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48話

 ダンジョンへ行く準備を整えるために、取り敢えずは出来ることから始めながら数日。正直、ポーションの類は劣化するといけないから向かうと決めた数日前に買い込むとして………他に必要なのは、やはり情報だった。

 トラップの類は勿論、召喚されるモンスターは召喚の影響を受けて固有種だったりもする。当然、そういったモンスターは初見の相手と言うことになるため、求められる対処も異なりもする。ダンジョンごとにある程度の傾向があるため、情報と言うのはなによりもダンジョン内で生き残るうえで大事な事だ。

 だからこそ、俺は冒険者ギルドに来て依頼と言う形でダンジョンに挑んだことがある冒険者を募り、有用な情報を得ようとしたんだが。


「どうしてこうなったんだか」

「それでも、納得して頂けたんですよね?私としても、熾炎の貴公子と手合わせ願えるのは光栄な事ですので」


 何故かギルドの訓練場で一人の男と向き合っていた。周囲にはその様子を興味深そうに見ている冒険者達もいる。向き合っている男も当然冒険者だった。

 先に行っておくが、別に喧嘩という訳じゃないし、フェリスを巡ってのトラブルでもない。今日はそもそも連れて来ていないし。

 今回の依頼の報酬金は俺が貴族と言う立場と、情報の出し渋りをしないようにと少し高めに設定していたんだが、その中から数人が報酬金の代わりに俺との模擬戦を希望していた。


「本当にいいのか?それなりに安くない報酬金を用意したつもりだったんだが」

「えぇ。金には困っていないので。それよりも、私にとってはこの戦いの方が価値があります」

「ふーん………ま、そこはBランク冒険者ってことか」


 危険なダンジョンに挑んだと言うだけあり、俺の依頼を受けたのは殆どが高ランク冒険者だった。低層に潜ったくらいの浅い情報は省くという条件もあったから、当然なのかもしれないが。

 そして、そういった高ランク冒険者は基本的に稼ぎがいい。中には金以外の報酬の交渉を求める冒険者もいる程だそうだ。そして、今回もその例という訳だ。


「まぁ、そっちがそれでいいならいいけど。高い依頼料の代わりなんだし、気が済むまで相手してやるよ」

「それは有難いことです。………いくぞ!」


 直後、それまで丁寧だった口調を崩して一気に距離を詰めてくる男。流石に貴族相手の礼儀を戦闘中まで気にしている余裕は無かったようだ。まぁ、元々貴族と言う立場に拘りが無い俺だから、最初から崩して貰っていても構わないんだがな。

 とまぁ、そんな事を考える程度には余裕をもって男の槍の一突きを訓練用の剣で弾く。


「なっ………」

「驚いてる場合か?」


 まさかあっさりと防がれると思っていなかったのか、呆気に取られた様子の男。すぐにその男の懐に潜り込み、剣を振る………手を直前で止め、代わりに男の腹部に向けて蹴りを放った。


「ぐっ………!」


 男は軽く吹き飛ばされつつも、すぐに態勢を整える。流石に高ランクと言うだけあり、俺が剣を振るおうとした腕を掴み、カウンターを狙っていたらしい。それに気が付いたからこその蹴りだったが、それでも腹部と言う弱い部分に受けたのだ。それなりにダメージはあったらしく、苦しそうに腹を抑える。


「はっ、マジかよ………ワイバーンの革を使った鎧だってのに、くそいてぇ………」

「あまり手応えが無かったのはそれが理由か。本当なら、今の一撃で大体の奴は倒れたのに」

「貴族の子供だと侮ってたわけじゃないが………なるほど、流石に龍殺しを成した英雄か」


 男の言葉に、俺は無言で笑みを返す。男もそれにニヤリとした笑みを浮かべ………次の瞬間には、再び走り出す。さっきまでのは様子見と言う意識があったのか、先ほどよりも鋭く素早い。そんな男に、俺は同じように飛び出す。


「ちっ!」


 咄嗟に槍を振るう男。それをジャンプで躱し、男を飛び越えながら背後に回る。すぐに男は振り返りながら槍を薙ぎ払うが、剣を構えてそれを受け止める。そして、俺は左手に炎を纏わせて突き出す。


「爆ぜろ」


 直後、小さな爆発が巻き起こる。男はそれを後ろに跳んで回避しつつ、再び距離を詰めようとして………俺がそれよりも早く男の目の前まで迫っていたことに目を見開く。男が槍を振るうよりも先に、俺が剣を振るう。何とかその一撃は防御に成功したようだが、すぐに次の攻撃に移る。それを何度も繰り返していく。

 そうして余裕を奪っていき………とっておきで締める。槍で防御する姿勢が今までよりも少し甘い。それを見た俺は剣が槍に受け止められたと同時に更に体を寄せ、男の腕を掴んだ。そして


「―――え?」


 次の瞬間には、男の体は宙に浮いていた。腕を掴んだ瞬間に回し蹴りで男の足を刈り、姿勢を崩したその体を腕力だけで持ち上げていたからだった。そのまま男を地面に叩きつけ、肺の空気が外に排出されて苦しげな呻き声を上げた彼の首筋に剣を添える。


「勝負ありでいいな?」

「………参った」


 男が敗北を認めると、周囲から歓声が上がる。確かに、高ランク冒険者と言うだけあり身のこなしは流石と言わざるを得ない。繰り出される一撃も鋭く、俺が最近戦ったミノタウロスにも十分なダメージは与えられるだろうが。埃を払いつつ立ち上がった男に声を掛けた。


「懐に潜り込まれた時の対処が甘いな。これまではその速度と槍の間合いの広さで近付かれる前に何とかなってたんだろうけどさ」

「あぁ、全くその通りみたいだな。ここまで俺の弱点が浮き彫りになるとは思わなかったよ」

「ま、長物がそもそも懐に潜られると弱いって言うのはあるけどな。完全に無対策って言う訳ではないらしいし」


 俺の腕を掴んでカウンターを狙ったのは、十分に咄嗟の判断能力が長けていると言って良いだろう。問題は、それが明らかに読みやすい動きだったことだけど。

 とは言え、俺が一々細かく言わずともここまで成り上がって来た冒険者だ。自分の何が悪かったかは自分が一番よく分かっているだろう。


「さて、順番待ちがあるから次だな。まだやるなら一巡してから相手になるよ」

「おう。じゃあ、次の俺の番を待つとするか」


 報酬と言うことになってるし。流石に一日中という訳にはいかないが、数周する程度なら妥当な時間だろう。正直、俺自身としても悪くない話だった。そうして数人の冒険者を順番に相手にしていき、朝から始めたこの模擬戦が、大体昼前になる程に戦った頃にはようやく相手も満足し、模擬戦は終わりと言うことになった。

 勿論、報酬として模擬戦を行ったわけだから、その後にダンジョンの中での出来事や戦ったモンスターの情報をギルド内の一室を借りて詳細に教えて貰ったが。

 相手も模擬戦を通して十分満足したことと、その中でかなり打ち解けていたこともあって俺が聞くよりも先に自ら色々と話してくれた。


「へぇ………保護色になるリザードマンの群れか」

「あぁ。そんなモンスターを俺は聞いたことないし、確実に固有種だと思う。幸い、透明化する訳じゃないから、目の良いアリシアがいたから奇襲を受ける前に見つけれたんだけどな。6層以降でしか見ていないから、それより前の階層なら心配はいらないと思う」

「殆ど偶然だけどね。ダリオの言う通り、6層からは天井にも気を付けた方がいいわ。あいつら、天井に張り付いてたの」

「………なるほど」


 真っ先に模擬戦を希望した二人のパーティーの言葉に頷く。確かに、気が付かずに奇襲を受けたとなれば俺でも多少危ないかもしれない。取り敢えず、天井に貼り付けると言うことは、壁や物陰にも警戒するべきだな。


「僕たちが見たのは雷を放つクラゲのモンスターでしたね。かなり滑りやすい表皮らしくて、剣や槍じゃあんまりダメージが通らなかったんです。僕たちのパーティーには魔法使いもいなかったので、残念ながらそこで撤退する事になったんですが………」

「ふむ………俺は魔法を使えるからなんとかなる………か?」


 別のパーティーが遭遇したと言うモンスターの話を聞いて、俺は悩む。俺が得意とする炎を纏った格闘はしない方がいいな。まぁ、そもそも毒針を持ってる可能性だってあるし、下手な接近戦はしない方が良いんだろうけど。

 ちなみに、こちらのパーティーも二人の男女だ。そして、模擬戦ではなく普通に報酬金を希望した二人だった。勿論、俺はそれでも全然いいんだけど。


「熾炎と言えば炎の魔法で有名ですよね。羨ましい限りです」

「ノイン様なら大丈夫だと思いますけど、雷の威力も相当高かったので喰らわないように気を付けてくださいね。うちの頑丈さには定評があるロンドが、一撃でしばらく動けなくなってしまったので」

「………そのロンドって奴はいないみたいだけど?」


 まさか、という視線でその二人を見ると、慌てたようにぶんぶんと首を横に振る。いやまぁ、そんなことをするようには見えなかったけどさ。


「違いますよ!?まさか仲間を置いて逃げてきたわけないじゃないですか!!」

「ちゃ、ちゃんと連れて帰ってきてます!ただ、受けたダメージが大きかったので、今は療養のために休んでて、もう一人もその看病をしてるんです」

「あー………そうだったのか。ごめん」


 それは失礼な事を言ってしまったな。そう思って俺が頭を下げると、二人は首を横に振った。


「いえ、気にしないでください。………まぁ、今回は治療費や装備の修繕でそこそこ費用を使っちゃったので、僕達二人でも出来る依頼を探してたんですよね」

「なるほどな」

「模擬戦も惜しい報酬ではあったんですけどね。もし機会があったら、別の依頼を出して頂けると嬉しいですね」

「考えておくよ。………その電気クラゲはどの階層にいたんだ?」

「7層です。多分折り返し………くらいだと思います」

「ふむ………何層まで続いてるって言うのは分かってるのか?」


 俺がそう尋ねると、集まっている冒険者達は首を横に振る。最下層にはまだ到達されてないってことか。そして、集まってる冒険者達が口々に話し始めた。


「僕たちはそこで引き返したので………10層以上続いてるって言うのは、魔力を感知できる人が発表してましたね。でも、20層はないだろうと」

「俺達も7層までしか届かなかったな。その電気クラゲは見てないが」

「俺は9層までは行きました。ただ、流石にキマイラが3体出て来たので引き返しましたが………」

「キマイラが3体!?よく生きて帰れましたね………」

「キマイラって言うと………Aランクモンスターか。それは流石に洒落にならないな」


 9層まで言ったと話す男はソロの冒険者だった。この中では最も腕が立つらしく、実際模擬戦でも俺が一本取られかけている。それでも、Aランクモンスターが3体と言うのは無理だと判断せざるを得なかったらしいが。

 まぁ、俺も流石に遠慮したいけどさ。ただ、9層からはそのくらいの敵が当たり前に現れるんだと考えて良いんだろう。もしかしたら、Aランクモンスターの固有種が現れる可能性もあるし………うーん。これは想像以上にきついな。


「そうか………確かに結構辛いな」

「トラップも多かったわよ?もし行くのなら、私みたいなシーフやトラップを見抜いて解除できる人を連れて行った方がいいわ………もしかして、熾炎の貴公子ならそういった技術もあるのかしら?」

「無いな。………そういう細かい作業は苦手だし」

「あら、そう………一応貴族ですものね」


 ………一応って言うのは聞かなかったことにするか。変に突っつくと藪蛇だし。取り敢えず、こんな感じで色々と聞いてはその情報をメモしていった。それを元に準備を進めていくが………まぁ、うん。だいぶ時間かかりそうだな。









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