表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の向こう側  作者:
8/16

第八話 メールセンター問い合わせ

 夜。


 自室。


 窓の外では虫の声が鳴いていた。


 湊はベッドへ寝転がりながら、ガラケーを見つめていた。


 画面。


 時刻。


 23:48。


「……」


 無意識に、メールセンター問い合わせを押す。


 通信中。


 数秒。


『新着メールはありません』


「……何やってんだ俺」


 思わず苦笑する。


 昔。


 本当にこればっかりやっていた。


 メール来てないのに。


 何回も問い合わせて。


 返信を待って。


 着信音鳴るだけで心臓が跳ねて。


 今思えば、めちゃくちゃ不便だ。


 でも。


 だから一通が特別だった。


 その時。


 ピロリロリン♪


「……っ」


 心臓が跳ねる。


 画面。


『雨宮澪』


 湊は少しだけ深呼吸してから開いた。


『起きてる?』


 それだけ。


 たったそれだけなのに。


 胸がうるさい。


   ◇


『起きてる』


 返信。


 送信。


 数秒後。


『よかった』


 短い。


 でも。


 それが澪らしかった。


『どうした?』


『なんとなく』


『今日楽しかったなって』


 その文章を見た瞬間。


 湊の胸が少し熱くなる。


 昔。


 好きな子とのメールって、終わらせたくなかった。


 どうでもいい会話を、ずっと続けたかった。


『CD屋のやつ?』


『うん』


『あとコンビニのアイス』


 思わず笑う。


 そんなことで、こんなに嬉しくなってたんだ。


『藤沢くんさ』


『最近ちょっと変わったよね』


 指が止まる。


『そう?』


『うん』


『前よりちゃんと笑う』


 その言葉に。


 湊は少しだけ画面を見つめる。


 未来では。


 そんなこと、言われなくなっていた。


『……昔は?』


 送信。


 少しして返信。


『なんかずっと遠く見てた』


 ドキッとする。


 まるで。


 未来の自分を見透かされてるみたいだった。


   ◇


 翌日。


 昼。


 ミナトモール。


 ショッピングモール特有の涼しい空気。


「腹減ったぁぁ」


 春斗が騒ぐ。


「フードコート行こーぜ!」


「またラーメン?」


「ラーメンしか勝たん!」


「古い」


 みんな笑う。


 当時。


 休日の中学生は、とりあえずショッピングモールへ行っていた。


 ゲーセン。


 本屋。


 フードコート。


 CD屋。


 意味もなく何時間もいた。


「うわ懐っ!」


 圭介がゲーム売り場で叫ぶ。


「DSの新作出てる!」


「金ねぇ」


「お前昨日CD買ってたじゃん」


「それは必要経費」


 慧は家電コーナーを見ていた。


「うわ、このウォークマン欲しかったんだよな……」


 SONYのウォークマン。


 当時の憧れ。


 iPod派とウォークマン派で分かれてた時代。


「湊ってどっち派だったっけ」


 七海が聞いてくる。


「……ウォークマン」


「だよね」


「なんかっぽい」


 湊は少し笑う。


 昔。


 音楽を持ち歩くだけでワクワクしていた。


 プレイリスト作って。


 MDへ入れて。


 通学中ずっと聴いて。


 曲と景色が全部繋がっていた。


   ◇


「藤沢くん」


 澪が本屋コーナーから出てくる。


 手には文庫本。


「また本?」


「うん」


「何読むの?」


「秘密」


 澪は少し笑った。


 その空気。


 距離感。


 全部が懐かしかった。


 当時。


 好きってもっと静かな感情だった。


 今みたいに簡単じゃなくて。


 手が触れるだけで緊張して。


 メール一通で浮かれて。


 一緒に帰れるだけで嬉しかった。


「なあ!」


 春斗が走ってくる。


「プリクラ撮ろうぜ!」


「男子だけは嫌」


「なんで!?」


 また騒がしくなる。


 その光景を見ながら。


 湊は少しだけ思う。


 未来では。


 こういう“どうでもいい時間”を、一番失っていたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ