【幕間】花屋と長沼間
ちょっとブレイクが続きます。
これは、長沼間が紅美へのお見舞いの品を買った時の「微笑ましい」エピソードです。
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花屋の前を中年の男がウロウロしていた。店に入ろうとしつつも踏ん切りがつかないような風情だった。しかし、男の風体は黒スーツに強面で、とても堅気には見えない。
店の中でアルバイト店員の和花は、その様子を見ながらため息をついた。
(もう、あんな恐そうなオッサンに店の前をウロウロされちゃ、他の客が恐がって入ってこないよ。店長配達でいないし、どうしよう)
その後、和花は5分ほど考えたが、仕方がないので声をかけてみることにした。和花はカウンター内の椅子から立ち上がると、にっこり笑いながらゆっくりと店先に出て行った。
「あの、お客様、何か御用がおありでしたらお伺いいたしますが……」
和花は、一際微笑んで言った。男は一瞬少しだけバツの悪そうな表情をしたが、和花の方を向くと言った。
「すまんな。こういう店に来るのも十何年かぶりなもんでね」
男は少し顔を赤らめて照れくさそうに言った。
(なんだ、そんな恐い人じゃないのかも)
和花は少しだけ安心した。むしろこういう恐そうな男性が、実は敷居が高くて花屋に入れなくて困ってたんだと思うと、可笑しくなった。
「そうなんですか」
そういうと、和花はクスッとわらった。
「どうそ、お入りくださいませ。一緒にお探ししましょう。どういうご用途のお花ですか」
「お見舞いなんだ。若い女性になんだが生花を贈る事が出来ないんでね。だが、俺には見舞いといえば花しか思い浮かばんのだ。それで、ついこの店に寄ってみたんだが……」
男は照れくさそうに一気にしゃべった。
「最近はお見舞いにお花はNGですからねえ。だったらフルーツと言うのも定番ですよ」
「いや、食欲もなさそうだし、それ以前に植物自体の持込がだめらしい」
「そうですかあ……。そうですね、そ れ な らぁ……」
和花は少し考えて言った。
「ちょっとこちらにおいでください」
和花はそういうと、店の奥の方に案内した。そこには店頭の生花ではなく、造花を使った飾り物のようなものが沢山展示してあった。
「こちらは石鹸で出来た薔薇です。けっこう綺麗でしょ?」
「石鹸なのか、これが?」
「ええ。香りもあってきれいなんで、最近けっこう人気があるんですよ。まあ、石鹸としては使えませんが」
「でもなあ、いくらなんでも造花っていうのは……」
「そうですか、ではこちらはいかがでしょう?」
和花はその隣のセクションを掌で示して言った。
「こちらの方は、実はこれ、本物のお花なんですよ」
和花はにこっと笑って言った。
「造花じゃないのか? これが?」
「ええ。生花を加工して半永久的に枯れないようにしたもので、プリザーブドフラワーっていうんです。もちろんお見舞いにも人気があります0よ」
「そうか」
男はそれらの花を良く見ながら言った。
「そういえば、造花とはなんか違うな」
「そうでしょ。女性ならきっと喜ばれますよ。そうですね、生花を持ち込めないなら、プリザーブドといってもアレンジもブーケもだめですよね。それならぁ」
和花は、四角い透明な容器に入っているバラを手に取って男に見せた。
「これ、キューブローズと言って、アクリルのキューブにプリザーブドローズを入れたものです。このタイプは密閉されてますから問題ないと思いますよ。それに場所を取らないので病室に飾っても邪魔にならないですし」
「あ、ああ。綺麗だな……。じゃ、それ1個包んでくれないか?」
「色々アレンジがありますが、どれがいいですか?」
「君に任せるよ。俺にはどれが女性好みかさっぱりわからん」
「そうですかあ……? じゃあ、その方の大体の年齢を教えてくれませんか?」
「ああ、大学生だから、20歳くらいだ」
「お若いですね。ひょっとして、彼女ですか?」
「い、いや、ちがう。まあ、妹……妹みたいなもんだ」
(何でつっかえるかな? みたいなっていうからには、本当の妹さんじゃなさそうだし)
和花は男の見舞いに行く先の人物に興味が湧き、一瞬の間に色々想像したが、表面には出さないで言った。
「そうですか。じゃあ、やっぱり薔薇がいいかな。色はピンクが……」
「いや、赤にしてくれないかな」
「赤ですかぁ? じゃ、これにしましょう」
和花は赤い薔薇が一輪入ったキューブを取ると男に見せた。
「これでいいですか?」
「ああ、さっさと包んでくれ」
男は、恥ずかしそうな様子で和花をせかした。和花はラッピングをするために、専用の机のある店の奥に向かいながら尋ねた。。
「あの、ラッピングはどうされます?」
「あ~~~、任せる。任せるからさっさとしてくれ」
予想通りの答えが返って来たので、和花は吹き出しそうなのをこらえて言った。
「わかりました。じゃ、若い女性向けに可愛いのにしますね~。ところでお客さま、赤い薔薇の花言葉はご存知ですか?」
「知らねえよ」
「『熱愛』です」
ぶっと言う声が店の方で聞こえた。男が吹いたらしい。和花はそれを無視して、キューブローズのラッピングに勤しんだ。
和花はラッピングを終えると男を呼んだ。男は面倒くさそうにやって来た。和花は包装されたキューブローズを男に差し出した。それは、内側にペールピンクの和紙、外側にオーロラフィルムを重ねて包み上部でひとつに束ね、ピンクと赤2種類のリボンを蝶結びにして長く残したリボンのアシをくるくるとカールさせ、結び部分に白いカスミソウの造花をあしらった、実に綺麗で可愛らしい仕上がりとなっていた。和花はにこっと笑って言った。
「精一杯可愛くしました♡ こういう感じですが、よろしかったでしょうか?」
男は一瞬ぽかんとしたが、すぐにもとの強面に戻って言った。
「上等だ。ありがとう。すまんが何か袋に入れてくれないか?」
「もちろんお入れしますよ。そのまま手にもって歩かれてもステキですけど」
「冗談言うな。ミスマッチもいいところだ」
男はまたテレ気味でぶっきらぼうに言った。
「そうかなあ。お似合いだと思いますけど……」
和花は笑顔で言いながら店のペーパーバッグを出した。それは、セピア色のバッグで右下に茶系でブーケが描かれ、その上に店名ロゴが入った、シックで少女趣味なデザインだった。一目見て再びぽかんとする男を他所に、和花はさっさと品物を袋に入れた。
「ありがとう。助かったよ」
男はそう言うと、品物を受け取ってそそくさと花屋から去っていった。
「あ~あ、行っちゃった。よっぽど居心地が悪かったのね」
和花はすこし残念そうにつぶやいた。
「でも、なかなか渋いおじ様だったなあ(ちょっと鼻の下が長かったけど……)。彼からキューブローズをもらうって、どんな女性なんだろう。なんとなく羨ましいな」
和花はふぅっとため息をついた。そこに、店長が配達から戻ってきた。
「ただいま~。和花ちゃん、お留守番ありがとう。何か変わったことあった~?」
「あ、お帰りなさい、店長。あの、さっきですね~」
和花は、今しがたの出来事を嬉しそうに店長に告げるのだった。
長沼間萌えのお話でした。
長沼間さん、可愛い! と思ってくださると幸いです。




