5話
それから数時間程練習をしていたが、魔力の操作は難なく行えても何故かどうしても発火してしまうようになっていた。おかげで最早火傷に慣れつつある。何度怪我しても、ため息一つつかずに治療してくれるエリーがいたからまだマシだ。
確かにこれ、エリーがいない状態で稽古してたらもっとひどいことになってたな。確かに天才だ。それに何だかんだと優しい。
「今日はここまでにしておこうか。少しやり方を考えたい」
「ん。分かった。ありがとうな」
「気にしないでくれ。それじゃあ………そうだね。明日も吹雪は来なさそうだ。また明日来てくれるかい?」
「分かった」
俺が頷くと、エリーは笑みを浮かべる。そして、すっと右手を差し出してきた。
「ん?」
「交友の握手だ。これから長い付き合いになりそうだしね。それに、君と話すのは楽しいから、仲良くしてくれると嬉しい」
「あぁ………うん。こちらこそ、今後もよろしくお願いします」
俺もその手を取って握手を交わす。そして、それを稽古を途中から見ていた父さんがこちらに歩いて来ていた。
「今日の稽古は終わりかい?」
「あ、はい………えと、明日も続きをするんですけど」
「うん、分かった。明日は私は同行できないから、いつもの世話係のメイドと一緒に行くように」
「分かりました」
「それじゃあ、帰ろうか」
「はい、父さん」
俺は父さんの言葉に頷いて、そっちの方へ向かう。その途中でエリーに振り返って、軽く手を上げる。
「じゃあ、また明日な」
「うん。また明日」
エリーも手を振り返してくれる。これで俺にもお友達が出来たのか。友達第一号にしてはちょっと癖が強いけど、嬉しいと言えば嬉しい。マジで癖が強いけど。
敷地から出た後、父さんが声を掛けてくる。
「悪い子ではなかっただろう?」
「はい。思ったより変ではなかったです」
「それは本人の前で言わないようにね」
そんな風に窘めつつ、否定はしない所がエリーがどういう風に思われているか何よりも分かるだろう。まぁ、流石に本人の前で言うつもりは無い。それに、さっきも言った通り心優しい少女だった。
怪我をしたらすぐに手当てをしてくれるし、そもそも本来初対面の俺の稽古を、危険を承知でしてくれているんだから。感謝こそあっても、文句など出てくるはずもない………多分。
今日の事を父さんに話しながら家に帰る。そして、日が落ちてきた頃に屋敷に着いた。父さんは少し寒そうにしていたけれど、俺は全く寒いと感じない。寧ろ、ずっと温かいくらいだ。
やっぱりこれも魔力が関係してるのかな。
「ただいま」
「ただいまー………ん?」
戸を開いて屋敷に入ると、玄関には一人の少女がメイドと一緒に立っていた。俺と同じ白髪と、燃えるような赤い瞳。幼いながらに綺麗な顔立ちをしていたが、すぐにこの子が誰か分かった。少しボーっとした表情のまま、少女は口を開いた。
「おかえりなさい………父上、兄さん」
「ただいま。イリス、今日の体調は?」
「今日は………良いです」
え、妹も病人なの?俺達兄妹、揃いも揃って難病持ち?それとも、身体が弱いだけなのか………?どっちにしろ困った兄妹だな。でも父さんは病弱なようには見えないし、となると………いや、やめておこう。知りもしない故人の事を推測するなんて、失礼極まりない。
「兄さんは、初めまして………ですよね。完治おめでとうございます」
「ありがとう。あー………イリスも、良くなるといいな」
「はい、ありがとうございます。それでは、私は部屋に戻りますね」
「あぁ、また後で様子を見に来るよ」
イリスはぺこりと頭を下げて、階段を上がっていく。しっかりした子だなぁ………もしかして、この世界じゃ俺くらいの年齢で大人っぽいのは当たり前なのか?それとも父さんの教育がいいのか。俺が子供っぽいってことはないよな?ちょっと自信が無くなって来たぞ。
俺、ドラ息子と言われないように気を付けなきゃ。まぁ、俺も今日から大変だけど。ちょっと慣れたけど、熱いもんは熱いんだよな。やっぱり。
「えっと………あの子も何か病気が………?」
「あぁ………まぁ、そうだね。ただ、少しずつ元気にはなっているんだ。これから会う事も多いかもしれないから、気に掛けてあげてくれ」
「分かりました」
色々と大変だろうしなぁ………俺も人のこと言えたもんじゃないか。取り敢えず、今日は疲れたな。
「俺も疲れたので、今日は休みます。今日はありがとうございました」
「うん。今日はよく頑張ったね。ゆっくり休んで」
「はい」
俺も父さんに一礼して、自室に向かう。夕飯までは時間があるだろうし、少し仮眠をしよう。俺は自室に向かう途中で、今日何度も火傷を負った右手を見る。ただ、火傷の痕は勿論、痛みも一切ない。魔法って凄いなぁって思いつつ、部屋に戻った俺はベッドに寝転がる。一人で使うにはやっぱりデカいなぁ。
まぁ、寝心地がいいから何でもいいんだけど。俺は目を閉じて、ゆっくりと意識を落とすのだった。
次の日。俺は約束通り、エリーの屋敷に来ていた。俺の世話役を担当しているメイドも一緒だけど、稽古を見ていてもしょうがないとのことで、エリーに言われて屋敷の中で待って貰っている。
そして、今日の稽古は………
「………」
「………」
本当にこれでいいのかなぁ………。俺とエリーは今、互いの両手を握って目を閉じていた。互いの魔力を繋げて、エリーが俺の魔力を扱ってみるとのことだ。その時の感覚を自分で掴むことが出来れば、俺も魔力を扱えるようになる………という話らしいけど。
失敗すれば、互いに体が燃えてしまう危険性がある、危ない橋を渡っているらしい。最初は反対したが………昨日の方法で続けていると、いつか俺は勢いあまって自身を焼いてしまう可能性が高いと言われてしまった。
だからって、エリーまで危ない目に合わせる必要はないと思うんだが………稽古してもらってる時点で、あまり変わらないとのことだ。
「………ちゃんと集中して。余計な事を考えられると、魔力がうまく繋がらないんだ」
「あ、ごめん」
怒られてしまった。俺は自分の中の魔力に意識を集中すると………それに、何かが触れた感覚があった。
「っ………これは、確かにソフィアが驚くわけだ」
「大丈夫か?」
「問題ない。ちゃんと集中していて。こうして………」
そうして、俺の熱と何かが繋がる。そして、俺の意思とは関係なく繋げた両手に熱が移って行き………今までとは違い、熱は抑圧されたような、静かな波のような形で俺の両手に広がった。
そして、少しずつその魔力は俺の手から離れ、彼女の方に向かっていき………え、いやこれ大丈夫なのか?
「ふぅ………」
そう思った瞬間、エリーは小さく息をついて右手を離す。そして、俺が目を開くと………彼女の手のひらの上に、拳ほどの大きさの炎が燃えていた。
「分かるかい?僕の右手に集まる君の魔力。こうして、丁寧に………魔力を常に抑え込みながら、少しずつ外に放出するんだ」
「な、なるほど………」
確かに、彼女の手のひらで燃える炎は彼女を傷つけることなくゆらゆらと揺らめいていた。何となく感覚は理解できた。よし、やってみるか。
俺はエリーの左手を離し、同じように手のひらを開く。魔力を少しずつ、抑え込みながらゆっくりと流して………
「そう、そのままゆっくり………」
エリーが優しく声を掛けてくる。そして、エリーと同じように………いや、それより一回り大きな炎が手のひらの上で燃え始めた。全く熱いとも感じない。よし、出来たぞっ!
「ってあっちぃ!?」
「あぁもう………」
ちょっと気を散らした瞬間にこれだ。熱く感じなかったはずの炎が、急に熱くなって俺はまた火傷を負う。おいおい、何やってるんだ俺。これには流石のエリーも額に手を当てて飽きれたような声を漏らす。
俺、子供に呆れられてるってマジかよ。
「危険なものを扱っている自覚はあるのかい?集中を切らしちゃダメじゃないか………全く」
「ごめん………」
「いいさ。そもそも、僕たちの年齢で魔法の練習をすること自体が異例なんだ。君はよくやってるよ」
そう言って、エリーは用意していた籠から昨日と同じように草を取り出して、俺の傷を治してくれる。籠に入っているのは薬草らしい。回復魔法でも十分らしいけど、しっかりと跡を残さないためにはこうしたほうがいいと言っていた。
「進展があっただけ成長だと思おう」
「あぁ。何となく、掴めた………と思う」
この調子で練習すれば………うん。まだ課題は多いんだよなぁ………
「慌てることはないよ。少しずつ頑張ろう。僕も、出来る限りの協力はするから」
「………ありがとうな。エリー」
「気にしないでくれ。僕と君は友達なんだから」
本当にいい奴だよなぁ。友達になれて本当に良かった。さて、もうひと頑張りだな。
それからお昼を少し過ぎた頃。成果?ふっふっふ。見て驚け。俺が右手を振るうと、炎が波のように広がる。あれからみるみるうちにコツを掴んだ俺は、数時間のうちに魔力を扱えるようになったのだ。
どうだ、凄いだろう。これ、俺も割と天才肌なのでは。マジあっちぃけど。
「やっぱり、稽古の内容を変えて正解だったね」
「だな。ほんと助かった」
「僕もここまで成長が早いとは思わなかったよ。怪我するのはやめてほしんだけど」
「はい。ごめんなさい………」
結局俺は凡人みたいだ。がっかりだ。またも火傷を負った右手を治療してもらう。今日で何度目だよ。もう火傷を負ったくらいじゃ一々反応も出来なくなってきたわ。普通に熱いけど。
「………取り敢えず今日のところはこれくらいでいいと思う。また明日も同じ特訓をして、その炎の暴発をまずは抑えれるようにならないとね」
「分かった。それじゃ、今日もありがとな」
「うん、また明日」




