侯爵令嬢は筋トレに励む
お母様が寂しそうに領地に帰り、間もなく新学期が始まる。デポラが寮に戻ってきたので、早速ユキちゃんたちを紹介した。
デポラはもふもふ祭り最高!と言いながら、ユキちゃんたちを愛でるのに夢中になった。可愛いだろう!だけど久し振りに会った私のことも構って!と思っていたら、凄く可愛い髪飾りとお揃いの耳飾りを貰った。照れ隠しか?
それから授業が再開するまでの間に、イザベラがハルン侯爵家からのお詫びの品とお土産を、ディートリヒがハルトくんを保護してくれたお礼をハルトくんの手紙付きで、他の同級生も次から次へとお土産と一緒に挨拶へ来てくれた。
「あの一件での、お嬢様へのお礼でしょうねぇ」
マーサは楽しそうに言うけれど、居間は足の踏み場もない程のお土産で溢れてしまった。領地の特産品が多いが、ディートリヒとハルトくんからは流行の品々だった。ハルトくんまで…。
新学期が始まるまでの間、来客対応、頂いた品のリスト作りと整理に追われた。
返礼品はありふれた物ではない方が侯爵令嬢的に必須なので、領地の特産品をお母様に用意してもらうことにした。手間をかけさせることになったのに、お母様は単純に喜んでくれた。
新学期が始まるまでの間に、デポラがイザベラをお茶に誘って三人でお茶をすることも出来た。イザベラは最初こそ遠慮していたが、私とデポラがぐいぐい何度も誘って、色々と話すことが出来たのでこれから良い関係が築けそう。
ルイーゼは戻って来なかった。
「婚約者候補から外されたなんて、みっともないから休学するんじゃない?」
デポラばっさり。今日も手はユキちゃんたちをもふり続けている。照れ隠しじゃなかった…?
「挨拶に来てくれた子から聞いたんだけど、第二王子にアピールを始めたとか」
「レオンハルト様に?年齢的には範囲内だけど、普通に無理でしょ」
「そうだよねぇ」
「もし本気なら、公爵家全体で頭がおかしいんじゃない?さっさと隣国との伝手を活かして隣国の良家に押しつけるべきね」
「押しつけるって…」
「侯爵家はもう無理でしょ。だったら伯爵家に押しつけることになるけれど、ルイーゼ様よ?伯爵家の財力じゃ無理よ」
「…そうですね…」
デポラやイザベラと和やかに過ごしているうちに授業が始まった。ベルンハルトの予約制度の管理は、イザベラが事情を説明してスーリヤが引き継いでくれたそうだ。
スーリヤと仲の良い婚約者候補とルイーゼ派閥の令嬢、それ以外の令息令嬢が少し申し込むだけになったので、婚約者候補が一緒に食事をする回数が大幅に増やされたらしい。
イザベラと仲の良い婚約者候補とその関係者が、スヴェンの件でベルンハルトに興味を失くしてしまったことが影響しているようだ。イザベラの辞退が可能になれば、他の婚約者候補も一緒に辞退するつもりだと聞いた。
ハルン侯爵家を切り捨てたベルンハルトに時間をかけるより、派閥の結束を高めたりレオンハルトに繋がる方が重要との判断だった。
ルイーゼ派閥の令嬢は押さえつけがなくなったので、ベルンハルトへ堂々とアピールを始めた。
デポラ情報によると、元々ルイーゼの目を盗んであれくらいはやっていたらしい。
今年魔法学院では入学式も卒業式もないので、そのまま一年生の終業式があって、二年生の新学期が始まった。生徒が二人いなくなった分、成績順の玉突き式で、各クラス編成が少しずつ変わりスーリヤが一組になった。
二年生からは授業が魔法演習、剣術演習の二つから選べる。女性は全て魔法演習にすることが多いが、男性はほとんどが半々にする。
魔法が苦手な人は全て剣術演習にする人もいるらしいが、さてどうしよう。イザーク様にも勧められているし、剣術演習を取ろうと思っている。やっぱり半々かな。
一応誘ってみたが、デポラは剣術演習は絶対に取らないと言った。意外にも私が半分剣術演習にしようとしているのに、イザベラが興味を示した。
「実は私も昔から一度やってみたいと思っていたのですが、周りに止められていたのです。エルヴィーラ様がされるのなら、私もやってみたい…」
この話は令嬢の間で話題になった。初心者でもいいのならと、ベルンハルト狙いやディートリヒ狙いの人たちから希望が殺到した。
例年にないほど令嬢の希望者がいた為に、令嬢は枠が決められて抽選になった。令嬢で将来剣術が必要な人は女性王族につく騎士くらいなので、妥当な判断だと思う。同学年でそれに当てはまるのはデポラだけ。
侯爵家の特権で、私たちは抽選もなかった。ラッキー。私とイザベラは本気なんだからな!
デポラ情報によると、この抽選にも裏で色々あったらしい。
初めての剣術演習。侯爵令嬢が二人もいるので、知らなかった令息たちで周囲がざわついた。私たち以外はルイーゼ派閥の令嬢だったので、デポラが言っていたのはこのことかと納得した。
「エルさんは剣術演習もとったんですね」
「クリスさん、よろしくお願いしますね。特にペアとか、ペアを」
「ははは。さすがに男女ペアで演習はないと思いますよ。性差がありますから」
「そうなの?素人同士でやって、上達するの?」
「あぁ、まぁ、やる気があれば上達するんじゃないでしょうか」
この言い方はあまり上達が見込めないということだ。クリスと一緒に過ごした三ヶ月間で、だいたい本心がわかる。むむむ…。
「素人なら、まずは基礎からですよ」
何だよ、クリス。人前だからって、すっかり訛りも隠しちゃって!!
素振り用の剣を渡された。刃はついていないが重いな。先生にもまずは素振りからと言われてしまい、素人二人で一緒にすみっこで延々と素振りをすることになった。
誰かが指導してくれることもなく、見てももらえていないので、この素振りで合っているのかどうかさえわからない。前途多難だ。
他の女子はそもそも真面目にやっていない。演習するベルンハルトたちを見てきゃっきゃ言っている。真面目にやらんか!!うーん、だんだん剣を握るのがつらくなってきた。
「エルヴィーラ様!?」
イザベラの声と同時に、私の手からすっぽ抜けた剣が、後方にいた二組の男子を強襲した。後ろから剣が飛んできたのに、さらっと避けた。やるな。誰か知らんけど。
「あぁぁぁぁ。す、すみません。お怪我はありませんか」
「大丈夫、です。しかし、もっと真剣にするべきです。ご自身も怪我をされてしまいますよ」
「申し訳ありません…」
正論ですね。真剣にやってはいるのですが。
この件で、私はまず筋トレからになった。イザベラもそのうち自分もやってしまいそうだと言って、剣術演習は結局二人で筋トレをする時間になってしまった。
言われた筋トレは腹筋と背筋。これって握力関係なくない?上手に厄介払いされた気がする。私よりも基礎体力のないイザベラはヘロヘロだ。これではダメな気がする。無駄な時間を過ごしている気がする。イザベラもこれではダメだと思ったようだ。
「デポラ先生、お願いします!!」
イザベラと一緒にデポラの部屋を訪れ、筋トレを教えてもらうことにした。お兄様に聞こうとしたら、ムキムキのエルは見たくないと拒否された。デポラはムキムキじゃないし、ドレスもちゃんと似合う。きっと大丈夫だ。脱いだら凄いの知ってるけどな!
「私は厳しいわよ…?」
不敵に笑うデポラが怖い。だけど、懇切丁寧に教えてくれた。やっぱりデポラだ。サラも当然剣術ができるので、先生二人にみっちり教えて頂いた。
基礎体力をつけるために、素人二人が毎日ランニングと筋トレをする日課が増えた。イザベラはいつもヘロヘロになっているが、頑張っている。すっかり仲良くなってしまった。
剣の正しい素振りの仕方もデポラが教えてくれた。やっぱり授業でやっていたことには何の意味もなかった。素人がただ適当に剣を振り回していただけだった。
ある程度すると、二人とも良い感じに筋肉がついてきて、ちょっとましな素振りができるようになった。デポラとサラ、本当にありがとう。
実戦形式をやってみたくてうずうずしてきたが、デポラに基礎が大事だからまだ早いと言われた。先生に従います…。デポラ指導の下、基礎訓練を頑張った!




