31話
飛行船が王都に到着する。実は途中であの鳥に会えないかと期待していたが、特にそんなことはなかった。あれからそれなりに期間も経っていたし、また腹を空かせてるんじゃないかと思っていただけにちょっと残念だ。
俺が船を降りると、そこには既に十数名ほどの騎士が整列していた。そして、その先頭にはルノジスさんが立っている。
「ルノジスさん、久しぶり」
「えぇ、お久しぶりです。ノイン様のご到着をお待ちしておりました」
「………このまま城の方に行くのか?」
「そうですね。特に時間が指定されている訳ではありませんが、出来れば早く挨拶を済ませておいた方がお互いに良いと思います」
「分かった。えっと、荷物は………」
「それは後程遣いが馬車で王城まで届けることとなっておりますので、ご安心ください」
それは助かる。そこまで多い訳ではないが、一人で運ぶのはちょっと現実的じゃない量ではあったし。俺は振り返って飛行船の乗組員に挨拶をした後、最低限の荷物を持ってルノジスさんと騎士団と共に城へと向かう。
「………今日は護衛が多いんだな」
「ノイン様も例の奴らに狙われている身ですので。万全を期せと仰せつかっております」
「なるほどな………」
正直あいつらが束になって掛かってきてもあんまり負けるビジョンが見えないけどな。護衛が増える分には別に俺は困らないし、特に文句はないんだが。
そこでふと、前に俺が倒した奴らの事が気になった。大きな団体らしいし、多少は情報を聞き出せたりしたんだろうか。
「そういえば、あの捕縛した奴らはどうなったんだ?」
「………全員、死にました」
「え、いきなり処刑したの?」
「いえ。彼らは自決用の魔法を体に刻んでいるらしく、目が覚めたと同時に………」
「………そうか」
信仰のためなら死を選べる奴らか。実力はともかく、覚悟は本物らしい。なら、あの一件で諦めてくれるとは思わない方が良いだろうな。俺はこれから王都で生活するわけだし、必然的にあいつらも何らかのアクションは起こしてくるはずだ。
「国王陛下と第一王子も狙われてるんだろ?一緒に城にいて大丈夫なのか?」
「………寧ろ、ノイン様がいることでより安全になるかと思いますが」
「いやまぁ、戦闘になれば負ける気はしないけど………」
今思ったけど、そもそもなんでルーナが連れ去られてるんだ?あの白の裁徒達が警備を掻い潜るのが得意なのか、ここの警備がザルなのか。その経緯が少し気になるが………聞きづらいな。まぁ、どちらが正しいのかは今後分かっていくだろう。
「そういえば、俺がここに来た理由は聞いてるのか?」
俺がルノジスさんにそう尋ねると、彼は一瞬だけ背後に付き従っている騎士達を見た。そして、すぐに俺に視線を戻してゆっくりと首を横に振る。だが、それだけでどういう意図があるかは理解できた。
「いえ、詳しい事は。国王陛下が客人として招いたとは聞いていますが」
「なるほど。………まぁ、案外すぐに帰るかもしれないけどな」
「………私としては、英雄であるノイン様にはこの街に残っていて欲しいのですが」
「悪いな。約束してるんだ。必ず帰るって。けど………そうだな。それでも、俺がこの街が好きになって、残る理由が出来たなら………その時は父さんや皆にそれを話して、納得してもらってここで暮らすかもな。………まぁ、ほぼないと思うけど」
「そうですか………」
父さんやエリーが言った選択とは、きっとそういうことだろう。俺としては故郷で生きていたいという思いが強いけど。ただ、俺は多分当主に向かないと自分では思っている。逆に、イリスはそう言うのも難なくやってしまいそうだし。
ただ、だからと言って流石にここで暮らすというのは納得してもらえるか分からない。というか正直、俺もここで暮らすって言う選択肢は絶対に選ばないだろうな、と自分の中での確信もあった。
でも、もし7年の期限以内にルーナの【命煌】を安定させれなかったら。一度背負った者の責任として、彼女の制限時間である成人まで期限の延長を頼むだろうけど。
「ルーナ様の件もですか?」
「………」
俺がチラリと背後を見たが、ルノジスさんは首を縦に振った。なるほど、こっちに関しては意外と知られてるのか。まぁ、隠す事でもないけどさ。
「婚約の話を断ったそうですね」
「まぁな」
「理由をお聞きしても?」
「そんなに大した理由じゃない。ただ、良く知らない相手と一生添い遂げられるかと言われたら、俺は無理だと思っただけだよ」
正直、これが一番の理由だった。側室を取る貴族もいるが、俺はあんまりそう言うのは考えていない。だから、もし婚約するのなら相手は俺自身が選んだ相手が良かった。まぁ、貴族の子としては贅沢を言っているのかもしれないが。
「………相手が王族の血を引いていてもですか?」
「家柄とか血統はあんまり俺にとって大事じゃないからな。俺の父さんだって、領民を妻にしてるし」
まぁ、単に他の貴族が滅びが約束された地に嫁入りさせようとは思わないって言う理由もあったらしいけど。ちなみに、この話はソフィアさんから聞いた話だ。生前の母と親しかったらしい。
「………では、ノイン様自身がルーナ様を娶りたいと思えば、そうなることもあると」
「無いとは言わない。でも、もう俺が自分から断った話でもあるし、結構難しい気もするな」
まぁ、国王陛下は寧ろそれを望んでいると言うのは分かり切っている事なんだけど。寧ろ、今回の条件を見てそのつもりが無いと言われても信じることが出来ない。
とは言え、俺はルーナを嫌っている訳ではない。別に好いてもいないと言うだけで。本当にこれからの生活で俺が彼女に惹かれたら、また改めて考えるかもしれない。
「ただ………」
「………どうされました?」
俺がふと口にしよう出した言葉を途中で止めた。そのことに疑問を持ったルノジスさんが聞き返してきたが、俺は首を横に振る。
「いや、忘れてくれ」
「ふむ………分かりました」
城に着くと、俺はすぐに中へ通された。ここからは他の騎士は解散し、ルノジスさんだけの案内だった。そして俺はそのまま謁見の間に行くのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「ノイン様は客人としてこの城で過ごす事になっていますので。謁見ではなく、応接室でお話をされるようです」
「なるほど」
随分と今までとは扱いが違うようだ。まぁ、当然と言えば当然かもしれないけど。1階は主に大臣や国王に仕える者が仕事をする場所で、2階が公的な部屋が集まっているらしい。謁見の間や舞踏会会場、そして今向かっている応接間がある階だ。これから暮らすうえで1階と2階は俺が使うことはなさそうだけど。
3階から上は全て生活圏になっているらしい。主に俺が城の中でいる時間が長いのはここになるだろうな。
ルノジスさんに案内されて応接間に向かう。そして、一つの扉の前で止まると、ルノジスさんは扉をノックした。
「国王陛下。ノイン様をお連れしました」
「入れ」
国王陛下の返事が来てから、ルノジスさんは扉を開く。だが、中に入る様子がないのを見て、俺はどういう意図があるのかを察し、短く深呼吸をする。
「失礼します」
俺は部屋に入る前に一礼し、中に入る。部屋には国王陛下がソファーに座っているが、中を目線だけで見回しても護衛の近衛すらいない。
「護衛などいらんだろう。これからそなたとは暫くこの城で共に暮らすのだ。一々気を張っていては、互いに疲れてしまう」
「………ごもっともです」
「礼儀も過剰に気を遣う必要はない。少なくとも、この城にいる我が一族の前ではな」
「………分かりました」
意外と厳しいだけの人じゃないんだな。生まれながらにして王と言っていたから、こういう場でも変わらないかと思ってたんだけど。
「話は聞いているな?これからそなたには我が娘、ルーナの【命煌】が安定化するまで………最長で7年、この城で暮らしてもらう」
「はい、分かってます」
俺が頷くと、国王はソファーの肘掛けに肘を置き、頬杖を突く。そんな行動にすら気品を感じるのは、やはり俺のような田舎者とは違うのだろう。
「そなたがここで暮らすうえでの決まりだが………当たり前のことは当たり前にしてくれればそれでよい。特に行動を縛るつもりは無いが、可能な限りルーナとの時間を取るように心掛けよ。【命煌】の制御に関わることであれば、特に何をしても構わん」
「………本当に良いんですか?」
「そなたほどの英雄を招き、不満を抱くような生活をさせては体裁が良くないのでな。そなたの父君との契約もある。………………それと、そなたがどのような人物かは今までの話で大方理解しているつもりだ。【命煌】の件も、引き受けたからには無責任な態度は取らんであろう」
まぁ、そのつもりだけど。守護者の力の強大さは俺が一番理解している。もしもルーナの【命煌】の制御に真面目に取り組まなかったとしたら、俺はもうエリーには顔向けできないから。引き受けた責任はちゃんと果たすつもりだった。
「勿論です。ルーナ様の件は、誠心誠意取り組みます」
「ならば良い」
国王は頷くと、ソファーから立ち上がる。そして、俺も立つように促され、席から立つ。
「ここで暮らすのだ。他の者とも挨拶をしておかねばならんだろう。ついてこい」
「分かりました」
そうして、俺の新たな生活が始まった。それと同時に………………俺の物語の、新たな幕開けの瞬間でもあった。




