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令嬢と小姑(男)のあれこれ  作者: 藍澤


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侯爵令嬢は惨状を聞く

 翌朝、朝食はノーラ、マーサ、ヨアヒム、フラウで全員分用意してくれた。フラウがすっかり馴染んでいる。朝から男子寮へ出かけていたフランツが、自分の分まで用意してもらえたことにとても感激していた。

 ノーラもマーサも昨日は怒っていただけで、普段はとっても優しい。フランツなら分かっていると思っていた。まぁ、昨日が怖すぎて、その記憶が全て吹っ飛んだ可能性もある。

 そのまま楽しい朝食になるはずが、男子寮の様子を聞いた途端、暗い話になった。フランツの話は重かった。


「こちらはとても和やかですが、あの後あちらは大変だったようです」

「どうせルイーゼだろう?」

 イザーク様がうんざりした顔で言った。私もそう思うが、きっとメインは使用人だと思う。


 部屋から無理矢理連れ出したことに対するお詫びの要求から始まり、今度は荷物運びで揉める。不必要と思われる荷物まで運び込むように使用人が指示するので、護衛が使用人と揉めてディートリヒ再出動。

 泣いて喚いて押し切られて、とりあえず空間収納に手当たり次第放り込むことになる。男子寮へ到着すると、部屋が狭すぎて荷解きが出来ないと文句を言われ、必要最低限の物以外は適宜護衛に言うように言うが、男に言うなんて論外だと揉める。


 結局ベルンハルトが自分のクローゼットを空にして提供することで収まった。他の使用人にも手伝わせて荷解きを始めた時、傍観していたルイーゼがお腹が空いた、とひとこと。

 今度は昼食はまだかと大騒ぎになる。ベルンハルトが自分たちで用意するように言うと、料理人も用意していない場所にルイーゼを連れてくるなんて非常識だと言い出した。

 それをベルンハルトが既に決まったことには従うようにと言いくるめようとしたが、食事は女子寮の使用人が用意していたと反論。緊急事態で彼はここにはいないし、自分たちで何とかするようにと伝えても話が終わらない。


 期限までに退出していなかったのが悪いと言えば、そちらも私たちと同じだろうと反論され。言い合いが激しくなり、収拾がつかなくなった。

 自分の見た目にかなり自信があった護衛は、ルイーゼがイケメン好きだと知っていたので援護のつもりで参戦した。大したことない、ナルシストなどと罵られ、膝から崩れ落ちて惨敗。プライドが粉々にされたらしい。


 ディートリヒが何とかそれを宥めて、結局その護衛が料理を用意することになってしまったのだが、彼が出来る料理は野営用のみ。豪快に肉を焼いて、野菜は生のまま手で千切って出したらまずい、栄養バランスが考えられていないと大騒ぎ。

 言われ過ぎて彼はついに灰になったそうだ。それでもルイーゼたちはしっかり食べきり、今度は部屋に男の使用人や御者がいることに気付く。


 今度は何故昼間に扉を開けておかなければならない、それなら部屋から貴族以外の使用人や御者は出すべきだと喚き散らした。

 薪が足りないのでそれは無理だと辛抱強く説明して、やっと理解してくれたと思ったらルイーゼ様おいたわしやと泣き喚き出した。

「面倒くさっ!」

 我慢できずにヨアヒムが叫んだ。


 疲れた面々が防音魔法があることに気が付いて展開するも、それに気が付いた使用人が内側に入ってきてもうひと暴れ。

 夕食の時間が近付き、結局次の生贄が料理を用意することになったのだが、せいぜいスープが追加されるのみ。再びそれに騒ぎ出した…。

 うわぁ。簡単に想像できる。ん?


「王城料理はどうなったの?自分たちで用意するってどういうこと?」

「それが…殿下の備蓄は、食材のみだったそうです。内容にも偏りがあるようです」

「えっ」

 緊急時用を食材で用意してどうする。王子がのんびり料理する暇がある緊急時ってなんだ。

「馬鹿だな…」

 イザーク様が呟いた。私たちは全員、備蓄は調理済みのものだと思い込んでいた。イザーク様も私も、食材も備蓄しているが料理もたくさん備蓄している。普通そうするだろ。

 平和が長く続き過ぎているせいか、完全にボケているとしか言い様がない。


「その後、寝る場所が狭いと揉めて、今度は薪を置いている部屋に籠城を始められてしまったそうです。説得して部屋から出て貰うまでに薪が燃え尽き凍死しかけたとか。殿下をはじめ、一部の人は徹夜だったそうです…。これから朝食でも揉めるかと思うとうんざりだとフレドリクが言うので、先ほど仕方なくフレドリクと朝食を用意してきました」


「甘やかしちゃダメだよ!」

 そんな事したら、騒げば要求が通ると思ってますますエスカレートするだけだ。

「ええ。ディートリヒ様にも言われて。結局朝食は他の方々がこっそり食べることになりました」


「エルヴィーラ様、こちらに入れて頂いてありがとうございます」

 クリストフルが青ざめた表情でフラウと一緒に頭を下げた。ルイーゼたちのことなんて知らないだろうと思っていた。

 クラスでも大人しいし、絶対ルイーゼの使用人にまで顎で使われると思って保護したが、正解だったようだ。

「まぁ、こうなるだろうと予想していたので…」

「「そうなんですか!?」」

 フラウと一緒に驚いている。幼馴染だからか、表情もシンクロしていて面白い。


「二人とも普通に料理ができるから、きっと朝昼晩ルイーゼの使用人の分まで用意させられただろうな。最初は殿下が止めたとしても、揉めるのが面倒だから流されるだろうし、結局はさせられただろう。それで、まずいとかこれは嫌あれは嫌、やり直せって言われるんだぜ。エルちゃんに感謝しなきゃな」

「「ありがとうございます!!」」

 イザーク様、ダメ押ししなくても。後さっきから公爵令嬢を呼び捨てにしてますよ…。


 ルイーゼの様子も聞いたが、居心地の良い椅子に陣取って、のんびり紅茶を飲んでいたそうだ。やっぱりか。


 昨日の夜から今朝もまだ雪が降り続いているので、大人しく応接室に集まってお茶を飲みながら楽しい話をすることにした。

 クリストフルやフラウともっと仲良くなるためだ。三ヶ月一緒にいることになるなら、仲が良い方がいいよね。ちゃんと楽しい話もしたい。


 クリストフルは北の辺境伯だから、領地はこことは比較にならない程雪深いらしく、二人とも雪遊びに詳しかったので食いついた。

 雪が落ち着いたら、まずはかまくらを一緒に作る約束をした。今から楽しみ。

 料理にも詳しくて、色々な北独自の郷土料理があるようだ。郷土料理に必要な食材も空間収納に備蓄しているそうだし、これはローテーションで楽しむべきだな。楽しみが増えた。


 昼食は早速クリストフルとフラウが郷土料理を作ってくれることになった。フランツも手伝いにいった。

「クリストフルさんたち、いい人で良かったね」

「そうだね。これなら三ヶ月楽しく過ごせそうだね」

 お兄様にも気に入られたようで良かった。正直一番心配していた。


 昼食はお鍋だった。具沢山のスープは、スープではなくお鍋と言うそうだ。陶器製の鍋も珍しいが、料理名も鍋なの?

 正式にはちゃんと料理名があるが、今日の昼食は鍋にしよう。みたいに言うんだって。調理器具なのに、不思議。


 食べてみると凄く美味しいし、体が温まる。作り方は簡単らしいのに、すごいなぁ。味が異なる二つのお鍋を皆でつつく。

 デザートも用意されていて、見たことのないものだったが、優しい甘さのお菓子だった。素敵。

「寒天とあんこで作ってるス」

「あんこ!?」

「もももしかして、おしるこも作れたり…?」

「あ、ご存知何スか?作れまス。小豆もお餅もストックありまスよ」

 やったー!!


 語尾が微妙なのは領地の訛りらしい。気を張っていれば大丈夫なのだが、油断するとダメなんだそうだ。

 満場一致で気にせずいつでも訛ってくれと言っておいた。けれど、フラウはほとんど訛っていない。どうしてだろう。

「クリス様がお爺ちゃん子で。領地でもここまで訛っているのは、今はお年寄りくらいですよ」

 そうなんだ…。


 昼食後は特にやることもないので、男性陣はボードゲームを、私は編み物をすることにした。ノーラ、マーサと一緒にデザインを考えるのに夢中になる。

 コタローだけでなく、全員分作ろう。時間はたっぷりあるし、部屋も暖かい。流れる時間も非常にゆったりしている。たまにはこんなゆったりした日もいい。


 面白いからイザーク様にはサプライズで毛糸のパンツもプレゼントしてみようかな。凄い奇抜な柄にしたい。

 ノーラに反対されて、せめて腹巻きにしようと言われた。マーサはレッグウォーマーがいいと言い出して三人で白熱してしまい、イザーク様にばれた。

 普通のマフラーが良いと言われてしまった。やっぱりそうだよね。腹巻きとか毛糸のパンツをはいているイザーク様は想像ができない。

 本人と話し合って、最終的にはネックウォーマーになった。代謝が良いからか、基本足も寒くないそうだ。マーサが羨ましがっていた。


 夕ご飯もデザート付きで、皆で楽しく食べた。フランツには何度もフレドリクから通話がかかってきていたが、もう誰もその内容を聞くことはしなかった。


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