36Carat Agnus Dei~アニュス・デイ part2 last
「エウラリアッ!リュシーは絶対に、復活など望んでいない!!仲が良かったのなら、そんなことくらい簡単に分かるはずじゃないかッ!!?」
「ハッ!そんなことならば重々承知だ!!!しかし、ワタシはやり遂げなければならないッ!!ワタシが背徳に染まりきれば、リュシーが戻って来るのだぞッ!!?キサマこそ、ワタシの心中が手に取るように分かるはずだ!!」
「………く…ッ!」
――ガシャーーーーーーーーーーーンッ!!
「が、はッ………!」
石造りの壁が盛大に崩れ落ちる。そこに打ち付けられたフェリクスは、苦しそうに体勢を立て直す。
が、
「くらうがいいッ!!」
すかさずエウラリアが切りかかった。彼が振り上げる刀身には、黒い炎が燃え盛っている。
「くッ!!」
―――ギリリッ!
なんとか、デスサイズで受け止めたフェリクス。その瞬間、刀身の黒い炎は燃え尽きた。
エウラリアは「チッ!」と舌打ちする。
「デスサイズの魔力無効化とは面倒なものだなッ!!」
フェリクスは頬に伝う血を拭った。
「死神を侮ってもらっては困るよ!!」
ギッ!!!
お互いに遠のいて距離を取る。
ヒュンッ!!
フェリクスは間髪入れずカードを投げるが、エウラリアは身を翻し、ひらりと避ける。すると、エウラリアはニィ…と不気味に笑った。
「……キサマはハーフと言えど、白魔術族の血を持っているな?」
「だから何だっていうんだ!?あくまで私は、死神として生きている!!」
「あぁ…だが、血は覆せない……」
首の黒いロザリオが、月明かりに鈍く光った―――
「白魔術族と刃を交えると血が歓喜する……“白を廃せ”と高鳴るのだ……」
エウラリアは狂気的な笑いを浮かべ、
「ハハッ!!この狂気に身を任せよう!!!」
―――ダッ!
鋭く駆け出した。
ザザザッ!
「―――くッ!!」
死神の運動神経を凌駕するそれ。流れるような斬撃に、フェリクスは防戦一方だ。素早くかわすものの、擦り傷が体中にできて、チクリと痛みを増していく。
「ハハッ!どうした!!?カードに秘められた意味を引き出す。キサマお得意の魔法を使ってみてはどうだ!!?」
「チッ!!―――『タロットNo.16 塔』ッ!」
―――ピカッ!ドゴォオオオーーーーーッ!!」
二人の間に巨大な塔が割って入り、その塔目がけて雷が落ちた。盛大に塔は崩れ落ちる。
エウラリアは素早く飛びのいて、瓦礫から身を守った。
「やはり白魔術族の血が流れるだけあるッ!詠唱から発動までの時間が早い!!」
(このままでは……エウラリアを止められない………!!)
フェリクスは下唇をギリリと噛んだ。
(どのみち防戦一方だろう。
やはり一か八か………全ての魔力を注いで――あの一撃をッ!!!)
覚悟を決めた。
というように、目がカッと開く。フェリクスは大きく叫んだ。
「エウラリアッ!!!リュシーの代わりにお前を止めると誓った!私の思いを全て注ぎ込んでやるッ!私の最大の攻撃魔法に……………ッ!!
くらえッ!!!
―――――“グランド・ファンファーレ(偉大なる祝典曲)”ッ!!
私の存在を示す、古より続く大アルカナが一枚ッ!
『タロットNo.13―――死神』ッ!!!!」
―――――ビリビリビリビリッ!!
「―――――――――ほう…………!!!!」
エウラリアは瞬時に魔力が強大に拡張し、頬を撫でるのを感じた―――
ニヤリ……ッ!
「決闘とはこうでなくてはなッ!!!
それではワタシもご覧に入れてしんぜよう!―――――
“グランド・ファンファーレ(偉大なる祝典曲)”……
―――執り行うは闇の大紅蓮儀式……
“ミサ・カルナバル”ッ!!!」
―――――ビリビリビリィ!!
さらに周囲に満ちる魔力が膨れ上がった。
「はああああああああーーーーーーッ!!!!」
フェリクスを取り囲む幾重もの巨大な魔法陣―――そこから、漆黒にうごめく巨大な大鎌が現れ―――
ビュウウウウウウウウウッ!――ギラアッ!!
荒れ狂う真っ赤な大嵐を伴いながら、大鎌はエウラリアに襲い掛かった。
「フハハハハハッ!!!」
しかし、その正面、巨大な魔法陣が天に幾重も広がって―――
おどろおどろしく燃え盛る闇のカーテンが、波打ちながらフェリクスに迫っていく
フェリクスは、己の全ての魔力をそそいだ。
――――「闇を切り払ええええーーーーーーッ!!!!」
―――ドゴォオオオオオオオオオーーーーーーッ!!
二つの強大な魔力がぶつかり合い、
それぞれの術が、それぞれの術者を襲った――――
――ドガァアアアアアアアアアアアァンッッ!!!
――――「今………どこかで」
震える声
イレールとミカエラ、ジョルジュは、互いに蒼白に変わった顔を見合わせた
――――――――――――――――――――――
辺りにはすさまじい噴煙が広がっていた。
誰が生き残っているのか、そもそも、生き残りはいるのか。その答えを見通せないほどに、視界一面が灰色に染まり切っている。
やがて―――
更地と成り果てたその場所を、風が治めた―――
砂埃を吹き飛ばし、視界がだんだんと晴れていく。
そして、完全に視界が開けた頃。
そこには
―――フェリクスが、倒れていた。
ピクリとも動かず、うつ伏せに倒れている。
エウラリアの姿はない。
その痕跡すらも残っていなかった。
吹きっさらしの更地には、沈黙が流れる。
うつ伏せに倒れた死神、地に落ちて風に鳴る、ひび割れた白い仮面の上を、風が通り抜けていくだけ。
――だったのだが
―――彼の傍らに、二つの白い影が現れた。
「間に合わなかった……!」
「そんなことないわ!エウラリアにはまだチャンスがあるし、フェリクスには間に合ったもの!!もう!おばかフェリクス……ッ!!よしよし、今ちゃんと治してあげるわ!」
「あはは…怒ってるのか、労わってるのか分からないですよ。リュシーさん」
「ふふ、どっちもよ!」
リュシーが百合の背後で両手を広げる。百合は杖をフェリクスへと傾けた。
フワァワアア……
―――フェリクスを光が包む。
桜の花びらに、百合の花が、舞った―――
更地には、光が溢れて―――
―――「リュ………シ…………?」
驚嘆と歓喜、その両方を含んだ声が、光の中に溶けて聞こえた。
「クラウンさん……良かった」
「―――おお……。これは奇跡かな?」
「はい……。リュシーさんが起こした奇跡です」
「ははっ!そうかい!やっぱりこんな状況、リュシーも黙ってなかった!!」
――ヒュン……
光が集束して――
――――「先は、明るい!!」
杖を握る百合の隣、おどけた死神が立ち上がった。
――――――――――――
「ハァ………ハァ…」
コツ…コツ……コツ…
エウラリアは暗闇の中を歩いていた。周囲には暗闇しかなくて、彼の姿はその闇にぽっかりと浮かびあがっている。どうやらここは、空間の狭間らしかった。
「チ……!煩わせやがって」
苦しそうに呻いたエウラリアは、脇腹を押さえながら歩く。
自分の治癒術で癒したであろうその傷だが、いつ開いてもおかしくないような生々しい線が走っている。コートのような形をした、裾に金の刺繍が入った漆黒のローブ。肩にかけたそれに腕を通して、彼はその傷を覆った。まるで自分の弱みを誰にも見せぬよう、覆い隠してしまうかのような所作だった。
「――ッ!!?」
突然、
チャキッ!!!―――
目の前の何もない空間。
エウラリアは、まっすぐにレーヴァテインを引き抜いた。
「………気の…せいか?」
“焦り”とも言えるような声の震え、額には薄らと汗さえ浮かんでいる。
「そうだ……まさか、な」
――コツ……コツ…
再び歩き出したエウラリアの背後
―――若草色の瞳が、狂気的に吊り上がった
後2、3話で完結予定です。
気が早いようですが……ここまで読んでくれた皆さま。
本当にありがとうございます!!




