第八話 メールセンター問い合わせ
夜。
自室。
窓の外では虫の声が鳴いていた。
湊はベッドへ寝転がりながら、ガラケーを見つめていた。
画面。
時刻。
23:48。
「……」
無意識に、メールセンター問い合わせを押す。
通信中。
数秒。
『新着メールはありません』
「……何やってんだ俺」
思わず苦笑する。
昔。
本当にこればっかりやっていた。
メール来てないのに。
何回も問い合わせて。
返信を待って。
着信音鳴るだけで心臓が跳ねて。
今思えば、めちゃくちゃ不便だ。
でも。
だから一通が特別だった。
その時。
ピロリロリン♪
「……っ」
心臓が跳ねる。
画面。
『雨宮澪』
湊は少しだけ深呼吸してから開いた。
『起きてる?』
それだけ。
たったそれだけなのに。
胸がうるさい。
◇
『起きてる』
返信。
送信。
数秒後。
『よかった』
短い。
でも。
それが澪らしかった。
『どうした?』
『なんとなく』
『今日楽しかったなって』
その文章を見た瞬間。
湊の胸が少し熱くなる。
昔。
好きな子とのメールって、終わらせたくなかった。
どうでもいい会話を、ずっと続けたかった。
『CD屋のやつ?』
『うん』
『あとコンビニのアイス』
思わず笑う。
そんなことで、こんなに嬉しくなってたんだ。
『藤沢くんさ』
『最近ちょっと変わったよね』
指が止まる。
『そう?』
『うん』
『前よりちゃんと笑う』
その言葉に。
湊は少しだけ画面を見つめる。
未来では。
そんなこと、言われなくなっていた。
『……昔は?』
送信。
少しして返信。
『なんかずっと遠く見てた』
ドキッとする。
まるで。
未来の自分を見透かされてるみたいだった。
◇
翌日。
昼。
ミナトモール。
ショッピングモール特有の涼しい空気。
「腹減ったぁぁ」
春斗が騒ぐ。
「フードコート行こーぜ!」
「またラーメン?」
「ラーメンしか勝たん!」
「古い」
みんな笑う。
当時。
休日の中学生は、とりあえずショッピングモールへ行っていた。
ゲーセン。
本屋。
フードコート。
CD屋。
意味もなく何時間もいた。
「うわ懐っ!」
圭介がゲーム売り場で叫ぶ。
「DSの新作出てる!」
「金ねぇ」
「お前昨日CD買ってたじゃん」
「それは必要経費」
慧は家電コーナーを見ていた。
「うわ、このウォークマン欲しかったんだよな……」
SONYのウォークマン。
当時の憧れ。
iPod派とウォークマン派で分かれてた時代。
「湊ってどっち派だったっけ」
七海が聞いてくる。
「……ウォークマン」
「だよね」
「なんかっぽい」
湊は少し笑う。
昔。
音楽を持ち歩くだけでワクワクしていた。
プレイリスト作って。
MDへ入れて。
通学中ずっと聴いて。
曲と景色が全部繋がっていた。
◇
「藤沢くん」
澪が本屋コーナーから出てくる。
手には文庫本。
「また本?」
「うん」
「何読むの?」
「秘密」
澪は少し笑った。
その空気。
距離感。
全部が懐かしかった。
当時。
好きってもっと静かな感情だった。
今みたいに簡単じゃなくて。
手が触れるだけで緊張して。
メール一通で浮かれて。
一緒に帰れるだけで嬉しかった。
「なあ!」
春斗が走ってくる。
「プリクラ撮ろうぜ!」
「男子だけは嫌」
「なんで!?」
また騒がしくなる。
その光景を見ながら。
湊は少しだけ思う。
未来では。
こういう“どうでもいい時間”を、一番失っていたのかもしれない。




