49話
朝食の時間。珍しく王子三兄弟とルーナも全員が揃っての時間だった。王妃様と国王はもっと早く起きて食べているらしいから、一度も席を共にしたことは無いが。
俺達は朝食を取りつつ、先日冒険者達から集めたダンジョンの情報を共有しながら話していた。
「トラップかぁ………ご主人様、そういうの見抜けるの?」
「多分無理だな。そもそもダンジョンに入った事すらないし」
「………となれば、我が手を回し冒険者を募るか?貴族の冒険者と言うのも、少ないながら存在するぞ?」
「家柄よりも、実力を一番に考慮した方が良いと思いますがね。ノインさんにもしもの事があれば、それこそ一大事でしょうから」
「………ってか、本当にそのダンジョンに【五属の継心】の事が記されてる確証もないんだろ?あんたが行かなくても良いと思うんだけどな」
三兄弟が口々に意見を言い合う。まぁ、確かに俺が出向かずとも冒険者がダンジョンを攻略し、その情報を待つという方法もある。ある、が………
「ダンジョンは10層を超えるとそれこそ完全攻略に数年掛かってもおかしくない………それどころか、もう発見から10年以上経っても最奥に立ち入った人がいないとまで言われるダンジョンもあるらしいんだよな。最高記録が………22層だったか」
「そんなのがあるのか………けど、今回のは20層もないって話だろ?」
「そりゃそうだけど、9層でキマイラが3体だぞ?普通の冒険者の攻略を待ってたら、いつになるか分かんないだろ」
「それは………まぁ、そうだけど」
全力で攻略するなら、この世界でも有数のSランク冒険者を呼び出して攻略してもらうと言う手段もあるんだろうけどな。そんな大々的な事をしたら、まず間違いなく噂になるだろうけど。
時間がいくらでもあるのなら、待てば良いんだけど。生憎と、期限は5年。悠長にしてるわけにはいかないのが実情だった。
「白の奴らが大人しいうちに行っておきたいしなぁ………」
「………まだ狙われてると思うんですか?」
ルーナが不安そうに俺に尋ねる。あんな姿と力を使ったうえで、フェリスによって失敗したのだ。俺の抹殺は諦めるのが普通なのだろう。ただ、あいつらはその普通に当てはまらない。
「あぁ。諦めてないだろうな、ああいうのは」
「死を恐れない者達と聞いていますからね。そのような手合いは、往々にして諦めが悪い………それこそ、次の世代に託してでも悲願を果たそうとするでしょう」
「本当やになっちゃうよ。でも、あいつらがまた来ても、ご主人様は私が守るから心配しないでね?」
「頼りにしてるよ」
結局、あいつらの不死を貫通して殺せるのは今のところフェリスだけだしな。もしかすれば彼女の羽を使って作られた武器………【焔翼の器】と呼ぶことにしたあれならば何とかできるのかもしれないが、試してみない事には迂闊な確証は持てない。
それはともかく、ダンジョンについての意見を交換していた時………不意にフェリスが声を上げる。それも、ぱぁっと顔を輝かせて。
「あ、そうだっ!ねぇねぇご主人様!」
「………なんだ?」
とても嫌な予感がしつつ、それを抑えて聞き返す。経験上、フェリスがこういう表情をした時は大体ろくでもない事を思いついた時が殆どだ。その不安を出来る限り表情に出さないようにしながらフェリスの言葉を待つが………
「私がダンジョンで先頭に立つよ!トラップを私が起動して――」
「ダメに決まってんだろ」
「なんでっ!!??」
フェリスの提案を最後まで聞かずに切り捨てる。すると、心底ショックを受けたと言わんばかりに声を上げるフェリス。まるで名案のように言っているが、普通に考えて許可されると思う方がおかしい。それを聞いていたウェイン達も苦笑を浮かべ、そりゃそうだろと言わんばかりに頷く。
「そんな非人道的な攻略法が出来るわけないだろ。俺を何だと思ってんだ」
「えぇー!一番合理的なのに!?」
「人は合理だけで生きられないんだよ。お前が不死だとしても、俺の為に傷付くのは見てられない」
こういうところが人間ではないと実感するところだ。確かに、合理的と言えば合理的なのは間違いない。だが、だからといってフェリスを盾にして進むと言うのは流石に採用できるはずがなかった。まるで人の心が無いような奴なら容赦なくやったかもしれないが、生憎と俺はそんな決断を下せるような冷酷な人間ではない。
「そんなぁ………私はご主人様のためなら喜んで身を全て捧げる覚悟だってあるのに………」
「ぶふっ………!」
「ごほんッ!」
「「「………」」」
ラルクが吹き出し、ウェインはわざとらしい咳払いをする。俺とスレイは無言で頭を抱え、ルーナは鋭い目付きでフェリスを睨んだ。
いや、分かっているのだ。フェリスがその言葉をそのままの意味の比喩として使っているのは。ただ、文脈的にちょっとよろしくない。そもそも、そういう覚悟すら要らないと言う問題もある訳で。
ついでに言うと、そう言うのはルーナの前では言って欲しくなかった。他意が無いとしても。
「あー………フェリス。その表現はあんまり良くない」
「え?なんで?」
「………そういうものなんだ。あと、ついでに言うとその覚悟も要らないから」
「うーん………ご主人様が言うなら………」
一度、ちゃんと本を読ませた方がいいのかなぁ………読んでくれないだろうなぁ。ルーナも暫くフェリスを睨んでいたが、やがて彼女はこういう子だと諦めがついたのか、ため息を着いて食事に戻る。ラルクは未だに咽ていて、スレイがその背中を摩っていたが。
「………取り敢えず、そういうトラップを見抜いて解除できる奴は探さないと駄目だよなぁ………ついでに、フェリスと一緒に行動しても妙な真似をしない奴で」
「こほん………ふむ。そうなってくるとかなり限られるであろうな」
「フェリスさんを連れて行くのは決まっているんですか?」
ルーナが若干不機嫌そうに尋ねる。というか、かなり刺々しい。それに気が付いたスレイとウェインも目を逸らしていて、気が付いてないのはフェリスだけだった。
「当たり前だよっ!そんな危険な場所に行くなら、ご主人様が止めても絶対についていくから!」
「………そうですか」
ちらりと俺の方を見てくるルーナ。取り敢えず、俺もそれと目を合わせないようにそっと目を逸らした。いや、実際の所俺もダンジョンに行くならフェリスは必要だと考えているし。
流石にさっきフェリスが提案したような案は絶対に採用しないが、純粋な戦闘力として考えたらフェリスはとても心強い。万全の状態で挑むのなら、彼女を連れて行かないと言う選択肢は無かった。
「少なくとも、足手まといにならない程度の実力とフェリスと共に行動しても信用できる相手か………」
「………それこそSランク冒険者を呼ぶしかないんじゃないか?」
「あまり考えたくはないですが、裏切られた時のリスクも大きいですがね。特に………ダンジョンでは誰かが欠けたとしても、その原因を追及することは難しいですから」
「………俺はともかく、フェリスをどうにかするってのはちょっと考えづらいけどな」
「その考え得る中であり得ないようなことをどうにかしてしまうのがSランク冒険者達ですよ。それこそ、不死殺しを成したと言われる方もいるそうですから」
スレイの言葉に、俺は沈黙を返す。自分の実力には自信はある。だが、決して俺のような力を持った人間が他にいないという訳ではない。本来なら人に過ぎたるような力を持った人間と言うのは、【五属の継心】に頼らずとも存在するのだから。
そんなごく限られた存在が、異名を持ったり………あるいは、Sランク冒険者まで登り詰めたりするわけで。
「まぁ、Sランク冒険者ともあろう者が、辺境伯の次期当主………それも熾炎の貴公子と同行して死なせたとなれば、その名に傷が付くだろうがな。そう考えれば、その心配はあまりないとも言える」
「それはそうですね。まぁ、そもそもSランク冒険者を動かすことそのものが大事になると言う事ですが」
「そんな方を呼ぶのでしたら、ノインさんを一緒に向かわせる必要もありませんからね………」
「ま、確かに………取り敢えず、色々と人手は探さないとなぁ」
そういう伝手は当然ながら一切ない。国王に相談してみてもいいかもな。そう考えていると、フェリスが首を傾げる。
「そんなに難しいなら、ご主人様がその技術を学ぶって言うのは駄目なの?」
「駄目じゃないだろうけど………結局、そういう技術って何年も積み重ねて来た経験の賜物なんだよ。今から俺が身に付けようとしても、どうしても付け焼き刃にしかならないと思う」
「そっかぁ………じゃあやっぱり」
「――フェリス?」
「ごめんなさい。なんでもないです」
俺の一言で慌てて謝るフェリス。そんな様子を見ていた4人は苦笑を浮かべていたが、結局はすぐにどうにか出来るという問題でもなく、それなりに長い目で見る必要があるだろうと言う結論に落ち着いた。
まぁ、それでも時間が有限である以上は、悠長にしていられないけどな。最悪の場合は………Sランク冒険者を呼ぶことになるかもしれないが。取り敢えずは俺とフェリスをメインにして攻略する方法を探すことになるだろう。
「あ、そうだっ!私の炎でトラップごとダンジョン内を全部焼き払うのは――」
「駄目に決まってんだろ」




