第51話:崩壊! ヴェノムの最期
「全員まとめて……『一括解体(教育指導)』してやるわよーーーーーッ!!」
サクラ社長の圧倒的な殺気が空間を支配した、その瞬間であった。
(や、やばいやばいやばい……! このままじゃ僕までサクラさんにセメント漬けにされて現場の柱に埋め立てられるぅぅぅッ!!)
サクラ社長の「地獄のお仕置き」に対する恐怖が限界突破した勇者佐藤は、名誉挽回と保身のため、目を血走らせて聖剣を抜いた!
「こうなったら……全部ヴェノムのせいだぁぁぁぁぁぁッ!!」
ズババババババババババババッ!!!!!
「ギャァァァァァァッ!」
サクラ社長のお仕置きから逃れたい一心で、佐藤は神速の居合いを全方位に放った!
そのあまりの速さと凄まじい剣気により、1000年の歴史(?)を誇るヴェノムの幹部たち、そして精巧な人造アンドロイド軍団は、反撃の暇すら与えられずわずか10秒で全員みじん切り(一括解体)にされてしまったのである!
「ふ、ふぅ……ふぅ……! サクラさん! ヴェノムの脅威は僕が完全に排除しました! 僕はただマルコスさんを庇おうとしただけで、決してサクラさんを裏切ろうとしたわけでは——」
荒い息を吐きながら聖剣を納め、冷や汗びっしょりでサクラ社長にゴマをすり始める佐藤。
「……呆気ないわね」
崩壊したアジトの瓦礫と、全滅した幹部たちを見下ろし、ぽかんと口を開けるサクラ社長とマルコス。
「さ、さすが勇者佐藤……お仕置きへの恐怖が一番のチートスキルだな……」とマルコスはガクガクと膝を震わせた。
ガラガラガラ……。
切り刻まれた幹部たちが、命からがら黒いローブの埃を払いながら這い出してきた。
「うぅ……勇者強すぎる……1000年の組織が3秒で壊滅した……」
「マルコス……俺たち、もう駄目だ……」
涙目になる幹部たちを見つめていたサクラは、ふと顎に手を当て、ピンクのヘルメットを指でツンと跳ね上げた。
「……ねぇ、あんたたち」
「ヒィッ!? お代官様(サクラ社長)お許しをぉぉぉッ!」と命乞いをする幹部たち。
だが、サクラ社長の口から飛び出したのは、誰もが耳を疑う突拍子もない言葉であった!
「あんたたちのそのAIアンドロイド技術やメカモンスターの技術力……我が社(サクラ迷宮建設)のために使いなさいッ!!」
「……は?!」
サクラ社長はバインダーをポンと叩き、不敵で魅力的な笑顔を浮かべた。
「我が社の欠点は『最先端テクノロジーの不足』よ! あんたたちが作ったあの精巧な偽物アンドロイド、欠陥はあったけど施工技術とプログラミングの着眼点は素晴らしいわ! 潰してしまうには惜しすぎる!」
サクラ社長はポケットから『サクラ迷宮建設・雇用契約書』を取り出し、幹部たちの手にバシバシと押し付けた!
「というわけで! 今日から全員サクラ迷宮建設に入社ね! 組織の名称は【ヴェノム】から改め……『サクラ迷宮建設・技術開発部』として本格的に新しくスタートするわよ!」
「えぇぇ!? 秘密組織をまるごと買収・新部署化ですかーーーッ!?」と叫ぶ佐藤!
サクラ社長は幹部たちの肩をバシバシ叩きながら、ニヤリと笑う。
「もちろん……最初は全員、この異世界の『最低賃金』のパート採用(試用期間3ヶ月)からよッ!!」
「さ、最低賃金ーーーーー!」
驚愕する幹部たちに向かって、サクラ社長は指をチッチッと振った。
「当たり前じゃない! 施工実績もまだない新設部署に最初から破格の給料が出せるわけないでしょ! でも大丈夫、成果を出せばインセンティブと正社員登用、アフターメンテナンス手当も考えてあげるわ! サービス残業はゼロ! 労働環境はバッチリ保証するわよ!」
1000年間、怪しい地下で給料もなく世界征服のためにタダ働きさせられていたヴェノムの幹部たちの目が、パーッと輝いた!
「えっ……最低賃金でも、ちゃんとお金がもらえるんですか……!?」
「社会保険と有給休暇も……!?」
「世界征服なんて虚しいことやってるより、ホワイト企業で最低賃金から這い上がる方が百倍いいじゃねぇかーーーッ!!」
「サクラ社長! 俺たち、今日から心を入れ替えて真面目に働きますッ!」
まさかの最低賃金提示に全員大歓喜してサクラ迷宮建設に入社決定!!
こうして、異世界を暗雲に陥れるはずだった1000年前の黒歴史組織【ヴェノム】は、サクラ社長の圧倒的なドケチ……もとい徹底した現場経営戦略により、『サクラ迷宮建設・技術開発部(最低賃金パート採用)』として見事に生まれ変わったのだった!
「よし! アジトの撤去工事を始めるわよ! 使える資材は全部回収! 技術開発部の初仕事は『国家防衛ダンジョン超絶AIアップグレード工事』よーーーッ!」
「おーッ!! ご安全にーーー!」
元ヴェノムの幹部たちが、全員ピンクのヘルメットを被って嬉々として作業に取りかかる。
「……はぁ、なんとか丸く収まりましたね、マルコスさん」
胸を撫で下ろす勇者佐藤。
「ふぅ……私の1000年前の黒歴史が、まさか最低賃金のパート新部署設立で解決するとはな……。サクラ社長の現場力には恐れ入った……(冷や汗)」
安堵の息を漏らすマルコスの後ろから、サクラ社長がぬっと顔を出した。
「あ、そうそうマルコス営業本部長? 1000年前のバカなサークルの後始末費用と、佐藤くんの隠蔽工作の教育指導代として……二人の今月の給料は全額没収&施工現場での100時間無給奉仕ね」
「やっぱり俺たちへのペナルティが一番エグいーーーーーッ!」
王都の青空に響き渡る悲鳴と笑い声!
秘密組織すらも最低賃金で買い叩いて自社のアセットに変え、一億ゴールドの負債返済とさらなる事業拡大に向けて、サクラ迷宮建設のハチャメチャな現場魂は今日も爆走し続けるのであった!
(『いせダン』第51話・了)




