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39話

 君がこの地を去ってから、どれだけの時間が経っただろうか。いやまぁ、正確に表せば2年間なのだけど。僕はそんな表現をしたくなるほど、たった2年が長く感じた。

 最初は、君に笑われないようにって努力を続けて来たし、今だって出来る限り続けている。君が居なくなったことで、街の治安維持に多少の穴が開いて、その埋め合わせを僕がすることになったのは仕方のない事だとしても。


「………………つまらないな」


 退屈だった。僕は彼を僕の一部だと表したことがあったけれど、それは間違いではないのだと実感していた。まるで僕の中から大事な物が抜けたような空虚感と、どれだけ高ランクのモンスターと対峙しようと埋まらない退屈だけが、ずっと僕を苛んでいた。


「はぁ………」


 最長で、後5年。たまに帰ってこれると言っていたけど、どうせ彼の事だ。事が終わるまでは帰ってこないだろう。けれど、僕は後数年もこの虚無感を耐え続けることになるのかと考えると………もう一度、深いため息をつく。

 彼は今、何をしているんだろうか。あっちの生活で腑抜けていないだろうか。………こんな極寒の辺境よりもずっと住み心地が良いであろう王都での生活に、帰る気が無くなってしまってはいないだろうか。領主様から、たまに連絡が着て伝言を貰う事もあるけれど。不安になっているのは、君の声が聞こえないからで。


「どうしたんですか、そんなため息なんてついて。綺麗な顔が台無しですよ、エリー」


 光に灼かれたモンスターの傍で空を見上げていた時、背後から耳障りな声が耳に届く。本家の方から送られてきた、何度目かも分からない縁談の相手。よくもまぁこんなに相手を用意できると思わないでもないけど、僕はこれでも有名らしいからね。本家からの紹介を貰えるのであれば、と名乗り出る者には困らないらしい。

 最近は、昔ほどは酷い奴は来ていないけど。今回のは今までのよりはだいぶマシだった。僕より多少年上だけど、丁寧な口調で魔法もそれなりに使える。正直に言えば、彼自身より現当主の父親に問題があると言った方がいい。


「ねぇ、君」

「………エリー?」


 ただ、今の僕にはこいつは駄目だった。


「何度言ったら分かるんだ」


 僕の振り向きざま、笑みを浮かべていた男の顔の隣を、一筋の閃光が走った。直後に響く爆発音と、強い輝き。勿論、巻き込まれないように調整はしたけど、直撃していればどうなっていたかなど言うまでもないようなものが顔の傍を通ったという事実に硬直する男。


「馴れ馴れしく、その名で僕を呼ぶな」











 パレードを………と言うよりは、それに便乗して起こるだろうお祭りにラルクを誘った後。彼も見て回りたいと思っていたらしく、すぐに承諾を貰えた。

 ルーナがやることがあると言って別れた後で、ラルクに大きなため息をつかれたんだが。


「………あんたなぁ。祭りくらい俺を誘わずに二人で行けよ」

「こう言うのは人数が多い方が楽しいんだよ。スレイさんは多分騒がしいのは苦手だろうし、ウェインさんもパレードの方に出席しないといけないしな」


 ここには挙げてないが、ルノジスも仲が良いから出来れば一緒に回りたいんだが。言わずもがな、普段なら無理を言って………と言うよりは無茶を言って街に同行させることもできるけど、パレードともなると警備や治安維持もかなり気を張らなければいけない。

 そうなると騎士団長の立場であるルノジスが抜ける訳にもいかず、同行など頼めるはずもなかった。


「だからって………少しくらい気を遣ってやってもいいじゃないか」

「気を遣うも何も、別に俺とルーナの間には特別な何かなんてないぞ。………いや、守護者の力を持った者、と言う意味では繋がりはあるんだけど」

(とぼ)けるなよ。最初からそういう話があったんだし、ルーナと良く接するようになった今なら彼女が本気だってことくらい分かってるだろ?」


 ま、それはそうだけど。相手が真面目に言っているようだから、俺も彼の目を見て答えた。


「なら、お前だって分かってるだろ?」

「………はぁ。ルーナも悪い男に惚れたよな」

「おい、言いがかりはやめろよ」

「そうか?俺としては………ちゃんとした妹になるかもしれないんだし、良くしてやってほしいんだけど?」


 ちゃんとした妹、と言うのは当然ルーナの事だ。彼女は妾の子であり、当然ながら王族であるクリフォトの姓は継いでいない。けど、何となく察していた通りこの家の事情は色々と複雑らしく。端的に言えば、ルーナ自身の色々な事情から、国王は彼女に自身の姓を与えて王女として扱おうと言う話が出ているらしい。

 ただ、彼女の実家であるリーフェル伯爵家からの承諾が取れていないみたいだけど。そうなるのも時間の問題なのだろう、と言うのは何となく理解できた。


「これでも良くしてるつもりだけどなぁ………」

「………一応聞いておきたいんだけど、あいつの何が不満なんだ?正直、あんなに一途な子そういないだろ」

「いや、別に不満とかじゃないんだけど。んー………………そうだな。強いて言えば、刺激が足りない?」

「お前は何を求めて………………いや、うん。そうだよな。あんたはそう言う奴だ」


 何を考えたのかは知らないが、一人で納得するラルク。まぁ、俺の気質を思い出してのことだろうけどさ。国王にも建前で色々と言ったが、正直バレてるだろうし。

 俺が定期的に暴れたいと言う欲求がある事に気がついて、適当な仕事をあてがってくれているのだろう。

 ルーナに関しても、悪い子じゃないと言うのはとっくに分かっている。実際、安定した生活を望むならこれ以上ない相手だと思う。エリーや俺と同じく稀代の天才児と言われていただけあって、聡明で自頭が良く、将来困ることも無いだろうし。それでいて、俺達とは違って性格的な癖がない。

 ただ、俺に安定と言う言葉が似合うかと言われたら、それは否だった。


「………外見は悪くないのに肝心の中身がこれだもんなぁ」


 ため息交じりにかなり失礼な事を言ってくるラルク。しかもわざわざ「これ」を強調して。流石にその態度には俺も黙っている訳にはいかなかった。わざとらしく机を叩いて叫ぶ。


「てめぇ!いくら俺相手でも言っていい事と悪い事があるんだぞっ!?」

「じゃあもうちょっと大人しくしろよ!」

「無理に決まってんだろ!?」

「なんでキレてんだ!?」


 そんなじゃれ合いをしつつ、気が済んだ後は互いに別れ、俺は街に出掛けた。最後までラルクは釈然としないと言わんばかりの顔をしていたような気がするが、特にそんなものは気にしていない。

 この街で暮らしていていつも思うのは王都と言うだけあって人が多い。その分トラブルも絶えないようだが、それ故にその対処も早い物で。こういうところで、俺の故郷との違いを感じる。そういえば、向こうは今どうなってるんだろうな。


「今のうちにこっちから学べるところは学びたいんだけど、そもそも人手が足りてないんだよなぁ」


 正直、成長した俺の姿を見せてやりたいとは言ったけど、今のところ大きく変わったのは身長と武器の扱い慣れくらいなものだ。魔法に関しては………出来ることは増えたけど、出力に関しては特に変わってないと思うんだよな。まぁ、あれ以上の火力が必要になることは無いと思うけどさ。

 とか思いながら街を歩いていると、見慣れた姿が目に映る。相手も俺に気が付いたようで、軽く会釈して声を掛けて来た。


「おぉ、ノインさんこんにちは。散歩ですか?」

「おう。そっちは忙しそうだな」

「明日が大変ですからね。今からルート決めや危険度の高い場所を事前にマークしておかなければ、何かあってからでは遅いので」

「それは確かに。騒ぎに乗じて良からぬことを考える奴は絶対に出てくるしなぁ」


 そう言うのは当然と言うべきだろう。だからこそ、催し事はあまり頻繁にできない訳で。こういうパレードがあるのはそれこそ稀だ。それだけ今回の戦勝は大きい事だったという事なんだろうけど。


「じゃ、忙しそうだし俺は行くよ。明日は俺達も見に来るつもりだから頑張れ」

「ありがとうございます。ノインさんも明日は楽しんでください」


 相変わらず大変そうだなぁ。俺もなんか手伝えばよかったかな。暇だし。………まぁ、流石に騎士団の仕事は手伝わせてもらえないとは思うけどさ。………まぁ、取り敢えずはこの道を明日通るのは無しだな。

 俺が路地裏の暗闇に目を向けると、その先で何かが動く。一波乱あるのは間違いなさそうだ。









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