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74話

 風を切る鈍い音。迫る球体。扉を開いた俺を襲いかかったそれに、俺は理解が追い付かなかった。


「っ!?」


 それが何かを考える前に危険を感じた俺は魔龍の篭手を展開して構える。直後、盾に伝わる鈍い衝撃と甲高い衝撃音。おい、これ頭にでも当たってたら下手すりゃ死んでたぞ。

 そして、俺を襲った何かがそのまま床に落ちる音が響く。結構重い音だ。それにハッとしたエリーとフェリスが慌てたように声を掛けて来た。


「ノイン!大丈夫かい!?」

「ご主人様!大丈夫!?」

「あ、あぁ………」


 一体なんだ?と状況が呑み込めない俺達に、小走りで近付いて来る影が一つ。そして、俺の側に来るとその少女は頭を下げた。


「………ごめんなさい。怪我はない?」

「一応は大丈夫だけど………これ、お前のか?」


 顔を上げたのは青い髪を肩まで伸ばし、紫の瞳をしている華奢な少女。身長が低いエリーとあまり変わらないくらいの小さな体躯で俺を見上げている。

 少々か細く、大人しげな声が印象に残ったが、それ以上に気になる事があって俺は視線を下に向けた。

 床に落ちていたのは機械のような球体。光を放っている所を見ると、恐らくは魔導仕掛けのからくりみたいだが………


「うん………ごめんなさい。これ、古代遺物なんだけど、修理してたら暴走してしまったの………」

「古代遺物………もしかして、リリィ・シーリスか?」

「………私を知ってるの?」

「まぁ………古代遺物研究をしてる一族だってのは聞いたことがあるな。取り敢えず、こういうのは人が多い所でいじるなよ」

「………気を付ける」


 リリィはそう言いながら落ちた古代遺物を拾う。と言うか、そう言うのって直せるもんなんだな。流石、古代遺物研究の筆頭と言われる家の天才児か。………それにしたって、いきなり命の危機に直面するとは思わなかったが。

 彼女は抱えた古代遺物を少し確認するように見て、その後で俺達に再び視線を向けた。


「あなたは………熾炎のノイン?」

「まぁ、そうだな」

「………誠に申し訳ございません」

「別に気を遣わなくていいよ。流石にそれに関してはちょっと反省してほしいけど」

「………うん」


 小さく頷いた少女を見て、俺は教室の中に視線を移した。既に多くの生徒が集まっているみたいだ。さて、誰がいるかな…………と、教室を見渡そうとした俺だったが、その視線はすぐに止まる。


「………………」


 まさかとは思ったが、多分間違いないだろうな。制服は強制ではないとは言ったが、殆どの生徒はちゃんと制服を着ている。だが…………そんな事は関係ないと言わんばかりに思いっきり自分の服を着ている男女が二人。

 少年の方は白いコートの中に貴族風のスーツを着こなした白と黒の混じった髪をして、端っこの席に腕を組みながら目を閉じていた。その背後には、如何にも歴戦と言った雰囲気の初老の執事が一人。

 少女の方は長い黒髪と青い瞳に、更にゴシック調の黒いドレスに身を包んだ姿で、少年とは逆の方向の教室の端、窓際の席で頬杖を突きながら外に視線を向けていた。その背後には、明らかに只物ではない雰囲気を纏った二人の若いメイドが立っている。


「おい、分かりやすすぎるだろ」

「ここまであからさまとは…………」

「…………まさか、ここで集まると思っていませんでしたね」


 俺達が口々に言う。フェリスだけは何のことか分かっていないようだったが。間違いなく、例の二人だ。

 いや、一つのクラスに権力者集めすぎだろ。流石に意図的な何かを感じるぞ。…………そうなると、もしかしてこのクラスは濃い奴らしかいない可能性があるのか?嫌すぎるだろ………と思いながら二人に交互に視線を向けた時、少年の方が目を開いて俺と視線が合う。


「………」

「………」


 その少年は、青と赤のオッドアイ。その特徴的な瞳に驚き、すぐに目を離すことが出来なかった。…………そして、少年がニヤリと笑みを浮かべる。

 あ、まずいなこれ。そう直感したのも束の間、少年は背後にいた執事に何やら声を掛けてから立ち上がる。

 そのまま彼一人で向かってきたのは、当然俺達の方だった。


「お前がノインか」

「………えーと。まぁ、そうですね」

「…………」


 俺がゆっくりと頷くと、少年は一瞬だけ目を細める。まさか、何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのかと不安が浮かんだ次の瞬間だった。

 唐突に、少年が俺の隣にいたフェリスへ右手を伸ばす。


「…………おい」


 しかし、それが彼女に届く前に俺はその手を掴む。1ミリたりとも動かせないように、掴んだところの袖がシワになるほど固く力を込めて。

 一瞬だけ、彼が残してきた席の近くにいた執事がぴくりと反応したのを見た。

 そして、彼から俺に向けられた視線に対して、俺は彼を睨み付けながら、普段より低い声で言葉を続ける。


「………何のつもりだ」


 威圧するように、彼から少しも目を離さない。微かに魔力を放出し、何が起こっても良いように………いや、何も起こらないように、脅しを込めてその手を更に強く掴む。

 不敬とか何とか、んなことはこの際どうでもいい。フェリスに手を出すなら、相応の態度を取るだけだ。…………だが。


「…………くくく」


 だが、返ってきたのは押し殺したような笑い声。それが不気味で、一瞬エリーと視線を交わす。だが、押し殺していた彼の笑みは、徐々に大きな笑い声へと変わり、すぐに俺達は彼に視線を戻した。


「ははははは!そうか。そうだよな!魔龍を討った英雄が、権力を理由に怖じ気づく腑抜けじゃないようで何よりだ!」

「…………はぁ?」

「くくく…………何をしないから、僕の手を離せ」

「…………」


 彼の強めの言葉に、一瞬だけ迷う。だが、ここは取り敢えず従っておくのが最善だと判断し、警戒をしつつも彼の手を離した。

 だが彼は手を引っ込める前に、俺にその手を差し出してくる。


「僕はカイン・アゲード。次期アゲード帝国の皇帝だ。よろしく頼む、友よ」

「………友?」

「ははは。僕がお前を友だと言ったのだから、お前もそうしておいた方がいい。…………なに、他意はない。お前を気に入っただけだから」

「………分かった。よろしく、カイン」


 俺は敢えて彼の名を呼び捨てで呼んでその手を取る。勿論、彼の真意を計るためだ。

 少しでも気に障った素振りがあれば、やはり裏があると見るべきだろうが………返ってきたのは、一瞬の驚きの表情とそれに続く笑み。


「そう。それでいい。くく、いいじゃないか。これから楽しめそうだ」

「…………」


 え。なに?こいつ。めっちゃ嬉しそうなんだけど。父さん、俺怖い。このクラス怖いよ。おうち帰りたいです。

 こうなることなら、せめてセリアだけでも連れてくるべきだった。と、今更な後悔をしつつ、手を離して袖を軽く伸ばしているカインに声を掛ける。


「………怪我はしてないか?」

「ん?………あぁ、心配してくれるのか?はは、噂に違わずお人好しだな。………まぁ、このくらい問題はない」



 特に痛そうな様子はなく。軽く手を振ったカイン。その言動は友好的なものだが、先ほどの光景が何度も頭の中を巡り、警戒を怠るなと警鐘を鳴らしていた。

 先ほどの俺を試したかのような発言の意図が分からないが………


「………なんで俺を試すようなことをした?」

「権力に屈するようなつまらない奴は、僕の友に相応しくない。お前なら、僕を退屈させなさそうだ」

「…………対等に物を言う相手が欲しいってことか」

「物分かりが良いな」


 大きく頷きながら笑みを浮かべたカインを見て、ようやく肩の力が抜けた。完全に警戒を解いた訳ではないけれど、何となく納得はしたからだ。

 そうならそうと、ラルクのように言ってくれれば良かったんだが。そして俺は少し警戒を緩めたが、フェリスとエリーは未だに訝しげに彼を見ていた。

 特にフェリスは若干俺の背後に隠れている。………一応、お前は不死だし俺は主人なんだが、しれっと俺を盾にするのはどうなんだろうか。


「はぁ…………なんか疲れた」

「大変そうだな」

「原因の一つが他人事みたいに言うんじゃねぇよ」

「おぉ、的確な返しだな」

「どこに感心してんだ………!?」


 なんで俺は朝からアゲード帝国の皇子とプチ漫才を繰り広げているんだろうか。意味わかんねぇよ。

 そんな俺とカインのやり取りを見ていた奴らは何も言えずに微妙な表情を成り行きを見ている。だが、不意にルリアが口を開いた。


「………そろそろ先生もいらっしゃると思いますし、席に着きましょうか」

「………そうだな」


 無駄に時間を使ってしまった。取り敢えず、ずっとここに立ってても周りの迷惑だろうし。

 さて、前に席順が貼られてるみたいだな。俺の席は………


「あぁ。お前の席は僕の隣だったぞ」

「なるほど、ありが…………お前の隣、だと?」







 と、俺の平穏な学校生活は恐らく無いことが確定しつつ、席に着いて先生を待っていた。一応、カインの反対側の俺の隣にはエリーがいるから、まだマシなのかもしれないが。

 やっぱり、俺とエリーがあからさまに近い距離にいるようにされているのは意図的なものだろう。

 なら、カイン(この変人)の隣なのも何かあるのだろうか?てか、エリーの相手なら慣れてるから良いが、客観的に見たら今の俺は超絶変人に挟まれてる可哀想な人だぞ。


「ご主人様、大丈夫?」

「あぁ。まぁ、うん………」

「いくら君と言えど、今日は流石に同情するよ。有名と言うのも大変なものだね」

「本当にな………」


 フェリスは俺の席の側に用意されていた椅子に座っている。まぁ、折角用意してくれていたところ申し訳ないが、こいつは授業が始まったらどっか飛んでいくだろうな。

 それはともかく。先生が来たみたいだな。廊下から聞こえる足音に………ん?なんか足音重くね?

 と、違和感を抱いたのと同時に教室の扉が開く。




「やぁ諸君!おはよう!私がAクラスの担任を務めるライナスだ!よろしく!」


 空気が震えるかと思うような大声と共に入って来た、超絶マッチョの大男。おい、今教室の扉屈んで入って来たぞ。エリーが2人分くらいはありそうな身長と、服の上からでも分かる程盛り上がった筋肉に輝くような笑顔。しかし、その顔には幾つかの傷跡が刻まれていて、今まで戦場に幾度となく出ていたのであろうと言うことはすぐに分かった。

 ………あれ?ここ、魔法学校ですよね?と疑いたくなるほどの筋肉の威圧感に全員が無言でその男………俺達の先生を見つめていた。


「おや、どうしたかな。………あぁ!もしかしてまだ皆緊張してるのかな!?その気持ちはよく分かる………先生も昔はそうだったからね!」


 いや、そうじゃねぇよ。恐らくここにいる誰もがそう思っただろう。比較的前の席にいるルリアもポカンとしたような、かなり何とも言えない表情をしていた。エリーに至っては開いた口が塞がらないと言ってもいい。

 隣の変人すらも、眉をぴくぴくと小刻みに動かしているのを見れば、その衝撃が伝わるだろうか。


「じゃあまずは皆で自己紹介といこう!あ、そっちの席の人からお願いね」


 唖然とする俺達を置いて、何事も無いかのように自己紹介をさせようとするライナス先生。………このクラス、先生まで濃すぎるってマジ?









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