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イレールの宝石店  作者: 幽玄
第三章 憤怒の黒魔術師
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28Carat 五人の聖職者 part2


百合は、緊張した様子で、

イレールと、彼の友人たちを一人一人――視界におさめた。



 皆、真剣な眼差しで百合の正面に立って、彼女を見つめている。



――何か、とても重要で、重々しいことが話される――



そう感じ取って、百合は身をこわばらせた。



やがて――イレールが、口を開く。


「貴女に私達のこと……、


そして、貴女の今の状況について…お話せねばならないことがあります。」



「はい……。」



百合は胸の前で手を組んで、真剣な眼差しでそれに応えた。



「………」

イレールは微笑を浮かべると、穏やかな表情で、

彼女の前に片膝をつく。

まるで、お付きの騎士が主人に、忠誠を立てるかのような行動だった。


「まずは私達のことをお話ししましょう――――」


彼は恭しく、胸へと手を沿えた


「私達は、魔法界と人間界が調和したこの世界を成した者たち。


いわば制裁者であり、調停者。


普段は人間界で、そして、魔法界で。それぞれがすべきことをしていますが、

この調和を乱す者があれば、武器を取り、それを治めるべき使命を負っています。」


「イレールさん……?」


 百合はよく理解できないというように、イレールを見つめた。

クラウンたちは手にそれぞれ武器を出現させる――百合は僅かに目を見開く――と、

安心させるように、皆、彼女に微笑んだ。


「今現在、人間は私達のような“人ならざる者たち”を、お(とぎ)(ばなし)の中の存在だと思っているだろう?」


「……はい。私もイレールさんに会うまでは…そういう認識の方が強かったです。今は、こっそり人間の生活の中に溶け込んでいるんだなって…思ってます。」


「うんうん。今現在、私達のような者は、あまり人前で正体を明かすこともないし、人を傷つけることもめったにない。

それはね…私達が魔法族たちにそう…働きかけたからさ。」


ミカエラも口を開く。

「人間との共存は、人間側にそういう認識を持たせることが、最も理想的だと判断したの。色々な事情を考慮してね。」


ジョルジュもそれに続く。

「これはイレールの姉、リュシーの呼びかけだったんだ。


―――全ての種族が調和した世界を成す


――そんな旅をしないか?


それにオレらは賛同して、長い時間をかけて五人で魔法界を旅して…。一つ一つの種族を説得して共感を得ようとしたんだ。時々――刃を向けられることもあったけどな。

でも、なんとかオレらは……理想の世界を実現させることができた。」


百合はただひたすら瞳を揺らす。


そして、頭の中を整理するように、


「この調和した世界を成した……。魔法族にそう働きかけた……。刃を向けられることもあった……?」


と、ぶつぶつ呟いていたが、はたと口を閉じた。


――揺れる瞳で、イレール達をじっと見つめる。



「イレールさん達が…この世界を作って……この世界を守っているの?」


――「はい。ですが―――」


イレールは返事をして、スッと立ち上がった。

手に彼の杖である統合と調和の杖――『カドゥケウス』を出現させる。



「守っている。そう言うと、とても聞こえはいいですが、それは同時に……


――誰かを…敵対する誰かを、傷つけるということです。」


「イレールさん達が…誰かを傷つける……?」


「……はい。先ほど貴女が見た…血生臭い光景…。血で染まった私を見たでしょう…?

クラウンの魔法でその傷を癒すことができる。そういう確信があったからこそ、私はあの悪魔を傷つけ、動きを止めました。

でも―――誰かを傷つけたことに変わりはありません。」



「だが……誤解しないでほしい……!」

クラウンが真剣な声で言う。


「私達は絶対に殺すことはしない……。傷つけてもそれを癒し尽す…!


大きな癒しの力、そして多大な魔力を有しているからこそ、それに対して立ち向かう。

弱い立場となってしまった誰かの盾となるために……!


しかし、それでも…他者を傷つけたことが許されるわけではない。


許されてはならない……!


だからこそ、その罪と向き合い、

相対することとなった者が幸せになれるような世界を、さらに模索する……


それに一生を捧ぐ



それが――制裁者であり、調停者である私達の使命……!」



イレール達は、じっと…黙って視線を逸らしてしまった百合を見つめた。

――僅かに、彼女の肩は震えていた。


沈黙に浸っていた彼女だったが、フッと微笑んで―――顔を上げた。


「………イレールさん達を良く知れて、嬉しいです。」

にっこりと笑った彼女は、イレールに歩み寄って上を見上げ、顔を覗きこんだ。


「私を信じてくれているからこそ…そういう秘密にしたいことを、教えてくれたんですよね?」


「……はい。この姿の私でも…きっと貴女は優しさで包んでくれる。そう信じているからこそ、貴女に想いを伝え、私達のもう一つの一面を明かしたのです。」

イレールは自身が身に纏う白いローブに視線を落としつつ、答える。



――「私にも……半分持たせてください。」



百合は――イレールの手を握った。


「………!」

少し驚いた様子のイレールを見つめつつ、彼女は恥ずかしそうに言った。



「その、もう一つの一面は……きっとイレールさん達を傷つけてるんですよね?

たぶん…心を削りながら、クラウンさんも、ミカさんも、陛下さんも戦ってる……


だから……こういう事しかできない自分が悔しいですけど…


私もイレールさん達を支えてあげられる…何かになりたいんです。」



じっと、オブシディアンの瞳で、彼を見上げている。



イレールは、微笑み返した。


「……貴女は本当に……

私の、Notre(ノートル)-Dame(ダム)(私達の聖女)…麗しの、白百合の花です。」


――幸せそうに目を細めたイレールと百合を、友人たちは微笑んで見守った。




「さて、もう一つも話さなくてはならんな………」


 御真弓様と一緒に、彼の肩にとまって場を見守っていたクラースが、

言いづらそうに言った。


イレール達は僅かに表情を暗くしたが、すぐに顔を引き締めた。


 百合は再び自分に視線が集まったことに、不安を感じて、

「………」

握っているイレールの手をギュッと、強く握った。


彼は――自分がついているということを伝えるために、身を縮こまらせた百合の肩を後ろから抱いて、


そっとその半身を自分に寄りかからせる。



「今からお話しすることは……貴女の命に関わることです。」


「私の…私の……。命…?」



不安に瞳を潤ませた百合の肩を抱き寄せながら、イレールは辛そうに言う。


「これは貴女に何か、落ち度があったからではありません……。」


その場に居た誰もが悲痛そうに視線を逸らした――



――「貴女は……黒魔術師に…命を狙われているんです。


何か大いなる魔法を発動させるための…。……っ…(にえ)とするために……。」



「…………」



――「百合さん!!」

「百合!」

「ゆりちゃんっ!」

クラウンたちが駆け寄る。


百合は体の力が抜けて、その場に倒れ掛かった。しっかりと抱き留めたイレールは、胸に顔を埋めさせて、悲痛そうに抱きしめ続けた。


震え始めた小さな肩。

恐怖で呼吸が乱れて、瞳からは涙がこぼれている。


「大丈夫です!!必ず私が貴女の盾となり刃となり、貴女を守ります……!!

この命を懸けてっ!!!すべてを懸けてっ!!!」


 クラウンたちも口をそろえて精一杯に、訴える。

「私達もついているっ!この鎌で必ず君を生かすッ!!」

「オレらはもう…!友人が命を落とすとこなんて見たくねぇんだ!!」

「ゆりちゃんっ!安心して!!わたしたちに命を預けてっ!」

「君は僕を救ってくれたんだ……!だから今度は僕が君を助けるッ!!」

「俺も梟なりに、百合に懐いているのだ!懐いた主人を守るのが梟の役目ッ!!」


「………っ…」


百合はゆっくりだが、少しずつ―――落ち着きを取り戻して、


イレールの胸から顔を上げた。


まだ顔は青白いが、わずかに微笑みさえ見て取れる。


イレールはそっと、彼女の頭を撫でた。


「私、何かやってはいけないことをしてしまったんでしょうか?怖いっ……怖い…ですけど。

一人ではないんですね…。じゃあ…すごく…安心できます。

イレールさんも……すごく…あったかくて。」



「もう……。私の腕の中に…ずっと…居てほしいぐらいです。」



二人は再びしっかりと、身を寄せ合った。




 他の者はホッと、安心して微笑みを浮かべる。

と、

クラウンが場の空気を切り替えようと、ピュウっと口笛を吹いた。


「本当にラッブラブだねぇ。見ているこっちが恥ずかしくなるよ。

すーぐ引っ付いちゃってねぇ?」

「本当ねぇ。目のやり場に困るわぁ~~」

ミカエラもおっとりと笑った。

「やっぱり…人前でも抱き着いたじゃないか……!」

御真弓様もちょっぴり怒ったように言う。


「いいじゃねぇか!もしかしたら、この二人の世界のあっつ熱ぶりに、

rision(デリジオン)(愚弄)の黒魔術師といえども、呆れ果てて、どっか行っちまうかもしんねぇーぜ?!」



――「これを待っていたのだ……。白百合が満開を迎えるこの時を。


手をこまねいて待ち望んだこの盛りの時を、愚弄せずして何をしようか………?」


ジョルジュの言葉に答えたのは―――



―――とても、不気味で冷たい、嘲笑する声。



――――ッ!

イレール達はハッとして武器を構えた。


百合を抱き寄せたまま、イレールは、キッと彼を睨みつける。



――「エウラリアッ!!!」


 百合は頭がついていかないまま、

皆が厳しく視線を集中させている一点へと、自分も視線を飛ばした。


――「………え?」



彼女の瞳が、驚きの色に染まる。



(ゆずりは)………先生…?」


「先生……?」


 小さくとも驚愕を含んだその言葉。イレールも驚いて、彼女の横顔を見つめた。



――フ……


「おめでとうございます。悩めるうら若き、白百合のような美しい君。

やっと想い人と結ばれたのですね。」



―――聖堂の入り口に立った彼は、

百合が知っているあの優しげな口調で、彼女に話しかけた。


が、

「さて……手折る頃合いを迎えた満開の白百合。


守られるしか能のない、愚かな箱庭の子猫……


さぁ、その身を聖女への葬花とし、再生の供物となるがいい………。」



「……ぇ………?」


不気味なテノールが、少女の心をえぐった。



 彼は――黒魔術師エウラリアは、レーヴァテインの黒き刀身をキッとイレールと百合へと差し向けて、

ニヤリと笑う。


「ワタシの刃に紅く伏せ……」



「楪先生………これは…っ…一体…?」



漆黒のコート型のローブに身を包んではいるが、優しい担任であるはずの彼。

百合は瞳を恐怖の涙で濡らしつつ見つめ、叫んでしまいそうになる口を、必死で押さえた。



ピリピリと張りつめる空気。



――「かかって来なさい。相手になりましょう……。」


 イレールは百合の、エウラリアに対する反応を気にしながらも、

カドゥケウスの末端に刃を出現させながら、キリキリとエウラリアを睨みつけた。



桜が――――散った



イレールのもとへと魔力が戻ったのだった。



桜が、はじけ散るように、一斉に周囲に舞い散る――――




「そう慌てるな。ここではやりづらい……。」



 エウラリアは地につくほどに長い黒髪をかきあげて、不気味に微笑む。



舞い散る桜をその身に受けつつ、

イレール達とエウラリアはピリピリと、睨み合う。



「今日はワタシにとって大切な場所へと招待して差し上げよう……。


そのために来たのだ。



キサマにとっては――――



ハハッ!!


――――もう二度と、


足を踏み入れたくない場所…!かもしれんがなァッ………?!」


――ゴワァッ!

エウラリアがそう叫んだ刹那、


「…………ッ!」

「きゃああっ!!」


イレールと百合、そしてクラウンを――エウラリアを、どす黒い光が包んだ

その光は蛇のようにうねって、四人を呑み込む。


「………ッ!!」

ジョルジュ達には、どうすることもできないまま、


――フッ


四人は―――姿を消した。




 話としては良いところ…!

なのですが……。

テスト期間に入るので、しばらくお休みさせていただきます(ノД`)・゜・。


次回更新は、二月十九日…。

お待たせさせてしまう分…テスト、及びレポート、頑張ってきます…

テストを乗り越えたら春休みです。

休みに入ったらバンバン更新していきますのでっ!!

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