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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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新婚旅行の場合 25

 やがてそれぞれの料理が運ばれてくると、皆はその料理の味に感動したり、時折首を傾げたりもしつつ食事を堪能した。ルイの選んだ綿雲スフレのオムライスは、スフレ部分は本当に食感すら残らない勢いで口の中でとろけるのに、ご飯の中からゴロゴロと食べ応えのある肉が出てきてルイは慌てていた。元よりリツよりも少食のルイは半分を過ぎた辺りでカレーをすでに完食して余裕の表情を浮かべているストラスを情けない顔で見上げた。


「もう…お腹いっぱいだよ…」


「少食だなぁ…食ってやるよ」


 ストラスはオムライスを食べ始める。


「まぁ…旨いんだけどな…こういう上品な味が続くと漬け物が食いたくなるんだよな」


「仕方ないな、一枚やろう」


 シエルが苦笑して定食の漬物の小皿を差し出す。


「あ…すみません」


 ストラスは漬物を一口かじって顔をしかめた。シエルは笑い出す。


「しょっぱ!!」


「上品な味には刺激的な塩味で進むだろう」


 慌ててご飯を頬張るストラスを見てシエルは笑っている。リツは興味本位に食べてみようかと思ってシエルをちら見した。


「…妊婦に食べさせてはいけない気のする塩分量だからな。リツは止めておいた方がいい」


 リツは諦めてハンバーグを食べた。上のチーズがチーズなのにどこかさっぱりしていて、いくらでも食べられそうな美味しさだった。付け合わせの野菜も見たことのない彩りで形も変わっていたが、甘みがあってクセのない人参のようだった。リツはペロリと完食して、メインだがデザート風だと言われた料理の方を食べ始めた。


「モチモチしてて甘くて美味しい!確かにタピオカみたいな食感…!」


 リツは幸せそうな顔になる。シエルはそれを見て満足そうな顔をしながら、最後に豆腐に手を付けた。


「確かにこのクリーミーな甘みは…杏仁豆腐に近いな。醤油は合わない…いっそのことみたらし風のタレの方が相性が良いかもしれないな」


 ジーンはそう言って豆腐を完食する。リツが自分の食べていた料理をスプーンですくって差し出すと、シエルは自然とそれをパクリと食べた。そういえば何気にリツはこうやって餌付けをしている、とルイは思ってニヤけそうになりながら、ストラスをチラ見した。


「…なんだ?」


 余裕の笑みを浮かべたシエルがルイを見つめる。


「いや…仲が良いなと思っただけ…」


「そんなことは当然だろう」


 ネビロスにしてみれば、いつも難しい顔付きで恐ろしい気配を発していた主が、こんな風に笑ったりしていることの方がどちらかといえば異常事態でまだ見慣れた慣れた訳ではなかったが、愛する女性の前でも恐ろしいままでなくて何よりだと内心ではホッとしていた。自分もその見た目から他人を怯えさせることは承知していたが、主の場合はその圧倒的な魔力量もあって威圧感が半端ない。天使を見つけても怯えさせるのではないかと不安に思ってもいたが、いくらお腹の子と合わせて二人分とは言っても計測システムを破壊するほどの魔力量なのだ。このくらいの相手でないと陛下の伴侶としては釣り合わないのだという事実を見せつけられた気がした。同時に過去に現れた女悪魔たちが尽く王宮から追い出されたのも納得がいった。皆、魔力量が足りていなかった。恐らくその顔にわずかに浮かぶ怯えを彼は見抜いていたのだろう、そうも思った。


「みんなも少し味見する?ネビロスは?」


 リツに声を掛けられてネビロスはハッと我に返る。天使はネビロスにも微笑んでいる。ネビロスが使い魔の身分でも、対等に接してくるのは主に似ていた。


「あ…ありがとうございます…」


 リツは小皿に食べていない方から新しいスプーンでテキパキと取り分けて、三人に配った。ちょっとした付け合わせのデザートほどの量だが、それでも残りはまたまだある。リツは時々シエルに食べさせながら自分も食べていたが言った。


「これ、お腹に溜まりそう…」


「そうだな。ゆっくりよく噛んでと言っても…弾力もあるから、消化不良を起こさないように、気をつけないといけないな。無理はするなよ?」


「大丈夫。よく噛んで食べるようにするから」


 やがて食後の珈琲が運ばれてくる。リツのはノンカフェインだった。食後にノンカフェインの珈琲を提供できる店の中から選んだのだということに、ネビロスは下見のときには気付いていなかった。フルフルが注文してようやく気付いたくらいだ。自分はまだまだだなと思った。

 食事と休憩を終えて出ようとすると、タブレットを持った入り口の男性がシエルに向かって深々と頭を下げた。


「ありがとうございました。新しい魔力計測システムも先ほど届きましたので、業務に支障も出ず本当に助かりました…」


「そうか、それは良かった。君は…いつからか試験に来なくなったな…もう諦めたのか?」


 シエルは少々意地悪そうな顔をして大柄な悪魔を見上げた。


「えっ!?私のことを…知っているのですか?」


「王宮の登用試験を受ける者の履歴書には一通り目を通しているんだ、こう見えても。中には七回目の登用試験で基準点は満たさなくても、見習いの下働きには受かってそこから始めて一年後には正式な職員に上がった者もいるよ?君は視力においてハンデを背負っているが、その辺は訓練次第で何とかなるだろう…なにせ、私の使い魔のネビロスも視力はそこまで良くないからな。だから目付きが悪いんだ。これはこれで役に立つけどね。大概の小物は近寄って来ない」


 後ろに控えていた目付きの鋭い男性が頷く。顔にある傷のみかと思ったが、視力にもハンデがあるとは気付かせない身のこなしだった。


「こ、今年は…もう一度挑戦します!!あのっ!一つ聞いてもよろしいでしょうか。本物のおでんとはどのような物なのでしょうか」


「あぁ…それは…こうだな」


 いつだったか黒木が出してくれた物をイメージして彼に伝えると、目の前の大きな悪魔は口元を抑えて吹き出しそうになったのを懸命に堪えていた。


「こっ…これは…でかい皿の真ん中にちんまりよそって出す料理じゃないですね…」


「あぁ…彼女の故郷の料理なんだ」


 シエルはそう言って傍らの小柄なリツの肩を抱く。華奢で目が大きくて、あまり強烈に女を主張しない中性的な美しさだと彼は思った。


「まだ正式に発表していないことは内緒で頼むよ」


 彼は反対の手で彼女のお腹に手を当てると微笑んでそっと撫でた。彼は頷く。


「またのご利用をお待ちしております」


 彼は深々ともう一度頭を下げる。


「ごちそうさま、んじゃ試験勉強頑張れよ。次に会うときは多分この姿じゃないけどな。ルイと一緒にいたら俺だと分かるだろうな」


 ストラスが傍らのルイの頭を撫でながら笑う。


「えぇ!?僕が目印なの?」


「元炎の精霊の魔力は、少し気配が他の悪魔とは違うから、辿りやすいと思うよ。ま、そういう意味でも目をつけられやすいから、日々牽制してるんだけどな」


 ルイは急に落ち着かなくなって周りを見回してしまった。ふと斜め向かいの店の店員が興味深そうにこちらを見ていることに気付く。絡み付く視線にルイはドキリとした。ストラスは片手を上げて店を後にしたが、通り過ぎざまにその店の店員に向かって言った。


「お友だちの悪魔と何を喋ってもいいけど、頭の良い悪魔ならここで見たことは互いの胸の内にしまっておくだろうな。それとルイを視姦(しかん)するな」


 店員は、一見すると大した魔力もなさそうに振る舞っている彼から、急に底知れない魔力の気配を感じて背筋が凍り付く。確かに彼は先ほどルイをじっくりと観察していた。変わった魔力だなと思ってつい興味を持ってしまい入念に探りを入れてしまったのだった。


「今日はプライベートだから見逃すが、次やったら目玉を抉り出される覚悟があると見なされても文句は言えないぞ?こう見えても、ルイは俺の正式な第二夫人だからな」


「止めろ、彼も悪気があって探りを入れた訳ではない。それに公式な発表は…今日の夕方だろう。面倒だから会見は一度に済ませると言ったのは誰だったな?」


 シエルに止められてストラスはため息をついた。


「…会見って?」


「え…?」


 リツとルイは嫌な予感がして互いの相手を見上げる。二人はやや気まずそうな顔をした。


「あぁ…魔界のメディアが取材に来るんだよ。二人は微笑んで座っていればそれで終わる」


「えぇ!?僕もなの!?」


 ルイが恨めしそうにストラスを見上げた。


「そうだよ。会見は一組ずつってうるさいから、ダブルで済ませる、それ以外は受け付けないって言ったら渋々承諾してくれたよ。悪いな。俺のせいでこの先お前にも色々と我慢させることになるかもしれない…」

 

「…ま、仕方ないよ。その辺は大丈夫。じゃあ…今日のうちに楽しんでおかないとね」


 ルイは笑う。


「…そんなこんなで…お兄さんごめんね?僕の魔力が気になったのかもしれないけど、ダーリンが嫉妬しちゃうから、止めてもらえるかな?」


 ルイは小悪魔な表情を浮かべて店員を見上げながら、ストラスの腰に両腕を回した。


「僕ね、彼の子どもを産みたいから頑張って女の子の身体になったんだ。それまでは正真正銘の男の子だったんだけどね。どっちの姿でも抱いてもらえて今はとっても幸せなんだ」


「ルイ、ほら余計なお喋りしてないで、早く動物園の方に行こうよ!」


「もう!リツもシエルも待ってよ!!」


 店員の前を通り過ぎたネビロスが一礼する。


(夕方の会見?)


 彼はある種の予感にゾワゾワしていた。斜め向かいから心の中に声が響く。 


(お前、誰相手に絡んでるんだよ!さっきのは多分、ストラス国王補佐官だ!)


(はぁ!?もっと早く教えてくれよ!お前がもったいぶって言わないからだろ。じゃあ、あっちが国王陛下なのか!?ヤバいな…あの小悪魔…)


 彼は妖精のような見た目の少女を思い出して、思わず震えた。国王補佐官の第二夫人はちらりと報道で見た第一夫人とは随分と雰囲気が違う、それだけは確かだった。 

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