40.暗殺者、空の敵と戦う
魔神の1柱、猪神を撃破したその日の夜。
上空の結界すれすれの部分に、魔神の反応があった。
【影領域結界】へと飛ばされてないことから、どうやらそこそこの強さを持った魔神らしい。
俺は反応のあった真下へと、影転移でやってくる。
「……どこだ?」
今夜は曇り空。
夜の闇にくわえて、雲海が視界を悪くしている。
ひゅぅ~~~~……………………。
「なんだ……?」
上空から朱色の何かが降り注ぐ。
無数のそれは……よく見ると隕石だった。
ズドドドドドドドドドッ…………!!!
激しい音を立てて、周囲の森に隕石が落下する。
……いや、隕石かと思われたそれは、高温度の溶岩だった。
森の木々が超高温で焼かれている。
「おまえ様よ」
しゅたっ、と竜神王ベルナージュが、俺のとなりにやってくる。
「……ベルナージュ。今のは?」
「上空にいる太陽神【鳳凰】からの攻撃だな」
太陽神……たいそうな名前だ。
鳳凰という名に聞き覚えがある。
極東の伝説では、長い年月を生きる伝説の炎の鳥だとか。
「……鳥。そうか。だから上空から攻撃を仕掛けてきてるんだな」
鳳凰がまた溶岩を、上空から降らす。
どうやら攻撃パターンはワンパターンみたいだ。
制空権を取り、上空からひたすら範囲攻撃。
しかもその1撃1撃が必殺の溶岩の雨……か。
「……なるほど。今までのバカとは違って、少しは頭のあるヤツがきてるみたいだな」
攻撃は単純だが、強力だ。
なにせこっちは地上の住民。
どうやったって、ここから鳳凰のいる遥か上空まで、直接攻撃を届かせることができない。
自分の強みと、こちら側の弱点をよく理解している魔神だ。
ちら……っと俺はベルナージュを見やる。
この竜神王なら、【闘気】で空を飛べるかもしれない。
だが俺にはそこまでの技術はまだ無い。
また竜神王に頼めば、上空の敵を屠ってくれるかも知れないが……まあないな。
「おまえ様よ。ワタシは基本、だーりんの魔神退治には力を貸さないぞ!」
にかっ! とベルナージュが笑いながら言う。
「鳳凰なんてワタシにとっては雑魚だ。秒で倒せる。しかしそうするとおまえ様のためにならない!」
ビシッ! とベルナージュが俺を指さし、そして天上を指さす。
「だーりんにはワタシに比肩するほど強くなってもらわないと! そのためにはあんな火の鳥ごとき、楽に倒してもらわないと困るのだっ!」
……とのこと。
結婚うんぬんはともかく、竜神王の助けは望めないらしい。
俺は自力で倒すほかなかった。
そして……まあその手段は、いちおう考えてはある。
「ヴァイパー」
「御身の前に」
影エルフのヴァイパーが、俺の影から出てくる。
「森の消火をおまえに任す。式神と水魔法を駆使して火を消してくれ」
「仰せのままに」
ヴァイパーが影に沈む。
さて、森の炎はこれで良いとして……あとは空の敵を倒すだけだ。
ズドドドドドドド…………!!!!
絶え間なく上空からの狙撃が続く。
ただ精度はあまりよくない。
数打ちゃ当たる作戦のようだ。
曇りを狙ったのはこちらから見つからないようにって意図だろう。
けどそれが足を引っ張って、向こうからも俺を視認できてない様子。
「…………」
俺は呪力を高める。
手印を組む。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十」
10ある影呪法を、同時に順番に発動させる。
「布留部、由良由良止、布留部」
呪いの言葉により、俺の内側に秘めた黒獣が目を覚ます。
「影呪法、終の型……【月下黒獣狂化】」
発動させた途端、俺の体が影で覆われる。
内に秘めた霊獣、【黒獣】。
影のバケモノへと変化させる術だ。
以前これは自爆の術式と言われていた。
使ったが最後、自我を失って暴走するわざだった。
しかし今は、【闘気】を手に入れ、この技ですらランクアップしている。
結果どうなったかというと……。
【よし。自分の意思で自在に動かせるな】
以前はヴァイパーに【影繰り】で遠隔操作してもらっていたこの技。
【闘気】によって技が進化し、なんと自分だけの力で、黒獣化した体を動かせるようになったのだ。
「だーりん……格好いい~♡ なんて格好いい姿なのだ! 惚れてしまうのだ! ぬれぬれなのだ!」
……その言葉を教えた犯人、あとで殴っとくか。
脳裏でエステルが「いえーい!」とウインクしていた。
まあそれはさておき。
「おまえ様よ。黒獣になったはいいが、その状態でも別に空を飛べるわけではないのだろう?」
【まあな】
さっき影鷲馬を出してそれに乗って攻撃をしようとしてみた。
だが空からの攻撃があまりに早すぎて、それに影鷲馬が反応できていなかった。
魔神相手では、通常の魔物の式神では勝てないようだった。
……ならばやることは一つだ。
ぐっ……! と俺は身をかがめる。
獣のような体勢で、俺はジッ……と空中を見上げる。
ひゅぅ~~~………………。
新しい溶岩の豪雨が、地上へと降り注いでくる。
俺はその瞬間を狙って、【瞬動】スキルを発動させた。
魔神の1柱、馬頭のもっていたスキルだ。
高速の移動を可能にする。
俺は地上を飛び出した後、溶岩の雨の1粒に向かって瞬間移動。
じゅぅ……! と足が焼けそうになる。
だが【全反射】スキルが瞬時に発動。
俺の体が溶岩に触れる前に、溶岩があさっての方向へと吹っ飛ぶ。
それとまったく同じタイミングで、上空に向かって【瞬動】。
あとは迅雷のごとき速度で、溶岩の雨を伝って、空へと昇っていくだけだ。
すさまじいスピードで体がバラバラになりかける。
だが【黒獣化】している間、俺の体は【影】となる。
実体を持たないため、いくら無茶な機動をしても肉体的なダメージはゼロ。
足に【闘気】を集中し、なおかつ【瞬動】スキルを使って、遥か上空へ、恐るべき速さで到着する。
ややあって、雲の上を突き抜ける。
そこには1羽の黄金に輝く、巨大な鳥がいた。
【げぇ……!? どうして!?】
【……おまえがご丁寧に空への足場を用意してくれたからな】
俺は自分の体から式神の影鷲馬を切り離す。
それを足場にして、鳳凰へ向かって【瞬動】。
疾風となって、一直線に鳳凰の羽を、黒獣の爪で切り落とす。
【ぎゃああああああああああ!!!】
俺は何匹もの影鷲馬を鳳凰の周りに出現させる。
それらを足場にして【瞬動】を繰り返す。
まるでピンボールのように、鳳凰の翼を削りまくる。
やがてすべての翼を切り落とすと、鳳凰は地上へと落下していく。
俺は最後に、鳳凰の真上から、一直線に鳳凰めがけて突進。
黒き獣が、すさまじい勢いで、地上へと落下する。
その途中で俺は【影喰い】を発動。
俺の体が通過すると同時に、鳳凰を丸呑みした。
鳳凰の【溶岩の雨】。そして……。
バサッ……!!!!!
黒獣の背中に、【鳳凰の翼】が生えたのだ。
落下速度がガクンッ、と下がる。
俺は地上から遠く離れた場所で、空中で停止していた。
【ふぅ……】
「だーーーーりーーーーーーーーーん!」
地上からすごい勢いで、ベルナージュが突っ込んできた。
俺の腹に、ベルナージュの頭部が突き刺さりかける。
俺は自分の体を影化させた。
ズォッ……! とすさまじい勢いで、俺の体を貫通するベルナージュ。
あ、アブねえ……。
影化が後少しでも遅れたら、俺、死んでたぞ……。
「すごいのだ! 空中の敵をこうも易々とほふるとはー! すごい! さすがワタシのだーりんなのだー!」
ベルナージュがいとも容易く、空に浮いている。
それどうやってるの……?
まあやり方は後で聞こう。
「鳳凰の八枚の羽がとってもキレイなのだ! ナイス漢気!」
【そりゃ……どうも】
これで空中戦もいけるな。
とは言え黒獣の体でないと、【鳳凰の翼】は使えないらしい。
まあ【闘気】によって黒獣を完全制御できている。
黒獣化は何のリスクもない技だ。
「ようし! このまま空中での組み手をしようか、だーりん!」
すっごい笑顔、ベルナージュさん。
【いや……ベルナージュ。俺ちょっと疲れてるからまた今度……】
「ええい! 問答無用なのだー! とりゃああああああああああ!」
ばごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!
……ベルナージュが、目にもとまらぬ速さで飛来し、俺の腹に一撃を食らわせてきたのだった。
魔神を食い、強くなったと思った。
けどまだまだ、この竜神王にはかなわないらしい。
……とは言え、魔神を4柱取り込み、俺はさらに強くなった。
これで残る魔神は7柱(ベルナージュ除く)。