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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第三章 憤怒の黒魔術師
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36Carat Agnus Dei~アニュス・デイ part2 last

「エウラリアッ!リュシーは絶対に、復活など望んでいない!!仲が良かったのなら、そんなことくらい簡単に分かるはずじゃないかッ!!?」


「ハッ!そんなことならば重々承知だ!!!しかし、ワタシはやり遂げなければならないッ!!ワタシが背徳に染まりきれば、リュシーが戻って来るのだぞッ!!?キサマこそ、ワタシの心中が手に取るように分かるはずだ!!」


「………く…ッ!」


――ガシャーーーーーーーーーーーンッ!!


「が、はッ………!」


石造りの壁が盛大に崩れ落ちる。そこに打ち付けられたフェリクスは、苦しそうに体勢を立て直す。

が、

「くらうがいいッ!!」

すかさずエウラリアが切りかかった。彼が振り上げる刀身には、黒い炎が燃え盛っている。


「くッ!!」

―――ギリリッ!


なんとか、デスサイズで受け止めたフェリクス。その瞬間、刀身の黒い炎は燃え尽きた。


エウラリアは「チッ!」と舌打ちする。

「デスサイズの魔力無効化とは面倒なものだなッ!!」

フェリクスは頬に伝う血を拭った。

「死神を侮ってもらっては困るよ!!」


ギッ!!!


お互いに遠のいて距離を取る。

ヒュンッ!!

フェリクスは間髪入れずカードを投げるが、エウラリアは身を翻し、ひらりと避ける。すると、エウラリアはニィ…と不気味に笑った。


「……キサマはハーフと言えど、白魔術族の血を持っているな?」

「だから何だっていうんだ!?あくまで私は、死神として生きている!!」

「あぁ…だが、血は覆せない……」



首の黒いロザリオが、月明かりに鈍く光った―――



「白魔術族と刃を交えると血が歓喜する……“白を廃せ”と高鳴るのだ……」

エウラリアは狂気的な笑いを浮かべ、


「ハハッ!!この狂気に身を任せよう!!!」

―――ダッ!

鋭く駆け出した。


ザザザッ!

「―――くッ!!」

死神の運動神経を凌駕するそれ。流れるような斬撃に、フェリクスは防戦一方だ。素早くかわすものの、擦り傷が体中にできて、チクリと痛みを増していく。



「ハハッ!どうした!!?カードに秘められた意味を引き出す。キサマお得意の魔法を使ってみてはどうだ!!?」



「チッ!!―――『タロットNo.16 塔』ッ!」


―――ピカッ!ドゴォオオオーーーーーッ!!」

 二人の間に巨大な塔が割って入り、その塔目がけて雷が落ちた。盛大に塔は崩れ落ちる。

エウラリアは素早く飛びのいて、瓦礫から身を守った。

「やはり白魔術族の血が流れるだけあるッ!詠唱(トラクトゥス)から発動までの時間が早い!!」



(このままでは……エウラリアを止められない………!!)

フェリクスは下唇をギリリと噛んだ。


(どのみち防戦一方だろう。

やはり一か八か………全ての魔力を注いで――あの一撃をッ!!!)


覚悟を決めた。

というように、目がカッと開く。フェリクスは大きく叫んだ。



「エウラリアッ!!!リュシーの代わりにお前を止めると誓った!私の思いを全て注ぎ込んでやるッ!私の最大の攻撃魔法に……………ッ!!

くらえッ!!!

―――――“グランド・ファンファーレ(偉大なる祝典曲)”ッ!!


私の存在を示す、古より続く大アルカナが一枚ッ!


『タロットNo.13―――死神』ッ!!!!」



―――――ビリビリビリビリッ!!



「―――――――――ほう…………!!!!」


 エウラリアは瞬時に魔力が強大に拡張し、頬を撫でるのを感じた―――


ニヤリ……ッ!


「決闘とはこうでなくてはなッ!!!

それではワタシもご覧に入れてしんぜよう!―――――


“グランド・ファンファーレ(偉大なる祝典曲)”……


―――執り行うは闇の大紅蓮(だいぐれん)儀式(ぎしき)……


“ミサ・カルナバル”ッ!!!」



―――――ビリビリビリィ!!



さらに周囲に満ちる魔力が膨れ上がった。



「はああああああああーーーーーーッ!!!!」


 フェリクスを取り囲む幾重もの巨大な魔法陣―――そこから、漆黒にうごめく巨大な大鎌が現れ―――

ビュウウウウウウウウウッ!――ギラアッ!!

荒れ狂う真っ赤な大嵐を伴いながら、大鎌はエウラリアに襲い掛かった。


「フハハハハハッ!!!」


しかし、その正面、巨大な魔法陣が天に幾重も広がって―――

おどろおどろしく燃え盛る闇のカーテンが、波打ちながらフェリクスに迫っていく



フェリクスは、己の全ての魔力をそそいだ。


――――「闇を切り払ええええーーーーーーッ!!!!」



―――ドゴォオオオオオオオオオーーーーーーッ!!


二つの強大な魔力がぶつかり合い、

それぞれの術が、それぞれの術者を襲った――――



――ドガァアアアアアアアアアアアァンッッ!!!






――――「今………どこかで」


 震える声


イレールとミカエラ、ジョルジュは、互いに蒼白に変わった顔を見合わせた



――――――――――――――――――――――



辺りにはすさまじい噴煙が広がっていた。

誰が生き残っているのか、そもそも、生き残りはいるのか。その答えを見通せないほどに、視界一面が灰色に染まり切っている。


やがて―――

更地と成り果てたその場所を、風が治めた―――

砂埃を吹き飛ばし、視界がだんだんと晴れていく。

そして、完全に視界が開けた頃。


そこには

―――フェリクスが、倒れていた。

 ピクリとも動かず、うつ伏せに倒れている。


エウラリアの姿はない。

その痕跡すらも残っていなかった。



吹きっさらしの更地には、沈黙が流れる。

うつ伏せに倒れた死神、地に落ちて風に鳴る、ひび割れた白い仮面の上を、風が通り抜けていくだけ。


――だったのだが



―――彼の傍らに、二つの白い影が現れた。


「間に合わなかった……!」

「そんなことないわ!エウラリアにはまだチャンスがあるし、フェリクスには間に合ったもの!!もう!おばかフェリクス……ッ!!よしよし、今ちゃんと治してあげるわ!」

「あはは…怒ってるのか、労わってるのか分からないですよ。リュシーさん」

「ふふ、どっちもよ!」


リュシーが百合の背後で両手を広げる。百合は杖をフェリクスへと傾けた。

フワァワアア……

―――フェリクスを光が包む。

 桜の花びらに、百合の花が、舞った―――



更地には、光が溢れて―――



―――「リュ………シ…………?」



驚嘆と歓喜、その両方を含んだ声が、光の中に溶けて聞こえた。


「クラウンさん……良かった」

「―――おお……。これは奇跡かな?」

「はい……。リュシーさんが起こした奇跡です」

「ははっ!そうかい!やっぱりこんな状況、リュシーも黙ってなかった!!」


――ヒュン……


 光が集束して――


――――「先は、明るい!!」


杖を握る百合の隣、おどけた死神が立ち上がった。




――――――――――――




「ハァ………ハァ…」


コツ…コツ……コツ…


 エウラリアは暗闇の中を歩いていた。周囲には暗闇しかなくて、彼の姿はその闇にぽっかりと浮かびあがっている。どうやらここは、空間の狭間らしかった。

「チ……!煩わせやがって」

苦しそうに呻いたエウラリアは、脇腹を押さえながら歩く。

 自分の治癒術で癒したであろうその傷だが、いつ開いてもおかしくないような生々しい線が走っている。コートのような形をした、裾に金の刺繍が入った漆黒のローブ。肩にかけたそれに腕を通して、彼はその傷を覆った。まるで自分の弱みを誰にも見せぬよう、覆い隠してしまうかのような所作だった。


「――ッ!!?」


突然、

チャキッ!!!―――

目の前の何もない空間。

エウラリアは、まっすぐにレーヴァテインを引き抜いた。



「………気の…せいか?」



“焦り”とも言えるような声の震え、額には薄らと汗さえ浮かんでいる。



「そうだ……まさか、な」



――コツ……コツ…


 再び歩き出したエウラリアの背後

―――若草色の瞳が、狂気的に吊り上がった


後2、3話で完結予定です。

気が早いようですが……ここまで読んでくれた皆さま。

本当にありがとうございます!!

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