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朝焼色の悪魔-第3部-  作者: 黒木 燐
第2章 焔心
24/49

【幕間】由利子のブログより

20XX年6月21日(金)

ブログ『ユリ根の入った茶碗蒸し』 

再び近況報告 〔更新;20XX年6月21日02:10〕

 こんばんは。ご無沙汰してます。ゆりね子です。

 しばらく更新が滞ってしまい、皆様に尋常ならざるご心配をおかけしました。沢山の心配コメントをどうもありがとうございます。一人ひとりにお返事をしたいところですが、数が多くてちょっと無理そうなので、この場を借りて、お礼とお詫びを申し上げます。

 近況をご報告いたします。

 実は、リストラにあいまして前の会社を辞めざるを得なくなりました。幸い、新しい仕事が期間限定ではありますが見つかりまして、今、そこでお仕事をさせていただいております。詳しいことはまだご報告できませんし、更新も今までのように頻繁に出来ないと思います。でも、落ち着き次第、ご報告を兼ねて記事が書けるのではないかと思います。時々は様子を見に来ていただけると嬉しいです。

 今日は少し余裕があるし面白いことがあったので、ひさしぶりに更新します。

 今日(20日)の夜、私の新しい職場の皆さんと飲みに行きました。あ、一部の方はお食事でしたが(下戸なんで(笑))。関係者の一人が一時的にアメリカに帰国するので、そのお見送り会です。

 参加者(勝手に私ゆりね子が仮名をつけました)は、私の新ボスである『先生』(なんと、イギリス人だよ)、彼の秘書のSさん、帰国するジェイ君、オフィスのリーダー格、二月君。そして少し遅れて、うちのオフィスと協力関係にある会社のJK君と、なぜか彼の上司のSKさん(二人とも苗字がカ行なので名前と苗字のイニシャルね)。

 まず、6時に予約していた居酒屋に私とSさんが、次に来客で少し送れて先生とジェイ君。お酒の飲めない先生はウーロン茶、他は生ビールで乾杯。因みに先生は下戸なのでいつも送迎係です。

 で、1時間ほど送れてJK君登場。ところが、横を見たら上司のSKさんも一緒でみんなびっくり。JK君、実は仕事で来れるか来れないかわからない状態だったのだけどなんとか終わらせて、それでSKさんが一緒に飲みたいって言うんでつれてきたとか。なんか嫌な予感がしたけど、案の定、JK君は上司に捕まったまま色々言われてた。SKさん、良い方なんだけど、ちょっと理屈っぽいみたい。お酒もあまり強くないみたいで、生ビールジョッキ1杯でもう赤くなっちゃった。

 でね、JK君がかわいそうだったんで、私、SKさんの横に行って話題を変えようとしたんだけど、逆につかまっちゃった。

「ゆりね子さん、わしゃあね、こいつはやれる奴じゃって思ぉちょるんじゃ」

 普段は綺麗な標準語を話されているSKさんは、酔っ払ったせいか私に向かっていきなり方言全開で言った。む、九州の言葉じゃないし、関東から来た人にしては、なんとなくH県風。聞いてみたら隣のY県出身だって。

「もう、SKさん、ゆりね子さんにそんなこと言っちゃ迷惑ですってば」

 JK君は困って言った。

「まあ、聞けぇや」

 SKさんは、まじめな顔でJK君を見て言った。

「お前の経歴を読ませてもろうたが、優男でしかも遅咲きじゃが誰よりよぉとがんばっとる。前任のTさんが目をかけとったんがようわかるほじゃ。じゃがな、いかんせん、自信がなさ過ぎる。気迫が足りんしすぐに精神面の弱さが表に出るやろう?」

「確かにそうやねえ……」

 納得しつつ、私も釣られて方言になった。

「ゆりね子さんもそう思うやろ。じゃけんわしゃあ、こいつにもっと強くなって欲しいんじゃぁね」

「大丈夫ですよ。SKさんが鍛えてくれたらきっと強くなりますって。ところでSKさん、聞きたかったとですけど、何で先生に対していつもキツいことを言われるとですか?」

 SKさんはうちの先生に対していつもいやみを言われるので、私はちょっと気になってたのよね。

「ああ、あんたんとこの先生は、外国人なのに、わしら日本人のために親身になってよおやってくれとるし、ええ人やと思う。じゃが、わしゃあ日本男児じゃけえの、いい加減西洋人の干渉から脱却せんといけんと思うとるんじゃ。じゃけん、ついああいう物言いになってのう。悪いとは思うちょるんじゃが」

 SKさんは、少し照れくさそうに言った。そんな中、二月君とジェイ君が自分の席から立ち上がって、日本酒の徳利とお猪口を持って来た。仲良く肩を組んでいる。

「何や、そこで何深刻な話しとるんでっか?」

「せっかくの飲み会だもんで、楽しく飲みゃーせんか?」

  因みに二月君は大阪弁、ジェイ君はアメリカ人だけど名古屋弁だぞ。

「おー、そうじゃったのう。ほいじゃ飲み直しじゃ。わしが注いじゃるけぇ徳利をくれぇや」

 SKさんはいきなり機嫌よくなって、二月君にお酒を注いだ。なんか、4方言入り混じってすごいことになりそうだ。

 その後、SKさんはJK君の肩を掴んで引き寄せると言った。

「そうじゃ、聞いてくれ。こいつは明日付で一ランク格付けアップじゃ」

 それを聞いてみんなびっくり。JK君は焦って言った。

「SKさんそれはまだ……」

「あぁ?」

「後日、改めてご挨拶するつもりで……」

 それ聞いたジェイ君がいきなりJK君をハグして言った。

Congrats(おめでとさん),JK!」

「やったね! おめでとう」

 私も一緒に祝福する。秘書のSさんも「おめでとうごさいます」と嬉しそうに拍手している。二月君はよくわかっていない様子だったけど一緒に拍手している。

「そういえば先生は? ……あーっ、テーブルに突っ伏して寝とおやん!!」

「ああ、おれがウーロン茶に日本酒こっそり混ぜてやったら気づかずに飲んだんだわー。今、Sが水をもらいに行ったがね」

「どんだけ弱いんだよ」

「日本に来てちったぁ強くなったか試したんだなも。まー、変わっとらんにゃあ」

「そう簡単に下戸が治るわけねーだろ。先生が酔っ払ったら帰りの足、どーすっとぉ?」

 よく考えたらこれ、先生をアッシー発言してるなあ。

「心配せんでも、おちょこに軽く一杯くらいだから1時間もすりゃあ目ぇ覚ましまっせ。あと2次会で酔いを醒ませば問題ないですわ」

 二月君が事もなげに言った。

「実はおれらもよおやるんですわ。この先生がまた学習せずにいつも引っかかってから、大体宴会の後半は寝とるんですわ、この人」

 なんか、先生がちょっとかわいそうになってきた。それにしても先生、ほんっとに下戸にもほどがあるぞ。

 JK君のお祝いは後日行うことにして、今回の「ジェイ君の一時帰国にかこつけて宴会しよう会」は終了した。

 そして二次会に突入。完全に酔っ払ったSKさんをタクシーで送ったので、JK君が少し遅れてきた。

 先生は二月君の言うとおり、居酒屋の清算時には目を覚まして首をかしげながらお勘定を払っていた。JK君が来た時、すでにパーティーは大盛り上がり。先生の奢りと聞いて安心したシブチンの二月君、主役のジェイ君を差し置いて一番のり。しかも、いきなりアカペラで『大阪うまいもんのうた』って、初っ端からいきなりネタ歌かよ(笑)。それに触発されたか、ジェイ君が手をあげた。

「『名古屋はええて、やっとかめ』いきま~す」

  って、いきなりアニメ調の前奏が。中間のナレーションも完璧。どれだけ歌いこんでるんだと。その途中でJK君到着。後半は、サビの部分を二月君とJK君を加えて大合唱。Sさんは笑顔で手拍子、私は合いの手を入れてあげた。先生は……と思って様子を見ると、早くも置いてけぼりを食ったような顔でぼ~っとしている。こういうネタ歌が今一理解できないらしい。それを見越したSさんは、にっこり笑いながら次の歌を入れて、はい、とマイクをJK君に。さすが秘書の鑑、軌道修正ね。果たして、かかったのは『日本全国酒飲み音頭』。って、軌道修正されていないし。当然件のほろ酔い3人組は喜んでまたまた大合唱。げんなりした表情の先生がとうとう懇願した。

「すみません、もう少し、しっとりとした歌、お願いします。ゆりね子さん、どうですか」

「了解。ちょっと待ってね」

 適当に検索したら、中山うりちゃんの曲があったのでそれに決めた。『ノスタルジア』……。

「いい歌ですねえ……」

 先生は気に入ったらしい。その後、Sさんがモモエちゃんの『秋桜』を、綺麗な声でしっとりと歌い、ジェイ君がプリンスの『パープルレイン』を歌った(上手いけど似合いすぎでした)。でも、先生は一向に歌う気配がない。ひょんなことから先生が、アカペラで唱歌を歌ってたのを聞いたことがあるけど、上手かったのにな。それで、直接聞いてみた。

「先生、歌わないんですか?」

「だって、僕の好きなバンドの歌がないんだもん」

 先生は少しお冠。

「彼らは今、日本では有名じゃないんですから、しかたありませんわ」

 Sさんが、慰めるように言った。

「じゃっ、キタジマサブローでも歌おっかな……」

「却下しますわ」

 先生の意思表示をSさんは速攻で取り下げた。でも、私は驚いて聞いちゃったよ。

「サブちゃん? マジで?」

「日本人ならキタジマサブローです。雄大で叙情的で日本のタマシイです」

 べた褒めでした。でも、先生の演歌、ちょっと聞きたかったかも(笑)。

 その後、いい塩梅に酔っ払ったJK君が歌ったケロロマーチから大アニメ大会になって、また先生が置いてけぼりに。Sさんが、流石にまずいと思ったのか、急いで探した曲を入れた。巌窟王っていうアニメから『We were lovers』という曲。アニメつながりだけど、さっき言ってた先生が好きなバンドの人が作ったんだって。ショパンの曲を基にしているそうで、まあ、それは聴いたらすぐにわかるけど、すごくドラマティックで綺麗な歌だった。先生がまたいい声してるし。先生もゲンキンなもんで、それを歌うと満足したみたいで、あとは割りと機嫌よく手拍子したりしてた。さすが秘書のSさん。ややこしい先生の扱いに長けているわ~(笑)。その後もアニメと洋楽大会が続いたけど、終了時間が近づいてきた。

 すると、Sさんが頃合を見計らって曲を入れ、先生とジェイ君にマイクを渡した。マイクを持って一瞬何かと思った二人だったけど、曲名がわかると納得し、顔を見合わせて笑った。二人が気に入っている曲のようだ。エクストリームの『モア・ザン・ワーズ』。ギターの前奏の後、先生が歌い始めた。やはり上手い。続いてジェイ君が低音部を歌い始めた。デュエットだ。二人ともさすがというか息がぴったりで綺麗にハモッてて、はたから見ててちょっとヤケちゃったよ。この曲自体がすごくいい曲だし、すごく得した気分。二人が歌い終わって拍手喝采ついでに冷やかしたりしていたら、ちょうどあと5分という電話が入った。

「じゃあ、トリはやっぱりこれですよね!」

 JK君が意気揚々と入れた曲……。宇宙戦艦ヤマトかよ! って、あんた、歳、いくつだよ(笑)。あ、そういえば何年か前に実写映画も作られたっけ。見てないけど。でも、やっぱ盛り上がりますわ~、この歌。ダダンダダン! と景気良く、曲がスパッと終わったと同時に、ジェイ君がびしっと敬礼をして言った。

「不肖ジェイ、所用のため米国に一時帰国いたしますが、必ずここへ帰って来て再び戦線復帰いたします。共にこの地を守りましょう!」

 みんなノッて「おーーーーっ!」と、ときの声を上げた。ノッているけど、みんな本心だ。

 最近ニュースになったからご存知の方も多いと思うけど、今、この地で大変なことが起こっているから……。以前、M県で起こったことを思い起こしても、国がどこまで当てになるかわからない。拡散を防ぐために、ひとりひとりが気をつけて封じ込めないとね。

 名残惜しいけど、今回は二次会でお開き。ジェイ君は明日午前中に飛行機に乗るから、早めに休まないといけないし、第一まだ明日は金曜で平日だ。私たちはカラオケ屋の前で別れ、それぞれに帰路についた。

 っとまあ、こんな感じでした。いつもの宴会ネタとはちょっと違った内容でしょ。こんどの職場はみんなユニークな人ばかりで、すごく面白いです。そういうことで、私は意外と元気でやってますから、安心してね。ではまた!

 

 由利子はアップした記事を読み返しながら言った。

「よっし、誤字脱字もないようだし、コンプラについても大丈夫そうやね。葛西君昇進したんだよなあ。巡査の次はたしか巡査部長だっけ。詳しくは聞かなかったけど、特進ってやつかなあ」

「それにしても……」と言いながら、由利子は伸びをしてそのまま横のベッドにごろんと横になった。すると目の前に猫のにゃにゃ子と春雨の顔があった。寝ていた二匹が驚いて顔を上げたのだ。

「あ~、ごめんごめん、起こしちゃったねえ。……あのね、にゃにゃたん、はるたん、今日アレクとジュリーがね、デュエットしてさ~、すごく良かったんだよ~。あれだけ息がぴったり合っているとさ、ちょっとくらいは妬けるし、同性ってのもまだ慣れないけどさ、そういうのもアリだって認めざるを得ないよねえ……。私、あの二人、好きだな」

 そう言った後、少し照れくさくなったのか、由利子はベッドに寝たままクスクス笑いながら2・3度ゴロゴロしていたが、不意に起き上がった。

「それにつけても、あのお子ちゃま刑事ってば、ホントにバカなんだから! 放置すれば良かった!」

 由利子は急に何かを思い出したように言ったが、頭をぶんと振るとすぐに吹っ切るように言った。

「さ、風呂に入って寝よっと。歌いすぎと飲みすぎとあのバカのせいで疲れたわ!」

 由利子はすぐさまベッドから立ち上がると猫たちの頭をなで、さっさと入浴の準備をし、タオルを振り回しながら浴室へ向かった。

 (「第3部 第2章 焔心」 終わり)


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