「そうだけど、エルは表向き従順だし、エルが王妃なら理由を付けて殿下と会える。自分で味方にすることもできるじゃないか。殿下は基本単純だから、上手にすればできないことじゃない」
父がそんなに上手に振る舞えるとは正直思えないが、それよりも…。
「お母様はどうするのよ」
「・・・・・・どうとでもするだろうさ。きっと構想自体はずっとあって、お互いの手駒が揃って計画として動き出したんだ。特に父からすればそうだろう。普通に協力していれば、王弟に全て思うようにされてしまう。かなりの賭だとは思うけれど、だからこそエルにこだわるのかなって」
とてもとても嫌な話だけれど、完全には否定できない。二人が本当に王妃陛下を未だに自分のものにしたいと思っている前提なら、辻褄が合うことが多い。
「王弟殿下まで最低の人間だったってこと?」
「人の裏の顔なんて・・・わからないよ」
「そうだね」
外面の良い父が、裏では鞭打つなんて誰も考えていないもんな。
「ただの権力至上主義ならまだましだったのに」
「・・・権力至上主義なら、せめて自力で宰相様の右腕にはなっていないとね。表向きの右腕は王弟殿下で、実際の右腕はゲルン卿。父の能力では無理だよ」
宰相様の部下の一人ってだけだもんね。自分で勝手に権力を掴んで、私たちを巻き込まないで欲しい。
「だからエル、王妃陛下が来た時は可能な限り父を観察しよう。前提が合っているか確認が必要だ。そしてもし、その前提が合っていたら、王弟殿下が王位以外も望んでいたら・・・。エルはこれからますます気を付けなければいけない。父にとっては手駒だけれど、王弟殿下にとっては邪魔者の可能性が高い」
大きなため息が出てしまった。
「部隊長は今回出世に失敗したし、降格するだろう。王弟殿下は時間をかけて得た手駒を失ったことになるし、今回の件で処罰が無くてもイメージは悪くなる。二人がそのまま決裂してしまえばいいけれど、婚約が決まっていないうちから、焦ってエルを排除してくるかもしれない。だから、全ての可能性も視野に入れて、一人歩きとかはしないで欲しい」
私の気持ちだけでものびのび領地で過ごそうプランはすぐに頓挫してしまった。




