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17話「魔王様と鍵の行方?」

幼少期にテレビの画面越しに見た、色鮮やかな戦隊ヒーロー。その眩い姿に魂を奪われ、正義の味方に焦がれた少年、山田サラブレッド。彼は、どこにでもいる、ごく普通の……そして少しだけ夢見がちな少年であった。


 そんな、誰の興味も惹かないであろう孤独な半生をと語り終えた山田に対し、魔王は深く、深く得心したように首を縦に振った。


「なるほど……。お前も、大変だったのだな」


 瓦礫の上に腰を下ろし、まるで行きつけの居酒屋で苦労話を聞かされた常連客のような顔で、魔王は重々しく頷いている。


「……って、今の回想にスーツの秘密、1ミリも関係なかったですよね!?  しかも魔王様、何でめちゃくちゃ親身になって聞いてあげてるんですか!?」


 エリザベスの至極真っ当なツッコミを置き去りにして、漆黒の山田はさらに声を張り上げた。


「僕は生まれつき魔力が無かった。だが、このスーツに出会って人生が変わったんだ! ……実はこのスーツ、バッテリーがある間は着用者に『五百倍の負荷』がかかる、僕の強すぎる力を強制的に封印するモードが作動しているのさ!」

「……は? 五百倍の負荷……?」


 エリザベスは呆れを通り越し、もはや未知の生物を見るような目で山田を凝視した。


「そう! つまり、バッテリーが切れて色が黒くなった今! 僕を縛る封印は完全に解かれ、本来の力を発揮できているというわけだっ!」

「…………。いや、それなら最初から、そのスーツを着てこなければよかったのでは?  その方が五百倍以上強いですよね?」


氷のように冷ややかで、一点の曇りもないエリザベスの正論。しかし、その言葉が山田に届く前に、瓦礫から這い出した魔王が割って入った。彼はエリザベスを憐れむかのように鼻で笑うと、仰々しく人差し指を左右に振ってみせた。


「エリザベスよ! 違うな。間違っているぞ! ……山田⋯⋯そう山田の方がよほど理解しているではないか。ヒーローとは一度絶望的なピンチを演出し、そこから逆転劇を見せてようやく本気を出すという……『鉄の掟』がある」


魔王は堂々と語り、さも「自分は高尚な文化を理解している」と言いたげに胸を張った。隣で聞いているエリザベスは、魔王のあまりのアホさに、もはや怒りを通り越して深い絶望の淵へと叩き落とされていた。


「へぇ……。魔王、君には意外と見どころがあるじゃないか。僕たちの『美学』をこれほど正しく理解している者が魔族にいるとはね」


 漆黒のタイツに包まれた山田は、心底感心したように深く頷いた。そして、あろうことか魔王に向けて、友愛に満ちた手を差し伸べた。


「どうかな? 魔王なんて野蛮な事は辞めて、僕と一緒に【世界管理局】へ来ないかい? 君ならきっと、素晴らしいエージェントになれるはずだ」


差し出された山田の手には、先ほど魔王から盗んだ「鍵」が握られたままであった。


「…………」


エリザベスは天を仰いだ。

 物理的な敗北よりも、魔王が敵の「アホな熱量」に感化され、あろうことか魔族の矜持を捨てて転職しかねないという未曾有の危機。これこそが、彼女が今日まで最も恐れていた事態だった。

 だが、そんな彼女の懸念を余所に、魔王は口角を吊り上げ、ニヒルな笑みを浮かべて山田を見据えた。


「フハハハ! 間違っている、間違っているぞ、山田サラブレッドよ! 確かにヒーローが追い込まれてから本気を出すのは、実に格好良い、心躍る展開ではある……」


 魔王の声から、先ほどまでの「同情」が消え失せ、底冷えするような覇気が立ち昇る。


「……だが。その美しき逆転劇すらも、根底から無慈悲に蹂躙していくのが『魔王』だとは思わんか? それにな……その鍵は、俺様の友人の大切なモノらしいのでな」


 刹那。

 魔王の右手が残像を残してホルスターへと伸びた。愛銃『マーク13』が抜かれ、銃口が火を吹いたのは、ほぼ同時。

 放たれた一弾は、山田の鼻先を掠め、彼が握りしめていた「金細工が複雑に絡み合い、大粒の魔石が埋め込まれた鍵」だけを正確に弾き飛ばした。放物線を描いて宙を舞った鍵は、呆然と立ち尽くすエリザベスの足元へ、ころりと無造作に転がった。

 それは、目にも止まらぬ、魔王の早業であった。


その場に、重苦しい沈黙が流れる。


「……ッ!? な……何をした……!?」


 何が起こったのか、自分の手からなぜ鍵が消えたのか。その事実にすら思考が追いついていない山田は、くうを掴んだままの右手を震わせ、戦慄に目を見開いた。

 そんな無様な「正義の味方」を冷ややかに見据え、魔王は不敵な笑みを深く刻んだ。


「……おい、貴様。さっき何と言った? 『動きに反応すらできなかった時点で、勝ち目はない』……だったか?」


 魔王は、銃口から立ち昇る一筋の硝煙を、優雅に、そして残酷なほど無関心に吹き消した。その冷徹な双眸は、獲物を追い詰めた猛獣のように山田を射抜いている。


「……違うな。そんな顔をするな。今のが、お前の言う『絶望的なピンチ』というやつか?」


 魔王は一歩、また一歩と、瓦礫を鳴らして山田との距離を詰めていく。その足取りには微塵の迷いもなく、圧倒的な威圧感がその場を支配した。


「さあ、見せてみろ。貴様が誇る『本気』とやらを。……お前が信じるその逆転劇ごと、俺様が根こそぎ壊してやる」



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