御者たちのぼやき
「とんでもないことに巻き込まれてしまったな」
「ああ。もう限界だ。眠い…」
「馬鹿、この部屋は薪が焚かれていない。寝たら凍死するぞ!」
「昨日うるさ過ぎて、ほとんど眠れなかったんだよ…」
「殿下がルイーゼ一派を何とかするまで我慢するんだ!」
「おい、公爵令嬢を呼び捨てはまずいだろ」
「どうせ俺たち以外、誰も聞いてないよ」
「それもそうだな」
「あの時、ノルン侯爵家のエルヴィーラ様、だったっけ?あの人だけは俺たちを助けようとしてくれていたよな?」
「そうだよな。俺らみたいな御者が、殿下と一緒の部屋はまずいと考えた配慮かと最初は思ったけれど…」
「絶対違うよな!」
「あれはこうなることをわかってたよな!」
「むしろ全員一丸となって全力で逃げ出していたよな!」
「殿下に負けずに連れ出して欲しかったよ…」
「それな」
「今からでも、無理なのかな…」
「無理なんだろうな…。ハルトヴィヒ様だけいなくなったよな…」
「ああ、ディートリヒ様がエルヴィーラ様に頼んだらしい」
「正解だな」
「ディートリヒ様は俺たちにも気を遣ってくれるよな」
「そうだな…」
「この間、そっと逃がしてくれたよ。自分を犠牲にして…。徹夜明けだったのに」
「ああ、酷い顔色だったよな」
「逆にディートリヒ様にハルトヴィヒ様を連れて避難してって頼まれたこともあったよな…」
「雪遊び、楽しかったな…」
「俺たちの癒やしだったのに…」
「楽しいこと考えようぜ」
「…エルヴィーラ様、美人だったな」
「そうだな。後ろにいた専属使用人もなかなか…」
「嫁に会いたい…」
「くっ、それを言うな!俺も子どもたちに会いたい…」
「ううっ」
「泣くな!」
「この間、外に出てうろうろしていたら、凄く楽しそうな笑い声が聞こえてきたんだ…」
「癒やしを求めて、吸い寄せられたよ」
「ああ、あれか。恐ろしい雪合戦をしてたな」
「恐ろしい雪合戦?」
「ああ、俺たちが混ざったら瞬殺されそうな…」
「運動神経がそんなにいいのか?」
「そうじゃない、本当に死ぬやつだ。強力な魔法をふんだんに使ってた」
「俺も見た。笑いながら凶悪だった。雪玉がかすっただけで死にそうなやつだった」
「…やっぱり貴族って…」
「いや、でも俺たちに気が付いたエルヴィーラ様が、こっそり女子寮に入れてくれたよ」
「なななななんだと!」
「ああ。お兄様には内緒よって笑顔で言ってたな。可愛かった…」
「自らお茶を淹れてくれたよ」
「なんだよ、羨ましいな!」
「お菓子もくれた…」
「俺たちの分は!?」
「つい、食べちゃった。ごめん…」
「明日、晴れたら皆で行こうぜ…」
「危険だぞ。鍵を開けてくれたフランツさんも、ヴェルナー様には絶対に見つからないようにって言ってた」
「ヴェルナー様?」
「エルヴィーラ様のお兄様だよ。エルヴィーラ様の俺たち救出を邪魔していた!」
「あぁ、俺たちが御者だからか…」
「やっぱり貴族って…」
「違うんだ。個別に会った時には問題がない人だとフランツさんも言っていた」
「どういうこと?」
「性別が男であれば、無差別に発動するって言ってたな」
「何が?」
「重度のシスコン…」
「シスコン…」
「やっぱり貴族って…」




