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第四話

 昼飯を食べていると、隊長から呼び出しがかかった。

 食堂にいた同期達が一斉に口笛を鳴らし始めた。


 とりあえず腹いせに、隣いたやつの頭を殴っておいた。

 絶対そんなんじゃないっての。



 案の定連れていかれたのは作戦会議室だ。

 そこには副司令と作戦立案担当官がいた。


 俺たちにとっての死神だ。

 もし俺たちが戦場で死ぬときがあったとしたら、俺たちを殺すのは魔法弾じゃない。こいつらが立てた作戦だ。


 人使いが荒っぽいとはいえ、優秀な上官たちだ。その点で俺たちは恵まれているといえる。



 「昨日はご苦労だった。貴様らの働きで迅速な占拠が叶った」



 ケチな副司令がいきなり誉めてきた。

 この流れはまずい。

 いや、兵隊上がりだから親しみは持てるんだが、それとこれとは話が違う。



 「だがまだ安心できないということを貴様らは知っているだろう。このままではまたこの拠点は敵の手に渡ることになるだろう」

 「そこでお二人にはさらなる拠点確保のために動いていただきたいのです」



 作戦立案担当官が言葉を引き継ぐ。眼鏡を直すのが厭味ったらしい。


 二人が説明する作戦をまとめるとこうだ。


 今俺たちがいる砦は、敵の三つの砦に囲まれている。

 位置としては侵攻方向からみて、正面と左右である。ここからどこへ攻めても、残った二つの砦から援護とこの砦への攻撃が行われるのは明白である。


 そこで、正面の砦に奇襲をかけて相手の注意が向いている隙に、左の砦を奪い取る、というものだ。



 「なぜこの作戦に本官らが抜擢されたのでありますか」 



 隊長が質問をする。

 確かに、俺たちは重魔装歩兵は主に防御を売りにしている。瞬発力はあるが、部隊としての機動力はなく、奇襲作戦には不向きなはずだ。


 それは性質的な問題であり、装備を変えても対応できる話ではない。



 「お二人は最も魔装の操作に秀でていると聞いています」



 いや聞いていますってお前。


 どちらにせよ拒否権はない。俺と隊長はしぶしぶと了承し、会議室を出た。

 作戦決行日は、信じられないことに本日の夕方。昨日の今日で、敵もまだ進撃を予期していない頃だろう、とのことだ。


 俺は廊下を歩きながら、恨みがましい目で隊長を見た。俺を特殊任務要員として推薦していたのは隊長だったのだ。



 「そんな顔をするな。昨日いい酒をやったろう」



 まぁ推薦はずいぶん前に出されていた話だ。こんな作戦がくるとは隊長も予想していなかっただろう。


 隊の部屋に戻って作戦の手順も頭に叩き込む。

 出撃は5時間後。あまり時間はない。



 ひとまず兵器庫に向かう。

 作戦に使う魔装が用意されているはずだ。


 今回使用するのはブリガンダイン型。

 整備員に着用を手伝ってもらいながら、その鎧の薄さに愕然とした。


 いつも使っているのはフリューテッド型で、分類としては魔装兵器のなかでも重量がある、重魔装に区分している。

 そのフリューテッド型の中でも最新式のタイプだ。盾とともに俺たちの部隊に30領配備された。


 防御力に重きを置きながらも、瞬間的な攻撃力、運動性は圧倒的なものを持っている。


 対して、目の前のブリガンダイン型は軽魔装に分類される。

 対魔法防御を重視した造りで、コートの裏に金属片が打ち付けてある造りだ。


 魔法耐性を上げるために、コートには特殊な糸が編み込まれている。

 裏面に打たれた金属片も、物理的な衝撃に対して十分な防御力を上げるのに役立っている。


 柔軟性もあり、可動域も広い。

 代わりに反応式魔法防御もないし、パワーアシストも弱い。


 軽量化が突き詰められているために、稼働時間も長いし機動力も高い。運動性は言わずもがなだ。


 そのせいで重さを乗せた攻撃ができない。ガードしても吹き飛ばされるだろう。


 軽魔装の中ではこのブリガンダイン型は長く愛用され、研究も進んでいるのだ。

 主に射撃によって攪乱したり、偵察したりする部隊は愛用しているらしい。敵の探査魔法や遠距離魔法を防御できるのだから、持って来いなのだろう。



 今回の任務はこれを着用することになる。

 こんな紙みたいな鎧で戦う奴の正気を疑う。


 もちろん俺たち重魔装歩兵は、既存の全魔装に対して訓練は積んでいるし戦闘行動も問題なくとれる。

 しかし、本当に敵と戦うとなったら話は別だ。使用感は全く違う。


 正直言って怖いししんどい。



 「また添い酒してやろうか?」



 とは隊長の言葉だ。

 素直に、お願いします、といったらなぜか慌てていた。慌てるぐらいなら言わなきゃいい。



 斧とナイフを持って、戦闘訓練所に向かう。


 移動と攻撃をバランスよく行うには多少の調整が必要だ。

 浮遊魔法の力の込め方は同じだが、力を籠めすぎれば軽いためにスピードが出すぎてしまう。



 出撃まであと数時間しかないが、その感覚を身体に覚えさせる。


 同時に斧を振って、あの蒼銀の鎧を相手に頭の中でなんとなく対策を練る。

 動きが軽いため、案外フリューテッド型よりも攻撃をつなげやすいかもしれない。



 日が傾き、出撃まで2時間といったところで訓練を切り上げる。

 しっかりと体を休めるために、シャワーを浴びて横になる。


 身体はあったまっているし、隊長のおかげで気力も十分だ。


 出撃時刻まで30分。きっちり目を覚まして、隊の部屋でコーヒーを飲む。

 隊長は書類仕事をしていたので、コーヒーを持っていく。


 仲間にまたもや冷やかされた。


 コーヒーとともに菓子をつまんだ。

 食事は作戦の後だ。


 再び兵器庫に向かう。

 いつも喧嘩ばかりの整備員達も、この時ばかりは気前よく手伝ってくれた。



 素早く魔装を着用して、トランクケースを一つ背中に括り付ける。


 このトランクケースが作戦の要だ。



 今回の奇襲陽動作戦で俺と隊長が担う役目は、峡谷を素早く抜けて目標の砦近くに転移魔法陣を設置することにある。

 その転移魔法陣から、味方の制圧部隊が転移してきて、相手の砦を攻撃する。


 もちろん攪乱が目的だし、本当に制圧できるほどの軍量は用意できない。

 ある程度の時間攻撃を加えたら、もう一度全員で転移して逃げ切るのだ。


 転移魔法陣は、物体がもつ魔力量と同等の魔力が両方にあれば使用できる。つまり、送るのも受け取るのも魔力がかかる、という事だ。

 それを保つには、やはり触媒を用いて状態を安定させなければならないし、転移中は衝撃を加えてはならない。


 当然設置完了まで敵に察知されても終わりだ。物音を立てず、密かに接近する必要がある。

 そこで敵の探査魔法に引っかからないように、魔法防御に秀でたブリガンダイン型が使われることになるのだ。


 極少人数でなければ設置に向かう時に敵に発見されてしまう。

 仮に作戦が失敗したとしても失う兵隊が少なければローリスクだ。もちろん、失敗したら自力で帰ってこれるようにこの人選なのだろう。



 そこまで考えると、やはり司令部を恨みきれない。


 俺と隊長は非番組と整備員達に見送られ、砦を出発した。


 隊長も俺もトランクケースを一つずつ背中に括り付けている。

 中身は転移魔法陣作成キットだ。


 行き帰りで攪乱部隊の通算3倍の魔力を維持しなければならない。

 魔石の数も、触媒の数も、尋常ではないかった。



 山肌を木々を目くらましにして下る。

 俺らが占拠した砦は、三方向から間違いなく監視されている。つねに誰かに見られている気がしてならなかった。


 とはいっても、峡谷にたどり着くまで、森が続いているのだ。

 俺たちは木の影を気にしながら、黙々と進んでいく。



 このブリガンダイン型の最大の特徴は、浮遊魔法の二枚がけを可能にしている点だ。魔力との親和性が高く、操作が楽なのである。


 その特性をうまく使えば、跳躍しながら次の魔法陣をため、着地の瞬間に切り替えれてすぐにまた跳躍という移動方法が使うことができる。

 もちろんその分魔力消費量もあがるが、そこは軽量化でカバーされている。




 二枚がけが正確に扱えるようになったころ、峡谷にたどり着いた。


 ここまで来れば、あとは突っ込むだけだ。


 隊長と共に踏み出した。



 峡谷のごつごつした地面を浮遊魔法で駆け抜ける。

 気をつけるポイントは、踏み込むときに不安定な岩場で足を踏み外さないことだ。


 絶壁が迫ってきていて非常に狭いし、そういう意味で、魔装の操作に熟練している兵士でなければならなかったのだろう。



 行軍中に、隊長と蒼銀の男について、話を聞かれた。空間の力場が乱れてなければ、魔法によって通話できるのだ。

 報告書は上げたが、やはり気になるのだろう。



 あいつは確かにおかしかった。

 重魔装歩兵の蹴りを受けてケロッとしているなど、ありえない話なのだ。


 隊長は敵が新たな装甲を開発した可能性がある、ということを教えてくれた。


 あの形状は衝撃を逃し、ある程度の衝撃なら、自分が形を変えることで吸収して無効化するとの話だ。


 対長距離魔導砲のために開発されたもののようだ。


 尉官クラスから閲覧できる情報らしい。

 そんな恐ろしい話なら俺らに教えろよ、とも思うが、確定しないまま下士官達に話を流したら現場が混乱するという判断なのだろう。


 俺は隊長に鉈剣に苦労したことも話した。


 まぁ隊長の持つ三節棍なら難なく対象できるだろう。

 しかし、機会があるなら自分の手で決着をつけたかった。



 その後は静かに移動する。

 距離にして10キロ程度の行軍だ。


 あっという間に到着した。

 偵察部隊によって事前に確認されたルートを使っているし、そのためのブリガンダインだ。とはいっても諜報部隊から回された、敵の哨戒状況が命綱だ。

 丸ごと信じて、初めて歩ける。



 その哨戒ルートが今日になっていきなり変更される、という可能性もあったが、何事もなくポイントに到着する。

 敵の砦の近くにあるちょっとした森の中に、偵察班が見つけておいた空き地。


 まずやるべきは場所の確保だ。

 荷物をおろし、指向性カンテラに火を入れる。森の中であれば、敵にばれる心配はないだろう。

 変に怯えて、薄暗い中でミスって魔法陣を間違える方が問題だ。


 足で落ち葉を払い、ナイフでちょっとした草や茂みを切り拓く。

 この作業は俺が担当した。隊長は二人分のトランクケースから物資を取り出している。


 魔法陣が縫われた布を広げ、そこら辺の石で留め置く。描かれた魔法陣は人ひとりが寝てもすっぽり入ってしまうほどの大きさだ。

 その大きな魔法陣の決まった位置に魔石や数種類の触媒を載せれば完成である。


 魔法陣の模様は通り道だ。魔石は魔力を貯めたり放出したりする。

 触媒が持つ意味合いは補助や、増幅、安定だ。動物の腱や、香木、鉱石が使われる。


 よく教官が用いる例えでは、魔法陣が道路で、魔石は都市、触媒が倉庫や市場で、魔力が金とのことだ。


 なら俺の金も魔法で増幅してくれよと思うのだが、そういう話ではないらしい。

 技師の連中に、なんで都市の外に市場があるんだと聞いたら、呆れた目で馬鹿には説明しても無駄、と言われた。


 納得いかないが、俺としては奴等がつくった兵器がちゃんと動いてくれれば問題ない。

 よくわからん理論をこねくり回すのもいいが、動作不良で死ぬのは俺たちなのだ。

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