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97話

「その、あー…………悪い」

「…………」


 翌日の朝。あからさまに不機嫌です。と雰囲気を醸し出すリリィが椅子に座って俺を見ていた。

 流石に夜中に異性の部屋を訪ねるのは不味いと思って、日を改めてから会いに来ようと思ったわけだ。今日は丁度休みだし。

 けど、まぁ…………うん。とっくに俺が起きたなんてのはクラスメートの間で広まってた訳で。完全に忘れていたのを隠せるはずもなく、その結果のこれだった。


「いや、えーと………起きてからも色々忙しくて…………」

「言い訳するんだ」

「いやもうほんとすみません」


 何故かは分からないが、俺はこいつに強く出れない事が多いんだよな。なんでだろうか。

 それはともかく忘れてたのは事実だし、こいつには目の前でショッキングな光景を見せてしまっている。いくら特異な魔法適正を持っているとしても、自傷による腕の半壊なんて、見せるもんでは無かっただろう。


「…………はぁ。怪我はもう良いの?」

「あぁまぁな。と言うか、お前こそ大丈夫なのか?結構まともに一撃貰ってただろ?」

「熾炎に吹き飛ばされた時に比べたらマシ」

「お前な…………」


 チクチクしないと気が済まないらしい。とはいっても、今ので元気そうなのは分かったしそこはひと安心か。


「で、用はこれくらいか?だったら俺は…………」

「『天焔』」

「…………なんだ、それ」


 少なくとも、リリィやカイン達には話していなかったはずだが。そんな疑問が浮かびつつ、俺はとぼける。

 が、向けられたのは心底呆れたというような表情。


「分かりやすすぎる。隠す気あるの?」

「うっせ」


 無理だなとは思ったよ。けど、都合の悪いことは簡単に認めるなって言われたし…………今認めたな。バカめ。


「…………どこで聞いたんだよ」

「古代遺物は考古学とも同一視される。知らないって思う方がバカ」

「じゃあ、別に誰かから俺がその継承者だと聞いた訳じゃないんだな?」

「聞いてない。でも、あなたの力は普通じゃないって前から思ってた。そして、今回の件で確信した。あなたは『天焔』の継承者だって」


 なるほど…………ま、自分自身に牙を剥く魔力なんて異常でしかないしな。『五属の継心』について知っていれば、そう結論付けるのもおかしな話しではないか。


「…………他に知ってる人は?」

「エリーと父さん、フェリスに先生達………だな」


 国王の名前を挙げるやめた。流石に事情が事情だしな。すると、リリィは暫く俺の目を見たあと、そっと逸らした。


「ふーん………」

「なんだその反応」

「別に。意外と知ってる人が多いんだなって思っただけ」

「ま、『天焔』に気付いたのはエリーだったしな。他はまぁ…………成り行き?」


 思えば、エリーも『五属の継心』なんてよく知ってたよな。俺も昔はよく本を読んでいたんだが、そんなの知らなかったし。


「…………それは、どうしてもああなってしまうものなの?」

「ん?あ~……いや、分からない。俺もこの力のことを全部知ってるわけじゃないし」

「自分の力なのに?」

「自分の事は自分が一番分かってないとも言うだろ?」

「…………そんなの聞いたことないけど、言いたいことはなんとなく分かった」


 呆れたように答えるリリィ。けど、これでまた『天焔』について知った奴が増えてしまったか…………


「………あなたが戦うのは」

「ん?」

「その力に与えられた使命のため?」

「…………いや、違う。あくまでも俺の意思だ」


 決して、フェリスの言う結末になんかさせない。そのためにも、俺は俺の意思で道を切り開かなければいけない。ただまぁ、それだけで望む未来が掴める訳じゃないんだが。

 目の前のシーカーの件もそうだし、その後に待つ奴らとの戦いもある。本気で俺と戦う気があるのなら、相手だってそのために本気で強くなるだろう。どんな覚悟で望もうが、負けたら何も守れない。


「………」

「エリシアが時々、あなたの事を分かりやすいって言ってたけど………そういう顔をするんだ」

「ん?あ、あぁ。悪い。何か言ったか?」

「熾炎って、意外と悩んでばっかり?」

「意外とって何だよ。俺だって悩みの多い年頃なんだぞ」

「そう言うのって、色恋沙汰とかそういうのでしょ。熾炎は………そんな普通に目を向けてる余裕はなさそう」

「………どうだろうな」


 まぁ、言われてみればあまり考えてこなかったし………そんな未来の話をする段階には至っていないんだろう。平穏な未来と言われても、俺の中ではそんなイメージが浮かばないし。


「………まぁ、私が心配する事じゃないけど」

「そりゃそうだな………あぁ、そうだ。『天焔』のことは………」

「言わない。フロスディア家の怒りを買いたい訳じゃないし」

「悪い、頼む」


 ただ、怒りを買いたくないって言うならもっとチクチク言葉をやめてくれればいんだけどな。というか、よくよく考えれば色恋沙汰の話って言うほどみんな悩んでるのか?少なくとも俺の周りでそういう話は聞かないし、それはこいつも………………こいつは周りから避けられてるからなぁ。


「なに、何か言いたいの」

「別に。んじゃまたな」


 さっさと撤収するに限る。俺はそう思ってリリィの部屋のドアに手を掛ける。その時、背後から小さくリリィが声を掛けて来た。


「あの時の言葉、忘れないで」

「………そうだな。胸に刻んでおくよ」







 そうして自分の部屋に戻った俺だが、そこにはフェリスとイレーナが待っていた。フェリスはめちゃめちゃ気まずそうで、俺を見るや否や泣きついてきたが。


「ご、ご主人様ぁ!!この子、私がどれだけ喋りかけても何も言ってくれないよ~~~!!」

「はいはい。それについては前に話してただろ」

「だってぇ………ここまで無視されるなんて思わないじゃん………」

「ったく………仮にもフェニックスなんだから、それくらいでメンタルやられんなって………」


 突っ込んできたフェリスを受け止めつつ、適当にあやす。しかしまぁ、そんなやり取りにも完全に無視を決め込んで、一切表情を動かさないイレーナと二人っきりだったとしたら、その気まずさも分からなくはないけど。

 しかし、俺の言葉に対しては多くは語らずとも無視はしない。まともな答えが返って来るかは別だけどな。


「イレーナ。あんまり無愛想すぎるのも良くないぞ」

「………無愛想とは何でしょうか?」

「あー………つまり、俺以外を無視するのは良くないって事だ」

「それは命令でしょうか」

「………命令って言うか、要望?」

「承知しました」


 本当に分かってるのかね。そう思いつつ、俺はイレーナの向かいのソファーに座る。フェリスも俺の隣に腰かけ、イレーナをじっと見ていた。


「で、わざわざ俺の部屋にいたってことは何か用か?」

「マスターの命令に従うのが私の意義です」

「………俺の命令だけで動くってのも困るんだけどな」


 というか、普通に生きてほしいんだけど………そんな普通を奪われたのがこの少女だというのなら、それを求めるのは酷なのかもしれない。どこかで取り戻せればいいんだけどな。


「………」

「なぁ、もう一度聞くけど………俺達と戦ってた少年とは本当に面識がないのか?」

「ありません」

「………そうか」


 絶対にそんなわけはないと思うんだけど………いや、アルヴィースの事だしな。実は本当にこいつとあいつには関係が無くて、偽りの記憶を植え付けられてる可能性もあるか。

 とは言え、答えが分からない以上は考えてもしょうがない。結局、こいつをどう扱うかはまだ決まってないし、その辺りも考えなきゃいけない。

 もし、もしもだが………本当にこのままこいつに一切の自我が芽生えず、俺の命令だけで動く兵器のような存在でいるというのなら、割り切ってそう使う事も視野にないわけではない。俺としてはそうなって欲しくないが、だからと言って命令が無ければ生きてるか死んでるかも分からないような状態にさせておくのもな………


「アルヴィース………人を何だと思ってやがるんだ」

「うん………ねぇご主人様。あの人間、対峙した時に思ったけど普通じゃないよ」

「そりゃそうだろ。俺達が本気で掛かっても倒せなかった相手だし………」

「そうじゃなくて………雰囲気?何というか………ご主人様に似てるような」

「お前本当に冗談にならないからやめてくれ」

「ご、ごめん………そういうつもりじゃなかったんだけど………」


 似た雰囲気………あいつと俺の共通点?まさか、あいつも『五属の継心』を持ってるって言うのか?………もしそうだとして、あいつは明らかに俺達と同世代ではない。つまり、俺より前に覚醒した可能性もあるけど、あいつからはイレーナみたいに同類の気配を感じなかった。


「………もうちょっとあいつの事を調べて見るか」



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