73話
「ふふ。聞けば聞くほど、何故魔法学校に入学したのか不思議ですね」
「あー………そうですよね」
誘われるままに、ルリアと会話をしながら時間を潰すことにした俺達。まぁ、殆どルリアが積極的に俺へ話を振り、それに答えると言う感じではあったが。
そのせいか、エリーは少し退屈そうにしている。悪い。もうちょい待ってくれ。
「まぁ、私は主に貴族としての振る舞いを学ぶために入学したので、そう見えても仕方ないかもしれませんね」
「あら、その必要があるようには思えませんけれど。こんなにも丁寧に会話が出来るんですから」
「………私は性格がちょっとあれなんですよね」
「ふふ。暴れん坊?」
「その気はありますね」
否定出来ない事実だからそのまま頷く。ルリアの第一印象は、巫女と言う名に違わずとても丁寧で淑やかな人だった。
狐の耳とフリフリと揺れる尻尾が可愛らしく、華奢で整った風貌も相まって親しみやすい雰囲気を感じる。まぁ、だからといって気安く話すと言う訳にはいかないが。
「あらら。でしたら、私も気を付けなければいけないでしょうか?」
「いやいや、流石にむやみやたらと暴力を振るうことはないですよ?ただ、定期的に思いっきり体を動かしたくなるだけです」
「冗談ですよ。真に受けないでくださいね」
と、お茶目なところもあるみたいだが。しかし、比較的新興国であるアクアマリン王国だが、数々の魔導兵器を有することでも有名なのだ。海の上にある国だから、移動手段も限られる。………流石にないとは思うが、俺のせいで国家問題になったら堪ったものではない。だから俺はただ、人当たりの良い笑みを返すしか出来なかった。
そうして俺の話が一段落すると、次にルリアは俺の後ろにいる二人に視線を向ける。
「そちらのお二人はエリシアさんとフェリスさん…………でしたよね?」
「あぁ、申し遅れました。私はエリシア・エンゲルです。以後お見知りおきを」
「フェリス、です………えっと、以後お見知りおきを?」
慣れたように挨拶するエリーと、やや首を傾げながらも同じように真似をするフェリス。ちゃんとした言葉遣いを教えておけば良かったと少し思ったが、こうして周りに合わせようとする努力をしてるのは最初の頃と比べれば随分変わったように思える。
「すみません。ご存知かもしれませんが、フェリスはフェニックスなので、人間社会………特に貴族のやり取りに慣れてないので、不馴れな態度も大目に見ていただけると幸いです」
「大丈夫ですよ。事情も知っていますし、元よりここでは皆同じ立場ですから。話し方一つに気を遣って頂かなくて結構です」
そう言って柔らかく笑うルリア。なんと言うか、エリーやルーナなど今まで若くして天才と呼ばれた子供とは会ってきた。
まぁ、そもそも今は既にはっきりと自我が芽生えている年齢ではあるが、彼女は俺が出会った同年代の子よりも更に大人の余裕を感じられる。
割とそう言うもんなのかと思い始めてきたが………などと考えていると、ルリアが視線を別の場所へチラリと向けた。
「………ん。そろそろ時間ですね」
「あー………そんな時間だったんですね。クラスの振り分けとかもう決まってるんでしょうか」
「どうでしょう?ふふ。折角知り合いになれましたし、ノインさんと同じクラスだと私は嬉しいですね」
「そうですね」
まぁ、かなり癖の少ない人だと言うのは把握出来た。身分的にはどうしても普通とは言えないが、今後友達付き合いをするとしたら、かなり接しやすい部類なのは間違いないだろう。
まぁ、程々に期待しながら式の開始を待つことにする。
………この様子だと、式はここで始めるみたいだな。入学式と言えば体育館のイメージがあるが、ここにはそんなものないのかもしれない。
「………来たな」
周囲が一気に静まり返り、同時に広場の先に数人の大人が集まっていた。恐らく彼らがこの学校の先生だろう。つまりは魔術会の人間。………当たり前だが、以前俺が知り合った彼らはいないみたいだ。
まぁ、ひとまずそれは置いておいて。彼らの中でも最も年長であろう老人が一歩前に出る。見た目的には70代にも見えるが、比較的大きな体格と未だに色の抜けていない黒い髭と長髪が、彼がただの老人ではないと語っているようだった。………まぁ、多分その通りなんだろう。
「皆、集まったようだな。では、フロスディア魔法学校一期生の入学式を始める」
その言葉は、俺達の新しい日常の始まりを告げたのだった。
さて。式が終わった後はクラスの振り分けが発表されていた。ん?式の内容?いやいや、校長の1時間にも及ぶありがたいお話なんて聞きたいのか?俺はもう二度とごめんだぞ。
取り敢えず、大事な所を要約すると、校長の名前はストラス・ウィジーリア。魔術会・総合魔法科首席の大魔術師であり、人類で初めてダンジョンを意図的に作り出すことに成功した人物らしい。
エリーとルリアがその名を聞いて目を見開いていたのを見れば、相当な人物であることに間違いはないだろう。俺は初耳だったが。
そして、一期生のクラスは五つらしい。結構多いな。
「五クラスか………結構多いな」
「まぁ、一期生だからね。多くの魔法使いを一度に育てれば、実績として強い。………取り敢えず、また三年間よろしく頼むよ」
「あぁ。よろしく」
そして、俺とエリーは同じクラス。相棒が同じクラスにいるのは俺としても嬉しい。三年間の間、クラス替えもないらしいし。
あと、俺達のクラスはAクラスだ。先に言っておくが、優秀順で割り振られてるとかそう言うことはないらしい。俺とエリーが一緒な時点でかなり飛び抜ける気はしないでもないが。………いや、それだけじゃないな。
「ノインさん。同じクラスでしたね。ふふ。これからよろしくお願いします」
「えぇ。ルリア様も同じクラスとは光栄です。こちらこそ、三年間よろしくお願いします」
ルリアも同じAクラス。やっぱり話しやすいなぁ。としみじみ思いながら、教室の場所を伝えている先生の声に耳を傾ける。
「Aクラスはあちらにある階段を登って続く廊下を右に進んだ先にあります!張り紙があるので、見落とさないようにお願いします!」
俺達のクラスは三階か…………ちょっと移動がめんどくさいな。まぁ、流石にクリフォト城より長いと言うことは無いだろうが。口にはしなかったが、あそこマジで長かったからなぁ。
「教室の場所も分かったし、早速行こうか」
「だな」
「私もご一緒しても良いでしょうか?遣いも連れて来ていないので、一人で少し心細かったんです」
「えぇ、勿論ですよ」
「ふふ、ありがとうございます」
嬉しそうに笑みを浮かべるルリア。遣いを一人も連れて来てないってことは、彼女も身の回りの事は自分で出来るタイプか。………まさか、こいつと同じく全くできないくせに連れて来てないなんてことは無いだろう。
エリーにはそもそも遣いの人間はいないが。その辺は家と同じく複雑な事情があるらしい。とまぁ、そんなことは一旦置いておいて。時間も惜しいし、俺達は広場から移動を始めた。
「そういえば、一期生にはアリスさんがいらっしゃるとか。彼女は元気にしているでしょうか?」
「………お知り合いなんですか?」
「えぇ。何度か祭事の場で。あまり多く話したわけではありませんけど」
「なるほど………どんな方なんですか?」
「そうですね………少し、気が強い雰囲気はあると思います」
歩きながらルリアと言葉を交わす。気が強い………王族で気が強いってまぁまぁヤバイな。逆らえねぇじゃん。ちょっと怖いな。と、なるべくトラブルにならないようにと頭の中で考えを張り巡らせる。
そこで突然黙ってしまった俺を見て、ルリアは少し楽しそうな笑顔を見せながら言葉を続けた。
「そう言えば、彼女の異名をご存知ですか?」
「え?あ、えっと…………剣姫、でしたよね?」
「その通りです。その名前の由来、ご存知ですか?」
「いえ。卓越した剣術の使い手とかですか?」
「ふふ………」
俺の答えに、小さく笑みを返すルリア。言葉こそないものの、間違いなく不正解なのだと言うのは理解出来た。
だが、だとすれば何故剣姫なんて異名が付いたんだろうか。
「楽しみにしておいてくださいね。きっと驚かれると思いますよ」
「はぁ………なぁ、剣姫の由来って、お前は知ってるか?」
「いや、僕もあまり。アリスは僕らのように積極的に人前に出ることはなかったらしいから、そこまで噂がないんだ」
「へぇ………」
だとすれば、剣姫と言う名前だけが広まっているのは少し謎だけどな。これも政治的理由と言う奴なんだろうか。
剣術が得意なのであれば、その技を見て学ぶこともあるかもしれないと思ってたんだが。そう思いながら階段を上り、雑談を交わしながら言われた通りに廊下を進んでいく。やっぱり長いわ。
「それにしても、まさか校長にストラスを派遣するとはね。彼も多忙な身だろうに」
「へぇ。やっぱり凄い人なんだな」
「凄いなんてものじゃないさ。寧ろ、君が名前を知らなかった事の方が驚きだよ」
「この学校に掛けられた魔法も、恐らくはあの方のものでしょう。………ご自身のお仕事は大丈夫なのでしょうか」
と、分からない話題で盛り上がる二人。それに対して、俺とフェリスは顔を見合わせて首を傾げた。まぁ、凄い人だって言うのは分かったし、そんな人が校長をするのなら安心はできる。………と、やっと着いたな。
「ふぅ………」
緊張している訳ではないが、一度息を大きく吐く。そして、俺は張り紙のあった扉に手を掛けたのだった。




