28Carat 五人の聖職者 part1
光、降り注ぐ大聖堂。
大きく吹き抜けた、その中央―――
イレールと百合は肩を寄せ合って、桜の大樹の根元に腰を下ろしていた。
あたたかい陽だまりのようなその場所は、光の聖女リュシーの眠る、
光の大聖堂。
クリア・サファイアのステンドガラスからは、
眩しいほどの光が柔らかく降り注ぎ、
二人の髪に、肩に、
桜色の花びらがゆるやかに落ちては、花を添えていく。
「至らないところがあったら、言ってくださいね。」
「……へ?」
きょとんとしてこちらを見上げる少女を、イレールは優しげに見下ろした。
「お恥ずかしながら……」
彼は心機一転、僅かに頬を染めて目を逸らす。
「私は、『年齢=好きな人いない歴』だったんです……。」
「?」
――再び、きょとん
「……?」
理解に苦しむ百合。
―――だったが、
「………え…っ…あれ…っ?ってことは――――――」
彼女は口をパクパクさせながら、カアっと頬を上気させた。
「……はい。私の初恋は貴女なんです。」
イレールも自分で言っていて恥ずかしいらしく、目をつぶった。
「この歳(528歳)になって初めて…。正しくは貴女と再会できたのが去年ですから……527年間…。恋というものは、したことがなかったんです。誰かとお付き合いするのも…。もちろん初めて、です。だから、貴女の恋人として至らないところがあったら、言ってください。」
「へえぇっ?!!えぇっと……わわぁ~~~~っ!!」
百合は真っ赤になった頬を両手で包むと、体育座りになろうと、体勢を動かした。
彼女は恥かしさが頂点に達すると体育座りをして腕の中に顔を埋めてしまう。
――ハッ!
それを察したイレールは、
―――「させますかっ!」
バシッ!
「わっ!!」
それを、
―――自分の胸で、制止させた。
体を引っ張られ、視界が真っ白に染まった百合は、頭を混乱させつつ、上を見上げる。
なぜだか体中があったかい。
「………!」
そこでやっと、
――イレールの腕の中にいるのだと、理解する。
「ななな、なんでわざわざ抱き着くんですか…っ?」
「貴女!極限に恥ずかしくなると縮こまってしまうではありませんか…!あれをされるとこちらは対処に困ります。それに、抱き着く理由は単純。
貴女を抱きしめたかったからです!」
「きゃあっ!そんな恥ずかしいこと、わざわざ言わないでいいです!!」
「私は正~直に、質問に答えただけです。」
「~~~~~っ!!」
朗らかに笑って言う彼の反応に、百合は心臓が破裂しそうなほどの恥かしさを感じながら、
彼の胸に――顔を埋めた。
「フフ…初心ですね~~私もそう言える立場に居るのか、謎ですけど。」
――「……し…もです。」
「…フフ…なんですか?」
小さな声が聞こえて、イレールは耳を澄ます。
「私も…誰かと付き合うのは…初めて…です。」
「……!本当…ですか?」
――コクリ
腕の中の百合の頭が肯定したのを認めて、イレールは嬉しそうに微笑んだ。
それから、少し真剣な表情に変わって――
「………本当はさっき…。貴女が目をつぶってくれた時に、本当は―――――」
――「はい!二人っきりの時間っ!そこまでーーーーーーー!!」
ガサッ!
白い仮面が、二人の前に、
ドーーーーーーーンと、ぶら下がった。
「…………」
――さっ!
百合とイレールは、慌てて身を退いて立ち上がる。
「はははっ!!」
白い仮面
――クラウンは桜の大樹に足をかけて、逆さまに二人を見下ろしていたが、
「お前もやる男だね~~~~!」
ニヤニヤしながら、軽やかに床へと飛び降りた。仮面の下の銀の瞳で、顔を真っ赤にして固まっている二人を、口元をニンマリさせながら見つめる
。
「ヒュ~ヒュ~~!人畜無害そうに見えて、このっ!このっ!」
「や…やめなさい!私は断じて、百合さんの嫌がるようなことはしていないつもりですし、するつもりもありませんっ!」
クラウンはイレールの腕をつつく。
「どうだろうねぇ?さすがにもう、ラッブラブな時間は終わっただろうと思って気配を追って来てみれば……ププっ!強引にハグへと誘うイレール君がお出迎えさぁ!!」
「うわぁーーっ、ちょっと!そういう誤解を招く言い方しないでくださいっ!」
イレールはクラウンの口を塞ごうと手を伸ばすが、クラウンはそれをひょいっとかわし続ける。
「ははっ!百合、何も変なことされてないかい?例えば、そうだねぇ~~!」
――にやり
―――「唇を、奪われたとかっ!?」
「へぇっ!!?く…くち……!!きゃあああっ!!」
――ばっ!
百合は勢いよく顔を逸らす。
先ほどの自分の勘違いが頭をかすめて、彼女は両手で口を覆った。
「おおっと!怪しい反応だね~~!!」
「ち……ちがっ!野暮な詮索をしないでください!」
ニヤニヤ楽しそうに腕を組んでいるクラウンの言葉を、イレールはすぐさま否定しようと駆け寄る。
――「おっ!案の定、いじられてんぜ?」
「本当だわぁ~!二人のこんな光景…新鮮ねぇ~~!」
「これからはあんなやり取りを見せられるのだろうか…。」
ジョルジュとミカエラ、クラースもこちらへ姿を現した。
その隣には―――御真弓様。
彼はイレールからフイッと顔を逸らしたまま、何も言わなかった。彼らの登場に気づいたイレールと百合はそちらへと視線を飛ばす――イレールの視線は、御真弓様に集中した。
「記憶…戻ったみたいねぇ~」
「ホント良かったぜ!」
「うむ。いつものお前だ。」
ジョルジュとミカエラ、クラースは、恥ずかしそうに頬を染めている百合のもとへと向かった。それは彼らなりの、イレールと御真弓様への気遣いだった。
「………」
イレールは百合が三人に囲まれたのを見届けると、その場に残された御真弓様のもとへと、足を運んだ。
当の御真弓様は彼の接近にも、顔を逸らしたまま、
「……もし、あなたが彼女を不幸にしようものなら
……僕は、あなたを許さない。」
と、冷たく言う。
イレールはしっかりと――彼を見据えて、答えた。
「はい。この…今の幸せがあるのは、あなたのおかげです。
彼女が私と深い関係になったことを、不幸だと感じてしまったとき…
それは……
百合さんへの裏切り行為となるだけでなく、
私を信じてくれた貴方への、裏切りにもなります。」
「………」
御真弓様はまだ厳しさの残る目をしていたが――こちらを振り向いた。
――じっと二人の視線が重なる。
「彼女を幸せにします。必ず。」
それを聞き終えた彼は、
――ふ…
と、柔らかく笑った。
「日本の神は嫉妬深いんだ。僕の前ではある程度、節度を持った行動をして欲しいな。」
「もちろんです。私も貴方を含めて……友人たちにあまりそういう場面は…見てもらいたくありません。照れくさいので………。」
「うそだよね?あなた変に大胆なところがあるじゃないかっ!
絶対にそのうち慣れて、人前でも『百合さ~~ん!』とか言って抱き着きだすよ!!」
大げさに、怒ったように言い張る、御真弓様。
「そういうイメージあるんですか……私。」
イレールは苦笑しつつも、ふわっと優しげに笑った。
「うん!予言するよ!!
イレールさんは絶対に、今以上に百合さんにデレッデレになると思う!!」
意地悪い微笑みに変わった白藍の瞳も、今はどこか優しげだった。
「まぁ……抱き着くぐらいは…見逃してあげてもいいかな?」
「…え?」
御真弓様は小さく呟いて、イレールの隣をすり抜けた。
「みんなが呼んでるよ。行こう。」
彼が視線を飛ばした先に、イレールも視線をやった。気づけば、クラウンが手招きして、二人を催促している。
「はい。」
イレールは頷いて、自分も彼の後に続いて、
友人たちのもとへと足を運んだ。
――「話すのかい……?」
クラウンは、こちらへと戻ったイレールに真剣な様子で尋ねる。
「はい。私達のもう一つの一面。そして……命が狙われていること…。
きちんとお話ししましょう……。この姿の私が、彼女を腕に抱き留めた今…。その方が、彼女の協力を得た行動もしやすくなりますから。」
「もう…その姿の自分を見られたくないとは、悩んでいないんだね?」
「はい。もう、迷いはありません。」
しっかりした答えに、クラウンはゆっくりと頷いた。




