二話 彼の選択(17)
ピリリリリリリ
ピリリリリリリ
ピリリリリリリ
クロウリーさんからの着信だった。用件は察せられたが、慌てて取る。
「もしもし」
『アイゼンベルク様の屋敷にクラゲが集中しています。理由が分かりますか?』
余裕がないクロウリーさんの声に緊迫感が増す。
「起きていませんか? 寝てもらうべきです」
『それは分かっていますが、まずは原因を調べないと危険です』
「――」
言うべきか迷った。
これはあまり出したくないカードだったからだ。
それと同時に、アイゼンベルクさんをこのまま生かすべきなのかも迷った――正直、彼が生きたままこの世にいるのは恐ろしいと感じていた。
悟と目が合う。悟が私からスマートフォンを取り上げた。
「悟です。このまま寝かせて大丈夫です。むしろ、集まっているのはアイゼンベルクさんが原因かと思います。感情の揺れが他の人より多く出る体質のようで、クラゲには格好の的になっています」
『〜〜〜〜、〜〜』
「はい、すぐにでも寝てもら――」
突如、視界から光が消えた――いや、正確にはノートパソコンとスマートフォンの光は煌々と、眩しいほどに光を発している。
「風力発電がやられたね……。たまたま当たって、武器と判定されたんだ」
ミライが苦々しく言った。
「運が悪すぎでしょ、勘弁して……」
すぐさま補助電源に切り替わり、部屋の照明が点灯する。
「これから、風力発電が復帰するまでは最低限のみの生活になるね」
「サイアク」とミライがとても嫌そうに毒付いた。
私もその気持ちはとても分かる。疑似窓も、冷蔵庫もテレビも使えなくなるのは、少々辛い。
基本的にオール電化なこの島は、ちょっとお湯を沸かす等の行為も、シャワーに入る行為もできなくなるだろう。辛い。
「――は?!」
電話を続けていた悟がパソコンを手に取り、カチカチとカメラを切り替える。
「絶望的じゃないですか……」
悟の言葉に一瞬で血の気が引いていくのが分かった。震える声で問いかける。
「どうしたの?」
「強風で死ぬクラゲが予想以上に多くて、島が死骸のスラリーで覆い尽くされ始めてる……」
「え――?」
パソコンの向きを変えて画面を確認する。
町の地面が見えないほど、白濁スラリーが広がっている光景は気味が悪く……
「通風口が……」
白濁スラリーの重みで破壊された残骸が、あちこちの通風口を塞いでいた。
「このままだと、窒息死する……」
ミライの呟きに頭が真っ白になった。
「え、でも、ジェット噴射設備でどけられるんじゃ……」
「補助電源だと、出力が足りない可能性が高いよ」
ミライの指摘に、爪先から体温がなくなっていくのを感じた。
――どうしよう……。
頭が真っ白になる。
――助かるためにわざわざ来たのに、結局だめなの? 日本の研究所にいた方がよかったんじゃん……。
「ごめん、ミライ。緊急会議に行ってくる。茜のフォローよろしく!」
「分かった!」
「え、私も行くよ……」
「君は今、パニックで使い物にならない。ミライがOK出したら合流して!」
そう言うや否や、悟はノートパソコンやタブレットを抱えて走って出ていった。
薄暗い部屋でミライと2人きりになる――正確には、隣の寝室で子供たちが寝ているけど。
ミライが私に身体を向けて座り直し、私の両手を握った。
「お母さん、大丈夫。深呼吸して」
言われるがまま深呼吸する。
「ちょっと落ち着いた?」
「うーん、ちょっと?」
「大丈夫、僕たちは死なないよ。僕が護るから」
「ふふ、ありがとう」
言葉が嬉しくて微笑むと、ミライは優しく私の手を撫でた。
「でも、ここからどうしよう……」
「お母さん、ちょっと休んで。自覚ないだろうけど、透視したせいで顔色が悪いよ」
水を渡されたので一口飲む。喉が乾いていたことに気がついて、コップの分をすべて飲み干す。
まだ身体は熱を失ったままで、ミライが温めるように手を撫でる。温かくて心地よい。
「お母さん、大好き」
「なに、急に――私も大好きだよ、ミライ」
お互いに微笑んでいると、ふと、ミライが真剣な表情をした。
「――もし、僕に地球を助ける方法があったら、使って欲しい……?」
「使って欲しいけど、制約あるんじゃないの?」
「あるね」
「どんな?」
「うーん、元の場所に戻らないといけなくなる……かな」
「会えなくなるの?」
「僕と僕の身体は残るよ」
「戻ってなくない?」
とんちのような言葉に思わず苦笑いする。
――けど、ミライの情報構造体の特殊さを思い出して、苦笑いも引っ込んだ。
「――ミライ、あなたは何者?」




