12Carat ケ・セラ・セラ、Christmas Eve part2
前編後編の二つではなく、三つに分けました。part1は訂正前の前編のままですので、内容を知っている方はpart2から読んでいただいて大丈夫です。
一応、魔法生物であるケセランパサラン。
空間の壁をいともたやすく越えて、人間界と彼の店が繋がる場所である路地裏へと突撃していく。
「ケセララーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ケセランパサランは一斉に、まるで白い綿毛を凝縮して空に離したかのように、家一軒ほどの巨大な白い塊となって空を漂い、どこかへ風にのって流れていく。
それを追うイレールたちも遅れて人間界へ。
彼らは薄暗い路地裏の小道から、住宅街の屋根へと飛び上がる。
「ごめんなさい!こんなに増えてしまうなんて!わたしのせいだわ!」
ミカエラが追いかけながらも謝罪する。
「貴女のせいではないと思います。あの程度の白粉でここまで増えるなんてありえません!おそらく、あのケセランパサランたちの意志で増殖しているんだと思います!」
それを聞いたクラウンが尋ねる。
「お前はあのケセランパサランたちの飼い主、マスターじゃないのかい?魔法生物はマスターの言うことには忠実だろう?お前が戻れと命令すれば戻るんじゃないかい?」
「それが……私には懐いてくれなくて、百合さんをマスターだと認めているんです。私の言うことは聞き入れてくれないでしょうね…。」
「ぬぅ…今百合を呼びに行くわけにもいかんな。母親とのクリスマスを邪魔するわけにもいかん。」
クラースは眉間にしわを寄せて、天高く飛び上がっていった。
「イレール。ファントム・クリスタルの置時計の時に不浄なる心の怪物を正八面体で捕らえたでしょう?あれではだめかしら?」
「数が多すぎます。あれはダイヤモンドの原石を魔力で形成しなおしたものです。質量はそのままですから、あれだけ大きな塊を捕らえるほどの正八面体をつくりだせる質量をもった巨大なダイヤは持っていませんし、そもそも存在しないでしょう。他の鉱物でもそれは得策とは言えません…その方法は無理ですね……」
イレールたちは住宅の屋根の上を移動して、それを追いかける。
こうしている間にも白い塊は大きくなり、直径八メートルほどにまで巨大化していく。
「数を増やして、魔力も増大していますね。早いところ捕まえたいところですが、下手に魔法を使って人間にそれを目撃されると厄介です。」
「クリスマスイブでここら辺一帯は、人通りは極端に少ないけれど…最小限に抑えないとねぇ。」
低空飛行で周囲の様子を探っていたクラースが、屋根の上を駆ける三人に提案する。
「少し南へ行けば山がある。そこへ誘導してはどうだ?背の高い木々が生い茂っている。人間の目に触れる心配も低くなるだろう。」
「そうだね。そうしよう。誘導ではないが………じゃじゃーーーーーん!」
クラウンは懐から派手な水色のファーのついた扇子を取り出した。
「それ……扇子よねぇ?どうするのぅ?」
ミカエラが小首を傾げる。
ニヤニヤ顔をさらに緩めながら、クラウンはそれを広げる。
「これはとある団員の扇子だよ。まぁ、それはいいとして…これを大きくして思いっ切り彼らをあおいだら、一気にあの山まで押しやることができると思わないかい?」
それを聞いて一瞬呆れたような表情をしたイレールだったが、すぐに了承する。
「豪快なことを考えますね。でも……いい案だと思います。人気のないこの場所で、なるだけことを有利に運びたいですからね。……ミカエラとクラースは私の後に付いて来て、山の後方から彼らが飛散するのを魔法壁で防ぐ手伝をしてください。では、よろしくお願いします!」
イレールは指を鳴らして、二人を連れて山の後方へと移動した。
クラウンはそれを見届けると一気に駆け出し、加速し、飛び上がって、避雷針の先端に立つ。
風にのって聖夜を天高く漂う巨大な白い塊の前に立ちはだかり、通せんぼして、不敵にケセランパサランたちに笑ってみせる。
「ずいぶん数を増やしたね~。見上げないと端が見えないよ。」
そう言って上を見上げる。
十三メートルの避雷針のてっぺんにクラウンは立っているのだが、漂うケセランパサランの塊はそのはるか先まで巨大化していた。
ケセランパサランたちは凝縮して入道雲のようになって、星空を漂っている。
―――シャッ
「ではっ、いざ起こさん!盛大なる大旋風!!」
クラウンは閉じていた扇を勢いよく広げた――――
―――――バサッ!!
一瞬のうちに、クラウンの背丈ほどまでその扇子は巨大化する。
「そぉうらぁああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
彼はそれを片手でやすやすと振りかぶり、大きくケセランパサランの大群めがけて烈風を起こす。
―――ビューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
「ケセランパーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ケセランパサランは衝撃をあびて、気球をつぶしたかのように大きくへっこんで、吹き飛んでいった。
それを山の後方に立ったイレールたち二人と一羽が待ち構える。
「二人とも、魔力のこもった壁を形成してください!」
イレールとミカエラは両手を手前に広げた。
手のひらに自分の魔力を集中させると、透明に透き通る巨大な魔法壁を形成し、山の反対側を覆って衝撃に備える。
「俺も魔法の梟だ。足しになるか分からぬが、俺の魔力も使ってくれ!」
クラースも上空から二人に加勢する。
ケセランパサランの大群は豪快な風にのって、大きな白い塊として――――山に衝突した
「ケセセパーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
―――どぉおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!
山に衝突した彼らは、山肌にぶつかって盛大にちりじりになる。
イレールたちの魔法壁は山に落下しなかったケセランパサランたちを押しとどめ、何とか彼らが四散するのを防いだ。
「私はこちら側をふさごう!!」
クラウンが疾風のごとくやって来て、ケセランパサランの大群を受け止めるために開いていた魔法壁の一面を自分も魔法壁を作りだしてふさぐ。
「……今日が、クリスマスイブで良かったな。」
クラースが安堵の一言を呟く。
「そうねぇ……山がこんな状況になっているとこら、見られちゃったら…どうしましょう。」
ミカエラも困って頷いた。
山はケセランパサランに覆われ、雪山のように真っ白になっている。
魔法壁は彼ら魔法族の魔力で形成されているため人間には見えないのだが、このケセランパサランの大群をどうにかしなければならない。住宅街から少し距離のあるこの山は、クリスマスイブを楽しんでいる人間が室内に気をとられている限り視線には入らないと思われるが、次の策を考えなければならない。
「どうしようか……。」
クラウンが顎に手を持ってきて、考えを巡らせる。
イレールは思索しながら、懐中時計を開いた。
(今は……10時30分ですね。あと30分の間に…私達だけで対処できればいいのですが…30分間何とか彼らを抑え込んでおいて、11時になったら彼らがマスターと認める百合さんを迎えに行きましょう……なんだか複雑です。もっと違う気持ちで彼女を迎えに行きたかったのに…)
「おお~~~い!何事っすかーーー!」
「膨大な魔力を感じたから来てみたのよ!」
「あーーー!ケセランパサラン!」
「あーーー!たいぐん!」
「………すごい魔力。」
Cirque de Magiciensのサーカス団員であるブラック・スペード、レディー・アーレイ、妖精姉妹、マッド・クラブが騒ぎを感じ取って駆けつけていた。
「みんな来てくれたのかい!さすがだ!」
クラウンはうんうんと頷いて、自分の部下たちの優秀さに歓喜している。
イレールは手短に彼らに状況を説明した。
――――ズシーーーーーーーーーーーーーーン!!
突然、壁がきしむ音がした。
「ゲゼパァザァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ケセランパサランたちが騒ぎ始め、自分たちを山ごと覆っている透明な魔法壁に体当たりし始めていた。暗闇に何千何万もの小さい双眼が赤くらんらんと光り、怒りが込められている。
即席の魔法壁は大きくきしみ、今にもくだけそうな有様に、彼らは慌てて壁に駆け寄る。
「すみません、皆さん!魔法壁の強化にご協力お願いします!」
「ういっす!」
「分かったわ!」
「……了解。」
「「承ったの!」」
イレールの合図で、サーカス団の団員たちも魔法壁に手のひらを広げ、魔力を込め始める。
クラウンも魔力を壁に再び込め始めるが、イレールに少し焦ったように言った。
「私達のような人ならざる者は膨大な魔力の放出を敏感に感じ取れるだろう?今ここへ駆けつけたのがうちの団員たちだったからいいが、他の魔法族も集まってしまうかもしれない。妨害されまいとも限らないよ。」
イレールもそれに頷く。
「はい……ただでさえケセランパサランたちが増殖して魔力が強大になっているのに、私たちまで魔力を放出しすぎると……魔法族がひきつけられて、状況が悪化する可能性もあります。冷静に見て、この状況は具合が悪くなる一方と言えますね。」
クラースが彼らを少しでも落ち着かせようと、山の頂上付近まで飛び上がる。
「ケセランパサランどもよ!静まるのだ!でなければお前たちを一匹ずつ捕食してやってもよいのだぞ!」
翼を大きく広げて双眼で鋭く睨みつけながら、かぎづめを光らせ威嚇する。
―――ギロッ
おびただしい数のケセランパサランたちの真っ赤な瞳が一斉に彼に向けられた。
「ケセランーーーーーー!」
「セランパ!!」
「サランケーーーーーーーーー!」
口々に鳴き声をあげながら彼に向ってキバを見せつけ、威嚇し返す。
それが何千何万の規模となると……
「………う。」
この猛攻には猛禽類もひるむ。
「クラース!貴方さんざんケセランパサランを脅して遊んでいたんですから、逆効果です!戻って来てください!!」
遥か下で魔法壁を押さえつつ、イレールが叫ぶ。
「妖精姉妹!彼らが何て言っているか聞き取れないかい?」
妖精族のニンフである彼女たちはあらゆる魔法生物と心を通わせ、会話することができる。クラウンは彼女たちの能力に頼る。
二人は魔力を壁に伝えながら、目をつぶって耳を研ぎ澄ませる。
「一匹一匹が鳴き声をあげすぎて、いっぺんに何て言っているか聞き取りにくいけれど…。」
「ここからだせ!黒髪の子の所へ行くんだって言ってるの!」
「仲間を増やしているから、その子も喜ぶって!……わたしたちにはよく意味が分からないけど…」
「団長、意味分かる?」
幼馴染三人+一匹はハッとする。
「黒髪の子って、百合のことじゃないか!」
「ケセランパサランは百合さんを喜ばせようと思って、増殖して人間界に来たんですね!」
「じゃあ、この子たちはゆりちゃんの所に行きたがって反抗しているの。」
「やはり百合を呼んでくるしかなさそうだな。さすがに奴らの拘束を解くわけにもいかぬ。」
クラースは複雑な気持ちで、イレールに視線をやった。
イレールは懐中時計を開く。
――午後10時55分
(何とか持ちこたえられましたね…)
「11時5分前です。そろそろ彼女を迎えに行ってもいいはずです。百合さんにこの場を治めてもらいましょう。もうさすがに部屋に戻っているはずですから。では、この場はお任せします。」
「うん。任せられたよ!」
クラウンの返事を聞き、彼は指を鳴らして姿を消す。
(本当は百合と11時に迎えに行く約束をしていたからな……なんとかことをうまく運べそうだ。だが……お前はもっと違う気持ちであの子を迎えに行きたかったろうにな。)
二人の秘密の約束を唯一知っている彼は、相棒への同情を強めていた。
―――その頃の百合。
部屋へと戻った彼女は、パジャマから真っ白いワンピースに着替えていた。
そのワンピースはシンプルながらも、裾に白百合模様のレースが幾重にも重ねられて、膝丈のスカートのフリルは大きく、彼女が動くたびに大きくひらひらして、ワンピースでありながらドレスとも言えそうなデザインである。
そんなワンピースを着て、まるで雪の妖精のようになった彼女はどきどきしながら、イレールを待っていた。
「かわいいワンピースをお母さんからもらっちゃった。イレールさんがくれた宝石店の制服を見て、今はこういう女の子らしいのが好きなのかと勘違いされちゃってるけど……うれしいな……お母さんが私のために選んでくれたんだし…」
「あっ、もう10時55分だ。そろそろ来るよね……。何だかそわそわして落ち着かないな…。」
彼女はイレールへの贈り物が入ったバックと真っ白いコートを手に持って、ベッドに座り込んだ。
―――コン、コン
何かがガラスを軽くたたく音がした。
そちらのほうに目を向けると、イレールがベランダに立って、こちらに微笑んでいる。
百合も花が咲くような笑顔になって、彼を出迎えた。
「こんばんは、イレールさん!!寒い中ありがとうございます!」
「いえいえ、こんばんは……その服すごくお似合いです!雪の精のように可憐で―――ってそう言っている場合ではありませんでした!」
ドレスアップしている百合に一瞬気を取られた彼だったが、すぐに真面目な顔になって彼女を急かした。
「すみませんが、深刻な事態が起こっているんです!急いでコートを羽織って一緒に来てください!」
「え!!何事ですか!」
百合もただならないことを感じ取ってわたわたとコートを羽織ると、彼の手を取った。
―――パチン!
瞬く間に、彼女は見晴らしの良い屋根の上へと移動していた。
真っ先に彼女の目に映ったのは―――魔法族たちと―――雪も降っていないのに真っ白に染まり、薄ら表面が動いている、見慣れた近所の山
「………なんですか?あれ?」
百合は呆気にとられてそれをじーっと見つめる。
「真っ白いのは全部、ケセランパサランです。」
「えぇーーーーー!あんなに増えちゃったんですか?!」
「……はい。今はご覧の通り、私の友人たちが押さえていますが…根本的に解決できるのはマスターである貴女だけなんです。私がもっと近くまで貴女を運びますから、とりあえず彼らに大人しくするよう命令してくれますか?」
「……分かりました。自信はあんまりないですけど…やってみます!」
魔法族である彼らが手を焼いていることに自分が何か力になれるなら、了承する以外ない。
それを聞いたイレールは真剣な面持ちになって言った。
「高いので貴女は目がくらむかもしれません。目をつぶってください。」
「……はい?」
何が起こるのか不安になりながらも、彼を信じて目をつぶった。
「しっかりつかまっていてくださいねーーー!」
「きゃあ!へ?きゃあああああああーーーーーーーーーー!!」
そういうや否や、イレールは百合を横抱きにし、大きく助走をつけて魔法壁めがけて大きく飛び上がった。
漆黒のファーコートを着た魔術師が、美しい純白の娘を腕に抱き、聖夜の月にその影が浮かぶ――――
――――シュタァッ!!!
イレールはコートを翻し、勢いに乗って宙を跳躍する。
――トン……
彼は涼しい顔をして、山の真上を覆っている魔法壁に降り立った。
「………イレールさんの…言った通り、目は、つぶったんですけど…」
腕の中の少女のほうから、弱々しい声がした。
「びっくりしすぎて……腰が抜けちゃいました………」
すっかり青ざめてしまった彼女はしくしくと目に涙を浮かべて、彼を見上げた。
「わぁあああーーー!すみません!!怖がらせてしまって!」
イレールは大急ぎで彼女を下ろし、ぐったりとした肩を支える。
「本当にすみません!私のせいです!!」
「あはは…なんとか大丈夫です……町に居ながらジェットコースターに乗れた気分です…スリル満点でした…なかなかできない経験ができましたよ…」
「……こんな状態になってまで私を気遣わなくていいんですよ!」
本来なら魔法使いが黒いマントを翻し、腕に収まった美しい少女をお姫様抱っこで運んだ麗しいシーンに思えるのだが、どこか抜けている彼らの手にかかればこんな結果になってしまう。
二人の姿を地上に居たブラック・スペードがその目にとらえた。
他の魔法族よりも小悪魔である彼は、彼らの姿をよりはっきりと目に映している。
「ああーーーー!イレールさんと百合ちゃんっす!魔法壁のてっぺんにいるっす!」
「おお!来てくれたか!」
それを聞いたクラースが大きくてっぺんまで飛翔する。
「おおーーーい!どうだ?対処できそうか?」
「ああ!クラース!今百合さんがケセランパサランたちをなだめているところです。」
なんとか気持ちの落ち着いた百合は、座り込んで、自分の膝の下でひしめいているケセランパサランたちに話しかける。
「ケセランパサラン!聞いて!」
―――ギロッ
彼らのらんらんと光るおびただしい数の視線が彼女に向けられる。
――すべてのケセランパサランの口が裂けているのかと思うほどクワッと開かれ、小さな牙が覗いた。
百合はビクッとなって目をつぶったが―――
「ケセランパーーーーーーーーーー、ランラン♪」
彼女が耳にしたのは嬉しそうな鳴き声だった。
何千何万何億ものケセランパサランたちが彼女を見つけて嬉しそうにはねている。
そのたびに大きく魔法壁にぶつかり、割れてしまいそうな衝撃が起こってしまっていた。
「あっ!ダメ!落ち着いて!!えぇ……っと、どうしよう。そうだ!お座り、お座りだよ!ケセランパサラン!!」
気の抜けるような指示である。
「お座り、できんと思うぞ!百合よ!」
クラースは壁を補強しながらも、冷静な一言をもらす。
――――しーん……
ケセランパサランの動きが止まった。
「いやっ!…できましたよ!クラース!」
イレールは感激したように足元を見下ろした。
ケセランパサランたちはそれぞれ身を縮こまらせて、彼女を利口そうに見上げていた。
これが彼らなりのお座りなのだろう。
「何が起こっているのかしらぁ?」
ミカエラを含め、地上にいる魔法族は大人しくなったケセランパサランたちに呆気にとられていた。
イレールが百合のもとに駆け寄って、隣に片膝をついた。
「貴女なりの願いを、もっと彼らに伝えてもらえますか?貴女にも、そして彼らにとっても、幸せな未来が訪れるような願いを。」
「はい……私も、この子たちも、ですね。」
百合はケセランパサランたちを優しく見下ろした。
「あのね、みんな……。私が増えるといいなって思ったから、増えてくれたんだよね?」
「ケセラン♪」
「ありがとう。たくさんのあなたたちに囲まれて、とってもうれしいよ。でもね……」
「セランケ~~?」
表情を暗くした彼女に、ケセランパサランたちが不思議そうな声を出した。
「みんなに迷惑をかけるのは…ダメだよ。こんなに数を増やしちゃったら、私以外の人間はきっとびっくりしちゃうよ……それに、ここにいるみんなは大切な人と過ごすはずのクリスマスイブを…過ごせていないんだよ……。」
「セラ……ン。」
「…あっ!そんなに悲しそうな顔しないで!あなたたちと私たちが、幸せな気持ちになれるように……私のお願い…聞いてくれる?」
「ケセランパサーーー!♪」
彼らは嬉しそうに跳ね回った。
「……じゃあね。雪を降らせてほしいな。」
「雪を降らせて、みんなはそれに身を隠しながら旅に出て……交代で時々私に会いに来てくれないかな?…他の人にも幸せを届けながら。いつか私のもとへ戻ってくるの。そしたら私も幸せだし、みんなも一人でも多くの人に幸せを運んであげられるよね……?」
百合は顔を大きくほころばせた。
「それが私のお願いだよ。」
「ケセラーーーーーーーーーーーーン!!」
ケセランパサランは小さな目を細めて、笑っている。
彼らが叫んだ途端―――大きな光が放たれた
「きゃあ!」
足元からの光線に百合は目が開けていられなくなってふらつく。
魔法壁は崩れ、足場がなくなった百合は空中に投げ出される。
イレールは百合の手を取って、指を鳴らした。
―――気づいたときには、彼女は山のふもとに座り込んでいた。
「やはり貴女との移動は瞬間移動が一番のようです……大丈夫ですか?」
イレールが肩を支えて、隣に居てくれていた。
クラースがその隣にとまっている。
「百合!勇敢だったね。私のサーカス団にスカウトしたいくらいだよ!」
「よかったわぁ~~そういえばわたし天使だから飛べるということを、あなたがてっぺんから落ちそうになってやっと思い出したのよぅ……それぐらい心配だったのよぅ~~」
「いざとなったら、オレが助けに行っていたっすよ!オレはかわいい子の味方っすから!」
「何言っているの!あなたが関わったらトラブルに巻き込まれて状況が悪化するだけよ!そこは私、レディー・アーレイの出番よ!」
「「よかったの~~怖かったの~~心配だったの~~」」
「……誰だか知らない。でもそんなこと関係ない。良かった。無垢なる心、洗練された心の少女。これからよろしく。」
イレールの友人たちも安堵したように、座り込んでいる彼女を取り囲んでいる。
「みなさん…お騒がせしました……ありがとうイレールさん。一人で立てます。」
隣で支えてくれている彼にお礼を言いながら、ゆっくりと彼女は立ち上がる。
―――ちら……ちら…
粉雪が舞い始めた。
クラウンが、二人を見てハッとしたように口を開いた。
どこかいつもよりニヤニヤしている。
「では!ことも丸く収まったし……イブの続きをしようか!!ミカ、君の好きな酒がホテルのコースオードブルに有ったんだ。一緒に飲み明かさないかい?イレール、お前の作ったクリスマスディナーは明日の昼にとっといておくれ。ほらっ、クラースもおいで!」
「お前に指図されずとも、行くぞ!」
クラースはクラウンの腕にとまった。
ミカエラも口元を押さえて、わざとらしくちらっと二人を一瞥する。
「イブだし…たまには酒豪になろうかしらぁ。イレールも、良かったらあとで来てねぇ。わたしたちにもあなたのお祝い、させてほしいわぁ。」
ぞろぞろとみんなはクリスマスイブのパーティーに戻っていき、イレールと百合は二人きりになる。
イレールは二人に感謝するように微笑んだ。
ぞろぞろとみんなはクリスマスイブのパーティーに戻っていき、イレールと百合は二人きりになる。




