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令嬢と小姑(男)のあれこれ  作者: 藍澤


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襲われたディートリヒ

 クリスの彼女は上昇志向が強く、上流貴族とお知り合いになりたいタイプらしい。

 普通の子爵令嬢では、ここにいる侯爵家や伯爵家とは知り合う機会はないと思うから、ある程度がっつきたくなるのはわからなくはない。

 だけど、正直そういう人が多すぎて、後々面倒に巻き込まれないためにも適当に逃げることが多い。勝手に名前を出されたり、親しいように周囲に言われたら後々困ることもあるからね。


 クリスはその辺をちゃんとわかってくれているので、無闇に知り合いを紹介してこない。だからこそ、皆が仲良くしているというのもある。

 誰彼構わず紹介されると友人の手前、対応に困る。そうなると、色々面倒になって友人とも疎遠になってしまうパターンだ。


 私たちとクリスは仲が良いし、社交で辺境伯は侯爵と同等の扱いになるので、焦って人脈を広げる必要はないと思う。

 クリスが領地に戻ったら放置するような、薄情な人間に見えるのだろうか。それだけ薄情ならここに助けには来ていないと考えればわかると思うんだけどなぁ。


 見回りから戻ったら、ジョンが小声で凄かったぞ!って楽しそうに言っていた。イザーク様の予想通り、ディートリヒが襲われていたのを面白がって見ていたそうだ。ディートリヒが疲れた顔をしている。

 ジョンじゃなくて、サムに預ければ少しはましだったかな。ガンガンにこられて、通話機に着信が来るまで捕まっていたらしい。ご愁傷様。


「クリストフルの彼女は・・・凄いね。生命力をむしり取られた気がするよ・・・」

 どれだけ凄かったんだろう。イザーク様やダーリンが疲れた様子は見た覚えがないので聞いてみたら、イザーク様は要領よく適当に追い払い、ダーリンの時はすぐにデポラが救出したそうだ。


 可哀想なので、夕食は皆で取り囲んであげた。通りすがりにビアンカがこちらの様子を窺っているのに気が付いたが、人数が多過ぎるからか諦めたようだ。イザーク様がいるせいかもしれない。話しかけるなオーラが凄い。


 食後に部屋に集まって話をした。根回しは順調に進んでいるそうだ。


 現場の騎士団員も、到着した魔法騎士団長の説明と保護するという言葉を聞いて、本当にただただ不幸な弱みを握られている人は安心したようだが、単なる不正などの弱みを握られている人たちに関しては、後もう一押し必要らしい。


 そもそも公正な騎士団では、不正は許されない。部隊長からこちらにつけば、罰が待っているのは間違いない。部隊長がそのまま力を持ち続ければお咎め無しになる可能性が残っている。

 何か救済策を用意しなければならないのかもしれないが、不正の内容によっては許すという選択肢が騎士団にはない。


 命がかかっているから、実力を誤魔化していたら実際の実力による職務になるし、お金関係の問題になればお金をもらっていつ裏切るかわからないということで、騎士団から即座に除籍される。


 もっとしっかり説得すれば早いのかも知れないが、魔法騎士団は元々ダンジョンの異変を正すためにやってきたので、明日の午前中にはダンジョンへ行ってしまう。


 現場ではベルンハルトが意外にも頑張っているらしい。ディートリヒ曰く、イザーク様が格好良い・・・。と言っていたそうだ。単純だ。

 すぐに真似できるとは思わないけれど、イザーク様に憧れるのは仕方がない。いざという時は頼りになるし、格好いいもんね。


「イザーク様はいつも気怠げで、ただのチャラ男っぽいけど、いざとなったら凄いもんね!」

「エルちゃん、けなしている割合の方が多くない?」

「えっ!?褒めたんだけど!!」


 私はどうも褒めるのが下手らしい。領地に戻ったら、お母様に特訓してもらおう。令嬢として、褒めるのが下手なのは致命的だと思う。嘘で褒める時には失敗したことないんだけどなぁ。


 翌日、ディートリヒは一人になるのを嫌がって、午前中は一番安全そうなイザーク様の側から離れなかった。

 午後からの私たちが見回りの時には、認識阻害で誰も行方がわからない状態にして、お兄様の所へ避難していた。


 いくら何でもお昼寝をしている部屋を訪ねてくる程非常識ではないと考えたそうなのだが、正直お兄様には迷惑だと思う。お兄様がそれを受け入れたので、意外と仲が良かったのかな。


 見回りから戻ってきたら、お兄様と一緒にイザーク様と合流して部屋に閉じこもってしまった。デポラとダーリンはデートすると言っていたので、私は休憩中のギルド員の所へ押しかけることにした。

 領館の敷地内でデートって、どういうことだろうとは思ったが、深くは追求しない。泥沼な気がする。


 ギルド員が休憩に使っている大部屋の扉を叩く。

「開いてるぞ~」

 ジョンの声が聞こえた。

「お邪魔します」

「どうしたんだ、エルちゃん」

 部屋の中にはジョン、ジョー、ジョージ、ジョージア、サム、トム、イムがいた。クリスが混乱しそうな組み合わせだ。クリス・・・。最近ちゃんと話もできていないな。ちょっと寂しい。


「皆やることがあるみたいだから、遊びに来たの。暇だから相手して~」

「貢ぎ物はあるのか?」

 ジョンがにやにやしながら言ってきた。

 サムとジョージもうきうきしている。二人は甘いものが大好きなのだ。


「フルーツ系のタルトと、木の実系のタルト。ホールケーキにチーズケーキ、お汁粉、きな粉餅。後は野菜系のキッシュとか、フライドポテトとかの軽食かな?」

「エルちゃん、俺はノーラちゃんのコンソメスープが飲みたい」

「あ、いいなぁ」

 皆のリクエストに合わせて、ぽいぽい空間収納から出していったら、テーブルが一杯になった。満足したジョンが椅子を一つ用意してくれた。


「ありがと~」

「ここにいるのも後少しだな」

「そうだね」

 のんびり皆と会話をしていたら、昔の話になった。


「そういえば、ジョンはどうやってエルちゃん達と知り合ったんだ?」

「そうだよな。普段はかなり東にいるんだろ?」

「ダンジョンから戻ってきたら、俺の嫁が流行病にかかっていたんだよ」

「あぁ、一時東で毎冬ごとに凄い流行っていたよな」


「そう、それだ。薬が高騰しちまって更に貴族が買い込んで、俺らに回ってくる分がなくなってしまっただろ。家族の分は用意していたのに、嫁が自分の分を隣のガキに譲っちまってよ。金はなんとかなるのに薬がなくて困って色々なダンジョンをはしごしていたら、話しかけてくれたのがエルちゃんだ。それで、兄ちゃんと一緒にどこかから薬を調達してくれてな。おかげで皆元気だよ」


 そんなこともあったな。ジョンが世界の終わりみたいな顔をしていたから、気になってつい声をかけた。

 ちょうどダンジョンから戻ってきて、ペロペロキャンディをなめながら話しかけたので、ジョンの周囲にいた人に最初は追い払われそうになった。


 ペロペロキャンディをなめながら話しかける子どもが、ジョンの役に立つとは想像できないもんね。でも、ジョンは違っていた。藁にも縋る思いだったのだろうと思う。


 お母様に相談して薬は領地で確保していた分を譲ってもらい、ジョンが住んでいる地域にも手を回してもらった。


「イムは?」

「俺は初めて兄妹二人でダンジョンに来たからって、うきうきし過ぎて色々やらかしているエルちゃんがきっかけかな」

「あ~。鈍くさいもんな」

「なのに魔法だけは、子どもの頃からえげつなかったよ」


 話の雲行きが怪しくなってきたので、話題を変えなければ。イムは一番最初に仲良くなったギルド員で、初恋の相手でもある。

 男らしいを通り越していかつい顔なのに、笑うとくしゃくしゃになる所が胸キュンだった。優しくて気も利くから、本当にメロメロだった。後、戦っている時がとにかく格好良い。好き好き言いながら、後を追いかけ回していた。


 鈍くさい話から、そこに繋がりそう。何とか強引に話を変えて、私の初恋は知られずにすんだ。絶対にジョンにいじられる。

 

 夜になる前には魔法騎士団がダンジョンを制圧したと連絡が来た。さすがと言うべきなのだろうけれど、本当にあの騎士団は何をしにここに来たんだろう。実力差がありすぎない?


 周囲の残党狩りにもう少し時間が欲しいと言われたので、明後日に領館を後にすることになった。多少なら残党狩りをしながらでも問題なく帰れるだろうけれど、領館にもしもがあるとまずい。


 領主様も私兵もSランカーを尊敬しているし、見回りや食事、訓練を通して皆すっかり仲良くなっていた。

 ただ、ここのダンジョンは稼ぎにならないので、ギルド員がこの地へまた来ることはほぼ無い。


 最後の別れとばかりに朝から酒盛りの準備が始まっていた。明日には出るというのに、用意されたお酒の量に吃驚する。食料の備蓄が尽きかけていたのに、何でこんなに。

 クリスに聞きたいところをお兄様に聞いたら、冬が長くて寒い地域ではお酒は常にたっぷり用意されていることが多いそうな。しかも、避難させる領民に嵩張って重いお酒を大量に持たせることはしないから、お酒だけは充分にあったそうだ。なるほど。


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