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スペクルム ” 印を持つ者と7人の魔導師達”

   

   51面


 雲一つない星空の月明かりが七人を照らしオレンジ色の淡い光はゆっくりと中心に集まりはじめた、色は少しずつ濃くなりやがて白へと変わっていった。

 まるで月の導かれるように月へと延びていく、その刹那闇に包まれた、瞬きよりも早く闇は無くなり月から雫が落ち地面へと飲み込まれた。

 息を呑んだ七人の前に現れたものは1メートルほどの水溜りだった、七人はゆっくりと進みそれを覗き込んだ、心地よい風はぴたりと止み水面はまるで凪いだ海のように……まるで鏡のように彼らの顔を映し出している。

 海のように深い、ブクッ ブクブクッ泡が底から湧き上がり静寂を破る、泡の数はだんだんと増え最後に大きな泡が水面いっぱいに広がった。

 水は地面に吸い込まれ全てが飲み込まれる、そこには月明かりに照らされたスペクルムが一枚あった。

 イクシスはそれをそっと手にした。


「出来た……ね」

「ああ……」


 そこには彼らをそっと見守るように人がいた。


 コーライズに帰ってきた七人はスペクルムを持って移時日記庫へ、中心に置かれたテーブルにそれを置き眺めた。


「見るのが怖い……」

「うん、でも何もしないなんて出来ない」


 意を決し七人はスペクルムを覗く。

 映し出された物は、一本の木とそれを覆う白い何かだった。

 木には葉が一枚も付いておらず、白いものが雪であることが見てとれた、風の音が絶え間なく耳の流れ込んで部屋中を覆う、風の音以外は全てかき消された。


「これは? 何処だろうか」

「雪 北部地域か」

「だとするとフィヨルド!」

「あれ?場所変わった?」


 さっきまで見えていた景色は一変していた。

 空気がゆらゆらと揺らいでいるように見えた、雪は無く見える地面は赤茶けた土で覆われ草木は全く生えていない、そこはまるで砂漠のように見えた。


「これはまた、さっきとはまるで正反対だ」

「じゃあここは南部地域ってことか」


 沈黙が続く中ある疑問が出たきた、誰とはなしにその疑問を口にする。


「未来?それとも過去?」

「イクシス どっちだと思う?」

 

 俺にそれを聞くのか? 心の中で呟く。

 腕組みをし目を閉じて俯き、深いため息が漏れる。六人は眉間の皺を軽くつまんだ。


「未来は見えるが行けない、過去はいくことも出来る……筈」

「移時日記はページを開けばその日に行けるって聞いていたけど、色々調べるために開いても移動できなかったよ、また特別な魔法が必要って事だよね」

「もう一度魔法書を見直しか......」



 ゴッーーー凄まじい風とガタガタと揺れる窓の音でなかなか眠れずにいた。

 シューリアスは窓の外を見ている。



   52面


 ここで三百年前のシューリアスと神々の島について少しお話ししましょう。


「今日で三日か……明日には止むだろうか?雪は」


 この世界に来て六年になるか?一人の世界は当たり前でここでは自分の音と季節の音だけが支配している。スペクルムから聞こえてきた音と見えた物は何だったのか。


「この雪では何も出来ないな」


 先ず厩に行くか。

 この寒さももう随分長い、吹雪が何日か続いたかと思うと晴天が続くこれの切り返しだ、不思議な事に晴天で雪が一気になくなる。


「ネクサス明日には雪も止むだろうから雪が溶けたら外に出してやるからな」


 ネクサスはシューリアスの愛馬だ。

 心なしか笑っているように見える、首を振り鼻を鳴らして嬉しそうだ、あまりに雪が深いので厩まで行く事ができなかった、この先この天気が続くかもしれない、この世界で唯一の命の繋がりであるネクサスは自分にとってかけがえのない存在だ。

 城の北側の一角に倉庫があったので隣の使用人の部屋の壁を壊し倉庫とつづき間にし馬が寒くないようにしてやった、その時も嬉しそうにしていた。


 次の日、昨日の吹雪が嘘のように晴れ日差しが一気に雪を溶かす、実に不思議である。午後からネクサスを外に出してやった。

 

「ネクサス、外に行こう」

 首を振り鼻を鳴らす嬉しいサインだ、鞍を乗せ背にまたがり少し走らせてやる。益々上機嫌だ私も久しぶりの晴天で気分も幾分か晴れていた。

 そのまま桜の木までゆっくり歩いていく、ここの所の寒さで庭園には花が咲かず剥き出しの土が雪解けの水を含みドロっとしているまるで自分の気持ちのよに……かろうじて城壁に沿ってある常緑樹だけが色の無いこの城というキャンパスに色を落としているようだ。


「イザベラ、来たよ。今日はネクサスを連れて来たんだ」


 桜の木の根元に腰を下ろしイザベラの事を思った。幼い日の思い出が蘇る。

 公爵家に生まれ代々我が国の宰相を勤めてきた家系である、歴代には男子が多く生まれ女の子はほとんど生まれていなかった、久方ぶりに生まれた姫の誕生に公爵家も喜んでいた。


「シュー兄様、今日は私、クッキーを焼いて来ましたの一緒に食べましょう」


 彼女の屈託のない笑顔が大好きだった。

 雪のように白い肌、ふわふわと柔らかそうな髪をツインテールにして揺らしながら走る姿、小さな手を口元に当ててクスッと笑う上品さはまるで物語に出てくるお姫様のようだった。


「約束したのに……あいつとも約束したのに、幸せにするって。守れなかった」


 いつの間にか眠ってしまい目が覚めた時には涙が頬を伝っていた。


 もう何度目だろうかこの夢を見るのは。

 この世界からもし戻れたとしてイザベラは生きているんだろうか?

 ゆっくり立ち上がりネクサスを連れて城に戻った。


   53面


 こんな生活がもう六年も続いている。そんなある日ネクサスを連れてあの桜の木に向かっていた、ふと何気なく桜の木を見ていた時だった、ぼんやりと桜の木が光っている様に見えた、ネクサスの手綱を放し急いで木まで走った。


「今のは……?」 木を見上げるがそこにはいつものように何もない枝だけが延びていた。

 ゆっくり視線を落とす、まるで気持ちまで落ち込んだように。

 根本に目が入った時だった、淡い光が足元を照らした驚いて思わず一歩下がる。

 その光は柔らかい温かみのあるオレンジで少しずつこの根本を覆い上へと昇っていった、桜の木を柔らかく包み細い枝全てを満たした。


「あぁ〜なんて暖かいんだ、イザベラ君に包まれているようだ」


 今までにない出来事にシューリアスの心は期待に満ち溢れた。だがそれは刹那だった。


「きっと何かの前兆だろうが期待はしない方がいいな、またガッカリするのが落ちだ」


 だがそれはシューリアスにとって予想以上に心を揺さぶる出来事だった。これまで天気でも桜を見るとイザベラを思い出して苦しかった、だからあえてあそこには行かないようにしていたがあの、暖かい光が忘れられず天気の日は毎日桜を見にいくのが日課になった。


 ここは神々の島。


 コーライズを出る事にしたスノークは別れた妻であるリリアーヌが忘れられなかった彼女の姿をいつでも見に来れるようコーライズの北東の一番奥の壁に魔法陣を描いた、その場所を隠すように魔法で壁を作り蔦で壁も隠した。

 二、三ヶ月に一度ここに転移し姿を隠してそっとリリアーヌの様子を見に来た。

 程なくしてリリアーヌは男の子を産んだ、始まりの子ノークである。


「あぁ……抱きしめたい私の子」 リリアーヌが私の名前から息子の名前を付けてくれた事に感謝しかなかった。恨んではないのか?私を。

 嗚咽が漏れる声を殺し我が子を見つめた、別れるのではなかった許しを乞うべきだった。

 悔やんでも悔やみきれない、何度も戻ろうかと考えたが結局戻る勇気が出なかった。


 そして、大陸中を回り印を持った者達を集め神々の島へ移動した。

 教会を作り田畑や家をみんなで作り生活が始まった。

 コーライズのように島を管理するための責任者を七人選んだ。


 スノークの魔力は桁外れで強大だった、七人は一枚のスペクルムを造り出した。

 教会の祭壇にそれを置き同時に七枚の小さなスペクルムも造り一人一人がそれを首に掛けていた。


 スノークはその後助けたサラ二エール(サラ)と結婚したリリアーヌを忘れる事はできなかったが子孫を残すため自分の気持ちに嘘をつく形となった、この気持ちは誰にも悟られてはいけないのだ。


 そして日記をつける習慣のあったスノークは三種類の日記を付ける事にした。

 一つは今日この島で起こった出来事の日記、二つ目は教会に置いてあるスペクルムから見たこの世界の日記、そしてもう一つはコーライズでの出来事の日記だ。


 後に世界の日記は大陸に四つの国が出来た時にコーライズの日記と一緒にして移時日記としてコーライズの移時図書室の日記となった。


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