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第7話:罪悪感

前回の翌日


昨日のわたしは、自分の性癖に完全に気づいてしまい、興奮して大変だったがなんとか平静を装い、いつものように彼女を慰めることができた。本当はムギにときめいてうずうずしていたが、なんとか抑えられた。

ムギが寝たあとは、自分のこの性癖について考えていた。友達が苦しんでいるのに、それに興奮してしまうことへの罪悪感。それは最低なことだし、とても気持ちの悪いことだと思う。自分のことが嫌いになった。


今後は二度と彼女に興奮しないようにしようーーー


心の底からそう誓った。実際、またムギの感情が爆発してしまうことはあるだろう。しかし、それを見て興奮しなければいいのだ。それは自分のマインド次第でいくらでもどうにかなる。

例えば、彼女の身になって考えてみる。昼間はほとんど外に出ず、ひとりぼっち。わたしの帰りを待つだけ。そんな状況で、精神が不安定にならずにいられるだろうか?そのような背景を考えると、彼女がかわいそうだと思える。とても興奮する気にはならない。

彼女が不安定になったら慰め、助けになってあげる。それがわたしの役割だ。


昨日ムギがなぜ泣いていたかは結局分からなかった。でも多分、いつもの将来の不安的なアレが何かのきっかけで爆発したのだろう。翌日はケロッとしていて何事もなかったかのように過ごすから、蒸し返すこともできず、なんで泣いていたのかは訊けないのだ。


「それはきっと、外で知らないおじさんに怒鳴られたとかじゃないかな」


職場の同僚、山田いわくこうらしい。たしかに、その程度のことだろう。山田には職場でたまにランチに誘われるから、こうして話す機会がある。入社当時からの付き合いだ。

とはいえ、山田は男だから、そんなに込み入った話はしない。友達未満、といった関係性なのだ。もちろん、ムギの泣き顔に異常に興奮してしまっていることも話していない。


わたしは山田に言った。


「そうなんだろうね、あの子そういうきっかけで不安定になっちゃうからね」


「それは大変だね、なんというか、かわいそう」

山田が神妙な顔で言った。


「そう?就職もしないでそんなことしてるんだから自業自得って見方が大半だと思うけど」


もちろんわたしはそんなことを思ってはいない。ただ客観的に彼女を見たら、普通の人はそう思うだろう、と思って言ったまでだ。自分で言ってちょっとひどいな、とは思った。


「そうだね、自業自得だね」


山田はそう返した。

山田と話していると、なんだか分からないな、という気分になる。山田はやさしい。わたしのしょうもない話も親身に聞いてくれる。ただ彼はやさしすぎる。わたしに話を全部合わせてくるから、今のように彼の主張に一貫性がない。かわいそうって言ったのに次の瞬間には自業自得と言う。これって会話として成立しているのだろうか?


とはいえ別に、本人にそんなことは言わない。人の顔色をうかがい、相手に合わせて会話することも大人としては大切なことだ。ただ彼はそのやり方が少しだけ間違っているだけなのだ。



「ただいまー」


そう言って帰宅するとムギがおかえりー、と言った。彼女は料理をしているところであった。精神的に不安定で大変なのに、わたしの役に立ちたいとのことで家事をやってくれている。とはいえめったに不安定な素振りは見せないが。


「今日はねー、ハンバーグです」


「え!結構作るの大変じゃない?」


「その通りです。なので、二度とつくりません」


笑った。どうやらひき肉をこねるところから作ったらしい。彼女は普段、料理などしないようなので、いつも手探りでしている。シンクには洗い物が山積みになっている。

ハンバーグはひき肉をこねて、玉ねぎやらなんやらを混ぜて・・・と結構骨の折れる料理なのは言うまでもない。わたしはシンクの洗い物を片付け始めた。


「なんだかこういうのっていいよね」

ムギがコンロのフライパンを手にそう言う。


「こういうの?」


「なんか、幸せって感じ」


確かにな、と思った。死ぬ前に見る走馬灯で思い出すシーンは、案外こういうところかもしれない。

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