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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
海賊軍から銀取物語

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チープな事件の意図

 支えている男の震えが、腕から伝わってくる。男は深海魚に何かを伝えようとする。


「だ、だ、だま」


 ドカッ


 男が真横に吹っ飛んだ。


 ばしっ


 ほぼ同時に、私の頬は硬い衝撃を喰らう。男を蹴ったのも私を叩いたのも上官だった。


「舐められるな、(ルイ)


 上官の怒声が響く。何が何だか分からない。なぜ叩かれたのか。私は無言で、地面に転がった男を再び引きずり起こそうとした。


 深海魚は部下に命じ、私の役目を強引に交替させる。任務を全うしようと私が首を横に振って抗っても、深海魚がそれを遮った。


「オレの女を連れて行ってもいいか?」


 その言葉はあきらかに上官に投げられたものだった。上官がOKを出す。


 深海魚は険しい顔のまま、上官に断った。


「逃亡する船を止めてくれたことには感謝する。まず、戻ろう。いいかな?」


 有無を言わせない空気だった。私は半裸の深海魚に手首を掴まれ、仲間から引き離され、深海魚達の船に乗せられる。


 深海魚は私に優しかった。


「いつも殴られてんの?」

「初めてです」


 緊迫の場を離れ、ようやく私は殴られた理由が少し分かった。「口を開く者は斬れ」という命令に従わなかったから。では、なぜ斬る必要があったのか。それは聞かされていない。


「手、見せてみ」


 言われて、布を巻いた掌を上に向ける。右手の布には、傷口から滲んだ浸出液と血が混じり、淡い模様を作っている。痛い。気持ち的には平手打ちの方が勝る。ソツのないタイプで、恐らくは女ということもあって、上官から殴られたことなどなかった。もし傍に女の同僚がいたら、泣いていたと思う。不満をぶちまけながら。


「痛そ。な、あんたらのキーマンは、あの朱氏って宦官か?」


 私はテンプレを発動。


「第二皇子様です」

「はっは。いいって。散々話し合ってっから分かってる」


 じゃあ聞くな。


「瑞がすげぇってのは分かった。船に飛び移るとこ、曲芸師みたいだったし」

「……」

「あんま、無理すんな。オレが守ってやるから」


 優しく甘い声だった。ちょっと絆されたところで船が着岸してタイムアップ。陸には2人のおねえさんがシーツに包まったまま待っていた。守ってる女、多そう。さっきのセリフ、そこら中で使い古されてそう。


 深海魚は2人のおねえさんに「ハニー」とキスし、帰れと促す。


 それから、私の居室に薬を持って来させ、手当をしてくれる。


「船の方はいいんですか?」

「考えてるとこ」

「まさか、契約をなかったことにするとか」

「それも含め、考えてるとこ。目的はなんだったのか」

「目的ですか?」

「なんかさ、チープなこと仕掛けてさ」

「チープ?」


 深海魚は鼻で笑った。


「港を出たって、ここら一帯にはオレらの仲間がいる。黄緑色の服のヤツらなんて一発でOUT。逃亡なんてできねーし」

「ですね」

「逃げるなら、とっくに逃げてる。しかも、航海には最低でも数日分の食料が要る。そこまで用意してた形跡はない」

「食料。」


 盲点だった。


「十中八九、朱氏ってヤツが絡んでる」

「あ、」

「なん?」

「皇帝の船を返して欲しかったとか」

「だったら交渉するのが筋だろ」

「それはどうでしょう」

「だな。ははは。もともとは誰のもんでも、奪ったら自分のもんにするもんな、オレら。物も人も」

「役人になるのですから、これからはできませんね」


 契約で許されているのは、海賊の撃退。通行証の発行。護衛&案内料の徴収。


「それな。あーあ。所詮、金と命が惜しくてオレんとこ来ただけってのは、金で動くんだな。第二皇子に下手(したで)に出たことは仲間内に知れ渡ってっから」

「当然の行為ですが、あのときはびっくりしました」


 私は素直に、深海魚が第二皇子に跪いて盃を掲げた瞬間の衝撃を口にする。


「頭下げるのなんて、タダじゃん」


 なんと。メンツを気にする人種だと思った。意外にも合理的。相手を油断させる手かもしれない。


「では、それほど魅力的な提案だということですか?」


 浩宇の試算によれば、海賊が深海魚の勢力のみに集約され、ゆくゆくは国家予算を凌駕するほどの財が見込まれるらしい。


「まーな。プレゼンは10年後まで見積もってあったし。オレってまだ若いじゃん? 20年後とか、海の上に国作っちゃってるかもな。はは。なのに、仲間にしたヤツらに裏切られたし。なんか、金が全てってつきつけられた気ぃする」

「いっぱいあるんですよね?」

「あるある。でも、今んとこ、この海の上でも、央の国の方が力があるってことか」

「……」


 そこまで考えるっけ。


「はー。後始末つけないとな。瑞も来る?」

「行きます。私は央の国の軍人です」

「理不尽に女殴るとこ、やめれば?」


 その問いには答えなかった。



 第二皇子を中央に、両脇を朱氏様とお爺ちゃん宦官が固める。その後ろにはずらっと軍人が整列している。

 赤い絨毯が敷かれた部屋、深海魚は1人で対峙する。私は軍人の列の端に、場違いな女の服のまま、ちょこんと立った。


 第二皇子がよく通る声で宣った。


「皇帝陛下の船と船員を、央への手土産としたい。先ほど逃亡を食い止めたのは我が央の軍である。そのことを鑑み、我らの要求を受け入れよ」


 自分達の自作自演のくせに、よく言う。私は呆れた。


「承知いたしました。私からもお願いを申し上げてよろしいでしょうか」


 深海魚はあっさりと引き下がった。裏切った手下などいらないだろうし、巨大すぎて持て余していた皇帝の船を処分できると思ったのかもしれない。


「申してみよ」

「瑞を置いていってください」


 はああああ?! 断るよね、断るよね、だって私、第二皇子ママの第一側室の直属だもん。第二皇子に決定権なんてないし、第一、裏切り者&いらない船の負債の交換条件に、この私を差し出すなんてあり得ないよね。


 第二皇子は長い天然まつ毛に縁取られた目をまんまるにした。


「それでいいのか?」


 心の中では、懐から拳銃を取り出して電光石火の早撃ち。第二皇子の心臓に風穴を開けていた。


「瑞を譲ってくださるなら、積荷であった銀の30%もつけましょう」


 銀50万の30%は15万。あら、1500年くらい遊んで暮らせる。まあ、私って、それくらいの価値あるよね。


 私が心の中で納得している一方、居並ぶ軍人達は「嘘だろ」「はあ?」「なんであんなのが」とざわめいている。ちょっと、どゆこと?!


 第二皇子は更にムカつくことを口にした。


「30%。それは喜ばしい。だが、何故それほどまでにするのだ。そちらに利があるとは思えぬ」


 へーへー、そーでしょうよ。


「一つ、もともと拿捕すべき船ではありませんでした。

 一つ、こちらとしても海賊行為に相応の経費を掛けています。全てを無償で返却はいたしかねます。

 一つ、今後の海賊排除に向けた、軍備の増強に予算が必要です。

 一つ、我が港の秩序を守ってくださった、央の国への感謝の印でございます。

 そして、私は今後のために、自身の太っ腹なところを誇示したいのです」


 あれ? 私のこと1つも出てこなかった。上官! あなたのかわいい部下(殴られたばっかだけど)が大変ですよー。朱氏様、びしっと言ってください。


 私の願いを他所に、二、三言交わされ、皆が部屋を出ていく。軍人達はそれぞれ、私の肩をぽん、ぽんと叩いて「がんばれよ」「元気でな」などと無責任な言葉を投げていった。覚えてろ。泳いででも帰ってやるから。


 央の国側が私を残して退出すると、


 ばちん☆


 深海魚が首を傾けてウインクを飛ばしてきた。絶望。


「瑞、どーする?」

「抗議してきます」

「あ、そ。オレとしては残って欲しいけど、ま、好きにしな」

「『好きにしな?』」

「これで残りやすくなっただろ?」

「……」


 いえ、反対。ますます残らざるを得ない状況に追い込まれていますが。


「オレ、無理強いしねーし。抱く女は山ほどいるから。恋愛は諸行無常。恋のルールは去るもの追わず」

「しょぎょーむじょー?」

「東の島国の言葉。今この瞬間はめっちゃ好きだけど、永遠の愛とやらは誓えねー」

「……」


 うっわー。東の島国の男、サイテー。


「ま、オレの方はずっと好きだと思う。心変わりするとしたら女の方」


 あ”ー、何人も同時に愛せるんだよね? そーゆーの生理的に無理。それ以前に、私には好きな人がいるんだから。浩宇。男のフリしてでも側にいようって決めた人。


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