45話
あれから数週間ほど。フェリスも前ほどは傍若無人な行いは鳴りを潜めていた。まぁ、未だに人間の常識には疎いらしく、時たま後始末に追われることがあったが。
しかも、朝起きたら俺のベッドに潜り込んでいる時もある。まぁ、鳥の姿だからペットみたいなもんだけど。正直、鳥の姿のままでいる分には色々と気を遣わなくていいし、意外とモフモフしてて癒される。ただ、少女の姿にもなれるという事実を変えることは出来ず、時々ルーナがフェリスを睨んでいた件に関しては………フェリスが首を傾げていたが。
「フェリスさんが来てから、ノインさんはあまり私に構ってくれなくなりましたね」
「え?………そう、か?俺は別にルーナとあいつで差をつけてるつもりは無いけど」
「そうですか?今も私は名前なのに、フェリスさんのことはあいつって………」
「それは差とかじゃなくて………んー、なんていうんだろうな。従魔と友達の違い?」
まぁ、それも一つの差のようなものだと言われたら何も返す言葉が無いけど。そして、案の定俺の返答にルーナは不満だったようで。
「………友達、ですか」
「まぁ、うん………」
そう呟くルーナがどのような意図を持っているかは、考えるまでも無くて。ただ、やっぱり今の所どうしてもルーナに惹かれるかと言われたらそうでもなくて。でもまぁ………もし俺がこのまま婚約相手が見つからなかった時は、一番に候補に入るかもしれない。どちらにせよ、俺がフロスディア家を継ぐことになれば相手は見つけないと駄目だし。………が、そんな仕方なくの妥協案みたいなこと、本人には絶対に言えない。
「………そういえば、【命煌】に何か変化はあったか?それなりに時間も経ったけど」
無理矢理話題を変える。とは言え、これも放置していい問題ではなかった。と言うよりは、今のところ最も優先すべき事柄でもある。何となくこうすればいいだろうで続けていたが、あんまりに変化がないようでは意味がないのだから。
「そう、ですね………………その、大きな変化はないんですけど」
「けど?」
「はい。その………最近変な夢を見ることが多くて」
ルーナの返答に、俺は朝食を食べる手を止めた。変な夢を見る。それは、俺も今まで何度も経験してきたことで。ただの偶然で済むような事でもないだろう。
「あー………どんな夢なんだ?」
とは言え、聞かない事には何も判断できない。予想が当たらないでくれと思いつつも、何となくそうもいかないんだろうな、という思いもあった。
「えっと………真っ暗な所で、小さな光だけが目の前にあるんです。私はそれに触れようとするんですけど、何故か凄く怖くなって、逃げ出して………いつもそこで夢が終わってます」
「………そう、か」
「………心当たりがあるんですか?」
ルーナはそう問いつつ、分かっていたんだろう。彼女も聡い人だから、その光が何であるかも理解しているはずだ。そのうえで………俺にどうすれば良いのかを聞きたいのだろう。
正直、今まで見た夢の話で考えると、きっとそれを受け入れた方が良いのだろう。俺だって、この力を拒むのではなく受け入れることでこの炎を御せるようになったのだから。でも………
『貴方はもう、その火に触れてしまった』
あれから見るようになった夢。今も時々俺に知らしめるかのように語り掛けてくる声を思い出して、俺は首を横に振っていた。
「………あぁ。多分、そのまま触れない方が良いと思う」
「そう、ですか………」
触れてしまったが故に、何かが起こるとは限らない。そもそも、俺はあの火に触れるまでに様々な経験をして、その上で………あの炎に同調する程の覚悟を得た。ならば、ルーナがその適合する程の条件は?なぜ今のタイミングなのだろうか。そういう疑問がない訳ではない。
この力を受け入れ、使いこなせるようになったとはいえ、まだまだ自分でも分からない事の方が多い。
「………守護者の力って、結局何なんだろうな」
「え?………何、とは?」
「古の人々が、人と言う種を守るための変異魔力。そう伝わってるのは知ってる。………でも、それだけじゃ無い気がするんだ」
「………」
「詳しく知ってる奴に聞ければいいんだが………」
そう考えて、思い浮かんだのはフェリスと白の裁徒達だ。特に後者は、明らかに何かを知っているような発言をしていた。狂人であるところを考えると、事実である確証はないが………それでも、何かの情報を持っていると考えて良いだろう。
そして、フェリス。こちらに関しては何とも言えない。ただ、何かを隠してるのは理解できた。それが【天焔】に関する事なのか、全く別の何かなのかもまだ分からないが………取り敢えずは、まだ無理矢理聞きださなければいけないという訳でもない。
「………その、ただの噂なんですけど」
「ん?………うん」
「冒険者さん達の間で………最近、ダンジョン化した遺跡が見つかったって言う話があって」
そう話すルーナは、どこか自信なさげで。ダンジョンと言えば………まぁ、その名の通りなんだが。高濃度の魔力が何らかの影響を受けて術式を作り上げ、周囲一帯をダンジョンへと化してしまうというものだ。
モンスターが勝手に召喚されるようになり、トラップまでもが作り出される。その代わり、古代の遺物であるアーティファクトが宝箱と共に召喚されたり、元々中にあった武器や鉱物が魔力によってマジックアイテム化したりとかもあるんだが。
「ダンジョン化した遺跡………………確かに珍しいけど、それがどうかしたのか?」
「えっと………魔力に目覚める前の人間たちの暮らしを描いた石碑や遺物が見つかってるらしくて、ですね」
「………なるほど。もしかしたら、【五属の継心】に関しても情報が得られるかもしれない、と」
確かに、その噂が本当なら攻略する価値はあるかもしれない。その噂が本当ならだが。そもそも、そういう面白そうな話が俺に入って来てないのもちょっと不自然だし………いや?もしかしたらその話を聞いたらまず間違いなくすっ飛んでいきそうだから、わざと俺には情報が伝わらないように手を回されてた可能性もあるな。
「ふむ………」
「え、えと………ただの噂なので………」
「ま、調べてみる価値はあるだろ。そこにルーナの【命煌】を制御する鍵もあるかもしれないし」
「でも………」
妙に渋るルーナ。まぁ、ダンジョンと言えばこの世界でも屈指の危険地帯であることは承知の上だ。毎日お宝やモンスターの素材を求めて多くの冒険者が足を踏み入れ、帰ってこないなんて珍しい事でもない。
ルーナからすれば、自分が話したばかりに俺がダンジョンに足を踏み入れ、戻ってこないなんて事になったら………まぁ、うん。気持ちは想像できるけどさ。
「正直、リスクを冒してでもやる価値はあると思うだよな。それこそ、ルーナの命が掛かってるんだし」
「ノインさんも………その、ダンジョンとなると命の危険が………」
「分かってる………けど悪い、エリーの話なんだけどな。………あいつも、俺がこの【天焔】の制御が出来なくて、自分自身を焼いてしまうような状況の時でもずっとそれを制御するための特訓に付き合ってくれてたんだ。それも、万が一があれば自分すらも共に燃えてしまうようなリスクを抱えてでもさ」
これまで、この話をしたことは無かった。する機会が純粋に無かったし………そもそも、ルーナはエリーの事を恋敵として見てる節があったから。こう言う話をするのは、彼女への対抗心を煽ってしまうような気がして控えていたのもある。
「エリシア様が………ですか」
「あぁ。だから………なんていうんだろうな。ずっとあいつの隣にいた俺が、生半可な覚悟で臨んじゃ駄目だなって思ってるんだ。俺があいつと対等にいるために、命も掛けられないようじゃエリーに顔向けできないんだよ」
「………そうなんですね」
「だから、その噂が本当なら………俺は行かなきゃいけないと思う」
意外と嫉妬深いルーナの事だ。この話をしたら、より一層エリーの事を意識するだろう。ただ、それでも………他に納得させる方法が思い浮かばなくて。
「………こうなるから口止めをしておいたものを」
「え?あ………国王陛下。おはようございます」
「お、お父さん………すみません」
気が付けば、ダイニングルームに国王が来ていた。少し険しい表情を浮かべ、俺とルーナを見ている。
「聞いてしまったのだな」
「あ、えぇ………まぁ、はい」
何の事かは言うまでもない。やっぱり俺が知らないようにしてたんだな。国王の性格と手腕を考えれば不思議な事でもないけど。
「はぁ………今後は危険な事は控えよと言ったはずだが」
「勿論、すぐに行くつもりは無いですよ。それこそ、失敗する方が難しいと言うくらいには準備をするつもりです」
「………行かないという選択肢はないのだな」
「それくらいの覚悟が無かったら、ルーナの件を引き受けたりしません」
はっきりと断言する。まぁ、準備に関してはこれからだから、全然見通しがないんだが。流石に数年かかる訳ではないだろうし。このままだと………ルーナは、光に触れなければいけない。
「仕方があるまい。必要な物があればその都度申せ。出来る限りの便宜を図ろう」
「………すみません、ありがとうございます」
「そなたにルーナの件を託したのは我だ。その責任は負わねばならない。それだけのことだ」
こう言うのはあれだが、やはり態度こそ変わらずとも国王は基本的に優しい方だ。勿論、それだけの人ではないのも事実だ。必要であれば、娘の命だって切り捨てる非情さもある。
だが、自分に出来る限りを尽くして向き合う姿勢は、だからこそ国王として慕われるのだなという理由も察することが出来た。
「さて………じゃあ、ちょっと街に出てきますね」
「あぁ、気を付けろ」
「あ、私も一緒に行きます」
「分かった。じゃあ城門で待ってるよ」
俺はそういって席を立つ。どうなるかはまだ分からないが、出来ることはしなきゃな。願わくば、何事もなく収穫があればいいんだが。




