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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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新婚旅行の場合 26

 動物園からは車を乗り換えるようだった。見るからに頑丈な作りの車に乗って一行は出発する。ここは少し曇り空だ。個別に貸し出しができないエリアもあるらしくネビロスが詫びていた。ルイは先ほど探られた痕跡がまだ身体に残っているようで、どこか落ち着きがなかった。ストラスがさりげなく触れて痕跡を消し去ってゆく。というのも五人以外にも三組の男女の悪魔が乗り込んでいたためだった。一方は随分と大胆で、我先にと乗り込んで広い座席を陣取って女の方はすでに男性の膝の上に乗り外の景色はそっちのけで口付けを交わしていた。残りの四人は学生なのか、チラチラとそちらを窺いつつ、気まずそうな顔付きで景色を見ている。付き合ってもいないのかもしれない。互いにどこかぎこちない雰囲気だった。リツとルイはすでにまるで恐竜のような大きな首の長い生き物に驚いて歓声を上げそうになったが、まるで幼い子どものようだと慌てて我に返る。


「リツ…やっぱり生き物全部が巨大だね…」


「うん…すごいね…」


 二人はヒソヒソと小声で話していた。そんな二人の肩をシエルとストラスがさりげなく引き寄せる。どこか意味ありげな手付きで触れられてリツは困り顔でシエルを見上げたが、彼は素知らぬフリで窓の外を見ていた。


「ルイ…まだ気になるのか?」


 ストラスがルイの耳元で囁きながら、うなじに口付けをする。ルイは慌てた表情をしたが、声は上げなかった。ストラスは面白そうにルイの花びらのように重なったドレスの胸元に指を這わせる。ピクリとしたがルイは我慢する。


「ほら…外…見てよ…ねぇ…」


 ルイは窓の外を指さして思わず赤くなった。先ほどまでキスをしていた二人組がじっとこちらを見ている。ストラスはルイの胸元に視線を落とした。


「景色よりも…こっちの方がいい眺めだな…」


「意地悪…しないで」


「うん?」


 ストラスは聞こえないといった様子でルイの唇を奪った。ルイは押し返そうとして両手を封じられ抱き寄せられる。思わず目を閉じてしまったが視線を感じた。見られている。ストラスはしばらく濃厚で一方的な口付けをしてルイを翻弄した。とうとうルイが我慢できずに吐息を漏らすと、ストラスは満足した様子で唇を離した。ルイは赤い顔をストラスの胸に押し付けて肩で息をしていた。細いうなじにくっきりと跡が残っていた。ストラスはまだ不躾に見ている二人の悪魔を目だけで威圧した。慌てて二人は窓の外に視線を逸らす。


「対抗するにしても…やり過ぎだ」


 シエルが呆れた様子で言うと、ストラスは事もなげに言った。


「ですが、あの席は妊婦が優先的に座れる席じゃないですか。本来ならリツさんがゆったり座れたはずなんですよ?」


「でも…ほら、まだ初期だし分からないから…」


「いや、もう分かるよ?リツは気付いていなかったのかな?」


 リツは自分の姿を見下ろして不思議そうな顔をした。別に変わったところはない。シエルが鏡を差し出す。リツは鏡を覗き込んで、自分のおでこの真ん中が一部分やけに白く光っていることにようやく気付いた。


「えっ!?なんで?光ってる…」


「あぁ、昨夜も時折チカチカしてはいたんだが…昼食を食べている途中から次第に光が安定し始めた…これが妊婦の印だな。昨日見た妊婦も光っていたがリツは気付かなかったのか?」


「えっ?だって、明るかったしそこまでじろじろ見た訳じゃないから…」


「まぁ、それもそうか。ここは少し曇ったエリアだし、分かりやすいというのもある。実に可愛らしいな。腹の子が父親の魔力を浴びたいと求めている合図でもある…光の具合で体調も分かるんだよ…そんなに欲しいのか」


 シエルはどこか嬉しそうに言うと、光っている部分に口付けをしてリツを抱きしめた。


「えっ…!?ちょっ…」


「大丈夫だ。楽にしていろ」


 シエルは片方の手は肩に回したままもう片方の手でお腹に触れて唇を重ねた。魔力が流れ込んでくる。姿はシエルでも流れるのはアルシエルの魔力だ。一瞬開いた目に、こちらを頭上から覗き込む恐竜のような巨大な生き物が見えた。


「妊婦は…このように公共の場でも腹の子を育てるのに魔力を与える必要があるから、楽にしやすい広い座席が設けられているのだが…それを逆手に取って、男女の楽しみのために使う悪魔もいる…そういうことだな…今私は身体のサイズを変えているからなんとかなっているが…元の大きさだと到底この座席では無理だ。小さくしておいて良かったよ」


 聞えよがしにシエルに言われた女悪魔はムッとした表情でこちらを見ると、男悪魔の腕を引いて耳打ちをする。男悪魔は立ち上がると、こちらにやってきた。ネビロスがサッと前に立ちはだかる。ネビロスの方が頭一つ分以上大きい。鋭い目付きのネビロスに見下ろされた相手は、強がってネビロスの胸ぐらを掴んだ。ネビロスは微動だにせず、静かな声で言った。


「主の安全を守るのが私の責務ですから、ここは避けませんよ。それに仮に私があなたを殴ると、この特殊な強度のガラスを破ってあなたは巨大な肉食獣の餌になってしまう。それも得策ではありません」


 静かにネビロスは胸ぐらを掴む指を外してゆく。渾身の力を込めて掴んだのに一本ずつ引き剥がされて、その悪魔は怒りを露わにした。反対の手で彼はネビロスを殴ろうとした。途端に警報が鳴り響いて目の前でその悪魔は気絶した。


『暴力の意思を検知しました。拘束します』


 音声が流れて何もない空間に手錠が現れる。あっという間に彼はその場に身動き取れない状態で拘束されて、床の上に転がった。


「うーん、ま、悪くはないのかな。どうですかね。このシステムは。まだ検討の余地はありそうですが」


 ストラスは腕を組んで床の上の相手を見下ろすと、おもむろにタブレットを出してスライドさせた。


「床に転がすと少し邪魔かな。だが上も視界を遮るし…いっそのこと座席の下に収納してしまった方が見苦しくなくていいかもしれないな」


 シエルが転がった悪魔を見下ろして言う。ゾッとするような冷たい視線に、彼は冷や汗が出るのを感じた。女悪魔は固まったまま動かない。


「確かに!それは名案ですね。防犯対策課に改善案を出しておきますか」


 ストラスはタブレットで座席の写真を撮り何やら入力していたが、しまったという顔をした。


「なんだってオフなのに仕事に結びつけて考えてしまうんだ…あぁぁ…ワーカーホリック気味の主のせいですよ?」


「私が?失礼だな。私は休暇を満喫しているよ?」


 ネビロスはそっと席に戻ると思わず苦笑した。暴力行為に及ぼうとすると、いくらこちらが悪くなくても拘束されるから気をつけろ、と主が言っていた。なるほど、こんな車内にもそのシステムが搭載されていた訳だ、と初めて作動するところを見たネビロスは無様に床に転がる悪魔に視線を移す。いや、ひょっとして、どの段階で作動するのかを確かめるために、わざと相手を挑発したのではないか、そんな考えに思い至り、いやまさかと否定した。巨大な肉食獣のエリアを通り過ぎたところで車は道を逸れて、風景に巧みに隠されていた緊急避難用の通路に繋がる扉が突然開いた。ガチャンと音がしてすぐに背後の扉が閉まる。警備員が現れて車内に乗り込み転がった悪魔の回収が始まった。同行者である女性も声をかけられた。


「この車内には妊婦がいるのに、君はその座席を使用したのか。妊婦は一組しか乗せないようにしているにも関わらず…しかも君の額のそれは偽物だろう。最近妊婦を装って額を塗り、その座席を使用する者が多くてね。君が将来、妊娠中に狭い座席で魔力を受け取らなくてはならなくなった場合、どれだけ窮屈な思いをするか、考えてみるといい」


 男女は連行されてゆく。警備員はお騒がせしましたと言って頭を下げた。車は再び元のエリアへと戻され自動走行が始まった。シエルは空いた方の広い席にリツを座らせると突然身体を大きくした。


「えっ?シエル…?」


「仕事が終わった一部がこちらに来たがっていたから、少し待てと言っていたんだ。あちらの席ではぎゅうぎゅうになってしまう」


 リツを抱き寄せる逞しい腕はほぼアルシエルと変わらない。けれどもまだ姿はかなり若いままだった。妙にワイルド過ぎてリツは少し落ち着かない。リツの困惑を読み取ったのか、シエルは笑った。


「安心しろ、公共の場で妊婦を抱いたりはしない…そんなに困った顔をするな」


「だって…なんだか、いつもより…気配が強いから…」


「落ち着かないか?」


「うん…ドキドキする…」


「そうか」


 シエルはどこか満足したように言って、リツのほのかに光る額に再び口付けを始めた。

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