表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イレールの宝石店  作者: 幽玄
第三章 憤怒の黒魔術師
78/104

31Carat 黒魔術師の手を取って part2

 約束の日曜日。


百合は鏡の前で身なりを整える。



紺色のワンピースを着て、

艶めく黒髪をピンクサファイアのバレッタで、

ハーフアップにして、とめる。


白いコートを羽織って、

ブラック・ルチルクォーツのラペルピンを、

胸ポケットへ、しまい込む。


最後に首にかけたのは、

アラベスク文様のロケット・ペンダント。



でも、それはバレないように、ワンピースの下へと隠して。



少し大人っぽい服装で、

彼女は階段を降りて、玄関へ。


母親に一言「行って来ます。」と言うと、心の奥がキリリと痛んだ。



もうこの「いってらっしゃい。」を聞くことはできない。

会う事さえ――叶わない。




――彼女はドアを開けて、


外の世界へ飛び出して行った。





―――「おはようございます、イレールさん!」


「―――っ!今日はまた一段と……ふふ、おはようございます。」



家の前に迎えに来てくれていたイレールのもとに、百合は駆け寄った。

彼は、一目(ひとめ)上品にニヤついたが、柔らかく微笑んだ。


「さっそく向かいましょうか?実は…人間界の遊園地に行くのは初めてでして……少し緊張しています。」

「そうなんですか?じゃあ、イレールさんが楽しめるような場所を選んで遊んでいきますね!」

「フフ…そうしてくれるとありがたいです。」


百合はイレールの手を取った。


今日のイレールは黒いコートをきちんと着て、毛先のみ緩い癖のある飴色の髪を、細い赤いリボンで右耳の下で結ぶ、外行きの格好。そして首には、彼女が贈った黒いマフラーを巻いている。



寒がりの彼は息を白くしながら、嬉しそうに、



――パチン…!


指を鳴らした。


――――――――――――



 気がつけば、百合の瞳には、豪奢な門が映っていた。

すでに賑わっている遊園地の受付。子どもから大人まで幅広い年代の人々が行列を作っている。


「わぁ~~~!おしゃれです!」

「ここですか?意外に落ち着いた遊園地ですね。」


二人は受付を済ませると、Victorian(ヴィクトリアン) Fantasy(ファンタジー) Park(パーク)の門をくぐる。



そこは―――

イギリスをテーマにした遊園地で、おしゃれな英国風の建物で統一されていた。

レトロで可愛らしいメリーゴーランドや、見るからに不気味なお化け屋敷、絶叫系のジェットコースターまで、幅広いジャンルのアトラクションがある。


それがいずれも英国風にアレンジされていて、幅広い年代が遊べる遊園地。



二人は目を輝かせながら、人でごった返すパーク内をキョロキョロしていた。


「あはは……こんな時に来て遊ぶようなところじゃないですね…」

百合は少し、苦笑いする。イレールは首を振った。

「いいえ。こんな時こそ遊んで気持ちを明るくしましょう!私にとっては貴女を独り占めしつつ、護衛ができる…最高な瞬間です!」

はっきりと言い切るイレール。彼はこれ見よがしに、黒いマフラーに頬を近づけている。百合は自分の白いマフラーに赤い頬を埋めつつ、話題を変えた。


「……うっ。とりあえず、イレールさんはどれに乗りたいですか?」

「何でもいいんですか?」



「はい!乗ってみたいなって思うものに私も付き合いますよ~!」



百合は天使の微笑み。

イレールの表情も華やぐ。



「ほんとですかっ!



じゃあ―――アレがいいです!」



彼が少年のように無垢な微笑みをたたえ、



指さした先には――




――日本第3位のスリル!!!

当パークが誇る最大絶叫コースター!!!

君はドラゴンを乗りこなせるかっ!?



  『グレートブリテン・ドラゴン・クライシス』



―――「……うそ。」


 百合は―――腹をくくった。




――「きゃあああああーーーーーーーー!!」

「あははっ!これはすごいっ!!」



 数分後。


「……地面がまだ…揺れてる……」


百合は、ぐったりと地に降り立った。

対照的に、イレールは瞳を輝かせている。


「人間は面白い物を考えますね!楽しい乗り物です!」

豪快に、竜のごとく暴れ狂うコースターを、彼は興味深げに眺めた。


すると、


――フラ……

いきなり百合が腕に抱き着いて来て、


「え…?」


イレールはドキリとした。


無言のまま、彼女は腕に抱き着いて離れない。

うつ伏せに顔を伏せて、柔らかい頬を腕に寄せてくる。


「…珍しいです…ね。貴女が甘えてくるなんて……」


珍しくドギマギした様子の彼は、百合の顔をチラリと伺った。



「――――っ!?」



―――百合の顔色は真っ青



「百合さーーーーーーーんっ!!」



イレールは慌ててベンチに彼女を引っ張って行った。




―――――――



「すみません!ああいった物は苦手でしたか!?」


「いいえ。絶叫マシンは乗れますよ~!さっきだけです。気にしないでください。

ただ……いきなりレベルの高すぎる乗り物だったので、体が慣れてなくて。もう体が絶叫マシンモード(?)に入りましたから、大丈夫ですよ~!」


 すっかり気分の良くなった百合は、両手をヒラヒラさせながら、先ほどから平謝りするイレールをなだめた。人の合間を縫いながら二人は歩いている。


「……ですが…」と、イレールはなおも謝る。

百合は本当にいいんですよ~!と言って、笑った。


何故か彼女は嬉しそうに微笑んでいる。イレールがしょんぼりしていると、彼女はイレールの瞳を覗きこんで言った。



「イレールさん……私に気を遣いすぎるところがあるので、正直に自分のやりたいことを言ってくれて……嬉しかったです…これで、いいんです。とっても…嬉しいです。」



彼女はつないだ右手に、左手をそえて、両手で彼の手を包む。

今度は本当に、正真正銘、イレールに甘えて。



「…そ、それは…。そんなことは……」


「そんなことはありません。」とは言えなかった。

イレールは自分自身思う所があって、返事が遅れたが、



「……貴女との距離。近いようで……遠かったのかもしれません。一線を引いていたのは事実です……。私は貴女に、隠していた一面がありましたから……。


でももう……

貴女には全てを託して、甘えてしまうかもしれません。」



優しそうな、柔らかい光を宿した瞳で、微笑んだ。



「……はい。」


百合は心の奥が痛むのを感じながらも、柔らかく彼の言葉を包んだ。



「じゃあ、次は私に選ばせてください!次はアレに乗りませんか?」

「はい、行きましょう!百合さんっ!」



 百合とイレールは、思いっ切り遊園地を楽しみ始めた。


『鏡の国のアリス』をアレンジした四方が鏡張りになった不思議な迷路。フェアリーたちの水上庭園を巡るゴンドラの旅。ヴァイキング達の船で行く荒くれ大航海。


子どものように、二人は手をつないではしゃぐ。



「わぁ~高いです!建物がミニチュアみたいに見えます~!」



百合は、ロンドンのテムズ川沿いにある大観覧車

―――ロンドン・アイを模した観覧者から、外を眺めた。



「本当ですね!あっ!お昼を済ませたら、次はあそこに行ってみませんか?」



イレールは、不気味な雰囲気の漂う怪しい建物を指さした。



「お化け屋敷……ですか?ちょっと怖いですけど…いいですよ!」


少し怯えた顔をして笑った百合。イレールの目が悪戯っぽく光った。


「言ってしまえば、私もお化けみたいなものですよ…?魔法族ですから。」


「イレールさんは……うーん。例えお化けと言われても、怖くない…かな。親しみやすいお化けです!」


「フフ…そうですか……言い切れますか?実は私…毎夜毎夜、美女の生血を求め彷徨う……血に狂ったヴァンパイアでして……」



イレールは低めの声を出してからかう。

表情も怪しげな微笑み。



「へっ!?さ、さすがに騙されないですよ!!……でも、イレールさんが嘘をつくことはあんまりないし……もしかして…」


「……冗談ですよ。本気にしないでください……」



イレールは、百合の純粋さに苦笑いした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ