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朝焼色の悪魔-第3部-  作者: 黒木 燐
第4章 乱麻
37/49

4.シンプルゲーム

 西原祐一は、あの事件以来すっかり明るさを失っていた。将来はジャーナリストも夢じゃないと言われていたほどの報道研究部もあっさりと辞め、昼休みや放課後を学校図書館で過ごすようになった。彼に付き合い、リーグのメンバー(『タミヤマ同盟(リーグ)』とリーグ発足者の彩夏が多美山刑事に因んで命名)良夫・勝太そして彩夏も図書館に入り浸るようになった。

 今日も放課後に祐一を筆頭に4人ゾロゾロと図書室に入って行くと、司書教諭の中谷悟朗が声をかけた。

「来たね、西原君と金魚のフン」

 それを聞いて彩夏がムッとした顔をしたものの、4人は会釈をして「こんにちはー」と言うと、いつもの席に向かった。不思議なもので、通い始めるといつの間にか居場所が決まってしまうが、それは人間が動物であることの証明でもある。中谷は声をかけて見事かわされたものの、懲りずに言った。

「錦織サン、怒った顔も可愛いねえ」

「セクハラだわ」

 彩夏は小声で言ったがそのまま無視して男3人を追い抜き、足早に席についた。彩夏に前を横切られて、足を止めた祐一に中谷が言った。

「おっと、金魚……やない、西原君、頼まれとった本、入ったけえね。ほら、これじゃが」

 中谷は屈んで数冊の厚い本を出すと、カウンターの上に置いた。祐一は急いで貸出カウンターに戻った。

「ありがとうございます。早かったですね」

「ああ、普通ならこんな専門的で高価な本をしかも同じテーマを3冊もなんて通らない可能性もあったけど、今、こういう事態やろ? 僕が口八丁手八丁で……」

「ありがとうございます。席に持って行っていいですか?」

 祐一は、中山の言葉をさえぎるように言うと、返事を待たずに本を手にした。中谷は半ばあきれたようにして言った。

「ああ、どうぞ」

「すみません」

 祐一は3冊を抱えると、急いで皆の待つ席に向かった。その背中に中谷はまた声をかけた。

「おい、西原君、2冊は新興ウイルス関連の本やけぇわからんでもないが、もう一冊の『悪魔の生物学』ってのは生物兵器の本やろ」

「ええ。そうです。それがなにか?」

 祐一は体を半分だけ中谷の方に振り向けて聞き返した。

「いや、実際にそういう噂を聞くんでね。だけど、西原君。変な噂に惑わされてはいけんよ」

「大丈夫です。僕はそんなものに惑わされません。微生物を知るために読んでみたかっただけです」

 祐一はそういうと、こんどこそ席に向かおうとしてとしたが、何かが気になったようでまた中谷の方を振り返った。

「先生、Y県の方ですか?」

「いいや、H県じゃが、何で?」

「お国言葉がダダ漏れですよ」

 祐一はそういうと、にこっと笑った。

「西原君。ようやく笑うたのう」

 つられて中谷は笑顔で言ったが、祐一が席について読書を始めると、首をかしげながらつぶやいた。

「なんで方言が出たんやろ?」

「あれ、なんか中谷先生、首かしげとぉけど、どうしたと?」

 と、良夫がそれに気がついて言った。祐一は本から目を離さずに答えた。

「方言を指摘したからだろ」

「だって、普段からダダ漏れやったやろ」

 と、勝太が言ったので彩夏が少し驚いて言った。

「方言違ったの? そういえば、なんか違和感があったけどそのせいだったのね。海峡を挟んで言葉が変化してるんだ。面白いわ」

「九州じゃ『いけない』を『いかん』っていうけど、中国地方じゃ『いけん』になるからね」

 と、彩夏の言葉を受けて、良夫が言った。

「『いけん』のほうが『いけない』に近いけど、『いかん』って言葉自体は関東の方でもオジサンが使ってる言葉よね」

「ところがさ、『いけん』って北九州の一部も使うらしいんだ。でも、日本の方言は『いかん』が主流みたいなんだ。関西は『アカン』だけど。関門海峡で言葉が違ってるなかで、境界付近ではそういう共通点もあるんだよ」

「へえ、おもしろいわねえ」

「大まかな方言の体系は、中国地方と九州に分けられるんだけどね」

「やっぱり、昔は本州と九州は交通手段が船しかなかったからかしら?」

「多分そうやろうね。徒歩で行き来できるかそうでないかは重要だね。特に昔は」

「それでも一部の言葉が混ざるってのも不思議よね」

「うん。なんでか調べてみたら面白いかもね」

 と、二人は仲良く話していたが、ふと自分等が顔を突き合わせて話しているのに気が付いて、同時に「ふん!」と言って顔をそむけた。

「仲良いよね」

「うん。そう思う」

 勝太と祐一がボソッと言いあった。

 

「教授、こっちに帰ってきてから美月ちゃんと遊んでばかりじゃあありませんか。ちゃんとお仕事してくださませ」

 紗弥が、美月のそばから離れようとしないギルフォードに対して、しびれを切らして言った。そんなギルフォードを見ながら由利子が紗弥に小声で言った。

「電話の声が怒ってたって言ってたけど、なんか大丈夫そうじゃない?」

「いえ、多分センターで何かあったんですわ。報告がまったくありませんし、第一(はしゃ)ぎ過ぎですわ」

「う~ん、そう言われてみると……。でも、日頃からちょっとムリして明るくふるまっているようなトコあったからなあ」

「まあ、気付いておられたんですの?」

「なんとなくね」

 ジュリアスから聞いた話のせいでそう思うのかもしれないと思ったが、由利子はそれを口に出さなかった。

 そんな時、教授室の電話が鳴った。

「はい。ギルフォード研究室でございます……。あら、山口先生。……まあ、そうですの? 少々お待ちくださいませ」

 紗弥は電話を保留にすると、ギルフォードに言った

「教授、山口先生からですわ。携帯電話に電話しても出ないからと……」

「だって、帰ったばかりなんだもん。美月と遊びたいんだもん」

「幼児化していないで、さっさと出てくださいませ!」

 紗弥から怒られて、ギルフォードはしぶしぶ電話に出た。

「はい。トモさん。高柳先生は?」

 電話の向こうで山口が言った。

「高柳先生は、三原先生と手が離せない患者さんを診ておられます。今、二人の方が深刻な状態におられますが、そのうちの一人が危篤状態なんです。それで、私がお電話を差し上げているのですが……」

「何かあったのですか? まさか、また……」

 ギルフォードは、嫌な予感を覚えつつ訊いた。

「はい、また新たな感染患者が搬送されたそうで、もうすぐ到着するみたいですが」

「なんてことだ。それで、感染ルートはわかりますか?」

「ええ。一週間前の、F駅で感染者が亡くなった事件です。その時に感染者からの飛沫が眼鏡に付着した男性がいたらしくて……」

「それなのに、名乗り出なかったのですか」

「ええ。でも、発症されたのは、その方の奥さんなんです」

「オ~、最悪です」

「しかも、もっと最悪なことが……」

「なんです?」

「件の旦那さんが、今海外出張中らしいんです」

「海外……」

 ギルフォードは一瞬絶句したが、続けて言った。

「どの国へ出張されているのでしょうか」

「アメリカだそうです」

 それを聞いて、ギルフォードは憂鬱そうに言った。

「アメリカ……ですか。まずいですね。なんか嫌な予感がします……」

 由利子と紗弥は、不安と興味の入り混じった風情で様子を見ていたが、ギルフォードの電話が終わると、むしろ興味津々で質問してきた。

「何? また感染者?」

「最悪ってどういうことですの?」

「今回は、特にメンドクサイことになりそうです」

 と前置きすると、ギルフォードは再び美月のそばに座りこみ彼女の頭を撫で、そのまま電話の内容を説明した。

「じゃあ、その旦那さんが感染していたら……」

「アメリカ大陸にウイルスが上陸したことになります。早急に封じ込め対策がなされるでしょう。すでにアメリカ政府に連絡済みということですから、ダンナはおそらく日本に強制送還されると思いますが……」

「アメリカだったらなんかまずい訳?」

「まずいのはアメリカでもロシアでも中国でも北の国でも一緒ですけどね……」

「何故ですの?」

「未知の殺人ウイルスですよ。興味持たない方がおかしいでしょう」

「何それ? 上陸されたら困るんじゃないの?」

「ええ。自国に拡散するのは困る、でも、ウイルスは欲しいってとこですか。僕がCDCに送った検体ですが、アメリカ陸軍から再三、分けてほしいと言う要請があっているらしいのですが、CDC側は断固として断っているそうなんです」

「それって、やっぱ、悪用されそうだから?」

「その可能性もありますが、話はもっとリアルです。2001年の炭疽菌テロの時の確執がまだ影響しているんですよ。あの時、CDCは米陸軍に出し抜かれっぱなしでしたからね。以前お話したように、炭疽菌のノウハウは米軍の方が勝っていたとはいえ、ほんと、いいとこなしだったんですよ。もともと犬猿の仲だったってこともありますが……」

「ああ、あの、米軍のマッチポンプだったって……」

「ではなくて、炭疽菌の内部流出ですってば。そういう機関としてはもっとマズイ」

「今サイキウイルス感染者の検体を持っているのはCDCと、どこ?」

「フランスのパスツール研究所、海外ではその2か所だけのはずです」

「パスツール研究所にも、そういった依頼が来ているんじゃないの」

「それどころか、センターや僕にも各国の研究施設や学者から熱いラブコールが来てますよ。新種のウイルスを発見することは名誉なことですし、……まあおそらく横流しは起きないを思いますが……」

「ふうん。まあ、ウイルスが流出しないに越したことはないけど、みんなで探した方が早く見つかるよね。科学者の世界もいろいろ大人の事情があるんだねえ」

 と、由利子がしみじみ言うと、ギルフォードが肩をすぼめて言った。

「むしろ、オトナの事情だらけですよ。ただ、君が言ったように、他国から悪用される可能性も十分考えられます。おそらく米軍もこのウイルスがテロに利用されていることは周知でしょうから、早く手に入れて正体を解明しないと心配で安眠出来ないんでしょう」

「なるほどね。確かにメンドクサイね」

「2001年9月の悪夢はトラウマになってますからね」

「ところで、教授」

 紗弥が、改めて言った。

「園山さんのことですが、どうなったのですか。お帰りになってから、まったくそのことに触れられないので、気になっているのですか……」

 園山と聞いて、ギルフォードはため息をついて言った。

「ショックを受けるだろうと思って、言いたくなかったのですが……」

 ギルフォードは少し困った顔をすると、数時間前の出来事を話し始めた。

 由利子たちは、ギルフォードからの報告を聞いてさすがにショックを隠せないようだった。

「そんな……。園山さんが敵のスパイだったなんて……」

 と、由利子が見るからに愕然として言った。紗弥は黙っていたが、いつものポーカーフェイスに陰りが見えている。

「僕だって信じられませんでしたから」

「多美山さんにあんなに献身的にしてたのも、罪滅ぼしだったの?」

「そういう気持ちもあったのでしょうけど、タミヤマさんに対しての献身は、本心からのものだったと思います。でなければ、自分が感染する程患者と接することなんて、怖くてできません」

「自業自得ですわ」

 と、紗弥が少し険のある口調で言った。

「紗弥さん?」

「それより、どういう経緯で園山看護師が送り込まれたかが重要ですわね」

「その通りです。さらに、あの病院がどの程度敵に浸食されているかも調べねばならないでしょう。内通者がソノヤマさんだけならいいのですが」

「むしろ、敵の目的はセンター内の攪乱じゃないの?」

「こちらの一枚岩を壊そうって魂胆ですか。確かにスタッフにかなりの動揺が見られました」

「っていうか、動揺しない方がおかしいよね。連中にとっては園山さんが感染して死ぬことなんかどうでもよくて、彼のスパイ発覚における動揺こそが目的だったとか」

 由利子が言うと、紗弥が深く頷いた。

「しかも、このテロの首謀者は愉快犯的な面がありますから、園山看護師の投入すら余興と考えているかもしれませんわ」

「ひどい。何の意味があってそんな」

「それは、自明のことですわ、由利子さん。彼あるいは彼女は最初にメールで明言していましたでしょ。ゲームだと」

「ゲーム? ゲームって、いったい何のゲームだよ」

 由利子の質問に今度はギルフォードが答えた。

「そのまんまですよ。ウイルスを封じ込めて殲滅し、ラスボスまでたどりついて倒す……いえ、この場合は逮捕する……ことが出来れば僕らの勝ち。対して、テロリストの方はウイルスを世界中に拡散させれば勝ちです」

「明らかにこっちの方が不利じゃん。そもそも、今どのステージにいるかすらわからないんだよ」

 由利子はうんざりした様子で言った。

「正体不明の誰かさんから勝手に振られたゲームですが、負けるわけにはいきません。大袈裟ではなく、これは下手をすれば人類の未来にも関わるゲームなんですから」

「テロならテロで、なんで素直に首都を狙わないんだよ!」

「炎上するからやめてクダサイ」

「たっくもう、何考えてるのかさっぱり判らなん! はあ、またむかついてきた。もうこの話やめよ。そういえばアレク、センターには行かなくていいの?」

「重篤な患者が二人いるところに新患が搬送されるんです。ただ、今行っても邪魔になるだけですから、要請がない限りここでおとなしくしていますよ。さて、ミツキ姫、僕は秘書閣下の仰せのとおり仕事に戻らねばなりません。姫はしばしここでお休みくださいませ」

 ギルフォードは(うやうや)しく言うと、立ち上がって自分の席についた。美月は判ったのか、自分のペット用マットの上をうろうろしてちょうど良い寝場所を見つけると、大人しく横になった。

 

 祐一たちは閲覧を終え、例の如くぞろぞろとカウンターの前を横切ろうとしていると、またもや中谷が声をかけた。

「先生は嬉しいよ。最近インターネットや電子書籍の普及で図書館の利用者ががた減りしているんだよ。特に調べものなんかは、ネットで検索したらほとんど答えが出て来るからね。それでなくても、近年本離れが進んでいたからね。君たちのように頻繁に利用してくれる子達は逸材なんだよ」

 祐一は、立ち止まり真顔で言った。

「僕はネットも利用しますけど、やっぱり画面より本を読んだ方が、自分のものにしやすいと思うんです。図書館にはネットでは読めない貴重な本もありますし、それに……」

「それに?」

「操作次第では一瞬でデータがなくなったり、停電になるとまったく利用できなくなったりするようなものは、信頼できないんです」

 中谷は一瞬ぽかんとしたが、すぐに半ばあきれたように言った。

「君、本当に中学生?」

 祐一は肩をすくめてそれに答え、「失礼します」と言って図書館を出、先に退出して待っていた友人3人と合流した。

 4人は連れ立ってバス停に向かった。彼らは周囲からなんとなく注目されていた。祐一と彩夏が並ぶとかなり目立つからだ。

 面白くなさそうな顔をしていた良夫が、意を決したようについと前に出て彩夏と祐一を挟むように横に並びながら訊ねた。

「西原君、あの本借りよったと?」

「いや、家では他にすることがあるから、休み前に借りようと思うんだ。きっとあんな本、オレ以外借りないよ」

 祐一の答えを聞いて、彩夏が興味津々な様子で言った。

「じゃ、あの生物兵器の本、明日私が借りようかな? 週末には返すから心配しないで」

「大丈夫? けっこう字が細かいし、内容もキツそうだし、女の子には面白くないかもしれないよ」

「女の子とかバカにしないで。それに私、これでも意外と読書家なんだから」

 彩夏はつんとして言うと、後ろに下がって勝太と並んだ。勝太は少し嬉しそうに笑った。対照的に祐一は、しまったという表情でつぶやいた。

「一言多かったな……」

「気にせんでいいよ、あんな女」

 と、良夫がつんけんした様子で言った。

(こいつも素直じゃないよな……)

 祐一は心の中でつぶやいた。

 その4人をやや離れた場所に止まった車からじっと見つめる人影があった。それは、彼らがバスに乗り去って行くのを確認すると、車を発進させて去って行った。 

 

  

 ニューヨーク出張中の河部巽は、ホテルで寝ているところを異様な姿の者たちに囲まれて飛び起きた。

”な,何です? あんたたちは? まだ4時ですよ!!”

”就寝中,まことに申し訳ありません”

 隊長と思われる者が、巽の方へ近づきながら言った。どうやら女性らしかった。

”何者ですか、あんたたちは!”

”米軍海兵隊CBIRF(シーバーフ)です”

「シーバーフ……?」

 CBIRFについては聞いたことがあった。確か生化学災害に対応する部隊だったような……。巽は、時差のせいでなかなか寝付けず、ようやく眠ったところで寝込みを襲われたため半ば痺れたような頭で、何とかこの事態を把握しようとした。

「寝起きドッキリ……じゃないよな」

”ミスター・タツミ・カワベ.あなたをサイキウイルス感染の疑いにより,保護いたします”

”サイキ……,なんだって?”

”ミスター・カワベ,あなたの奥様がサイキウイルス感染症を発症され,感染源はあなたとされました,よって……”

”サイキウイルス? 妻が発症? 何の冗談だ? あいつはいま妊娠中で……”

”私たちはまだ,詳しいことはお聞きしていません.あなたの身柄を保護し,日本にお送りするよう指令を受けました”

”妻は,おなかの子は,大丈夫なのか? まさか私が帰るまで……”

”残念ですが,我々にはわかりません”

”なんということだ……! 夢なら覚めてくれ……”

 巽は両手で頭を抱えるようにして、髪を鷲掴みにし、呻いた。

”出来るだけ早く日本へお帰しします.急いでご用意をなさってください.”

”ちょっと待ってくれ.今叩き起こされたばかりで急に言われても何が何だか……”

”速やかに言うとおりにしてください.御身のためにも”

 隊長らしき女は、丁寧ではあるが有無を言わせぬ口調で言った。

  

 長兄こと碧珠善心教会教主は、講演を終えて教団のF支部である碧珠会館の廊下を自室に向かって歩いていた。そこへ、月辺洋三が姿を現した。

「おや、月辺、どうしました?」

 教主に声をかけられ、月辺はさっと跪くと言った。

「長兄さま、園山の件でお話が……」

「わかりました。ちょうど部屋に帰るところでしたから、そこでお話を聞きましょう。一緒に来てください」

 教主は月辺に言うと、また歩き出した、月辺はすぐに立ち上がり、教主の後ろをついて歩いた。

「さて、月辺。話を聞きましょう」

 教主は部屋に入って机に座ると、前に跪いている月辺に言った。月辺は跪いたまま、ちらと教主の横を見て言った。

「その前に、恐れながら長兄さま。なぜそこに女医がいるのですか?」

「先生とはこの後大事なお話があります。月辺、あなたの話は彼女に聞かれると困るような内容ですか?」

「そうではありませんが、あまりにもその者を信用しすぎているのではないかと……」

「私のやりかたに不満ですか?」

 教主の口調は静かでものやわらかだったが、月辺はうろたえ気味に言った。

「出すぎたことを申し上げました。お許しください」

 それを見ながら、教主は満足そうに微笑みながら言った。

「月辺、顔を上げてください。さあ、お話とはなんですか」

「はい、畏れながら」

 月辺は顔を上げこわばった表情で言った。

「先ほど知らせがありまして、園山が死んだと……」

「おや、そうですか……。それは……かわいそうなことをいたしました……」

 教主は、少し目を潤ませながら言った。月辺はそれを見て言った。

「御慈悲は無用です。あの男はギルフォードめにほだされて神祖さまが尊いお教えを捨てた挙句に、我らの情報を漏らしたのです。幸い、病状が進みすぎていて、ほとんど伝わらなかったようですが……」

「彼の感染は予想外でしたが、発症後の彼がそうなるだろうことは予想しておりました。むしろ、よくもったといえましょう。彼のように子供のころから刷り込まれた宗教心を持った者には、なかなか完全に上書きすることは難しいですから。それより、敵の結束に毒を流し込んだ彼の功績のほうを評価してやりましょう。情報が漏れた件も、少しくらい相手にヒントを与えたくらいが、却って展開が面白くなるというものです」

「寛大なお言葉、痛み入ります」

「ところで、月辺。斉藤某の立てこもりですが、あれを画策したのはあなたですね?」

「お見通しでございますな。出過ぎた真似をいたしました」

「おかげで面白いものが見れました。しかし、くれぐれも敵に気付かれないように心配りをなさいますよう」

「伊達に参謀は名乗っておりません。電話も田舎街の公衆電話を使いましたから、斉藤某の携帯履歴から何も得ることは出来ないでしょう」

「あれはなかなか見ごたえのある事件に発展しました。ただ、今後はますます慎重に事を運びますように。我らの計画はこれからが大事なのですからね」

「承知いたしております」

「いいでしょう。これからも頼みますよ」

「では、私はこれで……」

 と、月辺は跪いたまま礼をすると立ち上がり、再び恭しく礼をして教主の部屋を出て行った。

「さて、遥音先生、お聞きの通りです。私の言ったようになったでしょう?」

 教主は、横に一言もしゃべらず立っていた涼子に言った。

「はい……」

 涼子は目を伏せたまま答えた。

「しかし、長兄さま。園山にワクチンを投与していさえすれば、命を失うこともなかったでしょう」

「それは出来ませんよ。何がどう作用してこのウイルスの情報がもれるやもしれません。死のうが生き延びようが、彼の体は徹底的に調べられましょう」

「しかし、信徒を捨て駒にするのは……」

「それは、園山も納得していたことです。彼は喜んで私の要請を受けたのですから」

「でも……」

「遥音先生、これはゲームなのですよ。プログラムこそ我らが作成しましたが、私もあなたもギルフォード先生たちと同じプレイヤーであり登場人物でもあります。ただの(シンプル)ゲームですが、人類の存亡をかけたリアルなゲームと言えましょう」

「でも、人の命がかかったゲームです」

「命のかかったゲームなど沢山ありましょう。私に言わせれば、戦争も大勢の命がかかったゲームです。しかも、かかる命は私の計画など足元にも及びませんよ」

 教主はそう言うと、嬉しそうに声を上げて笑ったが、すぐに真顔になって言った。

「これ以上は不毛です。さて、遥音先生、もう一つのプログラムの方はどうなりましたか?」

 もう一つのプログラムと聞いて、涼子は少し表情を曇らせた。

タミヤマリーグの4人組は私のお気に入りです。

彩夏ちゃんは祐一君とくっつけるつもりだったのに、何故か佐々木がお気に入りのようす。佐々木もまんざらではなさそうだけど、二人ともツンデレなのでどうなることやら。

キャラが勝手に動くってこういうことなんですねえ。

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