76話
その日は授業で使う教科書などの教材や、授業の方針や内容などを軽く説明して終わりとなった。
能力測定は勿論俺も最高点数。火球一発で的は完全に融解してしまった。俺の噂を知ってる奴はもっとド派手な魔法を期待していたらしいが、それはまた次の機会だ。
そして、今はエリーとフェリスの二人と共に寮へと向かっていた。
「最高点獲得者は僕を含めて五人。結果だけならば君もその一人なのは当然と言うべきだろうけど、随分と手を抜いたようだね」
「失礼だな。加減を知ってるだけだ」
「全力で攻撃して良いと言われてたんだから、あそこで使える中での最大火力を放っても良かったと思うけどね。あの皇子を見ただろう?まるで自分の力を誇示するかのような巨大な竜巻を」
「あれスゴかったなぁ」
カインが測定で巻き起こした、天まで届く巨大な竜巻。あまりの暴風で砂やら何やらが色々と舞っていた。普通に迷惑極まりないが、威力を考えればバカには出来ない。
実際、巻き込まれた的は完全に破壊されていたし。流石に風王の名を冠するだけはある。
「まぁ、対抗してあれより派手にぶっぱなすのも考えたんだけどな。あれの横に並びたくないって言うか…………」
「ご主人様。私あの人嫌い」
「いや、俺も好きではないけど」
フェリスがはっきりと人を嫌いと言うのは初めてで、少し苦笑する。そして、俺はニヤリと笑って言葉を続けた。
「いいか?フェリス。あぁ言うのは変人って言うんだぞ」
「変人?でも、ご主人が前にエリシアのことを」
「フェリスちょっと待て」
慌てて彼女の口を塞ぐ。もがもがと何かしら抗議しているようだが、本人の前でそんなん暴露されたら終わる。
しかし、当然そんなやり取りをすれば彼女と怪訝そうな顔をするわけで。
「…………僕がなんだって?」
「うーん、めっちゃ良い奴」
「そうかい?なら、何故フェリスの言葉を遮ったのかな?」
「いやぁ…………ほら、本人に伝わるのが恥ずかしかったんだよ」
「君にそう言う羞恥心があったとは驚きだ」
「俺をなんだと思ってんだ」
話題を逸らすことには成功したが、また何やらおかしな印象を持たれていた事が判明してしまう。
すると、エリーは呆れたように目を少し細めて俺を見つめた。
「前に僕を口説きに来たこと、忘れてないからね」
「えぇ!?ご主人、エリシアを口説いてたの!?」
「いやだからあれはそう言うつもりじゃないって言っただろ」
フェリスが俺の手を振りほどいて驚きの声を上げるが、俺はすぐに否定する。確かにちょっと言い回しというか、キモいところはあったかもしれないが、口説いていた気はなかったのだから。
しかし、エリーは小さく腕を組んで更に目を細めて冷たい眼差しを向けてくる。
「ほう。君との婚約について真面目に悩んでいた乙女にあんな台詞を恥ずかしげもなく言っておいてその気はない、と。君も悪い男だ」
「婚約!?ご主人様そこまで話が進んでたの!?」
「だから違うっての。話をややこしくするな。というか、お前が乙女とか柄にもないこと―――」
「なんて?」
「なんでもないです」
普段より明らかに低くなったエリーの声色に、俺はすぐさま視線を逸らして首を横に降る。
しかしまぁ、良くそんなことを覚えているものだ。………俺にとって、魔龍と戦う決意が強まった日でもあるから、今も尚印象に残っている日ではあるが。
「全く………いくら僕だと言えど、れっきとした女の子だと言うのは覚えておくべきだ」
「いや、ちゃんとその認識はあるんだけどなぁ………」
なんか似合わねぇと思ってしまうんだよな。これに関しては俺に限らず彼女をよく知る人なら同意してくれると思うんだ。
とまぁ、そんな戯れを交わしつつも俺達は寮に着く。思ったよりでかいな。
「まだ日も高いし、荷物置いたらどっか出掛けるか?」
「いや、今日は遠慮するよ。少しゆっくりしたい気分でね」
「そうか」
「あ!じゃあ私ちょっと出掛けてくるね!」
「ん、いってらっしゃい。門限までには戻れよ」
「はーい!」
フェリスはそう言って寮の中へ駆けていく。迷わなければ良いんだが。部屋割りに関しては、男子は一階、女子は二階に割り振られているそうだ。ちなみに、事前に申告があれば使用人にも個室が割り当てられる。フェリスも今回ばかりは別の部屋を用意してもらっていた。
寮に入ってロビーを進んだ先にあるのは談話室………簡単に言えば共通スペースだ。俺は1人でいるのは退屈するタイプだから、主にここにいるだろうな。
「それじゃあ、僕は部屋にいくよ。また後で」
「あぁ。初日から散らかすなよ」
「分かってるさ」
エリーは軽く手を振って二階に続く階段を上っていく。となると、いきなり俺もやることがなくなるな。ちょっと例の塔の様子でも見に行こうかと思ったんだが。
ちなみに、あれは鉱物としてみれば完全に今までにない物であるため、その硬度と合わせて価値は計り知れない。だが、特に警備やらはなく、誰でも近付けるようになっていた。
破壊できるわけがないからな、あんなの。街に被害がでない程度で俺の最大火力をぶつけてみたがびくともしなかった。
あれ以上の火力を使うと街が危ない。俺もあっちい。と言うわけで、まぁ破壊はほぼ無理だろうと言うことで放っておいていた。破壊してくれるなら寧ろ勝手にやってくれ。という事だ。
「ノインさん。もしかしてお暇?」
「ん?あ、どうも。………そうですね。この荷物を置いた後の事を考えていました」
さてどうしようかと悩んでいたところで声を掛けてきたのはルリアだった。結局朝以外に話す機会もなかったな。
それ以上に印象的な奴らが次々と現れたって言うのが理由だが。今になって改めて思うが、なんだこのクラス。
「ふふ。あんなに色んな事に巻き込まれたのに、まだまだ元気そうですね」
「あー…………まぁ、もっと大変なこともありましたので。普通に疲れましたけどね」
「けれど、少しだけ楽しそうにしているようにも見えましたよ?」
「…………」
ルリアの一言に、俺は思わず押し黙る。実際、退屈するよりはいいと言う思いが少しだけあったのだから。平和も勿論好きたが、やっぱり定期的に刺激があったほうが楽しいとは思う。
その点、このクラスなら刺激には事欠かないはずだ。会ったばかりの彼女にそれを見抜かれるとは思わなかったが。
「………人をよく見てるんですね」
「えぇ、それなりに。ですので、あまり言葉遣いに気を遣わなくても大丈夫ですよ。あまり慣れていらっしゃらないんでしょう?」
「いや………あー」
それに慣れるためにここに来たと言うのもあるんだが。でも、恐らくこのクラスで最も常識人であろうルリアとは気楽に話せる相手になっておきたいな。
「…………じゃあ、本当に気を遣わないけどそれで良いか?」
「はい。勿論です」
そう言ってにこりと柔らかな笑みを浮かべたルリア。流石巫女だなぁと改めて思う。しかし、最初の頃のルーナはちょっとあれ過ぎたが、彼女のような丁寧な女性が逆に慣れてなさ過ぎて、若干緊張するんだよな。
俺の中で基準となっている奴がエリーだからなのかもしれないが。
「もし時間があるのでしたら、その荷物を部屋に置いた後でも少しお話をしませんか?」
「あぁ、俺としても助かる。じゃ、すぐに戻って来るよ」
「はい、待っていますね」
俺は荷物を持って自分の部屋に向かう。確か5号室だったか。それにしても、初日から本当に色々とあったなぁ。一番に印象深いのはやはりカインだが。
リリィという少女も中々にぶっ飛んでいる。最高得点を取得した5人のうち、俺、エリー、アリス、カイン。そして最後の一人が彼女だったのだから。リリィはかなり異質な魔力性質らしく、空間魔法に一点特化した魔法適正らしい。
空間魔法に特化という点で何となく察しが付いたかもしれないが、彼女は空間ごと座標を破壊すると言う荒業で的を完全に消滅させてしまったのだった。こいつ威力と言う一点で考えたら俺より明らかに強くねぇかな。と思ったのは内緒だ。まぁ、魔力を編むのにかなりの時間が掛かっていたから、実戦では負ける気がしないけど。
とは言えまぁ、実際この炎が強大である事には間違いないが、人間自体も魔力を扱えるようになってから千年以上の時間が経っている。その中で【五属の継心】以上の特異性を持った魔力が産まれることも、あり得ない話ではないとそれを見たエリーは言っていた。
「お、意外と部屋は広いな」
まぁ、俺がここにいるのは朝と夜の寝る時間くらいだろうけど。取り敢えず、整理するのは後で良いだろう。元々そんなに荷物も多くないし。
ベッドの傍に荷物の入った大きなカバンを置いて、俺は部屋を出る。そうして談話室に戻ると、ソファーに座っていたルリアが俺に気付き、小さく手招きをする。
「もう良いんですか?」
「元々荷物も最低限しか持ってきてないしな」
俺はそう言ってルリアの向かい側のソファーに座る。談話室には他にもうちのクラスの奴は居たが、恐らくここにいる全員はそれぞれが初対面だろう。俺達のように雑談をしている者はここにおらず、静寂の中で俺達の話し声だけが響くのは少し気まずい感じもした。
まぁ、このクラスは何故か平民と貴族が半々に別れているクラスだし。早々馴染むと言うのは難しいのかもな。
「先生、とても印象が強い方でしたね」
「あのアリスって王女も大概だけどな。剣姫の由来はよく分かったけど」
「最初は少し驚きますよね」
「まぁ、意外ではあったけど。あの子が剣を振るうより、ああして剣を従えてる方が似合ってるなとは思ったかもな」
「ふふ。全くその通りです」
見た目的には白兵戦をしそうな感じしなかったしなぁ。まぁ、実は剣を握っても強いのかもしれないけど。そこで、ルリアはふと首を小さく傾げる。その際一緒に傾いた大きな耳に少し視線が行ってしまったが、すぐにそれを戻して彼女の言葉を待つ。
「そういえば、ノインさんは何故能力テストであれだけの加減を?」
「んー?………まぁ、なんか燃えなかったと言うか。俺、実戦以外で積極的に魔法を使う気になれないんだよな」
「あら………ふふ。ノインさんって、アクアマリン王国の騎士団長にそっくりですね」
「逆に俺みたいなのが騎士団長やってるのか………」
アクアマリン王国大丈夫なのかな。自分で言うのもあれだけど、俺みたいなのがそんな重要な職に就いてたら色々と大変だぞ。俺と似たような性分で騎士団長と言う立場なら実力だって相応にあるとは思うが、もし俺のように戦いたいとかでいきなり居なくなったりしたら………
「もしかして、定期的に暴れたいと言って外に出て行ったりしちゃうタイプですか?」
「全くその通りだな」
「多分、気が合うと思いますよ?その人と」
「本当にそれで騎士団長務まるのか?」
「一応、大事な時にいないと言うことは今まで無いみたいですよ?それでも困ったものだとお父様はぼやいていましたけど」
あ、やっぱりそういう扱いなんだ。優秀だから切るに切れないんだろうなぁ………と、少し自分の事のように思えてちょっと気まずい。いや、俺はそう言う理由で困ったちゃん扱いされながらも見捨てられてない訳ではないが。
まぁ、アクアマリン王国に行くことがあれば探してみてもいいかもな。もし熾炎が来ていると知れば、向こうから来てくれるかもしれないが。
とまぁ、何事も無く本当にただの雑談が進んでいく。俺も敬語を外しているため、初対面よりずっと話しやすかった。実は、お偉い所の巫女の誘いだと言うことで少し警戒していたんだけど。
取り敢えず、何の問題もなく普通に仲良くなれる相手がいて良かったと、俺は心の中で少しだけ安堵していたのだった。




