侯爵令嬢は本気で雪合戦をする
変わらず男子寮では毎日トラブル続きの様だけれど、こちらでは穏やかな日が続いた。日に日にベルンハルトとディートリヒが弱っていっているそうだ。
毎日寒いのに、薪を焚いていない部屋に避難したり、外に出て気分転換したりしているらしい。
どんなとんでもない出来事が起こったのか、愚痴らずにはいられなくなったフレドリクから、フランツに一日何度も通話がくる。
可哀想とは思うけれど、すっかり他人事でもある。最初からルイーゼは配給方式にして、別室にするべきだったのだ。
ルイーゼは毎日着飾った状態で過ごしていて、ベルンハルトの隣を確保している。そこは恋する乙女な光景だとは思うけれど、ルイーゼは二人の時間に普通にお茶とお菓子を要求した。
お菓子が用意できない使用人が、誰か用意しろと騒ぎ続けているらしい。あちらにはお菓子を作れるような人材はいなかったようだ。
更に使用人たちは二人の空間にする為に、その他の男を部屋から追い出そうとするし、女性用の部屋としている場所には入るなと言うし、ならどうすればいいのだと揉め続けているらしい。
ベルンハルトがルイーゼに使用人に大人しくするように言ってくれと頼んでも、ルイーゼは使用人を咎めない。全て自分の為に動いているのだから、注意する必要がないと考えているようだ。
その状態が一週間ほど続いて、ついにブチ切れたベルンハルトが、ルイーゼとその使用人をスヴェンが以前使っていた部屋に移動させたという。
ベルンハルトの部屋には鍵をかけて入れなくして、食材と薪を一日一度決められた分だけ扉の前に置くようにしたとか。ようやくか。むしろ結構耐えたな。
全員がやっと訪れた安らぎと静かな睡眠を堪能していたが、入り口の扉には常にルイーゼの使用人が交代で文句を言いに来ているそうだ。
薪が足りない、一日に一度では鮮度が落ちる、お嬢様を閉め出すとはどういうつもりだと、叫びながら扉を叩き続けるらしい。まともに料理もできないのに、鮮度とか重要?
ベルンハルトの部屋は広いので、声が聞こえる場所から撤退して安らぎを維持した。が、今度は誰も部屋から出られなくなってしまって困っているそうだ。御者からすれば、同室に王族が混ざっているなんて息が詰まる。
ルイーゼでそれどころじゃなかったのだろうけれど、冷静になったらルイーゼに対して怒鳴り散らしていたベルンハルトが怖いはずだ。
ベルンハルトもずっと室内にいるのは飽きてしまうし、部屋をうろつけば使用人の声が聞こえる状態にうんざりする。ディートリヒはハルトくんの様子を見に来たいのに、部屋から出ることが出来ない。
ベルンハルトたちはルイーゼたちが部屋から出られなくなるように、魔法で封印することを思い付いたそうだ。魔法で封印て。
薪と食材だけは渡さなければいけないので、あれやこれやと考えて薪と食材を渡すことは可能だけれど、人が通れないようになる封印を編み出した。今度はルイーゼたちが監禁状態になった。これでやっと、普通に生活ができると思ったとフレドリクがフランツに言ったそうだ。
ハルトくんはこのままこちらで預かることになった。育ち盛りの栄養が気になるとディートリヒが言っていたが、十六?歳だったかな、のディートリヒもまだ育ち盛りじゃないの?
私たちは雪がやんだ日は、外に出て目一杯遊んだ。クリストフル監修でかまくらを作り、中で念願のおしるこを食べた。美味しかった。
お餅も焼いて食べた。このきなこっていうの最高。気に入った!他にも独自の調味料がたくさんあるらしく、興味はつきない。
クリストフルたちが料理をしてくれる日が待ち遠しいくらいだ。ハルトくんも毎日楽しそう。すっかり仲良くなった私たちは、お互いを愛称で呼ぶようになった。
本気の雪合戦もした。イザーク様最強かと思われたが、ユキちゃんが雪玉を避け続け、イザーク様の体力が尽きた。ユキちゃんは雪玉を投げられないので勝てはしないけれど、負けることもなかった。
順位としてはユキちゃん、イザーク様、クリス、フラウだった。やっぱり雪深い領地出身者は手強い。私はノーラにも負けた。むむむ…。ノーラはわざとらしくならないようにハルトくんに負けてあげていたので、私の順位はとても低い。
魔法ありの雪合戦は凄いことになった。防護魔法が破壊されたら負けという特別ルールにした。直接当たるまでやったら、雪玉で死人が出る威力だ。最初はお兄様・クリスペアと、私・イザーク様ペアで対戦した。
お兄様は防護魔法がちがちで雪玉を威力ましましで反射するし、クリスを集中攻撃すると炎で雪玉を溶かしつつ、水魔法で固くした雪玉でタイミング良く高速反撃してくるので気が抜けない。
イザーク様は言わずもがなだ。剣がなくてつらいって言ってたけれど、剣を与えたらよりややこしくなる。それこそ怪我人がでるわ。それに雪合戦に剣を持って参加するのは違う気がする。
私は風で雪玉をそらしつつ、固めた超高速雪玉で対抗したが、それが威力ましまし反射されるとえぐすぎる。お兄様とクリスの連携に、イザーク様が餌食になった。私の雪玉が反射したのを避けきれず、イザーク様の防護魔法が破壊された。私のせいか。私のせいなのか。
これは魔法の鍛錬にいいねってことで、ペアを変えて頻繁に開催されることになる。遊びながら鍛錬になるのは楽しくていいな。最終的にお兄様が最強だった。どんな魔法で強化しても、雪玉で防護魔法を破ることができなかった。
クリスは普通にイザーク様ともやり合えていた。やるな。イザーク様もクリスとの対戦を楽しんでいるようだ。
ハルトくんには内容が凶悪過ぎるので、初めからフラウに上手に連れ出して貰い、別で遊ぶようになっている。ノーラとマーサもそっちに参加している。フラウもやるな。
遊ぶだけでなく、本を読んだり勉強もした。お互いに料理を教えあってレパートリーも増えた。イザーク様は意外にも色々な地方の料理を知っていて、全員が興味津々だった。
編み物やゲームをしたり、お菓子を食べながらお話ししたり。お母様やデポラとも頻繁に通話をした。楽しいことがいっぱいあるんだもん。毎日誰かに話をしたくなっちゃう。デポラもすっかり元気になっていて良かった。お返しに惚気を聞くことになるが、それは仕方がない。
数日に一度、ディートリヒが訪ねて来るようになった。毎日ハルトくんがディートリヒと通話をしているのだが、そこで語られる食事内容に心がときめいて仕方がなかったようだ。
美味しいもの食べたい、甘いもの食べたい…とぶつぶつ言いながらやって来て、土下座する勢いで頼み込んできた。
スライディング土下座なら提供してあげてもいいけどな、などと思っていたら、見かねたフランツにも懇願されて、その度に食事を提供することになった。
ディートリヒは気持ちが悪いくらい食べた。あっちはどんな食事内容なのだ。フレドリクや御者がいるから、そんなに酷いことにはなっていないはずなのに。
話を聞けば、空間収納持ちの騎士が一人で自由に選んだ食材は、偏りが激しくお肉だらけで野菜がほとんどないらしい。他の人たちはそれでも平気なようだが、普段から野菜も沢山食べていたディートリヒにはそれが耐えられなかったようだ。
何故かディートリヒの相手をするのは私とクリスの役目になった。後の皆はさっさと仕事をしにいったり、外に遊びに行ってしまう。巻き込んでごめんよ、クリス。皆逃げ足速いな。
ルイーゼたちの完全隔離には成功したが、やっぱり全く意見を聞かなかったり交流しないのはまずいと言うことで、週に二度はベルンハルトと訪問するようにしているらしい。
その時に盛大に文句を言われて疲れているようだ。
「失礼な言い方になってしまうけれど、使用人が凄く図太いんだ。だからキツく言うしかなくて、そうすると泣き出すんだ」
わざとだろうな。つけこまれているぞ、ディートリヒ。
「泣いた女性の扱いがわからないよ…」
放っておいたらいいのに。基本がフェミニストだから放っておけないのかな。
「大変ですね~」
クリス、心を込めるのを忘れていますよ、棒読みだよ。
時々勝手にベルンハルトがついてくる日があった。ディートリヒとしては無理にお願いして料理を提供して貰い、更にハルトくんを預かってもらっている立場からも完全に隠していた。
私がつい同情して、ディートリヒの使用人や御者用に持たせたお土産のお菓子が見つかってしまったらしい。そんな日はクリスに任せて私も逃げた。クリスごめんよ。
ベルンハルトはルイーゼと使用人たちのわがまま放題をぶちまけていくらしい。ルイーゼ本人に自分がわがままを言っている認識がないのが理解できないとか、今まで大勢と一緒に食事をしていたから気が付かなかったとか。
下手に相槌を打つことも出来ず、愚痴を聞くのが大変なクリスは、時々フランツを巻き込もうとして逃げられていた。




