第四話::そして、人生を謳歌する
その日以来、王国から人間がやってくることは二度となかった。
『邪神の怒りに触れた勇者パーティが発狂して逃げ帰った』という噂が広まり、黒き森は完全に不可侵の聖域として恐れられるようになったらしい。
私たちにとっては、好都合だった。
「リアナ、今日のランチは特製の夏野菜カレーだ。お前の育てたナスがいい味出してるぞ」
「わぁ、美味しそう! ありがとうございます、ノア様!」
青空の下、木陰にテーブルを出して二人で食事をとる。
ピリッとスパイスの効いたカレーは絶品で、私は思わず頬を緩ませた。
「なあ、リアナ」
「はい?」
食後のハーブティーを飲みながら、ノア様が少し真剣な顔で私を見た。
「お前がここに来て、もうすぐ一年になる。人間の寿命は俺たち神とは比べ物にならないほど短いが……それでも、俺はお前のその短い生を、俺の隣で全うしてほしいと思っている」
ノア様は、エプロンのポケットから、キラキラと輝く指輪を取り出した。
それは、彼が魔法で精製した、世界に一つだけの美しい宝石だった。
「俺の、伴侶になってくれないか。お前の力が、お前の笑顔が、俺には必要なんだ」
私の目から、ぽろぽろと涙が溢れ出した。
生贄として絶望の底で死を覚悟した私が、まさかこんなにも幸せな日々を手に入れられるなんて、誰が想像できただろう。
「……はいっ。私のような者でよければ、喜んで……!」
ノア様はホッと安堵の息を吐き、私の指にそっと指輪をはめてくれた。
そして、そのまま私を強く、けれど壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
「ありがとう、リアナ。絶対に幸せにする。……さあ、午後からは新種のイチゴの苗を植えようか」
「ふふっ、はい、ノア様! いっぱい美味しいイチゴを育てましょうね!」
虐げられていた無能な少女は、家庭的な邪神様に拾われ、これ以上ないほどの幸せを掴んだ。
この優しくて温かい邪神様と一緒に、私はこれからも、甘くて美味しいスローライフを全力で謳歌していく。




