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第6話: 対決、生徒会長! 乙女の純情を泥に塗るゴミは、姉さんの鉄拳で前歯ごと『真実』を吐き出しなさい!

 八神学園、午後五時過ぎ。

 

 本来なら部活動や委員会で活気に満ちている時間帯だが、今日の校内はやけに慌ただしい空気に包まれていた。


 「……なんだぁ? 今日のガキ共、やけに騒がしいじゃねえか。こううるさくっちゃ、酒が不味くなるぜ」

 

 生徒会室のソファで、蛇沼厚が不機嫌そうに鼻を鳴らした。


 「あれ、若。さっきの放送、聞こえませんでした? なんか今日は、ガキ共は六時までに全員帰されるみたいっすよ」


 「あぁ? 飲み過ぎてウトウトしてた時に、なんか言ってたような気もするが……」


 「なんでも、校内で盗撮されたっていうガキが急増してるらしくて、専門業者に校内を一斉点検させるそうっす。もっとも、俺たちが詰めてるこの生徒会室だけは、調査の対象外らしいですけどね」


 「……この部屋だけ? ふーん……そいつは何か『臭う』な」


 「えっ!? ち、違いますよ! 俺じゃないっすよ!」


 「……何の話だ?」


 「だ、だから俺じゃないっすよ! その、屁をこいたのは……っ!」

 

 バキィィッ!!

「バカ野郎! 殴るぞ!そういう意味じゃねえ! 何か悪い予感がするってことだ! 俺の『勘』は、嫌な時ほど当たるんだよ!」


 「す、すんませ……(殴ってから言わないでよ……)、あ、あと若!妙な話なんすけど、ガキ共はともかくセンコー共も全員6時には帰らせるっうことで、センコー共もバタバタしてるんす。いくら専門業者に任せるたって、センコー共まで帰らせる必要あるんすかね?」


  蛇沼は手下の言葉を反芻するように、酒瓶をテーブルに叩きつけた。


 「……ますます匂いやがるぜ、こりゃあ。センコーまで全員帰すってのは、どう考えても出来すぎだ」


 「だ、だから若! 俺じゃないっすよ! 俺は『コイた』時は、ちゃんと失礼! って言いま……」


 バキィィィッ!!

 二発目の拳が、手下の顔面に深々とめり込んだ。

「本当に殴るぞ!コノヤロー! 事件の『臭い』だって言ってんだろ!!」


「す、スイマセンす!(だ、だから、殴ってから言わないでよ………!)


 鼻を押さえてうずくまる手下を無視し、蛇沼が立ち上がろうとしたその時。彼のスマートフォンが、耳障りな着信音を鳴らした。画面には――お気に入りのキャバ嬢、『アケミ』の名前。


 「あ、アケミちゃ〜ん! 久しぶりぃ! どうしたのぉ……? え、最近顔を見せてくれないから忘れちゃった? そんなわけないじゃな〜い! 俺は四六時中、アケミちゃんのことだけ考えてるよぉ!」


 蛇沼の表情が、一瞬でだらしないデレデレ顔へと崩れ落ちる。


「え、今月ノルマがピンチ!? 任せといてよぉ! 俺はアケミちゃんのピンチには必ず駆けつけるスーパーヒーローなんだから! 店はもう開いてるのかい? ウチの連中も引き連れて行くから、楽しみにしててね! 今夜だけで、アケミちゃんをナンバーワンにしてあげるからねぇ〜!」


 蛇沼はヘラヘラと笑いながら上着を引っ掴み、手下たちに顎で合図を送った。


「おい、銀子! 悪いが俺たちは今日、これで店仕舞いだ」

 

 蛇沼の唐突な宣言に、銀子は手にしていたグラスを叩きつけるように置いた。


「はぁ!? 何バカなこと言っているのよ。あんたは私のボディーガードでしょうが! 私のそばにいてくれなくてどうするのよ!」


「なんだぁ? いつも『酒を飲んでばかりのごくつぶし』って、俺たちのことをくさしていただろうが。それに悪いが、急にもっと大口の仕事キャバクラが入っちまったんだよ」

 

 蛇沼はヘラヘラと笑いながら、上着を肩に引っかけた。


 「学校の外ならともかく、校内の揉め事ならお前の兵隊(蝶野会)だけで十分だろ? それじゃ――」


「待ちなさい! 如月佳奈の件はどうなったのよ! それだけはハッキリさせていきなさい!」

 

 一瞬、部下に任せきりだった拉致計画が脳裏をよぎったが、蛇沼はすぐに鼻で笑った。


 「……まあ、あいつらに任せておけばダイジョーブだろ! 悪いな、あばよ!」


 「ふざけないで、待ち……っ!」


 「勘弁してくれよお嬢様。俺たち、ビジネスだけのドライな関係だろ? こんなシケた学校の揉め事に、俺の大事な商売を邪魔させるわけにゃいかねえんだ。……せいぜい一人で頑張れよ」

 

 銀子の絶叫を背に、蛇沼は手下を引き連れて風のように生徒会室を後にした。

 

 ――それが、彼の反社としての「野生の勘」が導き出した、唯一の生存ルートだったとは知らずに。


 蛇沼たちの勝手な行動に加え、恋敵である佳奈の拉致が成功したのかさえ判然としない。

 

 自分を「猿」呼ばわりしたあのクソチビを病院送りにするはずが、その姉とやらに邪魔をされた。銀子のストレスは、いまや沸点に達していた。

 

 生徒会室に残された蝶野会のメンバーたちは、「触らぬ神に祟りなし」とばかりに銀子と目を合わせないよう息を潜めている。

 

 そんな中、銀子の「ハーレムメンバー」を自称する男たちは、これを好機とばかりにおべっかを使って機嫌取りに躍起になっていた。


 「銀子様、そんなお顔をなさらずに。せっかくの美しいお顔が台無しですよ」


 「さようです! 我らの女神にして太陽たる銀子様のお心が曇ったままでは、我らも生きてはいけませぬ!」


 「そうだ、銀子様が望まれるなら今すぐ東京へ飛び、一流のスイーツを爆買いして参りましょうか?」


 「ぼ、僕は以前銀子様が会いたいとおっしゃっていた、あのアイドルの男を連れてきましょうか? 実は従兄弟の友達の兄が……」


 単純な銀子は、彼らの空々しい賞賛に少しずつ毒気を抜かれ、機嫌を直し始めていた。

 

 そこへダメ押しの一言を放ったのが、ハーレムメンバーの事実上の筆頭――陣内誠司じんない・せいじだった。


 「銀子様。あなたのために、例のヴィンテージワインをようやく手に入れて参りました。今日はこれで、銀子様の美しさを称える宴を開きましょう。幸い、目障りな中年共(蛇沼会)もいなくなったところですから」


 「あらぁん♥ さすがは陣内君。これ、ずっと飲みたかったのよ! よし、嫌なことは忘れてパーッと派手に騒ぎましょう!」


 銀子は一気に上機嫌になり、歓声を上げた。

「お褒めに預かり光栄です。……ついでに、余興としてあのクソチビとその姉とやらも引きずり出して、この場で病院……いえ、あの世へ送って差し上げましょうか?」


  陣内は一九〇センチを超える巨躯の持ち主だが、顔立ちは驚くほどの端整なイケメンだ。中学時代から空手の選手として、その長身と天性の運動神経で無敗を誇ってきた男である。

 

 だが、天才にありがちな傲慢不遜な性格が災いし、イジメやカツアゲ等悪さを繰り返し、とうとう街角の喧嘩で相手を半身不随にする大怪我を負わせてしまった。

 

 警察に拘束され、「少年院行きは免れない」と絶望していた彼の前に現れたのが、同級生の蝶野銀子だった。


 『私の犬になって、何でも言うことを聞くのなら、

パパに頼んで、なんとかしてあげるわよ?』


 陣内はその申し出に二つ返事で飛びつき、釈放を勝ち取った。

 

 それ以来、彼は銀子を狂信的に崇拝し、彼女のためなら「汚れ仕事」も喜んで引き受ける忠実な猟犬と化したのである。


 「……ふん、まあいいわ。飲みたかったワインも手に入ったし。久しぶりにあのオッサン共(蛇沼会)の加齢臭を嗅がなくて済むんだから、今日だけは見逃してあげる!」

 

 銀子はヴィンテージワインの味を想像しながら、不敵に口角を上げた。


 「だいたい、アイツら最初から気に食わなかったのよ。私のボディーガードなんてこの『蝶野会』だけで十分なのに。パパが無理やり付けてくるから仕方なく側に置いてやっていたけれど、最近は調子に乗りすぎていたわ」


 「その通りですよ、銀子様! あなたは俺たちが命に代えても守り抜きます」


 「あんな野蛮なオッサン連中なんて必要ありません。これからは俺たちにすべてお任せください!」


 取り巻きたちの心強い(と勘違いしている)言葉に、銀子はさらに上機嫌になった。


 「よし! 今夜はこのまま、私たちだけでパーッと騒ぎましょう! 幸い、今夜は校内に私たちしかいないんだから、どれだけ騒いでも文句は言われないわよ。飲み物も料理も、好きなだけじゃんじゃん頼みなさい。支払いはすべて、生徒会費で落としてあげるわ!」


 銀子のあまりに気前が良い(他人の金だが)宣言に、生徒会室は蝶野会メンバーの歓喜のどよめきに包まれた。


 高級ワインが注がれ、贅を尽くした料理が並ぶ。

 

 それが、彼らにとっての『最後の晩餐』になるとは――その場にいる誰一人として、夢にも思っていなかった。


 「……そこで言ってやったんですよ。『俺は蝶野会だぞ。逆らうってことは蝶野会長に喧嘩を売るってことか?』ってね。そしたらソイツ、急にガタガタ震え出しやがりまして……」


 「おーっほっほ! それは傑作ね。私もその無様な姿を見たかったわ……」


 十八時三十分。静まり返った学園の部活動棟の陰から、僕は改造を施した高性能指向性マイクを構えていた。


 スパイ映画さながらの集音能力を持つマイク越しに、胸糞の悪い会話が嫌でも耳に飛び込んでくる。おかげで、ターゲットである蝶野銀子と主要メンバーが全員揃っていることが確認できた。


 不可解なことに蛇沼会の気配は一切ないが、今の僕たちには好都合だ。


 姉さんはすでに校舎内へ潜入し、生徒会室に通じる非常口をバリケードで封鎖しているはずだ。暴走する姉さんを前にすれば、逃げ出す連中も多いだろう。一網打尽にするためには、鼠一匹逃がすわけにはいかない。

 

 ……え? そんな高性能マイクをどこで手に入れたかって?


 嫌なことを思い出させるなぁ。あれは数ヶ月前、八神学園への合格が決まって自分へのご褒美に古本屋巡りをしていた時のことだ。

 

 混雑した電車内で、僕はお尻に奇妙な感触を覚えた。最初は気のせいだと思いたかったが、その感触は執拗に、かつ確信犯的に強まっていく。


 ……間違いない。これは、いわゆる『痴漢』というやつだ。

 

 確かに僕は幼い頃から女顔で、女の子に間違われるのは日常茶飯事だった。小学生の頃なんて、姉さんにお下がりを無理やり着せられて外を歩けば「なんて綺麗な子!」「キッズモデルかしら?」と絶賛され、女子トイレに連れ込まれても周囲の女性が誰も騒がないという、屈辱的なまでの違和感のなさを誇っていたけれど……。

 

 だが、今の僕は中学生だ。将来の検事を目指す者として、性別誤認だろうが何だろうが、この破廉恥はれんちな犯罪を見逃すわけにはいかない!


 僕は駅に到着してドアが開く瞬間まで怒りを凝縮させ、開いた刹那――「えいっ!」と、僕の臀部を触っていた腕を捻りあげ、電車の外へと投げ飛ばしてやった。


 五年以上格闘技ジムで鍛え、関節技と投げを叩き込まれてきたんだ。大人一人を制圧するなんて朝飯前さ。


「よりによって男の僕に痴漢するなんて、いい度胸だね。警察に突き出してやるから覚悟しろ!」


 啖呵たんかを切った僕の前で、犯人の男(二十代前半の学生風)はいきなり「わーん!」と泣き出した。あまりの情けなさに、僕の方が呆気に取られてしまったよ。


 人目を避け、無理やり男子トイレに連れ込んで事情を聴いたところ、男は近隣では有名な工科大学の学生だった。

 

 院に進めるかどうかの瀬戸際で、連日のレポートと実験に追われ、すっかりノイローゼ気味だったらしい。久々の遠出で、かつて推していたアイドルに激似の美少女(僕だ!)を車内で見かけ、魔が差してしまったとのこと。

 

 ……実にはた迷惑な話だが、被害を受けたのは僕だけだし、嘘をついている様子もない。

 

 今回だけは見逃してやろうか――そう思った瞬間、僕の脳内で検事志望の計算機が火花を散らした。


 「お兄さん。理系でも『地獄の沙汰も金次第』とか、『魚心うおごころあれば水心みずごころ』なんて言葉、知っていますよね?」

 

 僕が浮かべた「悪魔の笑顔」に、学生さんは完全にドン引きしていた。


 そういうわけで、その理系の学生さんに「こういう物作れませんか?」と色々無理いって作ってもらった物の一つが、この高性能集音マイク型盗聴器さ!

 

 姉さんには、「ちょっとしたツテでこういう物作れる知り合いがいるんだ!」と、何とか誤魔化している。でなきゃ、「ゆ、許せない!純君のお尻は私だけの物なのに〜〜〜(怒)」と、間違いなく学生さん殺されちゃうもん。


 そうこうしている内に、見回りを終えた姉さんが戻ってきた。

 

 バッチリ、とVサインを決めている。十八時。作戦開始の合図だ。

 

 「……よし。行こう、姉さん。カチコミだ」


 「銀子様、そろそろ例のワインを開けましょうか?」


 「ええ、頃合いね。最高の状態で注ぎなさい」


 「お任せを! 聞けばこのワイン、五百万だとか!五百万の一本、僕が神の雫へと変えてみせますよ……!」

 

 取り巻きの一人が震える手でナイフを当て、全神経を集中させた、その瞬間。

 ――ドォォォォンッ!!!

 爆音と共に、生徒会室の重厚な扉が粉塵となって弾け飛んだ。


 「あ、あああ……っ!! ぼ、僕のデキャンタージュがぁぁぁ!!」


 衝撃で手が滑り、ナイフが瓶口を無惨に削り取った。同時に、三時間かけて沈めたヴィンテージのおりが、爆風で一気に舞い上がる。


 「お、親父の秘蔵の一本! 殺される覚悟で盗んだのに、これじゃただの濁ったブドウジュースだぁ!!」

 泣き叫ぶ陣内を余所に、煙の中から麗奈姉さんが悠然と現れた。


 「ごめんくださーい。生徒会長はご在宅かしら? ……あら、何だか酸っぱい匂いがするわね。ゴミの腐敗臭かしら?」


 姉さんのふざけた挨拶に、蝶野会の連中は怒るどころか、呆然と床の惨状を見つめて固まっている。


(……はぁ。また姉さんのせいで、トラブルが起きたみたいだ。何か高そうなラベルの瓶が割れているよ!本当、姉さんはトラブルを呼び寄せる天才だよ)

 

 当の本人はどこ吹く風で、銀子に向かって今日の天気でも聞くような気安さで言い放った。


 「Nice to meet you! ふーん、あんたが噂の生徒会長? 純君に色目を使った割には、大して美人でもないわね。まあいいわ。純君への無礼と、佳奈ちゃんにしたことの報い、たっぷり受けてもらうわよ。覚悟しなさい」

 

 姉さんの啖呵たんかにようやく我に返った銀子たちが、人間とは思えないほど引き攣った表情で僕たちを睨みつけてきた。


 「あ、あんたね……! そのドチビの姉というのは! よ、よくも楽しみにしていたヴィンテージワインを……っ! ただで済むと思わないことね……!」


 「あらぁん、ただじゃないなんて、何かお土産でも貰えるの? 嬉しい! 私、海外が長かったから、和菓子なんか最高だわぁ……」


 (姉さん、煽りすぎ。……うわぁ、会長の顔にアニメでしか見たことないような『怒りマーク』が浮かんでるよ。本物を初めて見た。姉さんも、空気を読まない天才だね)


 「……まあ、その話は置いといて。佳奈さんの動画が入ったSDカード、大人しく渡しなさい。それから土下座して謝って、二度と私たちに近づかないと誓うこと。学校も辞めてもらうわよ。そうすれば、今日だけは勘弁してあげる。他の連中も同じよ」


 姉さんは、冷たい眼差しで室内の全員を見渡した。


 「私は女だから、女の子でも容赦なく殴るわよ。それが嫌なら、今すぐこの部屋から出ていきなさい。チャンスは一度だけだからね」


 度重なる姉さんの無礼に、蝶野会長は怒りを通り越し、逆に冷徹な笑みを浮かべた。


 「オーホッホッホ! 何を言い出すかと思えば。この部屋から生きて帰れるとでも思っているの? 学校という場所は一種の治外法権なのよ。パパの力を使えば、生意気な高校生の一人や二人、消すことなんて……」


 「Shut up!(黙れ!)」

 

 麗奈姉さんが、氷のような声で遮った。


 「私はお願いしてるんじゃないの。さっさとSDカードを出しなさい。……じゃないと、死ぬほど痛い目を見ることになるわよ?」


 「……はぁ!? 笑わせないで。隠し場所は私しか知らないわ。動画を公開されたくなければ、あんたたちこそ地べたを舐めて許しを乞いなさい!」


 蝶野会長の高笑いが響いた、その瞬間。

 

 姉さんの口角が、凶悪なまでに吊り上がった。

「……ふふ、そう。やっぱりそこに隠していたのね」

 ――バキィィィィィンッ!!!

 

 一切の容赦もない、姉さんの右ストレート。

 蝶野会長の鼻梁びりょうと前歯を真っ向から撃ち抜く一撃が炸裂した。


 「あ、が……っ!? アガガ、アッ……!!」

 

 床に転がり、血と涙で顔を汚す蝶野会長の髪を、姉さんは無造作に掴み上げる。


 「ほら、飲み込んじゃダメよ。全部吐き出しなさい」


 姉さんが蝶野会長の口を無理やりこじ開けると、数本の折れた歯と共に、小さなプラスチック片が転がり落ちた。……血に濡れたSDカードだ。


「やっぱりあった! 考えたわね。差し歯の裏に貼り付

けておくなんて。でもあいにく、南米の麻薬王とやり合っていた時に師匠から教わったのよ。『用心深い奴ほど、重要な物は自分の身体に隠す』って」


 姉さんは嫌悪感を隠さず、ハンカチでカードを拾い上げた。


「カツラの裏に義眼の中……色々見てきたけれど、女子高生が歯の裏とはね。……さて、制裁を続けましょうか」


「ね、姉さん! 隠し場所がビンゴだったのはいいけど、そんなに強く殴ったらSDカードが壊れて中身が確認できないんじゃ……!」


 僕の心配を、姉さんは人差し指をチッ、チッ、チッ、と振って一蹴した。


「ダイジョーブよ、純君! 昼休みに見せた『発勁』の応用よ。外側の装甲(前歯)だけを粉砕して、中の精密機器には衝撃を通さないように打ったの。お姉ちゃんに抜かりはないわ!」


 姉さんはたわわな胸をドンと叩いて、自信満々に言い放つ。


「大船に乗ったつもり……そう、タイタニック号か戦艦大和に乗ったつもりでいなさい!」


「……姉さん、そのジョークは笑えないよ。タイタニックも大和も、最後は沈没したじゃないか!」


 さて、目的のSDカードは取り返したが、本当の戦いはここからだ!(最終回じゃないよ!)

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