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38.暗殺者、恋人と川で泳ぐ



 魔神・馬頭を撃破したその翌日。


 俺は村近くの川までやってきていた。


 近くと言っても歩いて30分くらいの場所。しかし俺の【影転移】を使えば一瞬で飛んでこれる。


「ひかげくーん! きもちいよー! 一緒に川に入ろうよぅ!」


 エステルが浅瀬から、俺を呼ぶ。

 ……真っ白なビキニ水着を着ていた。


 服の上からでもその大きさがハッキリとわかるバスト。


 服という束縛から解放され、普段以上に大きく、そして柔らかそうに見える。


 すらりと長いエステルのおみ足。


 そけい部を見てはいけないと思ってはいても、いつもはスカートの下に隠れて見えないそれが気になってしょうがなかった。


「ひかげくーん! どーしたのー! およごうぜー!」


「……え、遠慮しておく。俺はおまえの付き添いだからな」


 俺は後ろを向いて座っている。


 ここへ来たのは、エステルが【暑いから川に泳ぎに行きたいんだ! 連れて行ってくれたまえ!】とごねた結果である。


 季節は夏。

 今朝も朝からうだるような暑さだった。


 川に入りたい気持ちは理解できる。

 できるが……こっちは異性ってことをもうちょっと理解してくれ。


 エステルが動くたびにぷるんと動く乳房。

 ……目に毒どころじゃねえ!

 

 俺は影転移で逃げようとする。


「おっと待ちなー!」


 エステルがザバッ……! と川からあがり、俺のことを羽交い締めにする。


 ……柔らかすぎる。そして大人の女性のえっちな甘い匂いが……って何を考えてる俺よ!


「こんなか弱い乙女を置いて自分だけ帰るなんて、お姉ちゃんそんな悪い子に育てた覚えはないぞ~」


 エステルが自分の体に、俺の体をぎゅっぎゅっと押しつける。


 ぐ、ぐにぐにって動いた。

 冷たい水に浸っているからか、普段よりもエステルの肌が冷たい。


 だがじっとりと濡れた彼女の肌が俺の肌に吸いつき、動くたびぬるぬるとして気持ちが良い……。


「……え、エステルおまえわざとやってないかっ?」


「ほほバレたか。ひかげくんがエッチな気分になるようお姉ちゃんのエッチな攻撃作戦ですよ。どう?」


「……どうってなんだよ」


「ムラムラしたり、ドキドキしたり、ムラムラしましたかね♡」


 そりゃね!


「……の、ノーコメントで」


 素直に言えるかっての。


「いやぁ嬉しいなぁ♡ ひかげくんがお姉ちゃんの体で欲情してくれるなんて♡ 恋人みょーりにつきるってもんだね」


 うんうん、とエステルは俺を羽交い締めにした状態で言う。


 体温で暖められ、生温かな、それでいて柔らかなプリンのような物体がうごめく。


「かぷかぷ♡」

「……ひっ! や、やめろアホ!」


 エステルのアホが俺の耳をはむはむしてきやがった!


「そのまま川へだいぶ!」


 ざっばーん!


 ……耳ハムハムされ注意がそれた。

 その一瞬を狙い、エステルが自分ごと、川の中に飛び込む。


 ……冷たい。そして、気持ちが良い。

 下に水着を着ていたから服は濡れていない。


「どうどう? ひかげくん、気持ちが良いですかにゃー?」


 エステルが顔にかかった水を手で拭って言う。


「……まあ。多少」

「素直じゃないのぅ。そんなとこも好きだけどね♡」


 エステルが実に楽しそうに笑うと、俺をむぎゅーっとハグする。


 彼女の柔肌が俺の肌と密着する。


「…………」

「……おっきくなっちゃった?」


 エステルがびっくりするくらい、妖艶な声でささやく。


「ご、ごめん」

「……いいんだよ♡ うれしいから」 


 ちゅっ♡ と俺のうなじにキスをする。

 

 ぞくぞく……っと背筋がうずく。


「や、やめてくれマジで……」


 いつまで理性が持つかわからなかった。

 周りに誰もいないし、俺とエステルは恋人同士だ。


 さっきから煩悩を抑えるのですごい必死だ。


「ひかげくんは真面目さんだのぉ」


 エステルがぱっ……と俺を離す。

 ちょっと残念……。い、いや何を考えてるんだっ。


「そんな名残惜しい顔しなくっても、お姉ちゃんいつでもひかげくんのためならうぇるかむだぜ♡」


 エステルが小悪魔の笑みを浮かべて言う。

「……もしかしてからかってる?」

「おややん? 今頃気付いたのかね? にぶちん鈍感マンだね♡」


 ……こ、このアホ姉め!

 なんか腹立ってきた。


 俺はバシャバシャと泳いで、エステルの元へ行く。


「ほぅらお姉ちゃんを捕まえてごらーん!」


 エステルは嬉しそうに笑うと、すさまじい速さで泳ぎ逃げていく。


 は、はええ!


 なんだこのアホ姉、とんでもなく早いぞ!


「ふはは! ついてこれるかねひかげくーん!」

「ぜぇ……はぁ……ま、待ちやがれ!」


 俺は一生懸命に泳ぐのだが……エステルにはまるで追いつかない。


 どうなってんだ……?

 エステルより俺の方がステータスは上だろうに……。


 俺の方が泳ぎが不慣れってことなのだろうか。


 ややあって、俺はその場に仰向けで浮く。

「……降参だ」

「ほほほ♡ お姉ちゃんの勝ち~♡」


 エステルがバシャバシャと俺に近づいてくる。


「負けたひかげくんは、罰としてお姉ちゃんのちゅーを受けてもらいます♡」


 ニコッとエステルが笑う。

 俺の顔を持ち上げると、唇を重ねてくる。

 俺の口の中で、彼女の柔らかな舌が動く。

 甘い唾液の味に、ぬるりとした彼女の柔らかい舌の感触。


 ややあって……俺たちは唇を離す。


「にへへ♡ もっと欲しいなっ」

「……そ、そうなんどもできねえよ」


 俺はぐいっとエステルの体を押す。


「どうして? 恋人同士じゃん。いっぱいちゅっちゅして、いっぱいえっちなことしようよ」


「…………」


 どうにもこのアホ姉、貞操観念がゆるい気がする……。

 いやでもミファやアリーシャも結構ぐいぐいくるし、え、これが普通なのか?


 極東だともっと慎み深い……いや、ひなたも結構ガバガバだったな。


「どうしたんひかげっち。深刻な顔して」

「いや……男女の考え方の違いについて考えてた」


 エステルは小首をかしげて言う。


「そんなに違いなんてあるかな~?」


 にまっ、と彼女が笑うと、正面から俺に飛びついてくる。


 俺は彼女を正面から受け止めて、背中から倒れる。


 ばっしゃん! と激しい音を立てて、俺は浅瀬に仰向けになる。


「男の子も女の子も、大好きな人と片時も離れずに、一緒にいたいって思ってるさ」


 エステルが少しさみしそうに笑う。

 ……俺は、気付いた。


 この姉は、さみしかったのだろう。

 俺が魔神との修行やバトルで、あんまり構ってやれなかったら。


 だからワガママを言ってでも、俺を連れて泳ぎに来たのだろう。


「……エステル。ご」めんな、と謝る前に、エステルが俺の口に、人差し指を置く。


「謝る必要性はナッシングだぜ」


 ニカッとエステルが笑う。


「ひかげくんがみんなのために戦ってくれているの、わかってるもん。だから謝らないで。これは……お姉ちゃんのワガママだからさ」


 ね? と優しくエステルが笑う。

 ああ、このアホ姉は、本当に優しい。


 けど……。


「いや……ワガママもっと言ってくれよ」


 俺は起き上がって、エステルの意外と細い体を抱きしめる。


「エステル。やせ我慢はやめてくれよ。おまえの笑顔、俺は好きだけど……我慢してるときの笑顔は、きらいだ」


 魔王の毒で体をむしばまれているときも、氷付けから解放されたときも、この人は俺に心配かけまいといつも笑っていた。


 だが……俺はエステルの、無理をして笑う顔を見たくない。


「おまえにはいつでも……心から笑っててほしいんだ」


「ひかげくん……」


「したいことがあるなら遠慮無く言ってくれ。さみしいならさみしいって言ってくれ。でないと……俺は鈍感だから、気づけないよ」


 俺が言うと、エステルは「……そうだね」とぽつりとつぶやく。


「ひかげくんは、ニブチンまんだからね。お姉ちゃんから言わないと……わからないんだもんね」


「ああ……だから、これからはあんまり遠慮しないでくれよ」


 エステルが優しい声音で言う。


「ん♪ わかった……ありがとう、ひかげくん♡」


 きゅっ、とエステルが俺を抱きしめる。

 俺もまた彼女を強く抱きしめる。


 そうすると彼女の大きな乳房がつぶれるわけで……。


「…………」

「よしっ! わかった! じゃあお姉ちゃん、きみと子作りしたいんだぜ!」


「はぁ!?」


 ちょっと何を言ってらっしゃるこのアホ姉は!?


 なにドラゴン女と同じこと言ってるの!?


「だってひかげくんもうお姉ちゃんの体でむらむらしっぱなしじゃん。お姉ちゃんもさっきからひかげくん欲しくてたまらないんだぜ! なら一緒に子供も作っちゃおうぜ!」


「意味が……わからない!」


 俺はその場から逃げようとする。

 その足をエステルが掴む。


「おおっと! したいことを言ってくれって言ったのはおぬしではありませんかー!」


「できることとできないことがある! できることを言え!」


「なら一緒にれっつとぅぎゃざーしようぜー!」


「意味わかんねえよもぉ……!」


 ……その後俺はエステルを説得し、子作りへは発展させずにすんだ。


 いやそういうのは、もうちょっと大人になってからと言うか……。


 そんなふうに、恋人と息抜きに、川で過ごしたのだった。

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