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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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新婚旅行の場合 40

 その後もたっぷりと天界に魔界の商品を紹介し満足したアルシエルはフィランジェルと共に魔界へ戻ることにした。ただでは帰らないアルシエルの悪魔的な商才を横目で見ながらフィランジェルはワーカーホリックと言われた意味をここにきて痛感していた。同時に自身の魔力が大幅に変化しない理由についても、ようやく納得した部分があった。


「…もう…いつの間にそんな薬を飲んでたの?しかも媚薬としてもちゃんと使えてるって…信じられないよ」


「私は諦めが悪いんだ。君の翼は諦めたが、その天使の力はまだ諦めてはいない」


「…それで身体は大丈夫なの?アルシエル」


「問題ない。先ほど君の放った力は心地良かった。たが魔界であれをやると…他の悪魔が驚いてしまうから、場所は考えないといけないな」


 天界の塔から出ると遠巻きにしていた天使の中の一人が近付いてきた。かなり怯えている。他の天使はこちらに近付くこともしない。


「あのっ…私はミュリエルといいます…て、天使と悪魔が結婚したら悪魔になるって…本当なんですか?」


「…うーん、私の場合はそもそも堕天してたし、その後、保管塔の翼が燃えちゃって転生者の方の私が死にかけたから、アルシエルに悪魔に変えてもらったんだよね。私は今、アルシエルと結婚してお腹に子どももいて…悪魔だけど天使の力も使える中途半端な状態なんだ。ま、だから結婚したから悪魔になった訳ではなくて魂の消失を防ぐために悪魔に変えてもらったってだけ」


 フィランジェルの言葉にミュリエルと名乗った天使は少しホッとしたような顔になる。


「どうしたの?」


「あの…実は…私…ドジでうまく飛べなくて…浮島にぶつかって落下したときに…悪魔に助けられたことがあるんです…その方にお礼の手紙を渡したくて…!」


「ちなみに、その悪魔の名前は?」


「か、カイムさんです…そう名乗ってました」


「カイムが!?へぇ…知ってるよ。真面目でいい奴だよ。もしかして好きになった?」


「そ、そんなことっ…!!」


 けれども慌てて首を振ったミュリエルは赤くなっていた。


「…またカイムに会いたかったら…新しく人員を募集する天界の事業に名乗り出るといい。私はあの企画が通ると見ている…ミュリエル…私が目指すのは魔界と天界の共生。天使も悪魔もその出自に囚われず互いの尊厳を持ったまま、共に繁栄し自由に交流できる世界を作りたいんだ。ま、言ってみれば我々はその先駆けとして、悪魔が天使と子どもを作れば天使の力を本当に失うのか…もしくは魔界が開発した薬の力でそうなっても天使のままでいられるのかを…試しているところだ。なに、あと十カ月ほどすれば子どもが産まれるから、そのときにフィランジェルの力がどうなっているかも分かるだろう」


 アルシエルは微笑むとフィランジェルの肩を抱き寄せる。


「天使どうしもこうやって触れ合うことくらい罪でもなんでもない。愛し合う行為が罪深いと言うなら私は罪深くて構わないよ」


 アルシエルは笑いながらフィランジェルに口付けをした。ミュリエルは更に赤くなる。天使はこういったことに免疫がとことんない。フィランジェルはそう思った。


「ちょっと!そんなところでまた見せつけないで下さいよ!!」


 浮島が移動しないように天界の岸辺に繋いでいたラグエルが声を張り上げる。


「もうっ!この辺にいるのは若い天使が多いんですから、すぐに影響されるんですってば。仕事にならなくなるじゃないですか」


「ラグエルも大変だね。ミカエル上官みたいに少し適当になったらいいと思うよ」


 フィランジェルが言うとラグエルは嫌そうな顔をした。


「ミカエルさまは、下界に出張に行く度にしょうもないことばかり覚えてくるんですから、手に負えませんよ。毎回イオフィエルの愚痴を聞かされるこちらの身にもなってほしいですよ。僕は堕天するとしたら、ミカエルさまが真っ先にそうなりそうだと思っているところです」


「安心しろ。ミカエルが堕天したら魔界の王宮が雇用する。ベルフェゴール大佐がカイムを奪われて退屈していたら話し相手くらいは務まるだろう…」 


 アルシエルはカイムも隅に置けないと思いながら純情そうなミュリエルをちらりと見た。二人が浮島の上に移動するとラグエルは縄を外して、手を振る。アルシエルは浮島に魔力を流して下降するように促した。


「また、来てくださいねー」


 ラグエルが叫ぶフィランジェルは手を振った。


「…この島を育てて基地に造り替えようと思うからこのまま王宮まで帰るぞ」


 アルシエルが言う。


「えぇ!?ちょっと気が早いんじゃない?まだデジタル化の話だって提案しただけでしょ?」


「誰が提案したと思っている?これは近々実現すべき未来への最初の一歩に繋がる悪魔の囁きだ…まだ若い世代の天使がいるうちに始めておいた方がいい。天使だって高齢化が進めば変化に対しては保守的になりがちだ。むしろガブリエルみたいなのは例外と言ってもいい…」


「あーガブリエルね…」


 フィランジェルは浮島に腰を下ろすと両手を広げた。アルシエルは座ってフィランジェルを抱きしめる。


「いつの間にガブリエルとそんな話をしてたの?私の知らないことばかりだ…」


「…怒ったか?」


「ううん…ちょっと意外だなって思っただけ。少し潔癖なところがあると思ってたから…」


「そうなのか?」


 それは彼がフィランジェルに対して抑圧している時だけだとアルシエルは理解していた。わざわざ告げる必要はない。本人が絶対に認めないのだから仕方ない。それにあの媚薬を勝手に渡してしまったのは元はと言えばルシフェルだった。だがそれを言ってしまうと、まるでルシフェルが天使の繁殖計画を企てているかのような誤解を招く。あの媚薬を使い出してからガブリエルはあちらの世界で確実に魔力を操りやすくなったようだった。異世界の悪魔の駆除が済んだとはいえ、あちらの世界にルシフェルたちのみを残しておくのは少し不安だった。そのフォローに天使を利用するというのも変な話だが、ガブリエルは協力してくれている。そして独自に繁殖計画はすでに始まっているとも言えた。


「そういえば…ガブリエルから連絡が入っていたのだったよ…天界まで行くと魔界の魔力が届かなくて…内容が見れなかったのだが…」


 アルシエルはタブレットを取り出す。ガブリエルからはただ短くこう書かれていた。


『王女が妊娠した。契約パートナーをやめて入籍する』


「おや、ガブリエルが結婚したようだよ。ちょうど話題にしていたら…契約パートナーが妊娠したらしい」


「えっ!?あのガブリエルが!?あんな胡散臭い見た目の人と結婚する人なんているの!?」


 フィランジェルは叫び声を上げる。天界にいたときはもっと厳しい軍人のような顔付きをしていたのに、異世界で再会したガブリエルにそのときの面影はなかった。随分と怠惰に、良く言えば角が取れて丸くなったと言えた。アルシエルはフィランジェルの叫びを聞きながら、少々ガブリエルが気の毒になる。その間にも二人を乗せた浮島はどんどん下降し、遠目に王宮が見え始めていた。

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