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ブラック副業、第二皇子隠れ補佐  作者: summer_afternoon
海賊軍から銀取物語

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43/61

舐めたらしょっぱい

「もうチェックしたし。オレら、銀の数が合ってりゃいいんだ。それ、何をどこでいくらで取引したかって記録。もういらね」

「では、こちら、私がいただいてもよろしいでしょうか」

「どーぞ」


 これはいいものを! だってだって、これって密輸の記録。しかも皇帝の船の。心の中に大手柄の花が咲く。


 べらり


 湿気を吸って固まったページを、剥がすようにめくった。思ったよりも丈夫な紙が使われている。縦書きで詳細が記されている。


「密輸の証拠の品になります」


 私は自信満々だった。深海魚は長イスの虎の皮の上に寝転んで「そっか?」と耳の穴を穿(ほじ)る。


「なりますよ。ここまで細かいなら」

「それが誰のかなんて、どこにも書いてねーし。名前もなけりゃ、印判もない」


 確かに。数字は並んでいても、これが皇帝の命令であることを示す署名はどこにもない。心の中に咲いていた大手柄の大輪の花が少し萎れる。


「でも、あの皇帝の船にあったんですよね?」

「そもそも、あの船が皇帝の物って、どうやって証明すんの?」

「それは、船員がいるので」

「オレが皇帝だったら『嘘だ』っつって、船員みんな殺す。証人バイバイ」

「強引ですね」

「それくらいするって。だから、その帳簿が皇帝の取引の記録って証明できない。捏造って言われて終わり」

「捏造ですか?! こんな細かいのに?」

「それくらい、貿易やってる商人に金払えば作ってくれる」

「……言われてみればそうですね」

「だから、捏造ってことで、訴えた側が処分される。殺される」

「難しいのですね」

「ってことで、それは、あんま、役に立たねーだろな」


 心の中にあった手柄の花は、すっかり花びらを枯れ閉じ、しょんぼりと(こうべ)を垂れた。


「では、一応。参考までに。捨てるくらいなら頂きます」

「しっかし、武装くらいしてくれてればいいのに、あの船。使えねー」


 しばらくすると深海魚は仕事に戻ることになった。仕事を見たいとリクエストしたが、あっさり断られる。まるっきり舐められているわけではなさそう。深海魚は、屋敷の奥への消えていった。


 居室を指定されたものの、身の自由は許されている。


 部屋を抜け出し皆と合流、港に係留されている皇帝の船が係留、その船に積まれていた銀50万以上、そして黄緑色の服の者達が元船員であることを報告した。


 仲間の軍人達の言い草が酷かった。


「お、瑞。女装してる」

「もともと女です」

「うっわー。深海魚にやられちゃった?」

「やられてません」

「あーあ。一応、瑞様のファンだったのになー」

「一応ってなんですか。で、やられてませんから」


 船に乗っていたメンバーは、付近を自由に歩き回ってもいいと言われたらしい。船がなければどうせ帰れないという、海賊側の余裕の表れだろう。視察した者達は、あまりの繁栄ぶりに驚いていた。


 今回、第二皇子は毒味係を連れていない。お爺ちゃん宦官をそれをしている。危険な役目のはずなのに、海賊に全幅の信頼をしているらしく、ひたすら美味しい美味しいと舌鼓を打っている。第二皇子はその様子にヨダレを我慢している。


 私が第二皇子や朱氏様へ直接報告するのは本来ならば不自然。しかし、三日月港で私のブラックな副業を知ってしまった上官が、さりげない距離にポジションを取ってナイスプレーをしてくれた。


「お渡ししたいものがございます。しかし、ここではお渡しできません」


 私の囁きに、第二皇子、朱氏様、お爺ちゃん宦官、上官が連れ立って広間を後にする。別室に移動する際、上官は足を止めた。


「私は散歩に出かけます。失礼します」


 第二皇子に礼を取り、屋敷の出口へと歩いて行く。


 第二皇子の居室で円テーブルを囲む。私は懐から帳簿を取り出した。


「ほう。なかなか興味深い。隠し亀甲綴じですな。これは、皇帝のお側近くで文書を扱う我ら宦官が、密かに受け継ぐ防封の技法」


 中身を見てもいないのに、お爺ちゃん宦官が帳簿の閉じられた背を扇子の先でなぞった。その様子に、朱氏様も「なるほど」と頷く。は?


「通常の文書は四つ目綴じ。綴じ糸を切れば、簡単にページを差し替えられます。ですがこれは、表向きは四つ目に見せて、その内側に六角形の亀甲綴じを一定の枚数ごとに入れ込んでおります。文書の改ざんができないのです」


 ページを破り取ろうとしても亀甲綴じに阻まれて紙が残ってしまう。仮にそれをうまくやったとしても、ページ数が合わなくなる。閉じ紐を外して閉じ治そうとすると、亀甲綴じの部分と四つ目綴じの部分が分かれているので、ページ数が合わなくなり、亀甲綴じの穴が露見してしまう。密輸船の者達が横領できないようにしてあるのだろうとのこと。


 第二皇子が尋ねる。


「知らなかったよ。それは皇帝に関する文書に特定されるの? それとも、公文書全部に適用されてるの?」

「皇帝側近限定でございます。我々一部の宦官しか知りません」


 お爺ちゃん宦官の答えに、朱氏様はブラック発言を追加で注ぐ。


「官僚達が使うわけがありません。彼らにとって文書改ざんは日常茶飯事」


 第二皇子は帳簿を手に取り、ページを開く。すると、隣からお爺ちゃん宦官が手を伸ばし、紙を撫でる。


「間違いありません。宮廷に納められる最上級の紙が使われております。少しごわごわしておりますが、光にかざせば、上の中央部分に透かしが入っているでしょう」


 第二皇子は紙を窓の光にかざした。龍の模様が浮かび上がった。


「はー。父上ったら。こんなところに証拠を残して」


 その言葉をお爺ちゃん宦官はやんわりと否定する。


「証拠にはなりますまい。『官僚が宮中の者に冊子を盗ませて売買記録を書き込んだ』で済む話」


 権力争いの最前線では、データの捏造など呼吸をするように行われているらしい。官僚達も隠し亀甲綴じをすればいいのに。


「ねぇねぇ、紙がごわごわなのは海だからかな。僕も透かしなしのこの紙を使ってるんだ。でも、お茶をこぼして乾かしたとき、こんなバリバリにはならなかったよ」


 どう見ても、独特のごわつき感に首を傾げていた第二皇子は、


 ぺろ


 ページの端を舐めた。


「殿下ぁぁああ?!」


 高貴な者あるまじき振る舞いに、お爺ちゃん宦官が目を見開く。私も驚いたんだけどさ。あまりの驚きに声も出なかったよ。


「しょっぱい」


 と第二皇子が一言。


 すかさず朱氏様が勇気ある行動を讃えながら(たしな)める。


「殿下、自ら真実を確かめるその探求心、恐れ入ります。あ毒味も通さぬ物を口になさるとは。しかしながら殿下、皇帝陛下や側近の者に、どこぞから拾ってきた物を舐めろとは申せません」


 うんうん。


「そうだね」と第二皇子も軽く反省している。


「こういったことは、王先生や浩宇が得意でしょう。都に持ち帰りましょう」


 第二皇子は「それがいいね」と無邪気に言いながらページを捲る。


 今回、王先生は同行しなかった。王先生は医師の鑑。「長い航海には医師が必要です」と言ったのに、皇帝じきじきに都に留め置かれた。腕のいい医師がいても、心から信頼できる医師は少ないというのが理由だった。ちょっと第二皇子が不憫。息子の命<王先生の命。まあ、王先生のお人柄を知っているから理解できるけど。


「あれ? なんか挟まってるよ」


 第二皇子は、帳簿を広げ、紙を綴じてある部分から、爪を使って挟まっているものを取り出す。1本の縫い針だった。


 更に、そのページの汚れを指差す。


「ここにこれを落っことしたのかな?」


 それは、文字の上を横切るように残された透明な油染みだった。第二皇子が縫い針を添えると、汚れの形と針の輪郭はピッタリ重なる。


 縫い針の長さは5cmほど。そして油。


「失礼致します」


 私は頭に飾っていた髪飾りを外し、帳簿の上に置かれた針を撫でた。金銀で飾られた部分ではなく、髪に固定する部分の鋼で。金銀は磁石に反応しない。針を引き寄せるのは鋼。


「「「おおっ」」」


 鋼の部分に、弱々しいながらも針の先端がくっついていく。


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