侯爵令嬢はもふもふを堪能する
本格的に暗くなった頃、お兄様とヨアヒムが部屋へやって来た。別々の敷地で過ごすのは大変なので、こちらで一緒に過ごすことにしていた。
これで専門学院側は完全に閉鎖され、フレドリクが時々様子を見に行くだけでよくなる。皆楽ちん、素敵。
お兄様もヨアヒムもユキちゃんを見て驚いていたが、ユキちゃんはお兄様のことも覚えていて、子どもたちもすぐに懐いた。
家族で過ごす冬休み開始だ。早速、ユキちゃんたちと再会した経緯を説明した。
「無事で本当に良かった」
お兄様が優しくぎゅっとハグしてくれた。
「ユキちゃんのお陰だよ」
「ユキちゃん、ありがとう」
「当然、しただけ」
いい子!二人でお礼にモフりまくった。こちらのご褒美にもなっていて、お礼になっていない気もするが、ユキちゃんが気持ち良さそうな顔をしているので、いいとしよう。
これからしっかりユキちゃんの気持ちいい所を把握して、モフりマスターになろうと決心した。
「でも、その話で考えると殿下たちも残ることになってしまったんだね」
お兄様が嫌な顔をしている。私も嫌だ。
「そうなんだよね。男子寮と女子寮は離れているから、気を付けていれば会うこともないとは思うけれど…」
正直、休みの時までこそこそしたくなかった。
雪崩を魔法でどうにか出来ないかお兄様に相談したが、そもそも自然に対して魔法を使うことは専門家のみに限定されている。
知識のない人が、自然相手に魔法を使うのは危険過ぎるからだ。過去に知識もないのに自然相手に魔法を使って、より災害を大きくしてしまった事例もある。
雪崩の規模を考えれば、専門家に任せた方が良いとお兄様に言われた。やっぱりか…。
「殿下が薪も備蓄していたらいいのだけれど」
お兄様が今度は渋い顔になって言った。
「どういうこと?」
「フランツたちは、寮に残る人数を計算に入れて備蓄しているでしょ?殿下たちだけで二十人以上いるはずだ」
「えっ、そんなにいるの?」
多過ぎない?当初の予定の三倍以上になる。
「俺たちと違って使用人の数が多いし、殿下には護衛もいるからね。今年は特に降雪量が多くて、他の道もとっくに閉鎖されて町の人も避難している。学院は雪くらいでは何ともないけれど、ガロン侯爵領への道も雪崩で埋まったとなると、補充ができない」
「あっ、そうか…」
ユキちゃんに会ったから、そこまで考えていなかった。あの雪崩で、私たちは学院から出られなくなってしまっていたのか。お母様もこちらに来れなくなるし、残念過ぎる。
「あの人たちが決められたルール通りに学院から出ていたら、何の問題もなかったんだけれど」
「殿下、余計だったんか」
「そうそう」
「薪だけじゃなくて、食料問題もおきるんじゃない?私が空間収納を使えることは知られたくないな」
「殿下には緊急事態に備えて、空間収納で最低でも十人分、半年は困らないように食料を備蓄できる人が側にいることになっているはずだ。だから食料については大丈夫だよ」
「へぇー、半年。じゃあ、寮の備蓄がなくなったら、毎日王城料理を支給されるんだ。ノーラの料理が恋しくなりそう」
寮の備蓄分にも時間経過を遅くする空間魔法がかけられているが、遅くするだけだ。食材を無駄にしない為にも、先に寮の備蓄から食べていかなければならない。
「そうだね。空間収納への出し入れで微調整しようよ。問題はやっぱり薪かな」
「さすがに薪まで空間収納に入れておこうと思ったことなかったね」
「きっと昼間は全員同じ部屋で過ごすことになったりすると思うよ」
「えぇ!嫌だな」
「…本当に嫌だ…。何とかする方法を考えないとね…」
いやだ、お兄様が凄く怖いよ。ユキちゃんも何事かと反応している。
「ちょっとフランツに詳細を確認するよ…」
フランツ、頑張れ!
いつの間にかお兄様はフランツと通話機の魔力交換を済ませていたようで、フランツもそれほど怖い思いをしなくて済んだと思う。
とにかく雰囲気と顔が怖くなっているからな。表情が見えないだけましだと思う。
「雪崩の話を聞いて、すぐに専門学院の備蓄もこちらへ持ってきたそうだよ。人数が多いからギリギリになるかもしれないけれど、何とかなるそうだ。ただ、明日からは節約の相談をしたいって言ってたよ」
結局節約しなきゃならない量しかなかったから、お兄様の機嫌が戻らなかったのか。
フランツはこれからどうするのかを、ベルンハルトたちと会議するらしい。
夜からはますます雪が降り始めた。充分に薪を燃やさないと部屋が寒くなるが、体温が高いユキちゃんや子どもたちも一緒にいるので、それほど寒さを感じない。
更にお兄様の変形版防護魔法に囲まれていると暖気が逃げず、ぽかぽかと暖かい。
ユキちゃんに全員がもたれてようやく和やかな雰囲気になった。
ノーラたちとも普段から同じ部屋に一緒にいることが多いし、ヨアヒムがいてもそれは変わらない。家族みたいなものだ。
三人にしっかり庶民感覚を叩き込んでもらった私としては、普段から無駄使いもしないようにしているし、お兄様も同じ感覚だ。
あまり節約節約気にしなくていいかも。ただ本当にベルンハルトが邪魔だな。
和やかな雰囲気になったので、私ははりきって雪遊びの本を広げて、お兄様とヨアヒムに雪遊び計画を伝えた。
「防護魔法を応用したら、このかまくらっていうのすぐに作れそうだね」
「そうじゃなくて!!人力で作りたいの!中でおしるこを食べたいの!」
「お嬢様、残念ながらおしるこの材料は届きませんよ」
「えーー。そっか。代わりに何食べよう?雰囲気出るのって何かな?」
「シチューでしょうか…」
「うーん、何かいまいち…。この本に載っている味噌汁とかは…」
「味噌もありませんね。珍しい食材ばかりですので…」
残念。しっかり計画を立て直さねば!!
「皆で雪合戦もしたいの」
「へぇ、これはやりようによっては面白くなりそうだね」
「そうでしょう?」
「魔力ありでしたらいい訓練にもなりそうだ」
えっ、私とお兄様で対戦?勝てそうにないんですけど…。防護魔法で全反射されたら、それはもう雪合戦じゃない気がするよ。
楽しい計画を話しているだけで、どんどん時間が過ぎていく。とりあえず、雪がましになったら雪だるまとかまくらを作ることにした。
雪がやんだら雪合戦だ。今からわくわくする。皆で作るし、超巨大な雪だるまに挑戦したい。雪だるま作りにはハルトくんも誘おうかなぁ。
「素晴らしいもふもふですね」
うっとりした顔でノーラがユキちゃんの毛並みを撫でている。眠ってしまったユキちゃんの呼吸に合わせてゆったり揺られるので、こちらも眠気に誘われる。
「本当にね。今日から、ノーラとマーサも私の部屋で一緒に寝ようよ。薪も節約できるし」
「……」
返事がない。マーサが既に寝ていた。結局、私の寝室で女三人、隣の居間で男二人が寝た。
ベッドは事前に私が空間収納をかけて渡しておいたポーチを使って、お兄様が持ち込んでいる。
付加出来ることが知られると大変なことになるので、服の下に持っていても大丈夫なようにポケットみたいなぺらぺらのものにしてある。限定的なもので、一日くらいでただのペラペラなポーチに戻るようになっている。
お兄様はベルトと一緒に巻いて隠してくれている。空間収納を使える人は少ないながらもそれなりにはいるが、物に付加できる人は更に少ない。絶対に気付かれてはいけないのだ。噂になったりして、父に知られてはいけない。
お兄様はあれだけ広範囲にがっちがちの防護魔法をかけられるのに、空間収納は苦手で展開できないというのがよくわからない。
本人もよくわからないって言っていた。コタローは私が潰してしまわないか不安だったので、お兄様に預けた。イケメンは寝相も美しい、はず。




