12Carat ケ・セラ・セラ、Christmas Eve part1
お話の重要な進行の都合上、彼らは今回クリスマスを迎えます。
12Carat ケ・セラ・セラ、Christmas Eve
Que sera sera(ケ・セラ・セラ)
~くだけたスペイン語で「なるようになるさ」の意
ケセランパサラン
~日本で昔、一大ムーブメントを起こした日本の妖怪。
ケサランパサランという呼び方が一般的。
丸い毛玉のような姿で、持ち主に幸運を運ぶとも言われている。
白粉にいれておくと増えるらしい。その生態は謎に包まれている。
どこもかしこもクリスマス一色にそまった12月24日の早朝。
商店街から一般家庭まで、飾り立てられたイルミネーションやクリスマスツリー、リースが見る人の目を楽しませ、別世界にいるような情景に人々は心躍らせる。
家に居てもテレビをつければクリスマス風のCMが流れ、家族だんらんの会話にもクリスマスは介入してくる。
日本人は異文化の行事を柔軟に取り込んで、ちゃっかり楽しんでしまう不思議な民族だ。
そして、ある住宅の二階。
少女が丁寧に包装された青い包みを大事そうに眺めていた。
「なんとか…できた。」
少女――篠原百合は、嬉しそうにそれを抱きしめる。
小さなミニテーブルの上には黒い毛糸玉、編み棒、包装紙、リボンが散乱している。
彼女は今になってやっと、ある人物へのクリスマス兼誕生日プレゼントを仕上げたのだった。
急いで立ちあがり、ピンクのパジャマ姿からその人物にもらった宝石店の従業員らしい服に着替えて、これまたその人物にもらった赤いリボンに楕円形のオーバル・カットのピンクサファイアが輝くバレッタで、髪をハーフアップにしてとめる。
身支度の済んだ彼女は、鞄にその包みをつぶれないように入れて、白いコートを手に取り、一階へ下る。
母親はもう起きて、目玉焼きとサラダを用意してくれていた。
百合はキッチンのほうに一言おはようと言って、朝食を済ませると、元気に出かけていく。
(いつ……渡したらいいかな…。)
少しだけ頬を染めて、鞄の中の包みをちらっと見やった。
(そういえばイレールさん、いくつなんだろう?人間より長生きしてそうだけど…)
「どうなさったんですか?難しい顔をして?」
「わぁ!!」
気づけばいつもの裏路地に着いており、イレールが隣に立っている。
「何でもないですよ~~ほらっ、このとおりいつも通りです!」
手をヒラヒラさせて慌てて取り繕う。
イレールは百合の顔をよぅく見るために、彼女の顔を覗き込んだ。
(……う…近い。)
彼にはまったく百合をときめかせようという意図はないのだが、百合は瞳を輝かせてしまう。
(睫毛長いな……すっごく澄んだブルーの瞳…白い肌…ほんとうに女の人みたい…いや、女の人よりもきれい……)
「……百合さん、目の下にクマが薄らできています。これのせいですかね。何だか疲れて見えます―――行きましょう!」
「え!?ちょっと~!」
そんな彼女にはお構いなしに、イレールは百合の手を取って指を鳴らし、宝石店へと強引に連れて行く。
彼はカウンターの椅子に百合を座らせると、キッチンからルビーレッドの液体をカップに淹れて運んできた。湯気が立って、酸っぱい柑橘系の匂いに近いそれを、彼女の前に置く。
「ローズヒップティーです。体をあたためて血の巡りを良くしてくれますから、クマがひいてくれますよ。」
「……ありがとうございます。きれいな赤色ですね。」
百合はそれをありがたく口に含む。
―――コツン、コツ
何か。カウンターから見て右側のショーケースのほうから音がした。
(なんだろう?)
百合は気になって音のしたほうへと視線を飛ばす。
すると―――
―――クラースが、何やら透明なビンをつついていた。
ジャムが入っていたようなそれは、ふたの代わりにラップで閉じられて、小さく穴があけられている。
「こら、クラース。あんまり怖がらせないであげてください。かわいそうでしょう。」
イレールがそれをいましめた。
「仕方ない。こいつは梟の狩猟本能をくすぐられるのだ。」
クラースはじつに楽しげに、ビンをつつき続けている。
百合は席を立って、そのビンの中を覗きこんだ。
クラースが鋭い瞳で見つめているのは―――――
白い毛玉
「クラースさんの抜け毛………ですか?」
くすっ!
イレールがふき出して口元を押さえる。
「クラースの……抜け毛…ですか。た、確かに……!くすっ!」
「ぬ…ぬけっ?!……ちがうぞ!」
バサバサと翼を広げて、慌ててつっこむ。大きな翼を広げると160cmを超す梟がそんな動作をすると結構な迫力がある。
「きゃあ!翼があたって意外と痛いです!落ち着いてクラースさん!」
百合が暴れるクラースから、必死になって身を引いていると、変な声が聞こえた。
「ケセランパサ~~~~~~!」
「ん?何ですか今の?」
その声は――――ビンの中から聞こえた。
イレールはビンを手に取って、彼女のもとに持ってきて、ビンの中を示す。
「覗いてみてください。かわいいですよ。」
「かわいい?白い毛玉にしか見えないですよ?」
彼の言葉に不信感を抱きながら覗き込む。
―――小さい瞳と目が合った
「きゃあ!め、目があった!」
百合は驚いて後ろに飛びのく。
「あはは!これはケセランパサランですよ!」
彼女のそんな反応にイレールは満足そうな笑みを浮かべている。
「ケセランパサランって……昔流行ったっていう不思議な生き物ですか?」
「はい。さっきクラウンのサーカス団の軽業師、妖精姉妹がクリスマスプレゼントにって持ってきてくれたんです。」
百合はもう一度、ビンの中をまじまじと覗きこんだ。
「ケセパサ~~、ラン!」
ビンの中のケセランパサランは小さいつぶらな瞳で百合を見上げている。
白いフワフワの綿毛が密集したような、直径三センチくらいの体をビンのそこに縮こまらせて―――小さくあくびをした。
小さな小さな、キバが二つちらっと見えた。
「……かわいい。」
怖がらせないように声を押さえながら、百合は顔をほころばせて、夢中になってケセランパサランを見つめ続けている。
「魔法界ではポピュラーなペットなんですよ。エサも必要ありませんし、白粉を入れておけば増えるので、一匹誰かにあげて、幸運をおすそ分けしたりもできますから。」
イレールはいっそう優しげに目を細めた。
「何より……見ているだけで癒されます。ふわふわ、まるっこくて、ただただ漂って、特になんてこともないようなシンプルな姿、居ないなら居ないで別にいい……なのに、なぜだか見ていてあきない。居たら居たで、じーっと見つめてしまう…………………まさに、人間界のマリモのような存在。それが魔法界での、ケセランパサランの世間的なポジション。」
「マリモですか………」
分かるような、分からないような例えである。
「せっかくですから、触ってみませんか?人懐っこくて大人しい性格ですから、触っても大丈夫ですよ。」
彼はビンを覆っているラップフィルムを取って、彼女にビンを指し出した。
「やったぁ!もこもこして触り心地よさそうです!」
大喜びでビンを受け取ると、手のひらにのせてみる。
「わぁ~~~!もこもこして気持ちいいです~~!」
「ケセラ~~~♪」
「よしよし~~」
「ケセパサラ~~~~♪」
手に乗ったケセランパサランはくすぐったそうに目を細めて、百合に大人しくなでられている。鳴き声も嬉しそうに甲高くなった。
「かわいいですね!私にもなでさせてください。」
イレールも手袋をはめた手をケセランパサランのほうに伸ばす。
―――かぷっ
ケセランパサランがイレールの人差指に噛みついた。
フーフー鼻息を荒くして、あぐあぐと指にキバを突き立てている。
「えっ!なんで私にはそんなに好戦的なんですか!?」
「イレールさん、そんなことより血が!!手袋に血が滲んでます!」
「嫌われてるな、イレール。」
「ケセランパサランって人懐っこくて大人しいんじゃないんですか?!」
「そのはずなんだがな。」
「やめて!!イレールさんに噛みつかないで!」
百合が慌ててケセランパサランをなでると、ケセランパサランは大人しくなって彼からキバを離した。
「パサ~~~♪」
噛みつかれた本人は手をさすりながらも、驚いた顔をしていた。
「百合さんの言うことは聞くんですね……」
クラースが彼の近くにとまる。
「どうやら自分のマスターはお前ではなく、百合だと認めたらしいな。」
「……嫌われる理由が分かりませんが、まあ、見ていて微笑ましいのでいいですよ。」
二人の目の前では、ケセランパサランと百合がじゃれ合っていた。
「次は右手にとまって~!」
「セランパ!」
両腕を広げてくるくるまわっている百合の周りをケセランパサランが漂って、彼女の右手にとまったり、頭にとまったりしている。
「本当に無垢だ。」
「はい。こんなに早く魔法生物が心を開くなんて。彼女の無垢な部分に惹かれるのでしょうね。」
「お前は無垢ではないからな。」
「あ……墓穴を掘りましたね。」
彼らがそんなやり取りをしている中、満足した百合はケセランパサランをビンに戻す。
「かわいいな~ケセランパサラン、いっぱい増えてくれたらな~~!」
「ケセラ~~~~?」
イレールは気を取り直した様子で、百合の隣に歩み寄る。
「ときに百合さん。今夜、11時ごろ……お暇ですか?」
彼が切り出したのは、クリスマスのお誘いであった。
「少しだけでいいので、ともに聖夜を過ごしていただけませんか?ご自宅のお部屋に、こっそりお迎えに行きますから。」
少しだけ照れくさそうに、彼は尋ねる。
百合は思ってもいないお誘いにドキドキしながらも、うれしそうに答える。
「夜はお母さんと過ごしますけど…その時間だったら、大丈夫です。待ってますね!」
(その時に……渡そう。うれしいな…まさかイレールさんが誘ってくれるなんて…)
クラースはその様子を、目を細めて見守っていた。
――――さて。時間は過ぎて午後9時になった。
聖夜を迎えた町にはクリスマスキャロルが流れ、あたたかい格好をした人々はそれぞれ大切な人と時をともにし、それぞれ忘れられない素敵な時間を紡ぎ出す。
それはこのサーカス団の魔法族たちも同じ。
「レディー!そこのから揚げ取ってほしいっす!」
「「わたしたちにも!」」
「はいはい、待ちなさい。」
団員たちは広いホールを貸し切ってクリスマスパーティーをしている。
長ーい長テーブルには様々な料理が次から次へとバイキング形式で運ばれて、豪快に団員たちに平らげられていくのだった。
ステージにクラウンが降り立って、マイクを握ると、わざとキーーーンと不協和音を鳴らした。団員たちが耳を押さえ、冷たい視線を彼に向ける。
「はは!みんな楽しい宴が台無しさ!さぁ!すまーーーーーーーいる!!」
クラウンはそれにおどけて答えた。
「ミスター・クラウン、いかがなさいました?」
フェアリー・ドラゴンが身をゆったりと横たえて、彼を優しく見据える。
「うん。みんな!申し訳ないんだが、これから私は約束があるのでね。しばらく出てくる!安心おし!どうせこの宴は朝までつづくだろう!それまでには戻るから、いい子で待つこと!!」
「えぇ~~団長抜けちゃうのー?」
「さみしー」
「戻らなかったら、団長の分のオードブル食べちゃうからね~~!」
皆は一変して寂しそうな表情になった。
「愛されてるな、私!!ほんの三時間ぐらいだ!では!!」
クラウンは颯爽とホールを飛び出して行った。
瞬く間に路地裏へたどり着くと、イレールの宝石店へと姿を消す。
―――チリン!
「お邪魔するよーーー!」
にこやかにドアを開けると、見慣れた幼馴染二人と一匹が出迎える。
「メリークリスマスなのよぅ!クラウン!」
「早かったですね。メリークリスマス!」
「来たか道化よ……あまり心を込めていないが、メリークリスマスだ。」
「こっちもあったかいね~、メリークリスマスだ!我が友よ!」
クラウンを交えて、イレールの手作りのクリスマスディナーを囲む。
イレールの私室にテーブルを運んで、白いクロスをひき、その上にクリスマスチキンやヴュシュ・ド・ノエル、あたたかいボルシチやその他様々な料理が並び、食欲をそそる。
「すごいわねぇ!イレール、あなたお店出せるわよぅ!」
ミカエラがテーブルの上に置かれた料理に目を輝かせた。
「料理が好きなだけですよ。喜んでもらえて光栄です。」
「おや、もしかして……このクリスマスチキンは…いつも屋根にとまっている、あの白梟を……?」
「ちがう!!俺ではない!見ろ!俺は健在だ!」
いつものように騒ぎ始めた彼らだったが、乾杯をして、食事を楽しみ始める。
「クラース、これは普段よりも数倍グレードの高い肉ですよ。」
「うむ!」
クラースも、しっかりクリスマスディナーを楽しんでいる。
食事に夢中になっていたミカエラだったが、窓辺に置かれたケセランパサランに気づいた。
「あら!ケセランパサランだわ!増やしてもいいかしらぁ?」
「いいですよ。私に懐いてくれてないので、ほどほどにお願いしますね。」
イレールは苦笑いしながらも、快諾する。
ミカエラは化粧ポーチから、粉のファンデーションを取り出し、ビンの中に入れ始めた。
イレールも席を立って、それを眺める。
―――ぽん!
ケセランパサランが一瞬にして、二つに分かれた。
「ケセラ~」
「セラ~~」
「かわいいわぁ~~!一匹分けてもらえないかしらぁ?」
「もちろんですよ。あとで空いたビンと一緒に差し上げますね。」
悠長に会話をしている二人の後ろを、クラウンとクラースは固まって見つめていた。
「どうしたんですか?そんなに固まって?」
「クラちゃん、目がいつもの二倍の大きさになってるわよぅ?」
「「イレーーーーールにミカエラーーーーーー!!うしろーーーーーーーーーーーーーーー!」」
クラウンとクラースの声が、珍しくシンクロした。
「うしろですか?」
「なにかしらぁ?」
二人は一緒になって後ろを振り向いた。
そこには
――――――大量のケセランパサラン
「ケセセンパ~~」
「ランパサーーーーーー」
「ケセパ?」
「セランパ~~」
各々鳴き声をあげながら、むくむくもこもこ、その塊は大きくなっていく。
「わぁ~~~!!」
「きゃあ!」
二人は急いで間合いを取って、その大群から距離を取った。
部屋の中のアンティークの猫足テーブルや調度品を押し倒し、盛大な物音をたてながら、天井につくほどの高さまで分裂を繰り返している。
突然、彼らの動きが止まったかと思ったが―――
―――ガシャーーーーーーーーーーン!
ケセランパサランの真っ白い大群はイレールの私室の窓を破って、外へと飛び出して行った。
「まずいです!人間界に押し寄せるかもしれません!!今この間にも増えているはずですから!あれだけの数の魔法生物が人間の目に触れては、パニックが起こります!!」
「そうだね。お前の言うとおりだ!」
三人と一匹は、大急ぎでケセランパサランたちの後を追って、飛び出して行った。




