侯爵令嬢は人脈を活かす
クリスが領で孤立している人数をイザーク様に報告していた。
「いいな」
イザーク様がぽつりと呟いた。どういうこと?
「周辺も全て避難済みだ。最後まで他の人々の避難を優先した、領館に残る人と合流するだけでいい。立派なご両親だな」
クリスの目が潤んでいる。私も泣きそう。
「エルの方は?」
「明日の昼までにガロン侯爵領に転移魔法が完成します」
「後はギルド員が集まるかか。ヴェルは?」
「国で管理している魔法師は今、デポラ嬢とサラちゃんが確認しているが、今のところ見つかっていない。遠距離過ぎてエーリヒ側から転移魔法を創ってもバランスの問題で近付かないと繋げられないそうだ。俺は個人的な知り合いに当たっているが、今のところ見つかっていない」
「わかった。魔法騎士団は間に合わないと考えよう。さぁ、殿下。特権を全て使ってもらうぞ」
イザーク様の雰囲気が変わって、無意識にベルンハルトが後ろへ逃げている。
「まずは専門学院から武器と防具の持ち出し許可を。各寮の食料備蓄を持ち出す許可と、それで厨房に料理を作らせる指示を。後は馬の準備だ。ガロン侯爵領まで走れる馬を選別してくれ。スタミナはなくていい。速さを優先してくれ」
「・・・わかった・・・。至急手配してくれ」
ベルンハルトの言葉に、部下が散っていった。よし。イザーク様とベルンハルトが詳細について話をしている。
クリスには何かしてもらっていた方が気が紛れると思い、イザーク様に報告していた内容を改めて聞いてみた。
ご両親は騎士団が到着している状態で、ここまで事態が悪化するとは想定できていなかったようだ。当然そうなるよね。
それでもいち早く事態の悪化に気づき、動ける人を若い私兵に護衛させて私兵ごと全て避難させていた。
動けない領民は守りの堅い領館で保護し、一部の人間だけを残して守っているそうだ。素敵なご両親だ。自分たちこそ逃げられたのに。
「全て許可を取りました」
ベルンハルトの部下が戻ってきた。仕事が早いな。
「クリス、周辺の詳しい地形を教えてくれ。ヴェル、五十人分三ヶ月想定だ。食料は殿下が半分出す」
「わかった。エル、ノーラたちに応援を頼んで」
「はい」
お兄様が部屋から出て行った。私はイザーク様から通話機を借りる。
「エルヴィーラよ。厨房で料理をしてもらうの。必要ならマーサと一緒に厨房に手伝いに行ってくれない?」
「デポラ様からお話を聞いております。どれくらいの量が必要ですか」
「二十五人分、三ヶ月想定よ。お兄様からの指示に従ってちょうだい」
「かしこまりました」
やることがなくなってしばらくジリジリしていると、私の通話機が鳴った。
「ジョン!折り返してくれてありがとう!」
「まさか、北の辺境伯か?」
「そうよ。私の友人が孤立しているの。助けに行きたいから、協力して欲しいの」
「部隊長を知っているか。あいつである限り、俺たちには全滅しかないぞ」
「大丈夫よ。そこは心配しなくてもいいわ。それに、デポラ様に会えるかもしれないわよ」
「デポラ嬢が出てくるのか。それは・・・」
「そうでしょう?魅力的だと思うでしょ」
「報酬は?」
「私が何とかするわ。お願い」
「・・・・・・わかった。俺たちはどうすればいい」
「明日の午前中に転移魔法でガロン侯爵領と繋げるわ。ガロン侯爵領から最前線にも転移魔法で繋がるから」
「わかった。いつもの四人で行く」
「ありがとう!!」
「エルちゃんに言われちゃなぁ。じゃあ、ガロンで会おう」
「うん。待ってる」
どんどん折り返しがかかってくるので、紙とペンを用意してもらって書き記していく。今までにお兄様と行ったダンジョンで知り合った凄腕の人たちだ。
皆、部隊長を確認して、行くのを止めていた。どんな酷いのを最前線に送ったのだ!腹が立つ。
「イザーク様、何人か国外にいたので無理でしたが、全員で十四人集まりました。ランクは全員Sです」
イザーク様にメモしていた紙を渡す。
「わかった。ふぅん、なるほど・・・。殿下、ギルドに救援要請したのはそちらの部隊長だ。報酬はそちらで用意してくれ。これは金がかかるぞ」
「わかった。当然のことだ。陛下に報告する」
デポラが来た。
「どうなっているの?」
「ダンジョンギルドのSランクが十四人、食料と武器防具も今用意しているわ」
「そう。お父様に直接団長へ連絡を入れて貰ったけれど、現状ではすぐに応援へ行けるよう動いてくれても、微妙みたいよ。私たちも準備したとして、間に合うの?」
「最前線にいる魔法師に知り合いがいたの。明日の午前中にはガロン侯爵領との間に転移魔法が用意できるわ」
「そう。それならダーリンも巻き込むわ」
「え、いいの?」
「もちろんよ。そろそろお昼の時間だし、皆で食堂へ行きましょう」
本当だ。もうそんな時間なのか。イザーク様が待ったをかけた。
「殿下、俺が許可した人間が続きの間へ入れるようにしてくれ」
「わかった・・・」
ベルンハルトは指示を出し、また通話を始めた。ノーラやマーサを呼び出して、フラウと一緒に続きの間へ向かった。まだまだ料理をしてもらうから、きちんと食べてもらわないとね。
続きの間へ向かいながら、デポラがお父様のウテシュ卿とダーリンに通話をしてくれている。
国には騎士と魔法師を混成した騎士団がある。その都度編制されて行動するので、任命される部隊長もその時によって異なるが、魔法騎士団は少数精鋭なので、固定の部隊長が常に纏めている。それら全てを束ねるのが団長。
今の団長はウテシュ伯爵家の分家筋の人だし、魔法騎士団の部隊長はダーリンのお父様だ。これほど強力な味方はいない。私たちが時間を稼いでいる間に、強力な味方が駆けつけてくれるはずだ。
「ダーリンも私たちと一緒に最前線へ行ってくれるって」
さすがダーリン!デポラを守る騎士だ。
ダーリンのフォード伯爵家も、デポラのウテシュ伯爵家と双璧をなす武力に重きをおく家系だ。幼い頃から実践形式で一族を鍛え上げている。デポラもそうだが、ダーリン自身も超優秀と聞く。
「何この無駄な豪華さ!」
部屋に入った時のデポラの第一声。私もそう思ったよ。皆で個室に入る。
「メニューがあるから、好きなのを選んでね。クリスもフラウもちゃんと食べてね」
「もう、大丈夫ス。あ、ありがとうございまス」
クリスがまた泣き出したので背中をさする。こちらに来るまでに状況説明をしたフラウも号泣し続けている。そちらはマーサがさすっている。
お兄様とヨアヒム、ダーリンも来た。皆が迷わずお肉を注文した。お肉を食べると、明日の魔力回復が促進される効果がある。夜も肉だな。




