ベルンハルトのひとりごと
令嬢に興味が持てず、交流しないまま十四歳になった。婚約者候補を選ぶためのお茶会に参加することになった。子孫を繋ぐことは王族の義務だし、当然のことだと思って参加した。
事前調査が入っていて、将来の王妃に相応しい人しか招待されていないので、見た目が好みのタイプを選ぼうと考えていた。
テーブルに着飾った令嬢が集まって来たが、誰が誰なのか全くわからない。似たようなメイクに髪型をしている令嬢が多くて困惑した。今、王都で流行っているものだそうだ。
ディーのフォローがなければ、失礼なことをしてしまう所だった。何とか話はするものの、これといった決め手がなく困ってしまった。
困っている間にも令嬢たちはどんどんアピールをしてくる。少しゆっくり考えさせて欲しい。気が付くと、頼りにしていたディーがいなくなっていた。どこに行ったんだ。
辺りを探すと、会場の端のテーブルで優雅にコーヒーを飲んでいるのが見えた。許せん。俺をこんな状態の場所に置いていくな。本来してはいけないことだが、断って席を立った。
ディーは一人ではなかった。俺の好みドンピシャの令嬢と話をしていた。あれは誰だ。ディーの婚約者候補かと思ってこっそり聞いたら、俺の婚約者候補のエルヴィーラだと怒られた。
このお茶会に俺の婚約者候補以外が来ているはずがないのに、馬鹿な質問をした。
上品な美人で、庇護欲をそそるような儚げな雰囲気もある。愛想笑いもしない、ちょっと気が強そうな所もいいと思った。テーブルに来ていたのに、人が多すぎて気がつけなかったのだろうか。
両親に相談すれば直ぐに婚約者に決まってしまいそうだったので、まずは叔父さんに相談した。
叔父さんは見る目があると褒めてくれたので、自信を持ってエルヴィーラを婚約者にしようと思った。
急ごうとは思ったが、散々面倒を見てくれたディーには先に報告すべきだと思った。
その話をすると、碌に話をしたこともない人と婚約する気かと言われた。そもそもあのお茶会は性格の相性を見る為のものなのに、見た目だけで決めるのはありえないと言われた。
言われてみて、何故か焦っている自分に気が付いた。一目惚れとはこういう事なのかもしれないが、きちんと話をした方がいいに決まっている。
婚約者は交流してから決めようと素直にそう思ったのだが、それは失敗だったかもしれない。
学院に入学して朝から晩まで令嬢に追いかけ回される。寮に戻れば令息にもアピールされる毎日で、自由に過ごすことも出来ない。
肝心のエルヴィーラは近寄っても来ない。何とかならないものかと思っていたら、ディーが予約制にしたらどうかと言ってきた。良い考えだ。
昼食と夕食の間だけ、頑張ればいい。人数が絞られれば、そのうち顔と名前も一致するだろう。
僅かに期待していたのだが、エルヴィーラは予約を入れて来なかった。俺に興味がないのかと少し観察していたら、普通に毎日学院生活を楽しんでいる様子だった。
表情も豊かで、笑顔でいることが多い。可愛い面もあるのだなと思っていたら、俺の前では無表情なことに気がついた。何かした覚えはないが、お茶会で何かしてしまっていたのだろうか。
ディーに確認したら、そもそも俺のテーブルに来ていなかったことを知った。残念だった。彼女は俺に興味がない。親にでも言われて、仕方なく参加しただけなのだろう。
それを理解しても、ついエルヴィーラを観察するようになった。
ハルトがエルヴィーラと一緒にカフェに行くと聞いたので、いい機会だと思って強引についていった。
ハルトには笑顔を向けるのに、俺に顔を向ける時はいつも無表情だった。ハルトも不思議そうな顔をしていた。興味がないを通り越して、嫌われているのかもしれないと思い始めた。
スヴェンがウテシュ伯爵令嬢に熱を上げているようだ。熱烈なアピールをしているが、いつもと違って態度が酷い。あれでは相手にされないだろう。
スヴェンは賢い男だからそのうち落ち着くだろうと思っていたが、甘かった。イザベラからスヴェンがストーカーのようなことを始めていると相談された。それはさすがにまずい。
スヴェンに落ち着くように話すと、真剣に人を好きになったことがないからわからないのだと言われた。確かにそうだなとは思ったが、やり過ぎだとも思った。
スヴェンは普段の面影がすっかりなくなり、傲慢な態度が目に付くようになった。
これがスヴェンの本性だったのかと思い、対応の仕方を変えてはみたが、すっかり恋愛至上主義になってしまったのか、俺のことを見下すばかりで話は平行線だ。仕方が無いので部屋に閉じ込めることにした。
監視が一瞬目を離した隙に逃げられたようだ。令息が全速力で走って知らせに来てくれた。焦ってディーと一緒に向かうと、最大出力でスヴェンが火魔法を放とうとしていた。
エルヴィーラが以前したように威力を増して反射したら、スヴェンはおそらく死ぬだろう。かといって、反射しなければエルヴィーラが死んでしまう。エルヴィーラの選択肢は反射しかない。
身体強化魔法を使って、一気に距離を詰めた。
ディーの水魔法と俺の防護魔法でどこまで持ちこたえられるか。スヴェンを助けるためにも引き倒したが、火魔法は反射されず、エルヴィーラが自分で対処した。
得意の火魔法でさえスヴェンに劣るエルヴィーラが、間髪入れずに重力魔法まで仕掛けてきていた。エルヴィーラが無事で良かったが、この威力は何だ。
顔を上げることも、指一本動かすこともできない。魔法実力審査でも、クラスで真ん中くらいの順位だったはずだ。ありえない。
わざとじゃないのはわかっていたから、俺への魔法展開は実質なかったことにした。ただ、罰則を全く与えないのはいけないと注意された。今後わざとではなかったと理由を付けて、厳罰を逃れる口実を与えることになる。
処罰内容は公表しないとのことだったので、以前から興味があった、男子寮で噂になっているエルヴィーラのお菓子を要求した。
冬休みを前に、勉強の為に自分たちで学院周辺の道を閉鎖してから帰ってくるように言われた。
スヴェンの件で後手に回った罰だ。俺がスヴェンに見下される前に行動をしていれば、防げたかもしれない事件だった。
ディーが協力して情報を集めてくれたので、指示に集中して順次閉鎖をしていったが、今年は例年より雪が多い。危険な町などにも避難指示や避難時の護衛の手配をしていたら、期限までに寮を出ることができなかった。父にまだまだだな、と言われた。
その通りだと思う。しっかりした情報が集まっているのに、俺の指示が遅い。スヴェンの時もそうだった。正確な情報はディーのお陰で届いていたのに、動くのが遅すぎた。
無事に完了してようやく明日には帰れると思っていたら、ハルトが立ち往生しているとディーに連絡があった。
使用人は荷造りや報告中で部屋から出払っていたので、時間を惜しんでディーと二人で飛び出した。途中で戦力になると見込んで、エルヴィーラを引っ張っていった。
少しでも早く現場に着きたいと思っていたが、こんなことになるとは思わなかった。事情を知ったエルヴィーラが風魔法を使ったら、確実に俺より使いこなしていた。威力も精度も段違いだ。
しかも重力魔法を平行使用して、道を均すことなく突き進む。山の急斜面にもそのまま入っていく。重力魔法がどう調整されたらこうなるのか理解できなかったが、地面に対して垂直以上になっても何の苦もなく進んでいく。
ただ、前しか見ていないのか、俺には小枝が当たりまくった。速さがあるだけに、避けるのも必死だ。ただただ痛い。
魔法実力審査は得意魔法でする。火魔法をうっかり失敗したのだろうか。その場でもう一度やり直すこともできるのに?
本当に得意なのは火魔法ではないのではないだろうか。だったら何故偽る?何の為に?そもそも俺より魔法の実力が上の可能性が出てきた。
一度であれだけの数の魔獣の名付けをしても枯渇しない魔力量、エルヴィーラへの興味は尽きない。
雪崩が起こり、寮に戻るしか選択肢がなくなった。道が復旧するまでは時間がかかる。ハルトがいるから会う機会も多くなるだろう。じっくりエルヴィーラを観察しようと思う。
その中で、どうして嫌われてしまっているのかを知りたいと思った。




