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18話「魔王様と山田決着?」

魔王から放たれる、物理的な質量を伴うかのような重圧プレッシャー。漆黒のタイツに包まれた山田の身体は、本能的な恐怖からか、微かに、だが確実に震えていた。


「……ッ、ハッ! 何が魔王だ! ただ銃の扱いが少し上手いだけだろうがッ!」


 山田は己の臆病を振り払うように叫んだ。500倍の負荷から解放された今の自分なら、弾丸など止まって見えるはずだ――そう自分に言い聞かせ、彼は地を蹴った。


「今度はこっちから行くぞ! 食らえッ、『黒い旋風ブラック・トルネード』!」


 叫びと同時に、山田の姿が消失した。

 超高速移動。あまりの速さに、舞い上がった埃さえもがその場に静止しているかのように錯覚させる、絶対的な速度の暴力。

 一瞬にして魔王の背後へと回り込み、その無防備な背中に必殺の拳を叩き込もうとした、その直後。

 ――山田の動きが、まるで時間が凍りついたかのように、ピタリと静止した。

その背後、魔王は振り返ることすらしない。ただ悠然と、勝利を露ほども疑わぬ背中で語っている。


「どうした? 攻めてこないのか?では、死ぬがよい 」


魔王の低く響く声には、もはや山田への興味すら失せかけているような無関心が混じっていた。彼はつまらなそうに愛銃『マーク13』の引き金を引き、無慈悲に「終焉」を告げる。

 放たれた一弾は空を裂き、山田は何が起こったのかさえ理解できない驚愕の表情を浮かべたまま、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 端から見れば、それは底知れぬ実力差による圧倒的な勝利。――だがその内心、魔王は心臓の鼓動を鎮め、冷や汗を拭いたい衝動を必死に抑え込んでいた。


(……あぶねぇっ! 全く見えんし、どこにいるかもサッパリわからなかったぞ! 間に合って本当に良かった……あのスーツが魔導具でさえなければ、今の俺様では確実に詰んでいたな)


 実は、魔王が先ほど放った一弾。あれは単に鍵を弾き飛ばしただけではない。弾丸の先端には、着弾の瞬間に展開される「強制プログラム改変コード」が書き込まれており、山田のスーツを掠めた刹那、その制御系を完全に掌握していたのだ。


(魔導具の基礎OSが、俺様の設計した頃の仕様のままだったのは幸いだったな。書き換えなど造作もない……。バッテリーのオンオフ設定を反転させ、負荷係数を従来の三倍――すなわち、この『黒い状態』で一気に【千五百倍】の負荷がかかるよう書き換えてやった。なかなかの薄氷だったぞ、ふぅ……)


 「魔導具」という言葉を聞いた瞬間にその構造的弱点を見抜き、即興のハッキングを成功させる。だが魔王は知らない。そんな神業かみわざを思いつき、かつ一瞬で実行できる者など、この世界には他に一人として存在しないことを。


 一方で、激動の展開に完全に取り残されたエリザベスは、奪還した鍵を自らの身体で守るように抱え、ただ呆然とその光景を見守っていた。彼女の瞳には、かつてないほど「魔王」としての冷徹な威厳を放つ主の姿が、鮮烈に焼き付いていた。


「魔王様……! 今の、もの凄く格好良かったです!」


 感極まったエリザベスの声が、静まり返った瓦礫の山に響く。しかし、当の魔王は愛銃をホルスターに収めると、背後のエリザベスに振り返ることさえしなかった。


「……そうか? フン、そんなことより……。隠れて見ていないで、さっさと出てきたらどうだ? 『枝豆コーヒー』」


 魔王の視線の先――そこには、いつからそこに居たのか、戦場を見下ろす物陰からこちらを伺う影があった。


「……ふふっ、流石は私の魔王様。あの鮮やかな手際、私は心の底から感動しました!」


 芝居がかった仕草で姿を現したのは、顔を「猫の仮面」で隠した謎の人物。しかし、その声には隠しきれない熱量と、どこか粘着質な歓喜が混じっていた。


「でも、嬉しかったんですよ! 私の事を『大切』だなんて。いつも貴様、貴様と呼んでるくせに……実はむっつりさんなんですね! でもでも、本当は『恋人』と呼ぶのが恥ずかしかっただけなのでは?」


 頬に手を当て、くねくねと身をよじる仮面の女。そのあまりにも一方的かつ重すぎる愛の告白を前にして、エリザベスは引き攣った笑いを浮かべたまま、そっと遠い目をした。


(……はぁ。また随分と属性の濃いのが来たなー。魔王様の周り、まともな人間が一人もいないんですけど……なんか聞き覚えのある懐かしい声な気がするのは⋯⋯魔王様と電話でよく話しているから、でしょうかね)


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