二話 彼の選択(18)
ミライは妖しく微笑んだ。今までに見たことがない表情にドキリとする。
「それは、言えない。かつて僕らは干渉しすぎて失敗したから」
「どういうこと……?」
「だから、僕の干渉は、これで最初で最後」
ミライが私を強く抱き締めた。
「え、待って。選択権あったんじゃないの?」
「ごめん、実はこの話を出した時点で僕の帰還は確定してるんだ」
「え、何それ?! 会えなくなるのに?」
「大丈夫。『僕』は居なくなるけど、お母さん達と過ごした機械的生命体の『ミライ』はちゃんと残るよ」
「『僕』って誰? ミライを乗っ取っていたの?」
「乗っ取ってないよ。僕はお母さんが僕を目覚めさせた時から、ずっと『僕』であり、『ミライ』だった」
意味が分からなくて混乱する。
私を抱き締めたままのミライが耳元でクスリと笑った。まるで悪戯をしている時のように。
「『僕』って誰……?」
「だから、それを言うと過干渉になるから言えないの」
ふふふと笑いながら、ミライはひと際強く私を抱き締めた。そしてミライの身体が小さく震えていることに気が付く。
「ミライ、泣いてるの?」
「泣いてない」
「本当に?」
「……大好きな人達と会えなくなるのに、泣かないわけないよね?」
不服そうに涙を流したミライが私に顔を見せてきた。
両手で涙を拭ってあげる。
「本当に会えなくなるの?」
「『僕』はね」
ミライは最後だからと、私の頬っぺにチューをする。
「お母さん、大好き。ずっと見守ってるからね」
「うん。私も大好きだよ。ミライがどこに戻るか分からないけど、戻った先で幸せになれるように祈ってる」
「うーん……それは……うーん……」
ミライのリアクションが面白くて思わず笑ってしまう。
「そこは、幸せになろうよ!」
「いや、うん……まぁ……見守ってるよ」
「返事ないんかーい」
「ねぇ、お母さん」
「何?」
「今から始めるんだけど、ずっとぎゅーしてていい?」
「ふふふ、いいよ」
静かに涙が零れ落ちた。泣いているのに不思議と口はちゃんと動く。
ミライも普通に話しかけているが、常に涙が流れ出ていた。私の肩に涙の染みが広がっていくし、ミライの背中にも広がっていく。
「もう一度言うけど、お母さんもお父さんも朋里も優希も由香里さんも、みーんな大好き」
「うん、知ってる」
「今まですっごく幸せだった。ありがとう」
「うん、いつもいいお兄ちゃんしてくれてありがとう。研究も支えてくれてありがとう。ミライには感謝しても、しきれないよ」
「僕がいて、幸せだった?」
少し心配そうな声に、しまったと思って強く抱き締め直す。
「めちゃくちゃ幸せだったよ! あと、楽しかった!」
「ふふ、それは良かった……あ、最後に一つだけ謝っておくね。ごめんなさい」
「……え?! 何を?!」
私の驚きを無視して、ミライは「始めるね」と言った。そして動かなくなる。
しばらくして、悟が部屋に飛び込んできた。
目を見開き、肩で息をしている。こんなに驚きに満ちた表情をした悟を見るのは初めてだった。
「――と、突然、嵐が……!」
「嵐? なんで急――」
私を抱き締め続けているミライが何を始めたのか理解した。
――ミライが嵐を呼んだんだ。
「茜、ミライ、コレ見て……!」
悟がパソコンに表示したのは人工衛星のリアルタイム動画だ。
「世界中で、地球全体に同時多発的に台風が発生した――奇跡だ!!」
あんなに検証してみたかった台風が、こんなにも急に現れるなんて思ってもみなかった。
「……ミライはどうしたの?」
一呼吸おいてから、悟はミライの異常に気が付く。
「ミライは……」
何と説明すればいいのか、分からなかった。
説明に困窮する私に、悟は何かを察する。
「――もしかして、ミライが何かしてるの……?」
「――たぶん……」
悟がミライに触れようとして、躊躇う。
「一体ミライは何をしてるの?」
「分からない。でも、会えなくなるけど僕が護るからって……」
ミライとの会話を悟に伝える。
経緯を理解した悟は考えた末、1つの可能性を導き出した。
「――ミライには地球の意思が入っていた……?」




