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61話

「ここの景色も久しぶりだな」


 どちらかと言えば緑の景色が多かった王都周辺とは違い、甲板から見えるのは一面に白が広がる美しい雪原。あれから3年も経ったというのに、未だにここは白銀に包まれる冬の領土だった。

 飛行船から見える景色を見て、俺はその寒さに………寒さ、感じたかったなぁ。


「ホルルルルルルッ!」


 俺の隣でフェリスがはしゃぐように鳴く。この地の事は勿論知っているんだろうけど、こうして自らの足で立ったのは初めてなんだろう。………こいつのことも父さんに話さないといけないな。

 いや、大体は知ってるんだろうけどさ。


「ほら、行くぞ。今日は忙しくなるだろうしな」


 俺はそう言って船の外に向かう。イリスの体調は良くなっているんだろうかとか、父さんはまた多忙で無理をしてないかな、とか。気になる事は沢山あった。

 そして何より、あいつはどうしているだろうか。


「………こういう時って、真っ先に会いに行った方がいいのか、最後に会いに行った方がいいのか悩むよな」

「ホルル?」


 俺の言葉に、フェリスは首を傾げる。そういう反応が返って来るのは分かってたけど、ここまで分かりやすいと逆に微笑ましい。それを誤魔化すように、俺は隣を歩くフェリスの頭を撫でる。それに対して、さっきまでの疑問などどうでもよくなったかのように嬉しそうに喉を鳴らすフェリス。

 そうして船を出た俺は………


「………え?」


 俺は、飛行船の外で俺を待っていた懐かしい姿を見て思わず声を漏らした。その姿は俺の思い出の中にあった姿よりも少し大人びた雰囲気になっていて………でも、相変わらず俺よりはずっと小さな体躯。


「………お前が来てたのか」

「ふふ。驚いてくれたかい?」


 その少女の青い瞳と目が合って、俺達は同時に笑みを浮かべた。まさか、数秒前の悩みが全て無意味になるとは思わなかったが。


「皆も来たがっていたけど、僕が我儘を言ったんだ。………この地に帰って来た君を、誰よりも早く迎えてあげたかったからね。………おかえり、ノイン」

「あぁ。ただいま、エリー」


 久しぶりの友との再会は案外あっさりしていたが………いや?さっきのエリーの台詞はあっさりしているのか?そうでもないか?

 まぁ、それはともかく。俺を迎えたエリーは、次に俺の隣にいたフェリスに視線を向ける。


「その子が話に聞いていたフェニックスかい?」

「だな。フェリスって名付けた。………なんだ、やっぱり父さんから話は聞いてたんだな」

「勿論だよ。君がしきりに僕の事を気にしていたと言うのもね」

「………うっせぇ」


 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべたエリーが告げるのに対し、俺は目線を逸らしてぶっきらぼうに返す。別にしつこく聞いていたという程ではないと思っているが、まぁ確かに思いついた時に何となく聞いてみる、程度には手紙の文面に添えていた自覚があったからだ。

 だが、父さんもそれを知っていてちゃんと答えてくれないどころか、エリーに話すとは何事なんだろうか。絶対俺がエリーにからかわれる事を分かってただろ。


「ふふ。君がそれだけ僕の事を気にしていたと言うのは、嬉しい事でもあったよ。………どうだい?そんな僕とようやく再開できて」

「相変わらずだなって思ったよ。元気そうで何よりだ」

「そうかな?今の僕は君に会えて舞い上がっているけど、君がいないと言うのは僕にとっては想像以上に耐え難い事でね」

「あぁ、噂は聞いてたよ。俺が居なくてだいぶ荒れてたってな」

「………ふん」


 俺がそう言うと、今度はエリーが目を逸らしつつ頬を微かに染める。この様子だと、噂はかなり本当な部分が多いらしいな。

 そんな会話をしているうちに、俺を乗せて来た飛行船が飛び立った。そして、それを見送ったエリーは、少し真剣な表情に変えて首を横に降った。


「………ルーナの件は聞いたよ。残念だったね」

「まぁな」


 正直に言えば、彼女には本当の事を話したかった。何となくエリーは気が付いてるんじゃないかと言う勝手な予想があったし、何よりこの力の真実を知っていて欲しかった。

 ただ、同時にあの話を広めて彼女にまで負担を掛けるのはあまり気が進まなかった。


「その話は後で詳しく聞くよ。今は一緒に帰ろう。君の故郷…………僕たちの街へ」

「そうだな………ところでさ」

「ん?」


 歩きだそうとするエリーに声を掛けると、彼女は不思議そうな表情を浮かべて振り返った。そんなエリーに、俺は少しからかうように尋ねる。


「会ったら早々に試合を仕掛けてくるかと思ってたんだけど、案外大人しいんだな?」


 これを直接聞くのはどうかとも思うが、耳に挟んでいたエリーの噂の限りだと、もっと過激な出迎えを期待………じゃなくて危惧していたから、少し驚いた。


「あぁ………君が王都にいってすぐの頃は、そうしようと思っていたよ。それこそ、挨拶代わりに一撃見舞うくらいの気持ちで」

「おい」

「でも、1年を過ぎる頃には、それ以上に君をちゃんと迎えてあげたいって気持ちが強くなったんだよ」

「エリー…………」


 俺はそのエリーの言葉に感動した…………というのは、彼女の表情を見るまでで。彼女が若干目を逸らして気まずそうな顔をしているのを見たら、何があったか想像に難くなかった。


「ここに1人で出迎えをする条件で、父さんに試合は禁止だって言われたんだろ」

「………さぁ、皆が待ってるし早くいこうか?」

「…………」


 まぁ、まだ皆にただいまも言ってないのに、こんなとこで遊んでる訳にもいかないのは事実だった。

 そうして、俺とフェリスはエリーと共に、彼女に王都での話をしながら街まで歩きはじめる。

 その感覚が懐かしくて、俺は少しだけ感傷に浸っていた。






 街に戻った俺は、半ば祭りと遜色ない歓迎を受けながら屋敷に向かった。ただ、中には見覚えのない顔も多かったのは………まぁ、やはり外から訪れる人を拒むという政策は却下になったんだろう。


「ノインさま!おかえりなさい!」

「よくぞご無事で………!」

「あぁ、皆ただいま。ありがとう」


 掛けられる言葉に適度に返事をしながら街を進む。まるでパレードのようで、歓迎は嬉しいんだけどなんだかこそばゆいんだよな。


「結構人が増えたんだな」

「最近はモンスターがこの辺でも増えてきてね。この街の人だけじゃ手が回らなくなってきたんだ」

「………もしかして、冒険者ギルドが出来たのか?」

「正解には、出来るって所かな。ほら、ずっと使われてなかった大きな空き地があっただろう?あそこにね」

「へぇ………ついに冒険者ギルドがこんな辺境地にまで来るのか」


 ちょっと感慨深いというか………俺は冒険者に憧れみたいなものがあるから、ギルドが出来るのは純粋に嬉しいんだよな。

 とはいえ、人が増えると言うのは同時にトラブルが増えるということでもある。父さんの事だし、その辺もちゃんと考えてるんだろうけどさ。


「それと、最近は珍しいモンスターがこの辺で増えてきたんだ。まだギルドから派遣された人たちが調査中だけど、出没するモンスターの平均ランクはC相当だと考えられているらしい」

「しれっと辺境どころか魔境になってんじゃねぇか!?」


 ランクCと言えば、一般的には冒険者なら十分高ランク冒険者に相当する。

 稀な例ではあるが、たった一体のCランクモンスターに村が全滅したと言う話もある。………まぁ、俺にとっては所詮雑魚に過ぎないが。

 

「そうは言うけどね。元はと言えば、原因は君にある可能性が高いんだけど?」

「は?俺?」


 唐突にモンスターの増えた原因を擦り付けられ、眉を潜める。だが、エリーは呆れたように話し始めた。


「あの山だよ。あの山に残る君の魔力がなかなか興味深い働きを見せているようでね。その影響を受けたモンスターが、次々と進化しているという説がある」

「…………マジ?」

「確定した訳じゃないけどね。多くのモンスターがあの山を目指すかのような行動を示しているのは事実らしいよ」


 エリーの語るそれは、色々と衝撃の大きい事だった。そもそも、あれからもう3年も経ってるのにまだ燃えてるのかよ、という驚きと、俺がモンスターの成長を促してしまっているという事への驚き。

 ちらりと俺がフェリスを見ると、彼女はそっと目を逸らした。なるほど、俺が原因で間違いないみたいだ。


「………」

「まぁ、君が気に病むことはないんじゃないかな。結果的に、そのお陰で優秀な冒険者がこの街に集まっているしね」

「けど、それでトラブルも増えるんだろ?」


 俺がそう聞くと、エリーは首を横に振った。そして、街の様子を見渡しながら答える。


「そうでもないよ。この街の外からの来た人が問題を起こしたら、彼ら全員が余所者としてここでの印象が悪くなってしまう。だから、彼らがお互いを見張っていて、以前よりは治安も改善されてるんだ」

「ふーん………案外、そう言う自浄作用はしっかり働いてるんだな」

「それでも完全には無くならないのが冒険者ってところだね。冒険者ではない来訪者も勿論いるけれど、やはりトラブルを起こすのは冒険者が多い」


 まぁ、言っちゃ悪いが荒くれ者の集まりみたいな部分もあるしな。俺はその荒くれ者に混ざってる方が性に合うんだけど。

 そんなことを考えつつ、俺は見慣れた………それでいて、とても懐かしい屋敷の前に来ていた。そして、門の前に立っている父さんを見て、小さく息を吸う。そして、少しだけ声を張って、その一言を。


「ただいま」

「あぁ、おかえりなさい。ノイン」


 あぁ、帰ってきたんだなぁと。父さんの言葉にようやくそんな実感が湧いて。ほんの少しだけ目頭が熱くなってしまった。





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